元凶と魔獣:遭遇編
カズサがホシノに遭遇するまで==================
この話は
から分岐した設定のif世界線ルートです
先にこちらに目を通してから今作を鑑賞するとより楽しめると思うので未読の方は是非…
(【勇者と魔獣シリーズ】は、別作者様のシリーズ作品です)
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──とても長い間寝ていた気がする
新生アビドスのみんなと過ごした日々が脳裏に浮かぶ
あの日常で傍受した幸せは、決して偽りじゃなかったけれども
その幸せは私達が多くの人々を苦しめた上で成り立ったもの…
後輩のみんなを監禁して
キヴォトス中に砂糖を蔓延させて
数多くの悲劇を生み出した
ああ…
今すぐ誰かに殺されても
文句言えないね
私はこの世界で最も罪深い命だから
なのに先生は
こんな私のことを救おうとしている
先生ってば本当にブレないよねぇ
私なんか見捨てたっていいのにさ…
こんなクズ、リンチに遭って惨たらしく処刑されたってしょうがないよ
ピッピッ
ピッピッ
音が聞こえた
ゆっくり目を開ける
ここは…何処だろう?
ちらっと目線を横にずらしてみる
側には誰もいない
私の腕に繋がっている点滴と、バイタルを示す機械が置いてあるだけだ
点滴を外して布団から起き上がる
「っ…!ぁ゛…いたた…」
いきなり起きたので頭痛と眩暈が襲いかかってきた
隣の機械がピーッとうるさい音を出す
「…うるさいなぁ」
銃を持ってれば撃ち壊すところ…いや、元気があったら手刀でもかましてやれるんだけど…そんな気力は出なかった
ベッドから起き上がったまま、頭を手で抑えて眩暈が引くのを待つ
「…はぁ…ふぅ…」
少しずつ思考が明瞭になってきた
今まで起きたことを思い出していく
確か…お散歩してる途中砂嵐に遭遇した
それに巻き上げられてから、先生が車に乗って助けに来てくれたんだ
多分その後意識を無くして今まで…
………
あれ?
なんでお散歩してたんだっけ?
それにわざわざ砂嵐に向かってたって
何を考えてたんだろう…?
理由が思い出せない
その時
こちらへ走ってくる足音が聞こえた
「っ!?」
私は側にある点滴スタンドを構えると、病室のカーテンをずらし視界を確保する
現れたのは看護師姿の生徒だった
看護師ちゃんは、けたたましい音を出す機械のボタンを押して音を止める
なぁんだ…変に警戒しちゃった…
看護師生徒「ホシノさん!?目が覚めたのですか!?お身体に異常は!?」
「えっと…多少頭痛がある程度…」
「無理は禁物ですよ!いくら9日間ほどぐっすりお休みになってたからといっても、まだ砂糖の効果を治療している途中なのですから!」
…9日間?
ということは、アビドスから出て10日は経っていたのか
「…そんなに寝ちゃってたんだ…今って何時かな?」
「えと、16時49分です」
「午後4時…もう夕方近くだったんだ…質問ばっかりで悪いけどさ、ここってどこなんだろ?」
「ご、ごめんなさい!まずはそれを説明すべきでしたね!ここはシャーレ併設の特別保健室です。先生から直々に、“秘匿されたこの場所で治療して欲しい”という要請を受けて…トリニティ救護騎士団の部長である蒼森ミネ団長が、私に治療を任せると指示なさったので専属看護師になって…という感じです」
シャーレ併設の保健室…
つまりこの子は、世間に内緒で私だけを治療してくれてるってこと…なんだね
「あはは…迷惑かけちゃってる…ごめんね?おじさんみたいな凶悪犯罪者のクズなんか、治療しなくたっていいのに…」
「そんな事言わないでくださいっ!」
「えっ…」
「た、確かに貴女のやったことは、絶対に許されない行為であると私も思っています!でもだからといって救護を求めてる方を見捨てるなんて事はしませんっ!ハナエさんも、セリナ先輩も、ミネ団長も絶対に同じことを言います!…自身が悪人であるという意識はしていて欲しいですが、求めているはずの救護を自分で拒否するのだけは許しませんっ!」
「───」
この子は、救護の精神で私を助けているんだ…私が救護を求めているから。そう見えたから治療しているんだ、と
救い、かぁ…
別に考えてない訳じゃないけど…
もう手遅れじゃないかな?
