違えた「甘味」6
キャスパリーグとの再会==================
──キャスパリーグに戻った私は、雑魚共を淡々と始末していく。
何がアビドスだ
何が砂糖だ
全部ぶち壊してやる…
アビドスモブ自警団A「がふぅっ!?」
B「ちょっ…なによこのデタラメな強さは!?あんたいった…い゛ぎぃっ!」
キャスパリーグ「…ガタガタ抜かすな」
C「や、やば…早くほうこ…」
「遅い」
C「ぎゃうっ!?」
まるで自分の巣に餌を運ぶアリみたいな奴ら。
そんな虫共を潰していくように撃つ。
それなりには戦えるみたいだけど、私の足元にも及ばない。
本当は殺してやりたいけれど
こいつらだって被害者なんだと
自分に言い聞かせて必死に抑えた…
大体片付けられたようだ。
確かこいつら列車がどうとか言ってた気がする。
ここから一番近い駅は…向こうかな。
まだ襲いかかるスケバン共も、アビドスマークの腕章を着けた雑魚共もまとめて蹴散らしながら私は駅へ向か…
──えっ
うそ
うそだ
なんでこんなとこにいんの?
ナツ
ヨシミ
アイリ
私が一番
会いたかった/会いたくなかった
あの3人が、こっちに向かっている。
だが彼女達の姿は、4人でいた頃と全く別人なのかと疑うくらいに変わり果てていた。
健康さのカケラもない身体
砂糖を片手で齧る姿
水色基調の荒々しい悪趣味な服
水色に染まった彼女達の愛銃
腕に着けた水色の腕章
なんだそれ
思わず侮蔑の笑みが零れる。
そんなザマで戦うっていうの?
その上どこもかしくも水色水色水色…
吐き気がする。
やっと会えたという喜びは刹那のうちに消え失せた。
私は銃口を向ける。
向こうも私の姿が見えた時は一瞬嬉しそうにしたけど、すぐに表情が消えた。
恐らく私の目に込められた殺意や敵意が伝わったんだろう。
そうだ。私はもうカズサじゃない。
アビドスを葬るために再誕した
魔獣
“キャスパリーグ”なんだから。
──あれ?
ふと気づいた。
頬が濡れている。
なんで…?
雨が降るのは予報だともう少し後だったはずだし、フードを被ってるから雨が当たるはずない。
それなのに濡れてるなんて………
変なの。
私は袖で頬を拭く。
涙なんて、出るはずないのに──
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アイリ「ナツちゃん大変!向こうの部隊が壊滅状態だって!」
ナツ「なんだと…!?この辺にそこまでの猛者が隠れていたのか…?」
ヨシミ「さっさと行くわよ!行かないと下手すりゃ列車が壊されて作戦失敗するかもしれないでしょ!」
私たちは駆ける。
これまでの相手は、アイリの投げる砂糖配合の特性錠剤や私のミサイル、ナツの援護射撃に手も足も出なくて、最早敵ですら無い雑魚ばかりだった。
でもそんな私にSOSが届き、勧誘部隊を次々とぶっ倒すとんでもないヤツが現れたとの連絡を聞く。
しかもそいつは単身で全てを制圧する、まるで黒い嵐のような生徒らしい。
アビドスイーツ団は部隊長として、隊員達も列車も引き抜いたアビドス転入志願者も助けなきゃいけない。
激しい戦闘でボロボロになった街の方へ向かった私たちが遠目に見たのは…
──カズサだった。
私の記憶が正しければ
今は普段着ていたパーカーとは違う
もっと黒いパーカーを身に纏っていた。
思わずカズサを呼ぼうとしたけれど…
彼女の目は、殺意と敵意に満ちていた。
私たちの嬉しそうな顔はすぐに消える。
「か、カズサ…ちゃん…?」
「…会うかもしれないとは言ってたけれども、よもやあんなカズサと再会するだなんてね…」
「ほんと。せめて…せめてもう少し心の準備とかさせなさいよ…」
私はそう言いながら、懐から高純度砂糖を取り出しガリガリと齧る。
ナツもアイリも同じように齧る。
本来ならこれは禁断症状対策の砂糖だけれど…この動揺する心を落ち着かせるにはこうするしかなかった。
私たちは砂糖を齧りながら歩みを進める。カズサと決別するための最後の戦いを始めるために…
でも最後になるなら、せめて勧誘部隊のみんなにこれを言っておかないと。
「聞こえる?緊急事態が発生しちゃったから早く残った隊員を連れてアビドスに逃げて。」
運転手「おいまさか、さっきから大勢の隊員と連絡取れなくなったのって…」
「ちょっとシャレになんないヤツが出てきて…今から私たちが時間稼ぐ。みんなが戻れるだけ戻ったらすぐに帰って。」
「…分かった。でも無事に帰って来れると、私は信じてるからね!」
無線を一方的に切る。
あーあ、絶対この運転手さん砂糖絡まなかったら良い人じゃん。お世話になったアポピの店員さんとおんなじタイプ…
でもごめん、私たちは戻れない。
無線機を放り投げてカズサと対峙する。
あれが本物のキャスパリーグ…
なぁんだ
黒歴史とか言って卑下してたけど、普通にかっこいいじゃん。
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アビドスイーツ団とキャスパリーグは、お互い10メートルほど離れた位置で立ち止まった。
