S.E. Gen2

S.E. Gen2


※閲覧注意要素あり

前回SS


あるゲヘナモブの手記

仮称「S.E.」と名付けられたミレニアムの試作装備は、効果は絶大だったが非常に致命的な欠陥を有していた。


「サンモーハナストラ」と呼称される、砂漠の砂糖水を広範囲に散布する、ざっくりと言えば物凄く強力な噴水的兵器の攻略の為に、一般的な装備の防塵機能では不十分であるとして全身防塵・防水機能を盛り込んだ上で、更に運動性維持性能や長時間活動能力、これらの様な各種機能も含めて丸ごと防御力を持たせた結果、着脱に時間が掛かる上にある事情により、高頻度な着脱が推奨されない仕様になってしまった。

というのも前述の要求仕様を実現した結果、全身ラバースーツの様な装備になった上に、通気性が最悪かつ断熱性も高い生地を使用せざるを得なくなったのである。このままでは内部に熱が籠もって蒸れてしまい、不快指数が著しく上昇し連続着用可能時間が短くなる事が予想された為、別途温度調節機能や吸湿機能も盛り込まれる事になった。

しかしその結果、スーツの着脱に余計に時間が掛かる様になってしまい、仮に戦場で催そうものなら内部に垂れ流すのが現実的という、このまま完成したとしても納入拒否されるのが目に見える状況になってしまった。

この大きな問題の解決の糸口は、意外な事にミレニアムの中毒治療室の方から齎された。というのも、禁断症状が激しくなったりして自力での排泄が困難になった生徒に対しては、別途専用機器を用いて排出・処理する事になっていたのだが、この便処理システムは理論上健常者にも使用可能であり、また、スーツに搭載できるだけのサイズに小型化もされていたのである。

これにより、「スーツを脱がずに排便を確実に安全かつ清潔に処理する」という方法で解決の目処が立ち、無事に装備自体は完成・納入される事になった。

しかし、その排泄処理方法故に2つの秘部に装置先端を挿入し続ける必要があり、着用時に大きな精神的負荷が掛かることは避けられないと考えられた。実際その身を持って試作機で実験したとあるミレニアムモブが、そのあまりの下腹部の違和感と羞恥心故に実験終了後に1日もの間寝込んだのは、個人的にも開発チームの皆にとっても忘れられない記憶の一つとなった。

また、これにより短時間での着脱は、装着者の心身に重度の負荷を掛ける恐れがあるとして、緊急時を除いて極力避けるべきものとされた。


この機構がどんな悲劇を齎したかは想像に難くないが、合同説明・試着会において下江コハルを筆頭に、5人の選抜者が各々困惑したり動揺したり絶叫したり呆然としたりした結果、混沌そのものと言える惨状となったのは、読者の考察の一助になる情報であると言えよう。


納入、試着後は日常生活や訓練中にどれだけの影響があるかのテストが行われた。流石に覚悟を決めてきた5名であり、素人から見た限りでは表面上問題が無いように思えた。

しかし、最近矯正局から出所してきたFOX小隊との模擬戦において、彼女達から「僅かながら動きに違和感があった」という意見が寄せられた。勿論、その原因が未知の感覚に長時間晒される事による違和感と恥辱である事は言うまでもなかった。

なお、模擬戦終了後にガスマスクは外したもののスーツを着用したままシャワーを浴びに行く5人の姿を見て、何故か悶々とする生徒がチーム内から出た件については、当該人物の名誉の為に敢えて詳細については伏せておくものとする。

この問題の解決法を先生も含めて関係者一同でどうにか捻り出そうとしたものの、結局"慣れろ"という一見すると無責任な方法が最良であるという結論が出ることとなった。

何故かこの決定を受けて天雨アコの表情が赤らんで居たように見えたのは、私の気の所為であったと思いたい。



あるトリニティモブの手記

事件は唐突に起きるものではあるとはいえ、その内容は衝撃的なものであった。

"下江コハル、試作装備実験運用中に他生徒を庇い砂糖中毒症状に"

どうやら私達が開発した「S.E.」の実験運用も兼ねたミレニアムでの訓練中に、アビドス生徒たちの突発的な襲撃があった事を受けて急行した結果、現地で狙撃されそうになっていたゲヘナモブを庇って特殊弾を被弾。その弾頭に含まれる超高濃度砂糖水を直接投与されてしまった事で、中毒症状を発症してしまったという内容であった。

この襲撃自体は偶然居合わせた便利屋68も含めた有志達の協力もあって全員撃破、一人残らず捕縛する事に成功した。

しかし、貫徹力と即効性の高い弾頭であったが故にコハルの容態が急変した為、現場判断で速やかに中毒治療室に送られる事となった。収容中毒生徒数の増加に伴う応援で偶々施設で居合わせた私と、定期面会に来ていたが故に偶然にもその凶報を聞いてしまったミカ様達ティーパーティー重鎮組の皆様にとってみれば、まさしく寝耳に水であった。特にミカ様とナギサ様の動揺は尋常ではなく、セイア様とこれまた偶然居合わせることになったアリスさんとの、三人がかりの全力で落ち着かせる羽目になった。


その後応急処置が行われ、どうにか重症化は防げたものの、戦線復帰するのにこのままでは少なくとも数ヶ月は掛かる見込みという、絶望的な宣告を受けた。他の選抜者の皆様や先生にとっても残酷な話ではあったものの、それ以上に搬送時に張り付いていたらしいゲヘナモブにとっては酷く堪えたものであったらしく、ひたすら謝罪の言葉を発するオルゴールとなっていたのを周りに慰められる事態に陥っていた。どうやら過去にも似たような事件に出くわしたらしく、庇ってくれた友人はいつの間にか何処かに消えてしまったという話であった。