「…ごめんね、ありがとう」
でもこの子を傷つけそうだから
手遅れかもという思いは黙っておこう
正直こんな優しい子と話せるだけでも
十分すぎるくらい恵まれてる
「い、いえその…ごめんなさい大声出してしまって…」
「んーん、おじさんが意地悪言ったのが悪かったよ〜」
それから少しの間、看護師ちゃんと一緒にお話をした
この子は芯が強くて良い子だ
先生が任せるのも分かる気がするよ
そんな中、身体を動かした時にゴキゴキっという音が響いた
…寝過ぎたから身体が鈍ってる
ちょ、ちょっと歩きたいな…
お願いしてみよう
「えっとその、一個だけお願いがあるんだけどいいかな?」
「はい、私にできることであれば」
「ちょっと体動かしたいからさ、お散歩付き合ってくれないかなぁ〜?って」
「そ、それくらいならお任せください!とはいえ衆目を避けたいので、シャーレの敷地内…建物の中だけでどうかお願いします」
「うん、それでもいいよ。あっ…流石にこの服じゃ動きづらいし、おじさんの服がまだ残ってるならそっちに着替えたいな。あるかな?」
「ええ勿論構いません。ぼろぼろだった所は修繕済みですし…それにシャーレ内で動いてる生徒さん達は、ホシノさんの存在を黙秘出来る信頼を得ている方達で構成されているのでご心配なく!…ただ窓際にはあまり行かないで欲しいですけれども…」
「はいは〜い、パパラッチされたら嫌だもんね〜。それじゃ行こっか〜」
看護師ちゃんから自分の服を受け取る
確かにあちこち縫った痕跡があった
流石に銃は…持てないよね
というか持とうという気にもなれないや
看護師ちゃんと並びながらシャーレの中をぶらっと見て回る
空はどんよりとした曇り空で、夕陽の光が差し込まない天気だった
そんな中、シャーレに来ている生徒達はみんな忙しそうにテキパキ動いてる
私が起こした事態でこんなに忙しくしてると思うと申し訳なくなってくるけど…そんな事思って良い立場じゃないよね
私が罪を償うには
この命を差し出すしかないかもしれない
そんな本音を内に秘めながら、10日間も寝続けてガタガタな体を散歩でほぐしていく
途中、情報室みたいな部屋の前を横切る
その時私の耳は、信じがたい情報を聞き入れてしまった
情報室モブ「なんですって!?アビドス勢力がトリニティを襲撃!?」
──え?
アビドスがトリニティを襲撃?
まさかそれって
前にハナコちゃんが計画してたあの…
そう思った時には部屋へ入ってた
「ごめん!今の話本当!?」
「わっ!?って、貴女ホシノさん…!?目が覚めたんですか!」
「そんな事どうでも良いから!今の報告は本当なの!?」
「あ、はいっ!えっと…トリニティ北東に位置する57地区にて、アビドス勢力が襲撃…人的被害は軽微ですが、人数差や士気が高いために正義実現委員会などは押され気味とのことです!」
「…まさかこんなに早くやるなんて…」
「えっ、今なんと?」
看護師生徒「ホシノさん…!いきなり、走り出さないでくださいよ…!ビックリしちゃいまし…」
「っ!ごめんっ!」
私は窓へ突進すると、腕で防御の姿勢を取りながら体当たりで窓ガラスを割って飛び降りる。近くに生えていた木に一度降りてから着地し、そのままトリニティ地区の方へと駆けた
ハナコとヒナは、私の手紙を見なかったのか…?いや、きっと見た上で自分達が本当の悪人だとみんなに思い込ませようとしているんだ…!
「そんなこと、絶対にさせないっ…!」
人生で一番レベルの速さで走っていく
病み上がりどころか、治療途中の身体は突然の負荷に悲鳴を上げる
でもそんなの関係ない
あの2人の愚かな行為を止めるんだ
罪滅ぼしなんて考えてない
2人だけに責任を背負わせるものか…!
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看護師生徒「ホシノさんが…」
情報室モブ「ちょっ、これかなりマズイんじゃないですか!?とにかく脱走報告を各地に…」
「待ってください!」
「なっ…待つ必要あります!?アビドスの砂糖を広めた元凶である犯人が逃げたんですよ!」
「…違うはずです。きっとホシノさんはトリニティへ行って、攻め込んでるアビドスの人達を説得…ないしは撃退しようとしてるんですっ!
