【閲覧注意】助けてくれたフローゼルをボクは飾れない・後編

【閲覧注意】助けてくれたフローゼルをボクは飾れない・後編

オーガポンのおててをすこれ

前回
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルがボクを放してくれない
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルをボクは忘れられない
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルにボクは頭が上がらない
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルがボクに暇をくれない
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルはボクにはしたない
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルとボクは垣根ない
【閲覧注意】助けてくれたフローゼルにボクは冷めたりしない


前編の続きです。それでもよろしければ↓↓↓






 ―――フードコートにて。

「ん~、あっまい!」
「おいしそうで何より」

 ボクは、ミニスカートと昼食を終え、デザートを食べていた。
ボクは3段のカップアイス。ミニスカートはパフェを注文。
フローゼルとゼルル、ピカチュウも、ポケモン用料理をおいしそうに食べている。

「午前中の疲れはこれで消し飛んだわね」
「それなら奢った甲斐あったよ」

 ボクのせい……でもないけど、フローゼルとの戦いで消耗してたからね。
 結局、服装はあのままになっちゃったけど……

「……フルッ♪」

 ウインクされてしまった。うう、もうあのままで良いんじゃないかなぁ。
 皆には、慣れてもらうよう善処してもらおう。


「フローゼルの事ばっか考えてない?」
「そっ、そんなことないもんっ」
「じゃあ、ゼルルについてどうお考えでしょーか?」

 ……唐突に振られたけど、実はまじめに悩んでる話題なんだよね。

「……技構成をどうしようって、ずっと考えてる」
「ほう、どんなところ悩んでるわけ?」
「ちょっと前までは覚えそうな技を覚えさせてれば
 強くなってたけど、そろそろ考えて技を覚えさせないとって……」


 ミニスカートの協力で、ゼルルは“でんこうせっか”を覚えた。
 最近は“でんこうせっか”の足遣いや攻め方を特訓している。
 それは良いことで、ミニスカートに感謝しているんだけど。

 覚えてる技は“たいあたり”“なきごえ”“みずでっぽう”“でんこうせっか”。
 ついに4つの技を覚えた……となると、ここからは取捨選択のときだ。
 バトルにおいて、技は4つにするのがセオリー。稀に5・6種類の技を使いこなす天才がいるが、それは覚えて使いこなすポケモンも、状況に合わせ指示するトレーナーにも才能がいる。逆に技を3つ以下にする育成もあるらしい。

 まぁ、おいといて。


「将来を見据えて、覚える技と忘れさせる技を考えないと」
「で、忘れさせる予定なのは?」
「うーん……“みずでっぽう”……」
「“みずでっぽう”っ!?
 なんで、あんなにがんばって覚えさせたのにっ?」

 そういう反応になるよね。

 でも、ゼルルは接近戦のほうが得意みたいなんだよね。
 特に“でんこうせっか”を特訓していると、その様子が見て取れて、ぶつかったあとの受け身も上手なんだよね。
 いっそ、接近戦特化の技構成にしてしまおうかと。

「なるほどねぇ……」
「うーん、でも“みずでっぽう”って便利な気がするんだよねぇ」
「そうよぉ? 牽制とか撃ち落としとか、そういう武器も持っといた方がいいわ」

 接近戦主体としても、飛び道具はほしいんだな……。
 “ハイドロポンプ”か何かに置き換える想定にして、いったん保留かな。

 となると、“たいあたり”の代わりかな。
 まだイメージできてないけど、そのためにも見ておきたいし。

「……あぁ、『わざマシン』売り場が本命ね?」
「そうそう いい技置いてあるかなぁ」
「臨時収入でいっぱい買う気?」
「ゼルルの頭がパンクしちゃうよ
 まずはボクなりの4つを試す その後で増やすの」
「おぉー、ゼルルのことも考えてる 大人だぁ」

 ふふん。父替わり兼トレーナーのボクは、がむしゃらに『わざマシン』を当てて強くしようとは思わないのだ。……というか、それやってもボクが覚えられないし指示できないって察した。セオリー通りの強さをまず目指そうね。

