アッシュルバニパルの魔術師:2
魔導書型攻撃端末兵装[アッシュルバニパル]==================
Part97の64レスで投下された別作者様の作品
を参考にし、設定に組み込んでいます
この場で借用する事の謝罪と感謝を述べさせていただきます
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ミネ団長に担がれシャーレの保健室へと搬送された私は、横になりながらアリスさんから持ちかけられた“勧誘”について話す事になりました
団長は他の患者さんの様子を見に行くと言って席を外しました
2人きりの病室で、私はアリスさんと対面する
ウイ「つまりアリスさんは、ミネ団長や先生達と一緒に“砂漠の砂糖”なる麻薬を蔓延させたアビドスを、“倒すため”ではなく“止めるため”の活動中…という事でしょうか?」
アリス「はい!アリスはハッピーエンドを迎えるため、先生やパーティの仲間達と共に、アビドスの人達を止めるための任務を遂行しているところです!現在のパーティは8人なのですが、ウイを9人目のメンバーにしたいと思っています!」
「え…いやその、私別に武闘派とかじゃありませんし…そもそもトリニティからここに来るまででこんなにへばる私じゃ何の役にも立たないんじゃ…」
「いいえ!魔術師と謳われるからには、それ相応の賢さやスキルが備わっている筈です!それにアビドスを止めることが出来れば、砂糖によっておかしくなったキヴォトスを元通りにするための大きな一歩になるはず…魔王を演じているだけの敵対者との和睦こそ、皆が笑顔になるハッピーエンドに繋がる…アリスはそう考えています!」
魔王を演じているだけの敵対者…?
その言葉は、アビドスの首脳陣を指しているのでしょうか
シミコがああなってしまうほど狂わせ、ヒナタさんや古書達を見捨てるきっかけを作った悪人が…
“演じているだけ”って、何ですか?
私の中で疑問と怒りが湧いてくる
「…質問します。ウイの周りには、ウイが守りたいと願う方がいますか?」
「っ、貴女には関係ないでしょう…!」
その問いかけに対し、私はぶっきらぼうな返事をしてしまう
私みたいな、守れる力さえ無い者に何を言い出すんだとイラついてしまった
そもそも、アビドスとの相互理解なんて夢物語でしかない
自分達が感じる刹那の幸福のためだけに他者を不幸にする輩なんて…
既にそう考えてしまう私が、こんな人の考えを理解できるわけがない
「いいえ関係あります!ウイはアリスの仲間なのですから!」
「な、仲間って…貴女が一方的に言ってるだけじゃないですか!?そもそもの話ですけど!何故貴女は私を仲間にしたいんですか!?こんな見るからに弱そうで情けない、性格捻じ曲がった偏屈者を!守りたいと思う存在を、いざって時守れやしない私を!そんな大それた事に駆り出すなんてどうかしてますよっ!貴女の言葉に全く共感を持てない人間が、仲間なんかになれるわけないでしょうが!」
ついムキになって暴言を吐き散らす
私への卑下も込めた最低の言葉
その上アリスさんの考えが理解できないとまで言い放ってしまった
本当に私は最悪な性格をしていると思う
──それを聞いたアリスさんは、顔を伏せると呟くように語り始めた
「…アリスは、大事な仲間を守れませんでした」
「はい…?」
「アリスには、モモイとミドリとユズという大好きで大事な…友達であり家族であり仲間である人達がいます。それに、アリス達を見守ってくれる母親のような先輩、ユウカもいます。勿論、今言った人達だけでなく、ミレニアムの人達全員がアリスの仲間です。なのに…」
アリスさんの目に涙が滲む
「仲間達は砂漠の砂糖という毒に侵されてしまい、モモイやユウカ達はおかしくなった末に拘束され、禁断症状という名のデバフに苦しみ続ける…という生活を送らされています。そして、ミレニアムのみならず、他の自治区にも同じように砂糖の魔の手が襲い掛かり、キヴォトス中が大混乱してしまった…そんな惨状を目にしたアリスは、勇者としてこの状況を見過ごせないと感じたのです」
「…」
砂糖事変で心を痛めたのがよく伝わる
大好きな親友や先輩が
ミレニアムの全てが
そしてキヴォトス全域が
突然狂わされ、平和を奪われた
私も突然あんな事になったので、アリスさんと境遇は似ているだろう
