ギャレス・ウィーズリーを贔屓するレガ主 一

ギャレス・ウィーズリーを贔屓するレガ主 一


「ギャレスなら勿論ご存じだろうけど」

地面に座りこみながら魔法薬のレシピやコツをまとめた自作ノートを読み返している男に話しかける人物は、男性とも女性とも取れるスリザリンの生徒だった。黒い骸骨を模した仮面を外して隣へと座り、赤毛のグリフィンドール生の肩へ寄りかかりながらノートを覗き見た。

「相変わらず字汚いね、僕なら読めるけど。そんなことより……最も強力な愛の妙薬『アモルテンシア』の匂いは人によって異なるんだったよね?嗅いだ人の一番好きな香りになるんだとか」

「………ああ、いかにも。対象がより手をつけたくなるように調合製法を考案したのか偶然こうなったのかはわからないけど、そもそもこんな魔法薬を産み出した人物は相当愛に飢えていたんだろうな」

さりげなく筆跡を侮辱されたギャレス・ウィーズリーは一瞬煩わしさを覚えたものの、数秒の硬直を経て気持ちを落ち着かせてからそう返答した。

「真の愛を産み出すことは出来ないけどね……流石魔法薬学の神童、面白い考察だ。でも本人が愛を求めていたんじゃなくて周りの誰かが欲していたから造り上げたのかもしれないね。君にはどんな匂いが漂ってくると思う?」

「んー、パッと思い付きはしないけど……強いて言うならフィフィ・フィズビーかな、あのシュワシュワ感が最高なんだ。舐めたらちょっと浮くけど」

「フィフィ・フィズビー」とはハニーデュークスにて販売されている炭酸入りのキャンディー。二年前ギャレスがフィフィ・フィズビーからインスピレーションを受けた飲料の開発の為にビリーウィグの針を盗ませた事を思い出したスリザリン生は妙に納得したようにへぇ、と声に出した。

「どうして急にアモルテンシアなんかに興味を示したんだい?」

「この世で最も強力な愛の妙薬なんて肩書きがついてたら気になっちゃうでしょ?ギャレスはそこら辺どうなのさ」

「それは僕だって同じだよ、実際何度か醸造してみようとしたけどあんまりうまくいかなくって」

「君でも失敗することはあるんだね。上級に指定されてるから仕方ないとはいえ……ねえ、今夜一緒にやってみない?」

「ポリジュース薬は造れたというのに不思議だよ。……やるって、まさか」

スリザリン生はギャレスの肩に手を回しながら一言「アモルテンシアの醸造だよ」と告げた。

「僕が嗅いだらどんな匂いになるか興味深いし効果も一目見てみたいものだ。ふふ、当然君に飲ませるなんて事しないよ?」

誰もなにも言ってないというのに何故か自分に飲ませるという案を勝手に却下された事に逆に恐怖を抱いたギャレスは、スリザリン生が座っている方向とは逆の方へと体の重心を傾ける。

「材料は僕が集めておくから。十時半がいいかな、必要の部屋で待ってるね」

そう言い残して彼は立ち上がり、一方的に約束をこぎつけられ唖然としているギャレスへ手を振りながら小走りで去っていった。



夜のホグワーツ城七階、天文台の塔に続く回廊へと足を運んだギャレスはその周辺を数回往き来し『必要の部屋』への扉の出現を待った。何もない所から生成された扉を潜ると一目見渡すだけでも広大な空間であることがわかる部屋へと導かれた。

ハナハッカや満月草など魔法薬の素材となる植物からマンドレイク、終いには噛み噛み白菜に毒触手草のように危険性の高い魔法植物が栽培されている光景を目の当たりにしたギャレスは、何度も通いつめているというのに思わず息を飲み込んだ。

『ギャレスー?』

スリザリン生の声が何処からか響いた。ギャレスは声が聞こえた方向へと歩みを寄せていった。

調合台が陳列された一室の隅、ソファに寝転がるスリザリン生がいた。入室した青年を見るなり上体を起こしあげ、安堵からくしゃっと笑いながら床に置かれた箱を持ち上げる。

「良かった!ちゃんと来てくれた」

「待ちぼうけ食らわせるのも申し訳ないし。 ん、その箱は?」

「材料に決まってるでしょ。この瓶が真珠の粉末、これが冷凍したアッシュワインダーの卵で、月長石の粉は……」

一つ一つ名指しで確認し終えたスリザリン生はギャレスへ目線を寄せてまた微笑むと箱を持参して歩み寄り、「ちゃんとノートにレシピ写した?」と尋ねた。それに答えるようにギャレスは何枚もの付箋が張られたノートを取り出し、橙色の付箋に続くページを開いてはスリザリン生へその見開きを見せる。