お願いします!特別回線で先生に伝えてくださいっ!ホシノさんがトリニティへ向かってアビドスの人達を追い払おうとしていると…!」
「…分かりました。貴女がそこまで言うのなら、先生にだけ報告します。ここに来た子達はみんな絶対外部に漏らさないと信頼されてる子達だから、きっと全員周囲にはバレないようにしてくれるはずですし…ね」
情報室の生徒はそう看護師に言いながら外出中の先生へ特別な回線でホシノの件を報告した
看護師は両手を組みながら
「どうかホシノさんが無事戻ってこられますように」
と祈る
たった2時間程度しか交流していない彼女だが…救護騎士団として、個人として、「ホシノを救いたい」という思いで祈るのだった
その思いがホシノまで届くかどうか
今はまだ誰にも分からない…
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ホシノ「はっ…!はぁっ…!」
ハナコの作戦は覚えている
北東の57地区を陽動部隊が襲っている間に、その真逆の地区…医療機関が多くて割と手薄な南西方面の地区に勧誘部隊が砂糖中毒の患者や依存症に苦しむ子達を列車でアビドスへ連れ去るものだ
「どの部隊に誰を入れるか」というのを相談してる間に私はアビドスから出た
まさか、10日で準備を終えてすぐに行動するとは思っていなかった
とにかく勧誘部隊が肝なのは分かってるから、あっちさえ何とかできれば…!
陽動部隊はただ目立つためであり、何も本気で潰すつもりじゃないはず
それに、勧誘部隊が「私に遭遇した」と報告してくれればきっと陽動部隊は撤退するはずだ
トリニティ南西地区がシャーレに近い方の場所で助かる…急がないと
走り続けているうちに肺が痛くなる
頭痛もまた再発してきた
でも、そんな事で足を止める訳にはいかないんだ
ヒナとハナコに全てを押し付けるなんて絶対にダメだ
私しか止められる者はいない
例えトリニティの人達から石を投げられ磔にされ火刑にされたって構わない
私が元凶だと思ってくれるのなら
いくら残虐な処刑をされたって…
「っ、はぁ゛っ…!もう、すぐ…!」
いつもの動きやすい服でよかった
古風で立派な建物が見える
地面も綺麗な石畳になってきてた
トリニティ自治区へ到着できた
「い、ま…いるのは…多分、南の地区…西の方に、いけば…!」
少しだけ呼吸を整えると、私は再び走る
トリニティ南西地区へ、あっという間に到着した
しかし、喧騒は殆ど聞こえなかった
「あ、れ…?」
もしかして作戦を変えた…?
高い建物の上に急いで登って、市街地を見渡す
…いや、襲撃の跡が見える
ちょっと暗くて見えにくいが、向こうに倒れている人とそれを搬送していく人達が見える
ということは…私が来る前に作戦が失敗したのか?
「はぁ…なんだ…よかった…」
失敗したのなら、まだ私が元凶だと言う事ができる
“ヒナとハナコが元凶だ”と見られるかもしれなかった火種が消えたことになる
ふと目線を上げると、そこには時計塔があった
指している時刻は21時27分
シャーレに2時間くらい居たと考えると、私が向かってる3時間で撃退したのかな?
少し目を擦り、再度搬送している人達の様子を伺う
よく見ると、ちらほらあの看護師ちゃんと同じ服装をした人達がいるっぽい
救護騎士団…だったよね。ならあの子達がアビドスの子達に無体を働く事もないだろうし、安心でき──
ガガガガガガガガガガッ!
ッ!?
今のは、軽機関銃の銃声…
しかもここから結構近い
まさか誰かが攻撃されてる…!?
救護騎士団の人達は音に気付けないだろう距離だ
私が止めるしかない…!
たとえ銃が無くても素手で止めてやる
雨雲により星空が見えない中
私は銃声のした方へ、建物を飛び渡って向かう
これ以上人が傷つくのを見たくない…!
頼むから…間に合え…っ!