いや、私は交友関係が狭かったが…彼女はとても広かったようだ
私より何倍も辛いのは予想できる
だが彼女は、失意に暮れて動かない道でなく…立ち上がって新たな仲間を作り、平和を取り戻すために戦う道を選んだ
それもアビドスに対する憎悪や恨みではなく“皆が笑顔で迎えるハッピーエンド”を目指すために…
「アリスも皆を守れなかった自分が嫌になったり恨んだりする事もありました…アリスなんて勇者失格だ、と折れかけた時期もありました…それでも!アリスは勇者として!このキヴォトスを救いたいと願ったんです!」
「勇者として…」
「支えてくれるパーティメンバーは先生の手助けもありましたが、殆どがアリスと似た志を持っている人達です…!ウイはアリスのように守りたいと願う存在が確かにあって、その存在のために戦えるという“強さ”を持っている…そうアリスは感じ取りました!だからお願いです!キヴォトスを一緒に救いましょうっ!」
「………」
綺麗事だと一蹴するのは簡単だろう
しかし私は、彼女の言葉に感銘を受けた
さっきまで理解できなかったはずなのに
アビドスに対する憎悪は、彼女の言葉を聞いた途端に小さくなって消えた
守りたいと願う存在のために戦える強さ
そうか。そうだったんですね
私みたいな、引き篭もりで性格捻くれた頑固者でも…そんな強さがあったと
シミコ
ヒナタさん
大事な古書達
私が守れなかった存在を思い浮かべる
今から行動しても、間に合うのだろうか
彼女達が元に戻るのであれば………
「すみませんでしたアリスさん。その、私はご覧の通り捻くれているので…少し感情的になってしまいましたが、一先ず貴女の言いたい事は分かりました。正直こんな私が役に立つかどうかは、今でもまだ分かりませんけど…」
手を差し出す
「えっと…どうか、貴女の仲間として…勇者パーティでしたよね?その一員に、してください…」
アリスさんの顔は途端に笑顔を浮かべて
「はい!新たな仲間として!これからよろしくお願いします!ウイッ!」
手を強く握り返した
「声でっか…!力つよ…!」
思わず顔を顰めてしまった
「あっ!?ごめんなさい!」
「い、いえ…私こそ失礼を…」
声量はともかく、なんて怪力…
ヒナタさんにも引けを取らないこれほどのパワー…勇者と名乗るだけあります
こうして私は、アリスさんの勧誘を引き受けたのである
アリスさんが結成した勇者パーティ
その9人目の仲間…【魔術師】として
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それから数週間が経った
先生は私が勇者パーティの一員になった事に感激し、ミネ団長始めとする新たな仲間も私を受け入れてはくれたらしい
まああの、遊び人と称されるカヤさんや割と自由なワカモさんやアキラさんとは会話自体結構少ないんですが
でも肩身が狭い事は無かったです
正直な話、連合の中心地は人が多いので落ち着ける場所がない点だけは結構困るのですが…贅沢は言えませんよね…
なんて思っていたこの日、アリスさんは興奮した様子で私に駆け寄ってきた
両手で段ボールを持ち上げながら
アリス「ウイ!ウイ!遂に届きました!新たな装備が!」
ウイ「は、はぇ?なんですか装備って」
「ふふふ…見て驚くでないぞ魔術師よ…此方です!パンパカパーン!」
アリスさんは段ボールを開けて中の物を取り出す
それは、本のような物体だった
「えっと、なんですかこれ?」
「はい!ウイの装備品は此方の魔導書型攻撃端末兵装、その名も…
【アッシュルバニパル】です!
アリスのスーパーノヴァと比べれば劣りますが、それでも暴れる人を戦闘不能にできるほどの光線が発射されるのです!リオ先輩に感謝ですね!」
「ぇ…いやその、別にわざわざ本の形にしなくても良かったんじゃ…?というか名前長…」
「いいえっ!ウタハ先輩達もこう言ってました!ロマンは大切にすべきと!」
「ロマン…ですか。ま、まあその気持ちは少し分かりますけど」
私はそれなりに重量のある魔導書型攻撃端末兵装【アッシュルバニパル】を手に持ってみる
この手で持つのにピッタリなサイズ…
折角私のために作ってくれたんだ、活用しなければアリスさんにも、製作者にも失礼でしょう
「はぁ…分かりました。とは言っても私は武闘派って訳じゃないので、あくまで後方支援しかやりませんよ?
