カンダタのコイン
※閲覧注意・エ駄死要素あり
特殊装備「S.E.」過去作SS
ミッション説明
外伝
身体を張ったミレモブの手記
ミレニアムの中毒治療室にミカさんが運び込まれた時、それはもう相当深刻な状況にあった。何なら先に収容されていたゲーム開発部の3人よりも中毒進行度が酷く、レッドウィンター産の雪を元にした緩和剤を投与してようやく他の中度症状患者レベルに収まる程度であった。それでいて身体機能の劣化が見られるとされているとはいえ、だいぶ上等な拘束衣を着用させないと周囲の設備を破壊しかねない程であった。
そして、時折身体の洗浄や点滴針の確認等で素肌を覗く事になると、痣も含めた痛々しい自傷痕がところどころに露わになるという、目を背けたくなる様な現状がそこにはあった。そして幻覚幻聴が彼女をさらなる責め苦地獄に叩き込んでいるせいか、涙の跡が消えることなく顔に刻まれていた。荒れた髪と合わせて、とても人に合わせたくないだろうなという心境を想像できた。
どうやら紆余曲折あって巻き込まれてきた、後の親友であるトリニティのモブ曰く、「彼女の存在によってトリニティが砂糖地獄と化してしまったものの、騙し討ちと悪辣な取引によってそうされたものであり、本人自体の非は無い。但しエデン条約に関係する様々な騒動で魔女と呼ばれる様な事をしてしまった負い目があるらしい為に、それによって自罰してしまっている部分があるという。私もよく知りませんが。」という話を聞けた。本来は優しい人とはいえ、なんというかここまで来ると話が大きくなりすぎて、自分には何も言えない案件の様な気がした。
しかし、彼女の秘めていた強かさを私は見くびっていた。
なんと、ミレニアムが行おうとしている新規開発中の砂糖中毒治療薬の治験に、ユウカさんやユズさん、そしてモモイさんとミドリさんと共に積極的に手を挙げたのである。どうやら内心罪滅ぼしかどうかは不明であるものの、自らの砂糖にどっぷり毒された身体を使えば、新薬開発スピードが向上するだろうという目論見であったという。そして、どうやらベッドが近かったらしいユウカさんを経由して3人にも話が渡り、この様な結果になったのだという。
通りがかりの連邦生徒会の元防衛室長のカヤさんが、「なんで全く存在しない非に罪悪感を抱いて、する必要のない罪滅ぼしをしなければならないんですかね?(要約)」というツッコミをミカさんにしたものの、ある種の覚悟を固めてしまった彼女には全く効かなかった様であった。
ともかく、前述の5人に加えて、ミカさん搬送時の陽動でトリニティを襲撃した際に、目的の偽装工作も兼ねて拉致られた患者の一人であった、マリーさんも含めた合計6人を被験体として新薬の治験が行われた。意外にもお互いがお互いを励まし合いつつ親交を深める事で、治験時のストレスを緩和していた様であった。また、排泄物処理装置を一度は装着した事の方が辛かったという共通点もあり、新薬の完成が近づくにつれて、今後の展望とかまで語り合う関係にまで成長したのは興味深かった。なお、後に全員がS.E.を着用する事になった為、羞恥心による絆がより深まったのは、また別の話である。
そうして短期間で完治するわけではなく、そもそも一定程度しか治療できないとはいえ、ある程度は日常生活や理論上は戦闘も行えるようにまで回復させる、待望の新薬が完成した。命名については開発部門では砂糖緩和剤(仮)とかそっけないものが多く、また、何故かとあるミレニアムの重要人物の方が、命名権をユウカさんらに譲渡する事になった。そこで意外にも良さげなネーミングセンスを見せたのがゲーム開発部の"4人"であった。
どうも紆余曲折あって、死が限りなく近くに迫る事があったらしく、それもあって中毒者は死んでいないから、何度だってやり直せる筈という発想に行き着いたらしいのである。そこから導いて、「この薬はやり直しの機会を与える薬、即ちコンティニューできる様にするクレジットではないか」に至り、そしてある名前を思いついた。
「コンティニューコイン」
砂漠の砂糖によって道を外れ地獄に落ちた者に、分け隔てなく垂らされる救済の糸である。
このセンスについてはまたしてもどっかの元防衛室長がツッコミを入れようとしたものの、他ならぬ自分も過去にやらかして矯正局に収監された過去があるという事に気がついたのか、ツッコミをする事なく早々に立ち去っていった。
おまけに治験の疲労故か、深夜ボルテージに突入していた残り3人もこのネーミングセンスを絶賛した事で、この名前で確定することになったという。案の定、後から諸々何か騒動が起きたらしい事だけは書き残しておく。