「よしよし、準備万端!早速始めようか?」

二人は調合台の前に立ち、スリザリン生はギャレスに読み上げられるアモルテンシアのレシピに沿って材料を鍋へと投入していく。

「アッシュワインダーの卵は入れた?じゃあ次は薔薇の花びら、半分すりつぶして……残りは切り刻んで、それから一つまみの月長石の粉を入れて三十分くらい醸造しておく」

「最初の行程は結構楽じゃん」

「そう簡単な問題じゃないんだ。最後に杖を振らないといけないんだけど感覚がいまいち掴めなくってさ」

「そこで僕の出番って訳だね?んじゃあ一次醸造終わったら呼んでよ、ちょっとユニコーン達に餌やってこないといけなくて」

スリザリン生はさながら「任せなさい」とでも言うように拳を握りながら不敵な笑みを見せた後に部屋を出た。ギャレスは後ろ姿を見つめながら(ユニコーン『達』?)と希少な魔法生物を一頭以上保護しているという事実を疑った。鍋の中を見下ろし、ひとりでに混ざりあう別系統の赤と微かに沸き始めた気泡を確認してからソファに座り込み、自前のノートをまた読み返した。

といっても何十回も読み返して時にはメモを付け足しを繰り返したせいで一部と言わず簡単な魔法薬のレシピをほぼ全て暗記してしまったギャレスは、アモルテンシアの煮える音だけが響く部屋を抜け出しスリザリン生がいるであろう部屋(とは名ばかりで、実際は外を模倣する異空間)へと向かった。



『ああっ、ヘイゼル!真っ白だからって心は真っ黒だよね!!その餌はビスケットの!弱いものいじめ反対!』

声だけでも何やら保護している魔法生物の一頭に手を焼いている様子が想像できるスリザリン生を実際に遠目に見たギャレスはすぐに彼の元へ駆け寄った。雪でさえ濁って見える程純白なユニコーンと他より一回りほど小さいムーンカーフの間に一悶着あるようだ。

「だーかーらー!!!マフラーに噛みつかないっ……なんで君だけこんなに気性が荒いの……」

「手伝おうか?」

「わっ、ギャレス!僕は大丈夫、ただちょっとこのユニコーンが他の子達の餌を勝手に食べようとしてて……温厚なはずのユニコーンがどうしてこんな感じなんだろう。あれ、もう三十分経っちゃった?」

「いや、まだ後十分くらいある。ただちょっと暇になってさ」

「あぁ、ごめんね。お詫びに後で僕と──」

「結構」

何と言おうとしたかは謎に包まれたままだが、経験談からろくな目には遭わないだろうと予期したギャレスは食い気味に断った。マフラーを真っ白なユニコーンに引っ張られながら不満そうな表情を映すスリザリン生は無礼にも面白く見えてしまい、ギャレスは咳払いする振りをして軽く笑った。

「もう!笑い事じゃないってばー!!離して!ヘイゼル!」

ギャレスはマフラーを引っ張りながら必死にそう叫ぶスリザリン生をどうにか助けるべくユニコーンを宥めようとした。



「あーあ、ついにぼろぼろになっちゃった」

ソファに腰を下ろし、所々ほつれて穴の空いてしまったマフラーを見つめながらため息を溢すスリザリン生を壁に凭れかかりながら見つめるギャレスは「また買えるだろう、入学当初から使ってたんだし潮時だったってことで」と励まそうとした。

「……うーん、まあ、そうなんだけど。えっと、そういう訳にもいかなくって」

笑顔を保とうとしている「陽の人」の具現化がまるで親しい人が目の前で息絶えたかのように気分を落としている様子につられギャレスも眉間に皺が寄った。

「そんなに思い入れがあるのか」

「うん。なんせフィグ先生がくれたからね」

ギャレスはスリザリン生の隣へ座り、「ごめん」と一言呟く。マフラーを握りながら彼は顔を上げ、ギャレスへと向くと目を細めて笑みを繕った。

「もう二年前の事だから大丈夫、ちょっと寂しくなっただけだしこんな感じじゃフィグ先生に怒られちゃうよね」

どうにか軽い口調を保とうとしていたものの、肩に寄りかかりまぶたを伏せたスリザリン生を憐れんだギャレスは自身の腕を彼の肩へと回した。環境音のみが心地よく空間に染み渡る静寂の中、鍋から巨大な気泡が破裂する音が聞こえた二人は即座に立ち上がる。時計の分針は醸造を始めた時刻とほぼ同じ位置、時針はXII──十二時を指していた。

「あっえ、こ、これって三十分丁度じゃなきゃダメだった感じ!?」

「そういう訳じゃないとは思うけど……まさか僕の今までの挑戦が全部失敗に終わったのって」

「ギャレスのバカ!!!」

「僕のせい!?関係ないかもしれないじゃないか!」

急ぎ足で何とか火を止めた二人は鍋の中で沸々と煮えたぎる赤い液体に不安を覚えながらもレシピを一応完遂させようとした。

「……そして真珠の粉末を入れて、反時計回りに五回混ぜる。最後に杖を振る」

「ふー……僕の番だね。ギャレス、ノート貸して」

ノートを手渡されたスリザリン生は矢印や大まかな位置関係がスケッチされたページを注視し、杖先でなぞるように鍋の前で振った。

「うーん、手応えはあるんだけど一次醸造が危ういからな……」

「大丈夫だって! そういえば前失敗した時はどんなことが?」

「本来は真珠色の液体になって蒸気が螺旋状に上がるはずなんだけど、前回はレモンみたいな黄色で蒸気は何故か下に向かって出た……恐る恐るリアンダーに飲ませたら一日中しゃっくりが止まらなかった。後左手が麻痺してたらしい」

