・後日談集 中編
─青毛メイドちゃん・尾花栗毛お嬢様ちゃん─
「次はどちらにしますの?」
「私はあれがいいです、フリーフォール!」
平日の遊園地、人々の視線が俺…の横にいる二人に釘付けになっている。カノチェにサングラス、スリットの入ったタイトスカートを着こなす金髪碧眼の美人とそれに付き従うメイド服姿でウマ耳の生えた青髪の美少女。明らかにただものではない雰囲気を漂わせている。
その一方で、俺は無視され…いや、逆に目立っているかもしれない。“このイマイチパッとしない男は何故この二人の隣にいるんだ?”と言わんばかりに奇異の目で見られている。
「……なあ、俺も乗らなきゃいけないのか?」
「あら、苦手でしたの?」
「いや、お前らの隣にいると変な注目を集めるからさぁ…」
「家族連れやカップルも多い遊園地で影が薄くて冴えない男一人でいるのも大概だと思いますよ?」
このメイド、痛いところを突いてきやがる。というか影が薄いだの冴えないだの好き勝手言いやがる。イケてるメンズと自惚れるほどの自信はないが、そこまで言われるおぼえはない。
「はぁ……しょうがない、行くぞ」
腹を括って、今日だけはどんなに視線を感じても無視を決め込むことにした。
「お待たせしました!とろけるクリームのショコラパフェです」
「ありがとうございます~」
いくつかアトラクションに乗ったら、昼食をとるため遊園地内のレストランに入った。今はメインメニューを大体食べ終わってデザートが来たところ。
「ん~おいしいですねー」
美味しそうにパフェを食べていくメイド。お嬢様の方もチーズケーキタルトを上品に食べており、絵になるその姿はレストラン内でも衆目を集めている。
一方俺は……いかんいかん、今日は視線を気にしないと決めたんだった。
「……あの、そのような顔をされては食事に集中できないのですが」
「そうですよ、ほら笑顔!」
「ほっとけよ……あん?」
忌々しげにバニラアイスを口に入れると、目の前にスプーンが差し出される。
「ほら、あーん」
「………はあ?」
「だから、あーんです。美少女からのあーん、ですよ?」
「ガワは美少女でも中身はもがっ」
それ以上は無理やり突っ込まれたスプーンで続けられなかった。本当に強引だなこいつ。
「どうですか?美味しいでしょ?」
「まあ、うん…」
舌触りがよくすぐ溶ける生クリームの甘味をショコラの仄かな苦味が引き立てており、確かにおいしい。だが、しかし。
「なあ、これって間接キス…」
「えっ……ああ、そうでしたね、別に気にしてないですよあはは」
指摘すると珍しく動揺するメイド。キス以上のことを既に何度もしているはずだが、意外に初心なところがあるんだな。
「お前ってそんな表情もするんだな」
それを聞いてむぅ、とでも言いそうなふてくされた様子のメイドを見て、面白いものを見れたし少しは機嫌直してやってもいいかなと思ったのだった。
─鹿毛後輩ちゃん─
部活を終えて家に帰ってくる。前まではただいまを返す相手もいない一人暮らしだったが。
「おかえりなさい、先輩!」
「おお、ただいま」
扉を開けると、エプロンを着た小柄な少女が出迎えてくれる。その頭には馬のような耳が生えており、その背中側にはふりふりと揺れるしっぽもあり、彼女はいわゆるウマ娘である。
数ヵ月前に突如現れたのだが、その正体はウマ娘になれる代わりにセックスしないといけないボタンを押したらしい部活の後輩だった。
その後輩とは、同じオタク趣味で話が合うからよく話をしていた。学校内でも会えばちょっと立ち話をするような、気に入っている後輩だったからウマ娘になったと聞いてびっくりした。
その後、条件であるセックスを済ませた後も、行く当てのない彼女を家に住まわせている。
「ちょうどご飯ができたところですよ。食べますか?」
「ああ、頼む」
こうやって可愛い彼女が毎日温かな食事を作って待っていてくれる。それだけでも学校、そして部活への気力が断然違う。
「そう言えば、最近タイムが結構縮んできてるんだ」