カズサが銃口を向けると、私たちは半年ちょっとぶりの会話を交わす。
彼女は敵意こそ持っているものの…
ナツ「やあやあカズサ君…いや違うね。今はキャスパリーグと呼ぼうか。」
アイリ「ひ、久しぶり…砂糖を摂らないでいるみたいで良かった…」
ヨシミ「アイリ、それって良いことでもなんでもないでしょ?だって砂糖の素晴らしさを知らない可哀想なヤツってことじゃん!あははっ!」
「そ、そうだね!カズサちゃんは可哀想だよ!一緒に砂糖で楽しくなれればいいのにっ!」
「全くだ、砂糖はどんなロマンにも勝る最高の存在…その価値を分からぬ俗物だったなんて悲しい限りだよ。」
カズサ「……………」
彼女は黙ったまま銃口を向け続ける。
…でも、今のは本心じゃない
私もヨシミもアイリも、カズサが浮かべた表情を見て少し正気になった。
彼女は敵意こそ持っているものの…
泣きそうな顔をしていたのだから。
この時やっと理解したのだ。
アビドスイーツ団などというものはヤケになった幼児未満の自己満足でしかない事に…
「もう戻れない」や「せめて君だけでも正常であれ」などという言葉を免罪符にカズサを追い詰めるだけの行動だった。
…でも理解したから何だ。
私たちはカズサを攻撃し、排斥し、侮辱し、彼女を徹底的に追い詰めた。その罪が消えることは決してない。
もし彼女と和解できる道があるとするなら、それはきっと砂糖中毒を治す事のみだろう。
だが今から砂糖中毒を治すなんて、到底無理な話…
全てが手遅れだったんだ。
だから私たちは
“自分たちは敵だ”とカズサに教えるために、彼女と戦う選択をとった。
勝ち目なんて無いだろう。彼女の強さを見れば分かる。
更に、こちらは動揺を抑えるため砂糖を全部齧ってしまった。これではまともな銃撃も作戦も出来まい。
実質、カズサの手で自分たちを断罪してもらおう。楽にしてもらおうという行動に他ならなかった。
ああ…
私は結局、最後まで君を追い詰める最低な人間だね。
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「魔獣よ見たまえ、この腕に輝く証を。これこそアビドス認可組織であるという証拠…つまりは我々アビドスイーツ団がアビドスへ正式に転入したことを表しているものなのだ。」
「これをつけてるとね!砂糖も塩も格安で買えるんだ!今私たちの拠点は飴玉がいっぱいあるからいつでも舐め放題なんだよカ…キャスパリーグさん!」
「あんたに一回アビドスの料理食べさせてやりたいわ。あとアビドス上層部の人たちがどれほど凄いのかも教えたいし、やっぱアビドスに来なよキャスパリーグさん!あっははは!」
「ハナコ様は少し怖いけど、悪いことさえしなければとても優しくてすごい作戦を考えられる人で…ヒナ様は今陽動部隊で動いてるから知ってるかもしれないけど、百人…いや千人がかりでも勝てないくらい強いんだよ!」
「そして何より、アビドスを纏める対策委員長の小鳥遊ホシノ様だ。勿論ヒナ様やハナコ様達も凄いが、あのお方は他の追従を許さない強さを誇っている。」
………
もういやだ
聞きたくない
「なあキャスパリーグよ、君もきっと今より幸せになれる。アビドスへ…」
「黙れ」
こんな事言いたくない
割り切りたくない
ナツもヨシミもアイリも
みんな私の仲間だったはずなのに…
──いや、もう嫌いだ
こんな奴ら仲間じゃない
クスリで汚れた奴が近寄るな
「二度と私を誘うなヤク中ども」
──自分の口を縫いたい
やっぱり言いたくないよ
早く仲直りして抱きしめたい
──でもこいつらは同じだ
さっき潰した害虫の仲間なんだ
そして害虫の親玉も誰か分かった
小鳥遊ホシノ…
私が殺すべき元凶の名前…
「はぁ…交渉決裂だね。」
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「諸君、いつもの口上をやろうか。」
ナツちゃんの言葉を聞いた私達は、銃口をキャスパリーグへ向ける…
「──人は糖分が不足すると、思考が停止する」
ヨシミちゃんが初手を述べた。
「──つまり、これから起こることは全部あなたが悪い」
私が次の句を述べる。
「──糖分欠乏症になった獣は恐ろしいからね、排除させて貰うよ」
最後はナツちゃん。
述べ終えた私達は、銃と錠剤とミサイルを用意して魔獣へ立ち向かった。
絶対に勝てない戦いへ…
それからの事は殆ど覚えていない。
だが戦闘中あの魔獣が…カズサちゃんが悲痛に叫んでいることは分かった。
内容は……
いや、内容なんか関係なかった。
カズサちゃんは泣いていた。
それだけで十分…
あぁ…
私達、ぜんぶ間違えちゃったんだ…
ナツちゃんみたいに言うなら、
選択を間違えた結果
甘味に溺れた愚か者
みたいな感じかな…
そう心の奥で感じた次の瞬間
最初にヨシミちゃんが倒れた
次にナツちゃんが倒れた
私も頭にカズサちゃんの銃弾を受けて…
意識は闇に消えた。
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彼女らの顛末は
(作者さんに多大なる謝罪と感謝を)