「なーんだそれ、まあ代わりに僕が見るよ……え?」

授業中にもしゃっくりを絶え間なくし続けるリアンダーを想像してクスッと笑ってしまったものの、その後の左腕が麻痺したという言及になんとも言えない気持ちを抱きながら鍋を覗き込んだ。ギャレスは一歩下がって報告を待った。

「……」

「どうだ?」

スリザリン生はなにも言わずに液体を掬い上げ小瓶に移した。ギャレスへその小瓶を手渡した彼は直ぐ様鍋の前へ戻る。小瓶をつまみ視点の高さまで持ち上げたギャレスに見えたものは、ギラギラと照る無調色の真珠をそのまま溶かしたような銀色の液体だった。

「成功した……?なあ、───「ギャレス」

ギャレスがスリザリン生の名を呼び掛けようとした刹那、彼がそれを拒むように、それを押し退けるように口を開いた。

「………あっ、えっと、ギャレスと、シナモンの匂いがする」

「「………」」

先ほどギャレスに渡した小瓶よりいくらか大きめの瓶に残りを注いだスリザリン生は背筋を伸ばしながらあくびを溢した。

「折角成功しちゃったし、試してみたいよね」

「僕には飲ませないって言っただろ」

「わかってるって、だから僕が飲むの」

「……は?いやちょっと待って、愛の妙薬の効果わかってる?その量でも効果は絶大で……あぁぁ…」

制止には耳を貸さずなんの躊躇も無しに瓶の蓋を開け中身を一気に飲み干した。空瓶を強く握りしめながら戸惑いと呆れを隠せずにいるギャレスを一目見て目を細めたスリザリン生は彼へと歩み寄り始める。壁際に追い詰めたギャレスのそばかすがちりばめられた頬に手を添えながら彼はただ笑った。

「なあ、大丈夫か……?ちょっと、おい」

「ギャレス」

様子のおかしいスリザリン生に名を呼ばれて肩を竦めたが、彼のなんの変哲もない笑顔にギャレスは体から一気に力が抜けた。

「これ、僕には効果ないっぽい」

「え」

「この薬が引き起こす執着心だとか強迫観念とかより僕が元々ギャレスに向けてる気持ちが勝っちゃったっぽいんだよね。抵抗せずとも」

「はぁ……うん、とりあえず大丈夫そうでよかったよ」

「えへへへへ……ギャレス……」

「本当にやめてそういうのは。怖いんだよ」



午後一時過ぎのある日、中庭のベンチにてギャレスを抱きしめながらだらしなく座るスリザリン生を目撃したのは鳶色の髪をもつグリフィンドール生だった。

「こんにちは、先輩」

「あっ、アルバスー!」

目の前に広がる光景に無自覚の内に顔をしかめてしまったアルバス・ダンブルドアへ手を振ったスリザリン生はそのまま「抜き打ちテストはどうだった?事前の勉強会は助かったかな」と何食わぬ顔で尋ねた。

「なんで抜き打ちがあるって知ってたかは聞きませんが、おかげさまでなんとか。あの、今度…というより今日良ければとある呪文を教えてほしいのですが」

「いいよー、じゃあ夕食の後必要の部屋で!」

「ありがとうございます。……えっと、大変そうですね」

魔法生物飼育学の宿題を提出期限二時間前に急遽終わらせにかかっているギャレスに目配せしたアルバスはそう声掛けた。

「やあアルバス君、いやー……どうしても生物達に関心がいかなくて。魔法生物からしか採取できない物質があるとはいえ、結局魔法薬の延長線みたいな」

「一つの事に熱中できるのは称賛に値するけどアルバスはこうならないでね」

「…………はい。それではまた後で」

アルバスが背を向けて歩いていくのを見届けたスリザリン生は未だに三問目から進んでいないギャレスの宿題を見下ろした。

「いやー、やっぱり後輩に頼られるといい気分になるね!」

「君はそろそろ応えてあげた方がいいと思うんだ」

「ん、何について?……あぁ、スニジェットはすっごい小さい黄色の鳥だよ。かつてゴールデンスニッチが発明されるまでクィディッチで使用されていた魔法生物で、今はすごく希少だから保護区域が各地にあったりするんだ」

『3. スニジェットの外見及び実態、現状を述べよ。』に随分と行き詰まっているのだろうと解釈したスリザリン生は自分が模範的だと思った回答を告げた。思考を巡らせながら手の中でゆらゆら揺れていた羽根ペンはその発言を最後にぴたりと静止し、それと同時期にペンの持ち主は嘆息を漏らした。