「大人なボクには、プリンを一口プレゼントしましょう」
「わぁい、いただきますっ」

 ボクのアイスの器に、そっとひと掬いのプリンを添えるミニスカート。
 それを口に入れると、安心の甘さが口に広がる……

「……って! 子ども扱い! っていうかボクの奢ったパフェだし!」
「ふふふっ、大人になってもプリン好きなのねぇー」




 ふと、デパート内にアナウンスが響く。


『本日ぅ、13時半よりぃ、恒例のバトル大会を行いますっ』

『参加ご希望の方はぁ、特設広場までお越しください』





「バトル大会か……昔は観てたなぁ」
「行く?」
「そんな年じゃないよっ」
「観るほうじゃなくて、戦うほう……
 案外、ああいうのもバカにできないわよ?」


 そっか、参加できるのか。

 フローゼルは……いう事聞かないかなぁ。
 ゼルル……むしろ、丁度いい舞台なのかな。
 負けても技構成の参考になるし、勝ったらいい経験だし。

 あとは……。


「ゼルル……バトル大会、参加してみたい?」
「ブイル?……ブゥイ!」

 ゼルルは、元気よく返事した。




「ゼルル、“たいあたり”っ!」
「ブゥイ、ルゥ!」
「ぷりゅうううぅぅぅ……!」


 大会は順調に進み、ボクとゼルルは大躍進していた。


「あはは……パパ負けちゃったよぉ」
「んもー、パパったらぁ!」
「でもあのブイゼルつえーぜ! かっこいいよなっ!」


 子ども連れのだいすきクラブを爽快に倒してしまい、ちょっと申し訳ないが。ゼルルをカッコいいと言ってもらえるのは嬉しい。


「順調ねぇ 物足りない?」
「へへへっ ちょっと自信ついてきたよ」
「ふぅん、もっと緊張するかと思った」
「そうだね 思ったよりイイ感じ」

 観客の前に立って、ゼルルは緊張してしまうんじゃないかと不安になってたけど。思ったよりもゴキゲンな様子で、観客に手を振ったりしている。
 戦うほどに場慣れしているほうで、調子もドンドン上がっていく。
 学校で過ごした分、思ったよりも人慣れしているのかな?

「へ? ゼルルの心配なんてしてないわよ」
「えっ……じゃあボク!?」
「アンタ、レンタルでのポケモンバトルの授業で
 死ぬほどオドオドしてたの覚えてるからねっ?」

 まーた昔の話を掘り出す……でもそうだったなぁ。
 割と最近でも、ゼルルが攻撃を受けると頭が真っ白になりかけるし。でもおかげさまで。トレーナーとして自覚がつくと、あの場所に立てば冷静になれるんだよね。
 ボク自身も、場慣れしたんだなぁ。


「じゃっ、決勝戦もサクッと勝っちゃいなさい」
「サクッとは勝てないよ……強いもん、あの人」

 向こう側を見ると、からておう見習いの中学生が立っている。
 あれが決勝戦の相手で、ここまで少ない手数で勝利している。
 正直、ちょっと怖い。

「ブイ?」

 ゼルルがボクの顔を覗く……。その様子を見て、ボクは微笑み返す。
 あくまでいつも通りに。その上で、持てるすべてを出そう。




『オソウジ カンリョウ オソウジ カンリョウ』


『お待たせしましたぁ、それでは決勝戦 両者入場ですっ』




 舞台に上がる。何度立っても、ここの空気は他と違う。
 でも、なんだか心地よいとも思えてきた。


「小学生といえども……本気でやらせてもらうっ!」

「ありがとうございます! ボクの本気……見てくださいっ!」


『試合開始ですっ』


 からておうは、エビワラーを繰り出した。パンチを主体とする格闘ポケモンだ。


「いけっ! ゼルル!」
「ブイルッ! ブゥー!」

 ボクはゼルルを繰り出す。と同時に、ゼルルはボクに向かって“みずでっぽう”を放つ。

「……買っててよかった耐水ポンチョ」

 結局、この大会で全試合、最初は“みずでっぽう”受けたなぁ。


「キャー!! 水も滴るうきわボーイぃ!」

「ゼルルきゅーん! こっち見てぇー!」


 なんかゼルルも人気になったな。素直に喜ぶけどっ。


「先手必勝っ、間合いを詰めろ、“マッハパンチ”!」
「エェビィー!」

 からておうの指示に、エビワラーは俊足で間合いを詰めていく。だが。

「ゼルル、“でんこうせっか”! ゴー!」
「ブイブイブイ、ルッ!」

 逆に素早く懐に飛び込み、胴体に全身をぶつけていく。

「なっ!?」
「ブイブイ……ルッ」

 ゼルルは反動で空中回転しながら後退し、上手に着地する。

 この大会、準決勝までは“みずでっぽう”スタートで統一していた。
 この決勝戦で、それを前提とした対策を打たれると思ったからだ。
 だから、決勝戦では“でんこうせっか”スタートと決めていたのだ。

「あなどっていたと謝ろう……だかおかげでなおさら本気になれるっ!」
「エビィ!」

 エビワラーは構え直し、ゼルルを見据える。

 ここからは状況判断しながら攻めないと。まずどう動く?

