大天使と大魔王

大天使と大魔王


※閲覧注意・エ駄死要素あり?

特殊装備「S.E.」過去作SS

第0話

第1話

第1.5話(前半)/(後半)

第1.75話

第2話/別視点/アビドスサイド視点

ミッション説明

イブキ救出作戦

外伝

FDゲーム化への試練


庇われたゲヘナモブの手記

私が最初に庇われたのは、突発的に起きた砂糖を巡る争いで乱入者と間違えられた時だった。いつもの様に友人と二人で外を出歩いていたら、最近流行っていると噂の飲食店前で何か銃撃戦も交えた諍いが起きていたと思ったら、こちらにも銃口を向けてきたのだ。

咄嗟に友人が囮になりつつ、逃げろと言ってきてくれたお陰で私は難を逃れたが、音は鳴り止み、さっきまでこちらに攻撃してきた生徒達が倒れ伏す店前に佇んでいた、つい数刻前まで隣にいた友人の様子は既におかしくなってしまっていた。どうやら痛み止めも兼ねて倒した奴の砂糖を接種しながら戦闘していた様であり、既に私の事よりも砂糖の残りについて気にしてしまっている有様であった。

その後も友人は砂糖について頭が一杯になってしまい、気がついた時には既に何処かに居なくなってしまった。今思うと、おそらく砂糖の生産元であるアビドスに行ったのだろう。


そんな事があったから、あの時コハルという見慣れないスーツを纏った生徒に庇われた時は、またこんな事が起きるんじゃないかとトラウマを掘り起こしてしまい、ごめんなさいと連呼することしかできなかった。

幸いにも既に治療薬(不完全)があったのと、様々な生徒達の手厚い看護もあったお陰か分からないが、致命的なところまではいかなかった様であった。

ただ、あの音を聞く限りでは一発しか被弾していなかったと思われるが、その弾に相当の砂糖が含まれていたのか、拘束服を着ていてもなお身を捩らせる程の苦痛があったらしい。それでもなお廃人化せずに己を保てたコハルという生徒の信念の強さ?には、敬意を払う以外の選択肢が無かった。


そして中毒治療室と呼ばれている所で、同じ患者でありながら別け隔てなく他者を慮り、寄り添う生徒を目撃した。

どうやら名前はミカというらしく、トリニティ生故のゲヘナ嫌いという情報が不正確となりうる程、髪や肌のお手入れを削って他の看護生に混ざって活動していた。

後から聞いた話ではあるが、他の生徒達と共に新薬の治験に参加した一人でもあり、その治験仲間の友人である、"勇者"を自称する者との交流も影響してか、このような聖女と呼べる状況に徐々になっていった様である。

また、私を庇ってくれたコハルという生徒とも仲がよく、時間がある時は二人で院内と言うべき治療室を駆け回って処置していたのが印象に残っている。それ故に例のパニックが起きてしまったのだろうが、裏を返せばそれだけ人に接し尽くしていたという事と言えると思う。


そんな彼女達も含めた一部の中毒者が例のスーツ、仮称「S.E.」と呼ばれる装備の新規装着者、もしくは復帰を願い出たのには驚いた。私が知る限りでは砂糖や塩を接種し続けないと、身体がボロボロになっていくという副反応がある筈であり、治療薬の効果がここまでカバーできたのか、それとも彼女達が副反応を受けづらかったのか。そのどちらかとはいえ、ある意味砂糖に打ち克てたのには驚かざるをえなかった。

そして、コハルさんが受けたあの弾薬の対策として、装備に自動点滴装置と治療薬を搭載したのには、力業じゃないかと思わざるをえなかった。しかし同時に、あれ以上防弾性能を上げようとすると運動性が犠牲となるという話も聞けたので、ある意味合理的だったのかもしれない。

そうして完成したS.E.Gen2と呼ばれる装備は、Gen1と呼ばれるようになった今までと違い、アウタースーツに布地を追加した事で全身タイツ状態の脱却も図られており、羞恥心の緩和や個人のカスタマイズ性の向上に繋がっている。

このスーツについては私も、「こんな惨劇は繰り返したくない、特に三度目は」という思いから参加していたものの、意外にもこの回から参加した開発メンバーの人数が多かったらしく、比較的早めに馴染むことができたのは僥倖かもしれない。


巻き込まれたトリモブの手記

万魔殿議長のマコトさんからの依頼を受け行われた、アビドスへの直接侵入とイブキさんの救出作戦は、多少のアクシデントがあれど概ね大成功に終わったとみて良いと思われる。

まず、単独でアビドス内に予め潜入したワカモさんの数日間に及ぶ下準備と破壊工作で、対空設備の一時的な機能不全を起こさせたのを機に、万魔殿戦車隊やカイザーPMCも含めた混成部隊が直接攻撃を開始。それと同時に別ルート、それも上下水道網を用いて潜入したトリニティ・ゲヘナ混合部隊(ツルギさん・コハルさん・ミカ様・アコさん)と、空中から試作使い捨てロケットブースターを用いて急速接近、降下してきたミレニアム隊(ネルさん・ユウカさん・ユズさん・モモイさん・ミドリさん・アリスさん)の特殊部隊を突入させ、ターゲットの回収に入ったのは、素人ながら中々効果的な戦術だったと思っている。

まず、ワカモさんによる同時多発爆破工作で内部に混乱をもたらし、すかさず目立つ上に攻防に優れた混成部隊で陽動・敵部隊を釘付けにする。そこにかなり目立つ勇者達の降下で更に戦力を分散させて、潜入部隊が動きやすくする。そしてどの部隊も本命回収が望めるように戦力を整えておくという戦術であった。