「……こっちじゃなくて……いやありがとう、ありがたいんだけど、僕が言ってるのはアルバス君についてなんだ」

「アルバス?」

「……なんでもない」

ギャレスは言葉を選びながらグリフィンドールの一年生についての助言を脳内で構成していたが、最初の一言を発する前に諦めをつけスリザリン生が口走った答えを内容をほぼ全て据え置きに学術的な文体になおして羊皮紙に綴った。



「はぁ」

「またあいつか?」

「……はい」

「分け隔てなく皆を平等に愛しているって言ってたけどな」

闇の魔術に対する防衛術の教室に続く階段近くにて本を抱えながら大きくため息をついたアルバスの様子を伺う青年の後ろから、杖の先端から赤い光を発しながら歩く青年も少し遅れて合流した。

「君もつくづく苦労人だね」

「オミニス!」

「セバスチャン。またアルバスの相談に?」

「まあ」

セバスチャン・サロウは「本持つよ」とアルバスの教科書と参考書を預かった。

「……やっぱりあの二人ってそういう感じなんでしょうか」

「ギャレスの方は何も言ってないだけで実はうざがってるんじゃないか?ああ、あいつも別に誰とも付き合ってはいないって俺に言ってたからな」

当のギャレス本人はうざがっているというよりかは無関心で勝手にさせているという事を、あまり関わりを持っていないといえどなんとなく察しているオミニス・ゴーントはそれでもその場しのぎの励ましを送った。

「僕は恋愛とかそういうのわからないからいまいちアドバイスは出来ないけど、やっぱり一緒にいる時間を増やせばいいんじゃないか?ほら、単純接触効果ってあるだろ」

「実は先輩と今晩必要の部屋で待ち合わせをしてて」

セバスチャンとオミニスは二人偶然息を揃えて「おぉ~」と感心した。

「やっぱり遠回しでも伝えてみるべきでしょうか。あの人の性格上、なにもしなければ眼中には絶対入らないでしょうし」

「ゆっくり頑張るといいよ、焦ってもあの自由人を相手に即効性を期待はできないから。何かあったらいつでも僕らに話していいからさ」

セバスチャンはそう言いながらアルバスの肩に手を置き、軽くぱしぱしと叩いて鼓舞した。元気付けられたのかアルバスの口角は少しばかり上がっていた。

「えっと……頑張ります。本、持っててくれてありがとうございました。それではまた」

「あっ、ちょっと待って」

本を受け取ろうと腕を伸ばしたアルバスを止めたセバスチャンは何を思い付いたのか自身のフィールドワーク本から羊皮紙を取りだし、端を千切って出来た紙切れに何かを書き込むとそれを教科書の適当なページに挟みアルバスへ返した。

「今のは?」

「んー、僕目線では面白い情報だよ。自由時間に読んでみて」

得意気に笑うセバスチャンから本を回収したアルバスは二人に会釈し、闇の魔術に対する防衛術の教室へ去っていった。

「もう直接僕らから話せばいいんじゃないかって思い始めてる」

「焦るなって、出来ることはないよ。あいつは決断を曲げる奴じゃない。だからスリザリンなんだ、昔の君みたいに」

「あの時の僕はどうかしてたって自覚しているよ。だからアルバス君があんな風に毎日葛藤してるの見るのが辛いんだ」

オミニスはセバスチャンを見ながら(盲目故にセバスチャンのいる大雑把な方向へ向いて)重くため息をついてこう告げる。

「あいつは君と違って別に間違っていることは一……切……してない。ただ変人ってだけ」

「……本当に本当に、『一切』してないかな?実際に目の当たりにするとそこら辺の闇の魔法使いよりも恐ろしいあれは『間違っていない』といえるのかどうか……」

「返答に困るよセバスチャン。確かに目が見えない俺でさえ音と杖の知覚だけで背筋が凍ってしまう程だけど」

「あれは効率化を極めすぎてむしろ清々しいよ。使えるものはなんでも使うみたいな考えを突き詰めるとああなってしまうんだと身をもって学んだね」

明確に述べずとも二人はお互い全くもって同じ光景を思い浮かべているのだろうと察していた。それは『バレるまで目眩まし術とペトリフィカス・トタルスでの不意打ち、そして気づかれたら即座に変身術で対象を火薬樽に変え、ウィンガーディアム・レヴィオーサでもデパルソでもロコモーターでもない謎の魔法で投げつけ爆破させた後、許されざる呪文を躊躇いなく放つ例のスリザリン生の後ろ姿』と嫌になるくらい具体的なものだった。

「……でも五年の頃の君だってスリザリンの書斎で──」

「あっあの時の僕はどうにかしてたって!」


「なんの話?」

背後からの気配に一切気づかなかった二人は肩をはね上げながら咄嗟に振り返る。黒い骸骨の仮面を上下反対に付けたスリザリン生は二人の驚いた表情を見て不思議に思いながらも会話に混じった。