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ホシノがトリニティへ駆けつける少し前
天童アリスは、勇者パーティという自身の仲間達のうち一部と共に、トリニティ襲撃の現場へ赴く
自分が師と仰ぐ救護騎士団長ミネの指示に従って、アビドス側の生徒も被害者も分け隔てなく搬送し、精一杯救護活動に励んでいた
今回のアリスは、いつもの勇者ではなく「ヒーラー系勇者」という、救助活動に専念する救護魂スキルを獲得した役職で行動している
その最中、魔獣キャスパリーグと化した杏山カズサと知り合い、アリスは彼女とカップ麺を食べ少しの間会話を交わす
しかしその後、カズサは「小鳥遊ホシノをぶちのめしたい」という激情を抑える事ができず一方的に別れてしまった…
アリスはやむを得ず救護騎士団のテントへ戻り装備を整えた後、スズミから餞別の閃光弾を受け取ってカズサと再会するため、最後に別れたスイーツ店エリアへと舞い戻る
暫く歩いた後、彼女はカズサが見た事の無い少女と歩きながら話している姿を、普通の人間より高い視力で発見…
その直後
絶叫が聞こえ、マズルフラッシュを捕捉したアリスはそこへ走りだした
カズサが誰かを攻撃している…!
「!!」
だがその刹那、地面に自分を飛び越す影が通るのを見たアリスは立ち止まった
「──い、いまのは…?」
その影を作った持ち主は、カズサの元へ降り立つと攻撃されていた少女を抱えて即座に離れた
「あの人は、一体…?」
アリスは建物の影から様子を伺う
そこにいたのは
カズサと被害者の少女
そして長い桃色の髪をした小柄な少女…
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──いきなり突風が吹いたかと思うと
私が撃っていた宇沢が視界から消えた
何発か無駄に地面へ撃ち込まれる
私の邪魔をするのは、誰だ?
混乱する脳を無理やり修正して見回す
…いた
重傷の宇沢を抱き抱え、近くの建物内に寝かせたヤツ
長い桃色の髪と、ちっこい身体
でも私が撃ってるのに宇沢を救出するという芸当をした以上只者じゃないはず
それにあいつを撃った感触もあった
なのに怯まずあんなとこまで駆け抜けるなんて…どういうこと?
イラつく
カズサ「………誰だよ、アンタ」
敵意を込めながら尋ねる
ホシノ「…ねえ、なんでこの子をあんな沢山撃ったの?本気で殺すつもり?」
「……」
質問に答えろよ
「そいつ、私にアビドスの忌々しい飴を渡そうとした。だから撃った」
「そう…なんだ。じゃあ君は砂糖中毒になってない子ってことかな」
「…だったら何?というかなんで部外者が邪魔しに来てるんだよ。アンタなんか私は知らないし、クソウザいんだけど」
「…これ以上誰かが傷つくのを、見たくなかったんだよ。おじさん」
…今こいつなんて言った?
おじさん?
何その意味不な一人称
「……さっさと失せろよ、こんなとこにいないで救護騎士団のとこへ戻って治療でもしてれば?」
「生憎、おじさんは救護騎士団じゃないんだよね。銃声を聞いて駆けつけただけだよ」
「…じゃあなんなの?アンタ」
「………私は、
小鳥遊ホシノ
あの砂漠の砂糖を、キヴォトス中に蔓延させた、全ての元凶だよ」
……………
は?
は??
は???
小鳥遊…ホシノ?
元凶…?
いや、いくらなんでもそんなの変でしょ
アイツはアビドスに居るんだ
例え襲撃に加担してたとしても
こんな時までいるはずがない
しかも銃さえ装備してない丸腰だし
「…ふざけてんの?」
「ううん、本当」
「…そんな冗談面白くない」
「私が元凶だ」
「…いい加減にしろ」
「私が小鳥遊ホシノだ」
は
はは…
コイツが
コイツが全ての元凶…
ナツを
ヨシミを
アイリを
宇沢を
トリニティを
キヴォトスを
私の願った平穏を
ブチ壊しやがったヤツ
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助けた子は命に別状こそないみたいだけれども、流石に救護騎士団のとこへ連れてかなきゃいけない
そしてさっき救出する前に、同じような格好をした子も私と同じ方へ向かってたのをちらっと見た
…多分、さっきから建物の影で見ているあの子だと思う
私の正体を知ったフードを被った子は、これ以上ないってくらいの敵意や憎悪を向けてきている
…重傷の子を救護騎士団の子へ任せる前にバラしたのはまずかったかも
そう思った次の瞬間
カズサ「ッ゛の、ヤロォ゛ッ!!!」
バギッ!
ホシノ「ぅぐっ…!」
フードの子が急接近してきて
思いっきり頬を殴ってくる
「い゛っ、たた…」
鼻と口から血が垂れてると分かる
ああ、こんなに憎んでくれるんだ…
「テメェのッ…!テメェのせいでっ…!どんだけの人が苦しんだと!思ってんだよ!?なぁ゛っ!?悪びれもせずにノコノコ顔出しやがってッ!」
私の胸ぐらを掴み上げ、感情任せに責め立てるフードの子
…この子なら
私を断罪してくれるかな?
