試作決戦装備・仮称「S.E.」

試作決戦装備・仮称「S.E.」


とあるミレニアムモブの手記

後世で振り返るとするなら、「アビドス麻薬戦争」と称されるかもしれない例の事件の真っ只中。

私は避けられぬであろう大会戦に向けた、ある個人用特殊外套の開発チームの一員として、一刻も早いロールアウトに向けて活動していた。


アビドス高等学園が本事件の元凶である事が発覚した後、動ける各学園は速やかに手を打ち始めた。

その中にはアビドスへの諜報活動や威力偵察も含まれており、現状不明点が多い当学校の情報収集が急務である事は、素人から見ても明らかであった。

しかしその結果は散々たるものだった。 

当たり前であるが各校から離反者が出ている関係上、どういった手口でスパイ行為を行うかは筒抜けになっていた。

それに加えて補習授業室室長、通称「砂漠の魔女」の防諜活動が巧みであった事が決め手となり、投入した人員の殆どが未帰還、仮に彼女らの魔の手から逃れても、決定的な情報を掴むことは殆ど出来なかった。


そんな中潜入中のとある人員が、アビドスに配備された防衛用兵器の情報を送信してくれた。

「サンモーハナストラ」と呼称されるその兵器は、起動時に砂漠の砂糖を高濃度に含んだ源泉を周囲に散布し、降り注ぐシャワーと温泉、ミストによる三重攻撃を仕掛けるものであった。この攻撃は対粉塵用防護装備では防ぎ切る事が困難であり、実際何度も偵察部隊がその矢の餌食になったという報告も挙がっていた。

また、遠距離モードとして直接高圧洗浄機の様に源泉を放出する機構も存在しており、射程外から本兵器を無力化するのは非常に困難であるとの、予測結果が立てられた。

更に言うと現在開発中ではあるものの、先端から装填して発射される、ロケットアシスト付き砂糖弾の計画も存在していた。もしこれが完成してしまった場合、アビドスから各学園への直接攻撃が可能になる、最悪の予測結果も立てられていた。


この情報は、各学園が立案中だったアビドス侵攻計画への大幅な修正を余儀なくされる事となった。人海戦術や無人兵器による質量戦では、この兵器を制圧する事が困難であり、かと言って、時間を掛けての侵攻では逆に超長距離直接攻撃によって、本拠地が壊滅的被害を被る事が目に見えていた。

この問題に対し、"先生"を中心とした一団は少数精鋭による速攻制圧を立案。シャーレに属しておりながらも、各学園や生徒達の協力により拠点やセーフハウスを分散して有したことにより、アビドス側も現在位置を把握するのが困難となっていたのが功を奏した形になった。

その制圧作戦支援の為に、この対「サンモーハナストラ」兼、アビドス侵攻用の試作決戦装備を開発する事をミレニアム主導で決断。

被害が著しいトリニティ・ゲヘナを筆頭に、各学園の有志を募って試作チームが編成される事となった。


要求された項目は以下の通りである。

・砂漠の砂糖(水)の対策として、全身の防塵・防水性能の搭載

・激しい交戦が予想される事による、多機能の保護も含めた防御性能

・様々な状況に対応できる運動性の確保

・長時間の過酷な戦闘に耐えうる様にする装着者のバイタル維持機能

・個人を識別でき、意思疎通にも滞りが無いようにする機能とデザイン性

・etc...


はっきり言って、大半はミレニアムの超技術により問題なく解決できたものの、そこから組み合わせた結果が大変な事になった。

なんせ、全身ラバースーツの様な身体のラインがでる形状と質感に、防弾ガラスもふんだんに使用したガスマスク、そして背中に背負った各種バイタル維持用大型バックパックという、異形かつ羞恥心を刺激するかのようなデザインになってしまったのである。

これがインナーだけならまだ競泳水着の延長線上と強弁できたものの、先の継戦能力の為に排泄物処理用機構が備わっていた事が、大きな問題となった。

それは、医療用・介護用器具、即ちカテ…を流用・小改修して用いている為、秘部に直接接し(比喩)続けなければならないという理由からであった。聞く人によっては卒倒しかねない仕様になっており、試作品を自らテストした時は激しい違和感と羞恥心でテスト後に1日寝込む事になったのは、理由が無ければ報告したくなかった乙女の恥と言えよう。


しかし、この大きな問題を除けば要求仕様はクリアされており、いつでも実戦投入が可能になったのは大きな成果であったと言える。

仮称「S.E.」(スネークイーターの意味とか。何故この命名になったのかは不明。)と名付けられた本装備は、全身密着型重装衣という私が知る限りでは前例の無いものとなった。どれだけの予算を投入したのか、考えるだけで恐ろしいものがある。

だが、仕様上装着者に合わせて精密に採寸・作成しなければならない関係上量産化が困難であり、なんとか選抜・完成した5人を招いての合同説明・試着会は、関係者全員が未だに語る事も憚る程の地獄絵図と化した。


以下がそれぞれの装備の愛称と、それに対応する選抜された5人である。なお、愛称の命名基準は私にも一切分からないものであることは特筆しておく。

INFINITE:剣先ツルギ

LADY JUSTICE:下江コハル

RAISER:美甘ネル

GARM:天雨アコ

DESTROY:狐坂ワカモ


幾ら理由があるとはいえ、選抜されてしまったこの五人には深い哀れみを感じざるを得ないと同時に、騒動に巻き込まれるチームの事も考慮してくれと、そう思わずにはいられなかった。


ともかく、この5人分の開発が完了しチームでの活動に一区切りはついた。

今後、本装備が制作再開する事態にならないことを私は深く望むというところで、この手記の執筆を終えさせて頂く。

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