「あぁ、なんだ……噂をすればって所かな」

「なにそれー、僕の話してたってこと?本人がいないところで人の話するのはスタンディングオベーションでもない限りダメなんだよ」

「スタンディ……?まあいいか。オミニスと君の戦い方についてちょっとね」

「教えてほしいならいつでも時間開けるのに」

「真似したくても到底出来ないから」



『……セバスチャン、さっきはああ言っていたけどやっぱりアルバスの事を援護するべきだとは思わないか?』

スリザリン生のペースに飲まれそうになっているセバスチャンにオミニスはできるだけ唇を動かさず(願わくは)彼にだけ聞こえる声量で囁いた。それに気づいたのか単純に気分が変わったのかはわからないが、スリザリン生は自分の戦闘スタイルの正当化を図っている。

『つまりこの誰も聞いてないのに自分の所業を全てランロク(死去)とルックウッド(死去)に責任転嫁している輩に恋愛を説きやがれ、と。ああ、コンフリンゴで制御魔法のバリアーを割るより簡単じゃないか』

『コンフリンゴでは割れな──』

「わかっ……!!、てる』

皮肉がいまいち伝わらなかったことに揺らぎ文頭の声色を多少荒げてしまったセバスチャンはそう言い終わると同時にスリザリン生とオミニスへ交互に何度か目配せした。

「ふー……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「変に畏まらなくていいのに」

「わかってる。前にアルバス君と少し会話を交えたんだけど、君についての話題になんだか苦い反応をしていたんだ。一体彼になにをしているんだ?」

意外なタイミングで後輩の名を出され好奇が湧き始めたスリザリン生は仮面をずらすと『続けて』と催促するように二回程頷いた。意図に気付いたセバスチャンは極力本筋に触れないようにアルバスについて再度言及した。

「……そういえば入学してすぐ声をかけていたね。彼になにをして、一体どうするつもりなんだい?」

「やだなぁ、アルバスには底知れない才能が秘められてるから僕がワンツーマンで先導してあげてるだけだよ」

「それを言うならマンツーマンだし、教師陣に任せればいいだろ」

「そういわれてもなー。気になっちゃったんだから仕方ないでしょ」

五年生の途中で編入してから今まで数々の伝説(都市伝説含む)を作り上げたスリザリン生だったが、人間らしさと謂おうか、お節介を焼くのが好きな性分で時折人を振り回すこともあった。

「純粋な才能は一目見るだけでわかっちゃうものなんだよ、それを伸ばせる時に伸ばさないなんて宝の持ち腐れになっちゃう」

「わかってる──「理解できるが、一年生相手にあまりにも過酷なことをさせているとしたらそれについては話し合わないといけない。アルバスは君を先輩と呼び敬っている、その好意に甘えるのも大概にするべきだ」

故意ではないにしろセバスチャンの返答を遮る形でオミニスはそう言い通した。鋭く細めた白濁の目と腕組みが合わさり、おおよそ威圧的なものだった。

「心配性だなぁ。でも君にセバスチャン以外にも親しみを込めて関われる人ができて嬉しいや」

「話をそらさない」

「へへ。でもね、大丈夫だよ。僕はアルバスの事を愛しているもの。この程度でへこたれる奴だったらとっくのとうに見放してるからね」

普段の活気溢れてなお掴み所のない物言いとは一変し、誰の思いにもよらなかった静やかな声色から発せられた『愛している』に確かな摯実さを感じたセバスチャンとオミニスはお互い目を見合わせた。

「アルバス君本人に言ってやりなよ」

「言ったよ?」

「あっ、言ったんだ……」

オミニスも一言一句同じ事を言いかけた。

「うん、でも反応がすっごく冷たかったんだよ?そっぽ向いて『そうですか』ってさ!せめてありがとうくらいは言ってほしか──あっ!!ギャレスー!!」

偶然通りかかった赤毛のグリフィンドール生を一目見かけたスリザリン生は、突如額につけていた黒い骸骨の仮面を剥ぎとり床に放り投げると彼の元へ軽快に走り寄った。カタカタと音を立てて床に落ちた仮面は、一拍置いてすぐさま呼び寄せ呪文で持ち主の手元に戻っていく。

そして数秒後には悲鳴とも呼べる叫び声がホグワーツ城の一角に響き渡った。

「うーん、つくづくゲリラ豪雨みたいなやつだ。アルバスはあいつのどこに惹かれたんだろうな」



休日の真夜中、まだ一年生の幼い少年を連れて森の中へ訪れたスリザリンの生徒は野営地の中心で焚き火を囲む複数の人物を目撃した。屈みながら自身の口元に人差し指を立て音を立てぬようにとジェスチャーを送ってから目眩まし術をかけ、木箱の裏へと忍び寄っていった。