私を処刑してくれるかな?
でも倒れてる子だけは助けなきゃ
「そう、だね…全部私のせいだ。ヒナもハナコも悪くない。
砂糖を発見して、それを広めて、みんなを不幸にしちゃった
悪いと思ってるよ…ごめん」
「は…ぁ゛?そんな言葉で済むと思ってんの?やっぱテメェふざけてんだろ!?そんなゴミみてぇな言葉今更ほざいた所で、みんなの日常はもう戻って来ないんだよぉ゛ッ!!!」
ドゴォッ!
勢いをつけた拳で思いっきり殴り飛ばされる
「がはっ…!」
ああ
痛いなぁ…
でもこの痛みは
この子が受けた苦しみの1割にも満たないんだろう
でも殴り飛ばされたならちょうどいい
様子を伺ってる子に、倒れてる子の救護を任せよう
「…倒れてる子をお願いっ!」
私はそう大声で呼びかけて、フードの子から逃げるように走り出す
「…何逃げようとしてんだ!?逃げてんじゃねぇぞッ!!テメェ゛ッ!!!」
私にも追従する勢いで迫るフードの子
アリス「カズサーッ!」
…救護騎士団の子が言った名前が届く
そっか、この子はカズサちゃんって言うんだ
カズサちゃん
全ての元凶を殺してちょうだい
君にはその権利がある
私が犯した罪を
君の気が済むまで
沢山の苦痛で償わせた後に
惨たらしく殺してほしいな
そう思いながら、私は少しだけ逃げる
着いた場所はちょっとした広場
ここが、私の最期の地かな
目の前には、私を断罪してくれるカズサちゃんの姿がある
…先生、やっぱり私は
生きてちゃいけないんだよ
──────────────────────────
アリスは、動けませんでした
桃色の髪をした人と、カズサが対峙するその空気に押されてしまったのです
それに、カズサが攻撃した人を救護する必要もあったので、どうすれば良いのか判断出来ずにいました
ホシノ『………私は、小鳥遊ホシノ』
…えっ
小鳥遊ホシノ…?
そういえば先生から見せてもらった映像にあの人が映っていたような…
で、でも何故ここに?
カズサ『ッ゛の、ヤロォ゛ッ!!!』
バギッ!
!?
カズサが、ホシノを殴りました…!
ドゴォッ!
あぁっ!殴り飛ばされて…!
まずいです、このままではホシノが殺されてしまうかもしれません!
そうなったら、カズサも戻れなくなってしまいます!
急いで助けようとしたその時
『倒れている子をお願いっ!』
ホシノは大声でアリスに呼びかける
カズサは見た事もない勢いの怒りを向け怒鳴りながらホシノを追った
アリス「カズサーッ!」
今の彼女には、
アリスの声が届きませんでした
とにかく急いでセリナに連絡を入れつつ要救護者である人のバイタルチェックを始めます!
レイサ「ぅ…っ…」
呻き声をあげたということは、酷すぎる怪我ではなさそうです
でもこのままでは昏睡状態になる可能性が高いかもしれません…!
まず楽な体勢で寝かせ、傷に応急処置を施します!
ヒーラー系勇者の装備品である、消毒液とガーゼと包帯を取り出し手当てを開始したアリスは、セリナが駆けつけるまで出来る範囲の処置を施しました
数分後
セリナ「アリスさん!」
「セリナ先輩!この人です!」
「…トリニティの方ですね。ありがとうございます、早く本部へ搬送して…」
「すみません、搬送はお願いしてもらってもいいですか?」
「は、はい…大丈夫ですけれど…」
ドゴォォォンッ!
「!?」
「ああ…!急がなければ!詳しい説明は後ほどします!アリスはあちらに行った人を…ホシノを救護しに行きます!」
「えっ、ホシノって…?」
「では!その人の搬送クエストはお任せしましたーっ!」
そう先輩へ伝えるとアリスは駆け出す
するとその時、雨が降り始めました
雨が降りしきる中走り続けると
向こうに広場らしき場所が見えました
そこから響き渡る轟音
アリスは!
ホシノもカズサも、必ず救います!
「これは…ヒーラー系勇者に課された、メインクエストですっ!」
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