・Loving Swimming
「うーん…新ウマ娘、新シナリオ、大分落ち着いた感じかな」
部活を終えて帰宅し、場末なのか場末じゃないのか微妙な掲示板、あにまん掲示板のウマ娘カテゴリを見ながら呟く。
2周年をめでたく迎え、新ウマ娘を始めとした新情報からはや1週間。さすがに熱も引いてきた頃合いというわけだ。
「さてと、明日の準備でもしようかな」
ざっと気になるスレを確認したら、明日の英語でやっておくように言われた箇所を勉強する。
取りかかろうと思ってスマホを置いたら、目の前には見慣れない物体があった。
「なんだこれ……『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』?」
こんなボタンに身に覚えはないし、不気味で怖い。なのに不思議とその内容が魅力的に思えて、押したくなる。ウマ娘と言えば容姿麗しく、人間に近い姿ながら圧倒的なパワーを持つ存在。後半の内容に目を瞑りさえすれば悪くないように思える。
「まあでも、どうせ押しても何も起きないよね。ぴっ」
そうやってふざけて押してみると、身体が火照ってきて、視界が薄れる。意識も熱に浮かされて遠くなるようで。
「な、にが……ぐっ………」
少し意識がなくなって、また気が付くと知らない部屋にいた。………でも。
「あれ、先輩……?」
「え、君は?俺は知らないんだけど…そっちは知ってるのか?」
目の前にいる人は知っている。同じオタク系の趣味で、よく自分を気にかけてくれる部の先輩だ。
「あ、あの……!自分は……です。後輩の…」
「……姿が全然違う、というかウマ娘になってるけど本当に?」
ウマ娘になってる、か。
道理で景色の見え方や自分の声がいつもと違うわけだ。やっぱりあのボタンの効果は本当だったらしい。
「は、はい。実は『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』って言うのが突然出てきて、それを何も起きないと思って押したらこうなって……」
「ウマ娘に…その代わりに、あにまん民と…」
「先輩もその…あにまん民、なんですか?」
趣味が自分と似ているとはいえ、先輩があにまん民だと言うのはちょっと想像がつかなかった。
「ああ、よくウマカテとかアイマスカテ見てる」
「じゃあ、その……つまり……」
……えっちを、しないといけない。そう思って覚悟を決めようとしたんだけど。
「いや、急にそういうのはよくないと思う……から、保留できるなら保留したい」
「そ、そうです、よね。きもち、わるい……ですよね」
ウマ娘になる前の自分も記憶に残ってるだろうし、きっと先輩も男の顔がちらつきながらするのは嫌なのだろう。
「そういうわけじゃない……けど、ちょっと考えさせて欲しい」
「はい……分かりました」
そうして帰ろうと思ったけど、この全く別人となってしまった状態では帰るに帰れないことに気付き、先輩の家にしばらく居候させてもらうことにした。
先輩の家に強制移動してから数日。結局自分の家には戻らずここで過ごしたまま。
そして現在の自分の身体は、あのボタンを押した結果ウマ娘になっている。毛色は茶色、おそらく鹿毛で、髪型はショートボブ。目は柔らかな琥珀色で、頭の上には馬のような耳が生えていて髪と同じ色の尻尾もある。胸は…そこまで大きくない。身長も男だった時より少し縮んでいる。
また、数日経ってようやくボタンのもうひとつの効果である“強制的にエッチ”というのがどういうことなのかが分かった。
身体が軽い風邪でも引いたように熱を帯びて、腰の奥がジンジンする感覚があって、息も荒くなり、それがずっと続く。
きつい、楽になりたいという気持ちがずっと頭の中を支配する。
「せん、ぱい……カラダ、火照って……苦しい、から……」
「で、でも……」
「先輩にしか、頼めないんです……お願い、します……」
「………分かった。痛かったりしたら、遠慮なく言ってくれ」
「はい………」
そうして自分は、信頼する先輩に身を預けた。
「せん、ぱい……」
先輩の腕の中で抱かれて、初体験を終えた。
変な名前のボタンを押して、それで美少女化して急にやってきた元男の後輩。
そんな、人によっては突き放してもおかしくないような自分を、先輩は優しく扱ってくれて。
「はぁ、ふぅっ……これで、大丈夫か……?」
「はい、楽になりました」
お腹の奥がじんわりと温かい。とても心地が良い感覚。
「……先輩、ありがとうございます。自分を拒絶しないで受け入れてくれて、本当に感謝してます」
「俺の方こそ、こんな可愛い子で卒業できてその……良かった。俺は元男とかそういうの、気にしないから…な」
かわいい、か。
……なんでだろう。元は男だったのに、その言葉がすごく嬉しく感じる。女の子になったからだろうか、それとも……先輩に言ってもらえたからか。
「………はい!」
「…お前のことは俺がちゃんと、責任持って面倒見るよ」
……まだしばらく、先輩の家に居させてもらうことになりそうだ。
さらに数日が経った。エッチはもう済ませたからか風邪みたいな症状が出ることはなくなったけど、そわそわする。
自分は先輩のことを、好きになってしまった。体同士を触れ合わせて体温を感じたい。そんなことを自分は期待してしまっている。もしかしたら先輩は、自分が辛そうだから仕方なくシただけかもしれないのに…。
そんな風にマイナス思考に陥りかけていると、先輩が肩に手を置いて呼び掛けてきた。
「ごめん、嫌じゃなかったら、なんだが……これ着て、その……またしてくれないか」
「それってうちの…」
先輩が手に持っていたのは、うちの部で使っている女子用の競泳水着だ。これを着て、する……。
「ああ、安心してくれ。自腹で購入した新品だから別にヤバいモノじゃない」
「あはは、大丈夫ですよ。先輩はそんなことする人じゃないって知ってますから」
「ああ、だから……」
「その…良いんですか?自分で……元男だし、あにまん民だし」
「気にしないって言っただろ?今の姿は可愛いウマ娘じゃないか。それに……」
先輩は何かを言いかけて、口をつぐむ。一体どうしたんだろうか。
「……?」
「いや、なんでもない。着替えてくれるか」
「はい、わかりました」
差し出された女子用水着を受け取って、着ている服を脱ごうとして、先輩の視線が自分に釘付けなのを感じた。
「み、見ないでください…恥ずかしいので……」
「一回裸なら見たと思うが」
「それとこれとは話が別です…!」
水着に着替えると、すぐさま先輩に押し倒される。そして自分はそのまま、先輩のなすがままになった。
「先輩って水着フェチ……とかだったりします?」
「いや…そんなことはないと思うけど、思うんだが…」
目が泳いでいる。水着になっただけでまさかの抜かずの3発をやってみせたところから生じた疑惑だ。
「なんだか、目が怖かったですし……初めての時より落ち着きがなかったというか……」
「なんかその……すまん」
「もしかして先輩が水泳部に入った理由って…」
「ち、違うんだ。不純な理由で入ったわけじゃないんだ」
動揺する先輩、ちょっと可愛いかも。今まで身近な憧れとして見ていたけど、こんな感じは新鮮だ。
「冗談、です。先輩はそんな人じゃないって分かってますよ。……でも、部の人たちには秘密にしておいた方が良さそうですね」
「ああうん、また会う機会があるか分からんが…内緒にしておいてくれ」
「分かりました」
…やっぱりまだまだ、先輩の家に居させてもらうことになりそうだ。