杖先から赤い光を離れた地面に撃つとそれに気づいた男数人が引き寄せられていく。その隙に警戒心の薄い輩へ音を殺したまま駆け足で距離を縮めていった。

『ペトリフィカス・トタルス』

標的の背後に回ると杖を振り下ろしてそう唱えた瞬間、標的の身体はバキバキと石のように硬直しそのまま地面へ仰向けになる。石化魔法の詠唱者はその場に留まるような悠長なことはせずに直ぐ様赤い光に関心を惹かれた男達に駆け寄り、同じ呪文を一人にかけると先程の者と同じ末路を迎えた。一点違う事といえば彼の周囲にいた男達にも魔法が連鎖したように倒れてしまったことだ。

「アルバス、今の見たかい?いや見えたのはきっとこいつらがバタバタ倒れていくところだけだろうけど」

一人野営地の中心に残されたスリザリン生は半ば強引に連れていった少年のいる方角へ向かって得意気に声をかけた。テントの後ろに隠れていたグリフィンドール生は、血は一滴も流れてないとはいえ死にたてほやほやの身体が散乱している光景に一瞬目眩を覚えた。

「……先輩、ペトリフィカス・トタルスはただ全身を金縛りにあわせる呪文なんじゃないんですか?」

「さぁね」

「僕に教えたものとは随分と乖離しているようですけど」

「仕方ないじゃん、死んじゃうんだから……アルバスの魔法力ならもう少し練習すれば同じようにできると思うな」

「僕は自衛や出来る限り傷つけずに拘束する為の呪文を知りたいのであって、即死呪文ではないんです」

「最初からそう言ってくれればよかったのに!でもそんな便利なものない…… あ、ある。ふふふ、とっておきの呪文があるんだ」

大抵の場合屈託のない笑みで『とっておき』と言われれば嫌でも期待に胸が弾むものだが、目の前のスリザリン生が数分前に開催した透明人間の殺戮ショーを最前席で見てしまったアルバスの心臓はまた別の、あまり望ましくない理由で素早く脈を打ち始めた。

「それで、貴方がいうとっておきとは一体どんな闇の魔術なんですか?」

「どうして闇の魔術前提なの!?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみてはいかがでしょうか」

「アルバスってば僕が野蛮な奴だって思ってるでしょ、もう。まあいいや、本題に入るよ」

アルバスが思わず口走りかけた『実際野蛮人なのでは?』の一言を喉奥に押し込み、内容はともあれスリザリン生の教えを拝聴する心の準備をした。

『────、』

こんな前置きからは想像できない程に単純な呪文を口ずさんだ瞬間男達の亡骸が宙に浮き始め、ガチガチに筋肉が硬直した身体に似合わずふよふよと水の上に浮かんでいるかのような挙動をとった。あまりにも唐突で想定外だった『それ』の詠唱はは聡くも幼いアルバスの脳で処理されることはなかった。

「……えっと、これは?」

「?レヴィオーソだよ」

杖の一振りで基礎中の基礎である浮遊呪文『レヴィオーソ』をどういうことか複数の対象にかけ、それを難なく浮かび上がらせたスリザリン生は困惑と驚嘆から目を見開いて周囲を見渡すアルバスに何食わぬ顔でそう答えた。

「物体を浮かせるだけだと授業で教わりましたが」

「僕のクラスメート達もそう思ってたんだけど、ヘキャット先生の見せしm……実技でリアンダーを宙に浮かせてから意識が変わったみたい。いやー僕もかなりお世話になったよ」

「……レヴィオーソが使い方次第で極めて強力なことはわかりました」

勢いが弱まりつつある焚き火に照らされた数多の体を見上げながら、アルバスは心に秘めていた疑問を投げかけた。

「どうやってたった一回の浮遊呪文で複数の物体……しかも人間を浮かばせているんですか?」

「単純だよ」

「単純、といいますと?」

「『才能』」

「……貴方が優秀な魔法使いなのはわかっていますけど、それは流石にどうかと」

「あはは~。そうだ、アルバスも練習してみる?この木箱で試してみようよ」

浮遊呪文を解除した途端、低く見積もっても地面から二メートル上で浮き沈みを繰り返していた亡骸がドサドサと叩きつけられる現場に居合わせたアルバスは思わず一歩後ずさった。それに目もくれずスリザリン生は呼び寄せ呪文『アクシオ』を唱え、積み上げられた木箱の山から二箱同時に近くへと呼び寄せる。

「じゃあこの浮遊呪文で……そうだね、あそこのテントより高く浮かばせられたら帰ろうか。見たところ二メートル半くらいかな」

「無茶言うのやめてください、中身空っぽとはいえこんなでかいの出来るわけないじゃないですか」

「僕に出来るならアルバスに出来ない道理はないよ」

冗談目かした微笑みを向けながらそう告げるスリザリン生を前にアルバスはいまいち形容しがたい気持ちを患った。最も尊敬する人の一人が自分を高く評価してくれている事は嬉しいことこの上ないものの、まるで自分の方が優秀だという前提を刷り込もうとしている様に思えて気が気ではなかったのだ。