この事件を受けて浮かび上がった最大の問題、それはS.E.の防御力を貫通できる弾を、携行火器で発射可能という点であった。

現場に残された証拠品から推測されるに、特殊弾はショットガンから発射される注射針の様な形状の弾頭であり、単発フレシェット弾の様にサボットを用いて限界まで初速・貫徹力を高めた仕様であった。この弾頭が対象に着弾すると、慣性によって底部の高圧注射機構が作動し内部の薬剤、今回は超高濃度砂糖水を対象に強制的に投与する様になっていた。

これにより、機動力を重視していても被弾が抑えられない場合、最悪前線で中毒者続出からの全滅が現実味を帯びてくるという、S.E.のコンセプトに挑戦状を叩きつけるものであった。

また、この弾頭「仮称・サンモーハナストラ(新)」は前述の通りショットガンから発射可能であり、現アビドス最重要目標の一人である小鳥遊ホシノと相対した場合、この弾頭を連射してくるという恐ろしい予測結果が立てられる事になった。

※「サンモーハナストラ」と今まで呼称されていた防衛兵器については、今回の事件を受けて「マハー(偉大な)サンモーハナストラ」に改名された。


アビドス攻略に向けて着実に準備していた中で、欠員と防御力不足という重大な2つの問題に直面した先生ら一同と開発チームは、これを受けて対策会議を開いた。勿論簡単にそんなものが出る訳もなく、案が浮かんでは問題点が洗い出されポシャり…というのを数日間繰り返す事になった。

しかし、またしても救いの手は中毒治療室から齎された。なんと、治験の甲斐もあり回復傾向にはあるものの、未だに治療が必要と見られる患者達の一部、それもミカ様やユウカさん、無事なアリスを除いたゲーム開発部の3人が、先生率いるアビドス攻略精鋭チームに加わりたいという話が出たのである。

勿論、そのままではいつ禁断症状に襲われるか分からないとして、先生も含めた関係者一同で拒否するつもりであったが、最初からそれを想定してか、それの対策も引っ提げてきたのであった。

曰く、「中毒症状や禁断症状を抑え緩和する新開発の薬剤を用いれば、短期間での完治は流石にできないとはいえ、数日の間は戦闘行動も問題なく可能である」との事であった。どうやら先の立候補者の皆様が身と命を削って治験に臨んだ結果、このような新薬の開発に結びついたとの事であった。

しかし、点滴を打ちながら激しい戦闘を行うというのは基本的には非常識なものであるとされており、実際これもそのままでは却下される見通しであった。なお、それに近い事をミカ様が他患者の禁断症状抑え込み時に行っていたものの、他者が真似できるものでは無かった為軽く流されかけた。


だが忘れてはならない。ここは技術学園ミレニアムサイエンススクールであり、これ位の不可能など可能にできる力を持っているという事を。即ち、スーツにこの自動点滴機能を組み込む事で、万が一「サンモーハナストラ」を被弾してもバックパック端末がバイタル異変を察知し薬液を投与、強引に戦闘続行可能とすることが理論上できるのである。

更に幸運な事に、コハル自体も新薬投与治療と禁断症状を私が予想していなかった程の精神力で自ら抑え込む事で、予想以上の短期間で回復し、先の志願組と同レベルの戦闘が可能となったのである。それも、前述の戦闘続行を試作品で証明した上であった。

この思いがけない戦線復帰と試験結果を踏まえ、2つの大きな問題が解決されたとして、開発再開命令が私達開発チームに下された。


そしてその成果が実を結んだのが、新型装備「S.E. Gen2」である。これは基本的な仕様は便宜上Gen1とした最初の装備に準じるが、前述した自動点滴機能が組み込まれた事で、より砂糖耐性を高め継戦能力を増させたものとなっている。

また、2色(下地色+ラインカラー)で構成されたシンプルなカラーリングが、3色以上も可能な複雑かつより彩り豊かな外観になり、オプションとしてスカートやコート等の各衣装に似せた様な追加ラバー布を搭載することが可能になり、全身ラバースーツからの脱却が図られた。

他にも各種装備の最適化によって軽量化にも成功しており、総じてGen1よりも完成度は高められたと言っていいものになった。

この開発にあたって新規追加メンバーも続々と募集が来ており、「三度もこんな事を起こさせない」と先の庇われたゲヘナモブも参加していた。彼女達の力が無ければGen1を超える速度での開発は不可能であったと言える。


今回の各装備の愛称と装着者は以下の通りである。なお、Gen1装着者は愛称も引き続いている為、今回は割愛させていただく。

METEOR:聖園ミカ

KERNEL:早瀬ユウカ

OVERCLOCKING:花岡ユズ

BENCHMARK:才羽モモイ

ANTI-ALIASING:才羽ミドリ


今回は前回と比較してなんとなく私にも理解できそうな命名基準であり、逆に前回との落差で風邪を引きそうになった。

また、一度様々な理由で排泄機器を接続した経験がある一同であった為、Gen1組以上の速度でスーツに適応。同等レベルのパフォーマンスを見せることができるようになったのは、特筆すべき点であろう。


ともかく、これにて第二弾の開発も無事に一区切りつかせる事ができた。

後で労いも兼ねて、チームの皆にシュガーレスプリンでも用意しようと思っている。

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