「“こうそくいどう”っ!」
「ビィビィビィー!」

「いっ!?」

 隠し技が“こうそくいどう”!? これじゃ、スピード勝負でゼルルが不利になる。

「ゼルル、“でんこうせっか”! ダッシュ!」
「ブイブイブイッ!ブイブイッ!」

 ゼルルがエビワラーに向かって前進する。しかし、エビワラーはひらりと躱していく。まるで立ったまま移動しているようにさえ見える、無駄のない“こうそくいどう”だ。

「フハハハハっ! “でんこうせっか”もエビワラーには丸見えだぞっ!」
「……みたいですね」

 だけど、それはゼルルも同じだ。

 ゼルルは『ダッシュ』の指示を出すと、ターゲットに対して反時計回りに“でんこうせっか”を始める。今もその指示通りに回っている……つまりエビワラーが『見えて』いる。

「ゴーッ!」
「ブイブイッ、ブイルッ!」
「エビッ、ビィィィッ!?」

 ゼルルの“でんこうせっか”がヒットし、エビワラーが少し仰け反る。
 大丈夫、技は通用している。

「ぬっ……よく仕込まれた“でんこうせっか”だ……だが見抜いたっ!
 もう一度、“こうそくいどう”っ!」
「エビッ、ビィビィビィー!」

 エビワラーは態勢を立て直し、もう一度“こうそくいどう”でボクらを翻弄しようとする。
 『見抜いた』というのは……? だけど、対抗するには“でんこうせっか”しかないっ!


「ゼルル、“でんこうせっか”! ダッシュ!」
「ブイブイブイッ!」


 ゼルルはエビワラーを中心に、反時計回りに……。


「『エビワラーを中心に、反時計回りに回る』、だろう?」
「はっ!」


 しまった、指示自体はゼルルに分かりやすい、単純な指示。
 そして、ゼルルに見えているように、ゼルルはエビワラーに『見られて』いる。


「後ろに着た瞬間を狙えっ!」
「ゼルルっ!」


 たぶん避けられない。パンチ技に対処する方法は……っ!




「“かみなりパンチ”っ!」
「 “なきごえ”っ!」


「エェエェビィー!」
「ブ! ブイッゼェェェル!」




 2つ目の隠し技は“かみなりパンチ”だった。
 ゼルルは、“かみなりパンチ”を受けて大きく吹き飛んだ。


「ゼルルぅー!!」

「……」


 ゼルルは、受け身も取らずに地面に落ちる。

 ボクは、駆け寄りたい気持ちを堪えて、その姿を見守る。


「おいエセからておうっ! なにやってんだぁ!!」
「ゼルルちゃんに何てことをォ!」


 観客からの罵声が聞こえる。だけど、ボクはゼルルを見つめていた。


「だまれ愚衆っ! あれが見えぬのかっ!!」


 からておうが叫ぶ。

 と、同時に。ゼルルは……震えながらも立ち上がった。


「ゼルルっ……!」
「パンチの瞬間の“なきごえ”……エビワラーを怯ませ、威力を弱めたのだな
 あの一瞬で、よく判断したっ!」


 評価は嬉しいけど……それが勝機に繋がるか分からない。

 ゼルルは、手札をほぼ使い切った。
 あとと言えば、がむしゃらに“みずでっぽう”を撃つぐらいだ。

 考えろ……勝利の可能性を……。


「……アンタっ! ちゃんとゼルルを見てあげなさいよっ!」


 ミニスカートの声が聞こえる。ゼルルを見る……?
 ゼルルはなにか、ヒントを見せているのか?
 勝利に繋がるヒントを……。


 ……フィールドが濡れている……。


 試合前に、掃除は完了していた。試合開始から今まで、“みずでっぽう”は指示していない。
 ボクにかけた“みずでっぽう”で、この濡れ方にはならない。

 ……“でんこうせっか”の時、水が飛び散った?


「ッ……! ゼルル! 駆け回れ!」
「ブイブッ!」

「ひとつ覚えを……むっ、いや技の指示ではない?」

 ゼルルが駆けると、周りにぽつぽつ水滴が飛び散る。

「ゼルル、水を感じるんだ! 感じるままに、水を纏って……飛び乗れっ!」
「……まさかっ!?」

 駆けるゼルルの周りに、細い水の流れが形成されていく。それはやがて1本の大きな水流となって、ゼルルの道となる。ゼルルはその水流に乗り、しっぽを回して泳ぎ始めた。


「ゼルル! それが“アクアジェット”だっ!」
「ブイッルゥゥゥー!!」


 ゼルルは、“アクアジェット”を覚えた。

 まるで地表すれすれを水中のように泳ぎ回る。目を離すと見失いそうな速さだ。
 この土壇場で、それが完成した。


「見事っ……が、付け焼刃に頼っては勝てぬっ! “マッハパンチ”!」

 分かっている。だからこそ、手札を全て使い切って、勝つ!