"先生"の指揮?とはいえやはり途中までは順調だったらしく、帰還予定の諜報員の回収も行いつつ予想地点まで到達できたのはこの采配あってかと思われる。


しかし、その救出対象のイブキさんが同時に鹵獲された戦車に乗り込み、こちらへの反撃に打って出たのは想定外だった。マコトさんからの要望でできる限り傷つけずに救出してほしいという事もあり、どんな自爆装置を搭載しているのかすら把握できなかった為、やむを得ず戦車部隊まで誘導、そこで一気に捕獲する事になった。その過程でホシノ・ハナコ・ヒナという首脳陣や、RABBIT小隊にハスミ・ヒヨリ等という精鋭陣が攻撃を仕掛けてきた事があったものの、突入部隊の奮戦やアビ・エシュフを引っ提げて援軍に来たトキさんの支援もあり、無事に彼女らを撒くことができた。

そして、部隊最後尾に居たマコトさんが最前線まで出た上での身を挺した説得と、ミカ様の渾身のハッチ抉じ開けによってイブキさんを無事確保、救出する事ができた。特にミカ様のハッチこじ開けから回収、マコトさんへ身柄引き渡しのシーンについては、あまりにも流れが綺麗でプロパガンダにも使える程であり、アビドスへ軽くない一撃を与えたというのと、対アビドス連合としてトリニティとゲヘナの協力をアピールするのにはもってこいの題材になった。


その後、中程度とはいえやはり砂糖中毒である事が検査によって判明した為、万魔殿からの直々の要請という事でイブキさんを受け入れ、その見舞いという名目でマコトさんもちょくちょく諜報方面で応援に来てくれる様になったのは、大きな収穫であったと言えよう。

その上分かりやすい大戦果が上がった事を受けて、物資・資金的だけでなく人員的にも開発チームへの援助が増えた事で、Gen3と呼ばれる新型装備の本格的な開発・実用化の目処が立ったのは、個人的にも嬉しかった。

この世代ではGen2からインナースーツはそのままに、アウタースーツのハードポイントの増加と汎用型・各個人特化型の専用装備を開発する事になっており、また、Gen2でもまだ改善の余地があると言われた外観についても、本格的な改善を行うことで決定していた。なお、後者については「カイテンジャーの二番煎じな見た目はどうしようもなかったんですかね?byカヤ」というツッコミにより決定したという真偽不明の噂があるものの、実際は本当の話である。


そうしてチームが再出発しようとした時、"先生"らにとって衝撃の一言がアリスさんから発せられた。

アリスは…

大魔王に…なりたいです…!


私にはこの時点でどうしてこの発言が"先生"や、モモイさんを始めとしたミレニアム生を中心に交友関係が深かった生徒達にとって衝撃的になるのか分からなかった。後からざっくり説明されてようやくなんとなく理解できたが、その理解度でも彼女のアイデンティティやコンプレックス?的な意味で、本来発せられる筈がない内容である事は察する事ができた。

勿論、その発言が聞き間違いでない事を確認する為に彼女に尋ね返しても、はっきりそうではないと否定され、その後にそう思った理由を続けてくれた。

曰く、砂糖でゲーム開発部の皆やユウカさんがおかしくなり、一緒に冒険することができなくなった事があった。

曰く、救護騎士団や中毒治療室の皆と共に行動し救護や看護をしていったり、無謀な行動をしようとした生徒と説得・対話していくうちに、私と同じ様に砂糖で冒険の道筋を大幅に狂わされた子を沢山見た事があった。

曰く、砂糖を使って一時的な快楽が得られても、それはフレーム回避の様な一瞬の間しか続かず、後は禁断症状という強烈なデバフしか待っていない事を知った。

曰く、だけれどもアビドスに回復した皆と共に突入した時に、砂糖のお陰で今までの垣根を取っ払って仲良くなり、共に戦う事ができるようになったのを目撃した。

曰く、砂糖を服用し続ける事が前提とはいえ、歪な偽りの平和と呼ばれても確実に存在していたあの楽園を破壊するのに、自らの抵抗感が生まれてしまった事を自覚した。

曰く、しかしミカさんのあの活躍や、砂糖に負けずに復帰してきたゲーム開発部の仲間達も含めた皆の勇姿を見て、どこか背中を押されつつも何も考えずに一つの方向に皆で突っ走るようなら薄ら寒さを覚えた。

曰く、そしてこの騒動の間にネットで知り合ったNN「金鉄ナイ」さんから、「光と闇が両方そなわり最強に見える。片方に偏ると逆に頭がおかしくなって◯ぬ。」という、どこか自分の「名もなき神々の王女」と「勇者」という相反する2つの要素を肯定された上で、自らかの悩みに対する回答を出してくれたかの様な感覚があった。

曰く、だからこそ今回は先代勇者として新たに勇者と呼ばれるに相応しい者達を導きつつ、大魔王として砂糖によって作られた平和を破壊する事を決めた。


――――だからこそ、

アリスは大魔王になります――――。


その発言によって幾分かの静粛が訪れ、その後皆が彼女を抱きしめる様に駆け寄ったのは印象的であった。概ね皆、アリスさんの決意を肯定するかの様であり、懸念されていたらしい闇堕ち的な展開ではなかった事に胸を撫で下ろしていた感じであった。


そして、アリス専用S.E.派生装備の方向性が決まった瞬間でもあった。

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