正直部活内であまり良い方とは言えなかった成績が、ここ何ヵ月かでかなり改善してきた。たまにとはいえ、得意な泳法なら上位に食い込むことさえある。
「そうなんですか?おめでとうございます!」
「きっとお前のお陰だよ」
そう言って彼女の頭を優しく撫でる。サラサラの鹿毛でとてもさわり心地が良い。
「そ、そんな……じぶんは……」
「それじゃ冷めないうちに食べようか」
「あ…はい…!」
彼女が作った夕食を食べる。俺の好きなもの・嫌いなものをよく把握して、それを反映しながらも運動部である俺のために栄養バランスのとれたものを毎日用意してくれているのだ。
「うん、やっぱりお前の料理はおいしいな。きっといい嫁になれるぞ」
そう何気なしに褒めたつもりだったが、彼女は瞳を潤ませて顔を上げる。
「先輩は…貰ってくれないんですか…?」
ああ、確かにさっきの言い方だと俺が送り出す側のように聞こえてしまう。
「貰うぞ、もちろん。今は無理だけど、将来必ず」
「そう、ですか……えへへ……」
顔を赤らめながら柔らかな笑みを浮かべる彼女を見て、責任を持って面倒見てやらなければという気持ちを新たにした。
─月毛ギャルちゃん─
数ヵ月前、僕のもとに突如やってきた元男だというウマ娘。ギャル、陽キャという感じで初めは少し怖かったけど、程なくして彼女は優しい人だと言うことがわかって、一緒に暮らす生活に慣れてきたところ。
彼女はよくカフェやレストランに出かける。その理由は、というと。
「んー、これも映えそうっちゃんね。でも食べきれるかわからんし次来たときにしよっか」
「……僕が食べようか?」
「いやいや、キミは好きなの頼んでいいとよ。アタシがやってることやし」
インスタやツイッターで上げるためらしい。なんというか、“陽”という感じの活動だ。ちなみにその界隈では結構人気らしく、この前はネット記事の依頼が届いていたくらいだ。
僕も別に甘い物とかは嫌いじゃないし、何かあった時のために毎回付き合っている。デートみたいなものかもしれない。
お腹を満たした後は、ゲーセンに行く。二人ともウマカテをよく見ていたあにまん民なので、お目当てはもちろん。
「ウマ娘の……あ、あったよ」
「おー、これこれ!」
フィギュアやぬいぐるみなどのグッズだ。クレーンゲームの景品でもはや定番となっているので、大きいゲーセンなら結構種類があったりする。
「ゲームのぱかプチってこんくらいなんかな?」
「うん、高さはこのくらいだと思う」
アプリでのサイズを見ると小サイズ=普通サイズのぱかプチ、大サイズ=BIGぱかプチの大きさに近い。ゲーム内を擬似体験できるというわけだ。
「テレレッテレー♪テテンテテンテテテテン♪……あ、ちょっ、なんでそんなニコニコしとうとよぉ…」
100円を入れて、ゲーム開始と同時にアプリのクレーンゲームのテーマ(ちなみに『うまぴょい伝説 -こんなUFOはじめて-』というらしい)を口ずさむ彼女を見て、なんとなく年上っぽく感じていたけど同世代なんだなと微笑ましく思う。
「可愛いなと思って」
「かわ、もぅ……あ落とした」
僕の言ったことに気を取られたのか、変な角度で掴まれたカワカミプリンセスは上にあがりきる前に落ちてしまった。
「なんかごめん…僕が取ろうか?」
「うん、お願い…」
──このゲーム、負けられない!!
「結構取れたね」
「小銭なくなりかけたけどね……」
今日の戦果…ぬいぐるみ3個、フィギュア2個。その代償は大体6000円くらい。一つ1000円ちょっとと考えればだいぶ運がいいとは思うけど。
「ね、今日楽しかった?」
「……うん、楽しかったよ」
それはもちろん。二人でご飯を食べたり、一緒に遊んだりするのは楽しいし時間がすぐに過ぎる気がする。
「そっか、アタシに付き合わせとるっちゃないかなって思って」
「僕が自分の意思で付き合ってるんだよ。それに、君と一緒ならきっとどこでも楽しい…と思う」
「…………!それは反則、やろぉ…」
頬を紅潮させ、彼女はうつむいて恥ずかしがる。言い過ぎたかな、とは思わない。紛れもない本心だから。