「ゼルル、バック!」

 “アクアジェット”で進むゼルルに“マッハパンチ”を避けさせ、1度ボクの前へ戻す。ゼルルは水流を解除し、エビワラーに向き直る。

「さぁ、そろそろゴングを鳴らす頃だ……っ!」
「ボクもそろそろ聞きたいです……勝利のゴング!」

 ゼルルがこちらを見る。ボクはそれに、頷いて応える。
 作戦は決まった。あとは実行するのみだ。




「“アクアジェット”、ダッシュ!」

「“きあいパンチ”!!」




 最後の技は知っている、“きあいパンチ”。
 準決勝までは、それと“マッハパンチ”だけで勝ち進んだエビワラーだ。

 ゼルルは、“きあいパンチ”を構えるエビワラーに向かって水流のレールを伸ばし突き進む。それは、決着への超特急なのだろう。


「止まらぬかっ! 貴様の“アクアジェット”と我の“きあいパンチ”
 どちらが速いか見せてやろうっ!」


 そう言い終える頃には、接触という運命の瞬間が近づいていた。




「ゼルル、右っ!」

「ブイッ!」




 接触を待たずして、ボクはゼルルに右へ跳ぶよう指示する。
 ゼルルは水流のレールから飛び降り、右側へ着地する。




「なァんとォォォ!?」
「からのっ、“みずでっぽう”!!」

「ブイッ、ルゥゥゥー!」
「エビッ、エビィ!」


 ゼルルの“みずでっぽう”はエビワラーの顔に命中し、“きあいパンチ”の集中を完全に崩した。


 一見、無茶な指示にも見えただろうけど。

 ゼルルにとって、『ダッシュ』は反時計回りにターゲットを追う指示……つまり『攻撃の指示を待つ状態』だ。ゼルルは“アクアジェット”中、指示を待ちながら進んでいた。最初から、不要な賭けにぶつける気などなかったのである。


「ゼルル……“アクアジェット”、ゴーッ!」
「ブブイルッ、ブイルゥーッ!」

「エビワラー、前をっ、お……」
「エビッ、ビィエッ、エッ」




 本命の“アクアジェット”が、エビワラーに炸裂する。
 その水流を伴う体当たりは、あのエビワラーを大きく突き飛ばした。


「エビッ……シィィィー!」
「ぐっ……ぬおおおぉぉぉ……!」


 エビワラーはからておうを巻き込んでなお飛んでいき、舞台の下に落ちる。エビワラーとからておうは、戦闘不能になった。


『試合終了ですっ』


「……勝った」


「「「 わぁぁぁあああ! 」」」


 ……えっ、夢じゃないよね。
 デパートの大会といっても、大会だよねっ!?

「おめでとう ゼルルもお疲れ様」
「ブゥイブイ!」
「ありがとう! あの時のアドバイス……おかげで勝てたよ!」

 ミニスカートの声がなければ、“アクアジェット”は完成しなかった。
 あの最終決戦が“でんこうせっか”なら、見切られていたかもしれないし、威力が足らなかったかもしれない。