もどかしさを覚えながらも浮遊呪文で何度も木箱を浮かばせていったアルバスは試み毎に高さが徐々に上昇している事に気づき、無意識の内に(習慣で)一歩下がって見ていたスリザリン生の方を一瞥した。

「特に何も意識してないのに……」

「ね?アルバスなら試行回数を重ねていくだけで要領が掴めると思ったんだ。集中だよ、集中。後もうちょっと」

スリザリン生は火が消えかかった焚き火の代わりとして杖光りの呪文を唱え、周囲を照らしながら督励する。アルバスは鼓舞に首肯で応答し、また木箱に目線を落とすとに杖を向け『レヴィオーソ』を掛けた。

「うわ───!?」

想定よりも素早く、著しく高くまで砂埃を軽く舞いあげながら打ち上げられた木箱の行方を探るべく辺りを見渡した。頭上何メートル程の高さに(最低でも二桁はいっているであろう)木箱をやっと見据えたかと思えば浮遊呪文が空中で途切れたのか急落下しはじめた。

『コンフリンゴ』

鋭く唱えられた爆発呪文に続いて杖先から撃ち出された火の玉は瞬く間に木箱へ直撃し、鈍い爆発音と共に燃え盛り粉々になった木片と火花が降り注いだ。

「アルバス、集中」

間髪いれず諭すような物言いでそう述べたスリザリン生は空に向けた杖を下げ、再度杖光り魔法を唱えた。焦げ付いた木箱の破片を拾い上げて照らし、状態を確認した後フィールドガイド本の隙間に(実際は検知不可能拡大呪文でも掛けられたのか必要に応じて広がる空間に)しまいこみ、自身の杖を疑惑の目で見つめながら慄然としているアルバスへ振り向いた。

「でももう帰ろうか。疲れてるでしょ?」

口元を綻ばせながら左手を差し出したスリザリン生が口を噤んだままの少年にそう問い掛けると、彼は何も言わずその手を取り二人は帰路に着き始めた。「血の気が引いた」という言い回しが最も似合うくらいにアルバスの幼い手は冷えていた。

「眠いとコントロールが難しいのかな」

「……いえ、眠いとか、疲れとかは全く感じてませんでした」

「それじゃあさっきはなんだったんだろう?怖いなぁアルバスは、僕もあの木箱みたいに打ち上げられちゃうかもね」

くすくすと面白半分に話し続けるスリザリン生とは対照的に、その一文を真摯に受け取ってしまったアルバスは握る手に力を込めた。右隣を歩く上級生をじっと見上げながら微かに震えた声で一つのもしも話を投げかける。

「もし本当にそうなったらどうしますか」アルバスはそう言い終えるとピタっと立ち止まった。秘められていた不安を吐露したかのように低く濁った声に僅かな驚きを覚えつつ、星を散りばめた青い夜のように輝く瞳に見つめられたスリザリン生は同じく足を止めた。

常日頃顔中に広がる大きな笑みとは全くの反対に、むしろ今涙がこぼれても不自然に見えない程悲壮が織り交ぜられたような作り物らしい笑顔を貼り付けて率直に答える。

「偉大な魔法使いの魔法に掛けられるのなら本望だよ」

「先輩、そういう──」

スリザリン生はアルバスの手を繋いだまま目線を合わせるように少しかがんだ後、二の矢を継ぐことも許さずに続ける。

「それにね、アルバス、変に意識しちゃう方が嫌な想像を現実にしちゃうかもしれないし、疲れちゃうでしょ?人に掛ける迷惑なんて考えずに生きればいいの、まだまだ子どもなんだから」

アルバスは目を見開き、同時に右手に込める力が強くなった。

「……貴方がいうと説得力が違いますね」

「ちょっと、それってどういう意味!?」

憎まれ口を叩くといつものように目を見開きながら大袈裟なリアクションをとったスリザリン生を前に、アルバスは自身の心の中で渦巻いていた当惑が霧が空気に溶けてなくなる様に消え去っていた事にも気付かずに顔が少しばかり綻んでいた。

イグナチア・ワイルドスミスの肖像画が飾られた青緑の炎が灯った暖炉が視界に映ると、アルバスは肖像画に描かれた女性を睨んだ後スリザリン生の手を強く握り、軽く自身の方へと引っ張った。

「……先輩」

「ん?」

「今日はまだ一緒にいたいです」

「あはは、もう寝る時間だよ」

「僕を強引に連れてったのは先輩の方じゃないですか、少し位僕のわがままも聞いてください」

アルバスは両手でスリザリン生の左手を包もうにも、七年生と一年生の力比べの勝敗は火を見るよりも明らかだった。スリザリン生はいともたやすく手を引っこ抜くと、本からフルーパウダーの入った小さな袋を取り出した。やれやれと首を横に振りながら

「じゃあ煙突飛行で途中まで飛んでから一緒に歩こうか」

折衷案に目を輝かせたアルバスの頭をスリザリン生はくしゃっと髪を掻き乱すように乱雑に撫でた。驚嘆から口をついて出た素っ頓狂な声を軽く鼻で笑い、彼の手をとってフルーパウダーをいくらか手のひらに乗せた。そのまま本を捲り、地図を凝視するかの様に一枚のページと睨みあった。

「……えーっと、この『北ホグワーツ地域東部』が良さそう?」

「どこですかそこ。すごく大雑把なようですけど」

「仕方ないじゃんこう『記載』されてたんだから!」

わざとらしくパタンと音を立てて本を閉ざし、ポケットでもついてるかのようにローブにしまうような動作で『消した』後、「行った行った」とアルバスの両肩を掴み半ば押し込むように煙突飛行の前に立たせた。

「……えっと、どこにいくんでしたっけ?」

「『北ホグワーツ地域東部』!」


────

──


「うおおー……視界がぐらぐらする……アルバスー、大丈夫?」

移動する際に訪れるさながら渦巻きに巻き込まれるような感覚は、何十回も何百回も辺りを煙突飛行で飛び回ってきたスリザリン生でもたまに堪えるものがあった。目的地に到着してしばらくはぐらぐらとふらつく視界と平衡感覚を和ますべく片手を暖炉に着けたまま額を抑える。少し離れた位置に立っていたアルバスは後から遅れて到着したスリザリン生に近寄った。

「あ、先輩。僕は大丈夫ですよ。先輩は大丈夫──ではなさそうですね」

「変だよね、慣れてるハズなんだけど……うっ」

「貴方の方が疲れてるのかもしれませんね」

アルバスはスリザリン生を気に掛けながら、ふと抱いた疑問を問うた。

「そういえばさっきの暖炉、フルーパウダー入れる前から炎が緑色だったのですが」

「んー……?あぁ、なんでだろうね、ついさっきまで誰かが使ってたのかもね」

「人の気配なんてありませんでしたけどね」

「大丈夫でしょー、どうってことないよ!」

『北ホグワーツ地域東部』まで煙突飛行した際に利用した暖炉にも既に緑の炎が点っている事に気付いたアルバスは理由もなしに謎の悪寒を覚えた。

「そういえば先輩ってちゃんとした趣味とかありるんですか?」

足音のみが寂しく消え入る夜道の静けさを紛らわすべく、「ちゃんとした」という一言を強調しながらアルバスは質問を投げ掛けた。

「あるに決まってるじゃないか!魔法生物達の保護に飼育、植物の栽培──」

「えぇ、知ってます。本当に物は言いようですね。他には?」

「魔法生物の保護」は言い方を変えただけでほとんど彼が常日頃『正義の鉄槌』を食らわせている密猟者の所業と差ほど変わらないものだが、少なくとも自分は信頼できる取引先(ブルード・アンド・ペックの店主)に委ねているとその都度自己弁護している。

「むむ……人助け」

「左様ですか?」

「なにその言い方!本当だから!皆の笑顔大好きだし、頼られると嬉しいんだ」

「ごめんなさい。でも先輩は本当に素晴らしい人ですよ、自分にほとんど利がない頼みでさえ二つ返事で聞き入れてしまうんですから」

アルバスはむすっと十七歳らしからぬ表情でへそを曲げたスリザリン生に呆れながらもどうにかあやそうと彼の今までの行いを褒めちぎった。

「人の役に立てるって良いことじゃないか」

「はい、すごく良いことですよ。少し心配でもありますけどね」

「なんでさ」

「なんでもするからです。『してしまう』、ですかね」

アルバスはいつの間にか離されていた手を握りなおすと、いまいち納得のいっていない様子でだんまりを決め込むスリザリン生に結論から入ることにした。

「要するに……手を貸す人はちゃんと選んでくださいって事です。自分の影響力を甘んじないように」

「んんー、アルバスが言わなくったってちゃんと手を貸す人は選んでるよ」

「貴方がそう思っているなら良いのですけど……」

スリザリン生は世話を焼くのが生き甲斐かとでもいう程にホグワーツ生のちょっとした悩みやお遊びにも嬉々として付き合い、時間があれば城の外を渡り歩き(飛び回り)ホグズミードに終わらずアランシャイアやフェルドクロフトに幾度か訪れて顔を広めていっている。

その働きぶりに「なんでも屋」と呼ばれる程で、本人はともかく彼と親しむ者達はその博愛気質を逆に気がかりに思うことがあり、アルバスはその中でも特に不安を煽られている人物であった。

「でも、心配して良いですよね」

「なんか変な言い回しー。僕はアルバスよりうんと年上なのにな」

「……ダメですか?」

アルバスはサファイアをそのまま嵌め込んだかのように眩い目でスリザリン生の方を見つめる。泣き落とし等は一切意図してないというのに、スリザリン生にはアルバスの瞳がうるうると揺れて見えた。

「ダメなんて言ってないって!」


続き


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