「さぁ? 誰かがヤジ飛ばしてたのは聞いたけどー」
「あんないい声のヤジ飛ばす人、ひとりしか知らないよっ」

 まったく、素直に受け取ってくれたらいいのに。

『優勝者にはぁ、豪華景品を進呈いたしますっ』


 豪華景品……はわわっ、本当に豪華なのでは……。

 高級カップセットと、最新ゲーム機セット、ロトム用掃除機もっ!
 ……あっ、おぼっちゃまのとこの先行体験チケット……ごめん、それは既に体験しちゃった。


「どれがいいかな……あっ」


 これって……『しんぴのしずく』のネックレス? しかも装飾がしっかりしてる。無駄がなく、雫の部分を引き立たせるデザインだ。いいなぁ

「あのっ、これってレギュレーションマーク付いてますか?」
「はい、リーグ公認の『しんぴのしずく』にございます」

 いいじゃん。おしゃれと強さの両立って大変なのに、このデザインはズルい。水タイプばんざいである。

「ゼルル、これほしい?」
「ブイッ? ブー……」

 ゼルルのお気には召さない様子。残念だなぁ。……。

「ねぇ、ゼルル ママにあげてもいいかな?」
「ブイッ……ブゥイ!」

 ゼルルの元気な返事を受け、ボクは『しんぴのしずく』ネックレスを景品に選ぶ。そして……。


「出てきて、フローゼル」
「フルッ!」

「これ、ボクとゼルルががんばった証……受け取って」
「フルッ……フルルッ」

 うん、やっぱり似合う。
 これは勝った甲斐があったというものだ。


「あれ……フローゼルか……?」

「なんつーか……なんつーか……」

「いや、デブくね?」

「おまえは何もわかってない」


 しまった、兵器フローゼルを衆目に晒してしまった。早く戻さないと……。


「……少年よっ! お前は強い!そして、もっと強くなるっ……!」

 あっ、からておうさん起きたんだ。

「しかし、我も強くなるっ! そのときまた相まみえぬおおおぉぉぉ!!」

 からておうが、フローゼルを見て絶叫した。

「……女神……」

 からておうは倒れた。……間に合わなかった。



「でもさ、実際きれいだと思うんだよ
 なんというか……なんというかっ」

 ボクは、フローゼルの扱いについて不満を愚痴っていた。
 しかし、『おっぱいが素晴らしい』とか『谷間のネックレスが映える』とか、ちょっと女子に言うには気が引けるので、がんばって濁しながら良さを伝えようとしている。

「はいはい、きれいって事にはしといてあげるわよ……」
「なんかあしらわれてるなぁ」


 まぁ、結局のところ、よく分からないのはボク自身である。

 フローゼルの魅力を伝えたい気持ち。
 フローゼルの魅力が分かってもらえる気持ち。

 ……その裏で。

 フローゼルの魅力が分かるのはボクだけでいい、
 フローゼルの魅力をひとり占めしたい、
 そんな気持ちもあって。

 どちらの感情に従うのがいいのか。
 どうすればボクとフローゼルは幸せになれるのか。
 ……納得できる答えが出ない。


「……あっ」


 アクセサリー売り場で、ふと目が留まる。

 クリスタルの粒でできた、花をあしらった髪飾り。やたら大きいものもあるけど、ボクが気になったのは小さいほう。大きさに反してその輝きを主張していた。

「ん……今度はそれにするの?」
「うん、いいなって思う」
「まったく……お金なくなっても知らないんだから」


「うん、やっぱり似合う」
「……へっ?」


 ミニスカートにその髪飾りを付けてあげる。黒髪に合うデザインだよなぁ。
 なにより、おぼっちゃまにも『目利き』だって言われたしっ、これは大人ポイント稼げるでしょ。


「―――~~~っ」
「どう? これはかなり自信あるんだけど」
「……じっ、時間だわっ 帰る」

  

 えっ、なんの時間だよ。


「えぇっ、なんか一言ぐらい」
「帰るっ! ……またね」
「うっ、うん また」


 むぅ、結局負けたまま帰してしまった。女ってほんとズルいや。




「ゼルル、今日は楽しかったね」
「ブゥイ!」

 夕暮れの中、ボクはゼルルを抱えて帰路を歩く。

「ゼルル、今日のバトルどうだった?」
「ブゥイ!」

 ゼルルは、元気よく返事をする。

「ゼルル、もっと大会でバトルしたい?」
「ブゥイ!」

 ゼルルは、何を言っても同じ返事をしてくれて。


「ゼルル、ボクのこと、嫌い?」


 意地悪な質問をした。

 実は、ボクの言葉なんて何も分かってなくて。
 本当は、心のどこかで本当の父親に会いたいと思ってて。
 ボクは、父替わりになれているのか。


 実は、ゼルルを利用してるだけのトレーナーではないのか。

 そう思って、おそるおそるゼルルの顔を見る。


 とても、きょとんとした顔をして。

 ゼルルは、ふるふると首を横に振る。


「……ボクも、ゼルルが大好きだよ」
「ブゥイ!」

 思わず、強く抱きしめる。
 ゼルルを大事に育てたい、改めて、そう思った。







「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 レポートを書くため、ボクは今日を振り返った。

 そして、書ききった頃に全てに気づいた。


「一緒に服見て、カワイイって言って、
 一緒にゴハン食べて、デザートシェアして、
 最後に髪飾りプレゼントしたら……」


 それって、デートじゃん!!!


「そ……そんなつもりなかったんだぁー!?
 た……たぶんセーフ、セーフ!
 というかセーフであってくれー!」




 悶々とする頭をリセットするため、ボクはその日、フローゼルのお腹を吸って寝たのだった。フローゼルはあきれたような顔で、ポンポンとボクの頭をなでてくれた。




 おわり




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