魔術師として…このアッシュルバニパルで、勇者の道行を照らす知恵を授けるとしましょうか」
「おお…!これぞ“古書館の魔術師”ですね!カッコいいです!」
「…意味が曲解されそうなので、波乱が収まったらこれ返します」
「そんなっ!?(ガーン)」
ショックを受けるアリスさんを見て少し笑みを浮かべる
戦闘が得意ではない私でも、これがあるなら少しは貢献できるかもしれない
「あの、ところでこれどうやって使うんですか?説明書とかあるなら…」
「説明“書”はありませんが、リオ先輩がAMASに記録した説明の音声データならあります!」
流石はミレニアム、紙の説明書は前時代的とでも言うのでしょうか
…そんな事口にはしませんけど
少しして、一台の小型ドローンを連れたアリスさんが戻ってくる
「はい、これが説明音声です!」
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ミレニアムの生徒会長、調月リオさんが残した説明を簡単に纏めると…
・この兵装は300枚近くあるページ数の魔導書型攻撃端末である
・ページの1枚1枚が分離や浮遊が可能なドローンであり、光線を放てる
・ページを束ねれば超火力の光線を放つ事も出来る
・情報伝達粒子を行使し周囲の電子機器へ干渉する事も可能
・AIを搭載しているが、それは約300枚近くあるページを私1人で動かすのは大変であるため、補助として搭載している
・扱いに慣れた状態でAIの補助を切れば私のイメージ通りに動かしやすくなる
・しかし、AIはリミッターも兼ねているので下手に補助を切ると私の脳に大量の情報が流れ込む…その反動で脳の神経が焼き切れたら死ぬ可能性も大いにある
・なので極力AIの補助は入れた方が良い
──といった感じでした
そんな死ぬ危険がある物を送るのは正直どうなんだとも思いますけど…
これは、ミレニアムのビッグシスターが私が戦えるためにオーダーメイドで製作した物です。受け取らないなんて選択肢はありません
ウイ「ありがとうございます。この兵装を喜んで使う事にします」
アリス「これで魔術師の装備が用意できましたね!では早速特訓です!」
「…ひゅい?今なんて」
「特訓は特訓ですよウイ!装備品レベルを上げなければ、装備スキルが解放されません!AIによる補助があるとはいえ、ウイ自身がアッシュルバニパルの扱いに慣れる必要はあります!」
そう言いながら私を凄い力で引っ張ってくるアリスさん
と、特訓ってまさか外に出て練習を!?
こんな太陽で目が潰れそうな日に!?
「ちょ、ちょっとま…!」
「大丈夫です!アリスは勇者として仲間の特訓に付き合います!連合の人達にも特訓の手伝いをお願いしたところ喜んで引き受けてくれました!さあアリス達と特訓を積み重ね、魔術師に恥じぬレベルに到達しましょう!」
「こ、こんな日に外出たら…!」
まずい
路上で助けられてから、今まで殆ど外に出ていなかった
こんな状況で太陽光を浴びたら…!
(ガチャ)
「あ───」
(降り注ぐ快晴の陽光)
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃーッ!?!?」
「ウ、ウイ!?」
「おわあああああぁぁぁっ!目がぁっ!目がぁぁぁぁぁ〜…!ああぁぁ、目が、目がぁぁぁ〜ああああぁぁぁ〜!」
「うわーん!ウイがどこぞの大佐みたく暗闇状態になってしまいました!太陽光に慣れさせる特訓から始めなければ目的の特訓が始められません!」
とまあ、前途多難な私の“魔術師”生活はこうして幕を開いたのでした…
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(TELLLLLLLLL…)
先生“電話?トリニティの方から…?”
(ガチャ)
“もしもし。こちら、連邦捜査部シャーレです…サクラコ?そっちは大丈夫?“
サクラコ『申し訳ございません、此方の騒動を収めるのに時間がかかってしまいまして…私のスマートフォンも破損していたため連絡が遅れてしまいました…』
“ううん、私は気にしてないよ”
『その…一つお尋ねしますが、連合側に古関ウイさんはいらっしゃいますか?』
“ウイならアリスと一緒だよ”
『そ、そうでしたか…!では出来るだけ早くお伝えしたことが!」
“ど、どうしたの?”
『先日、シスターヒナタが目を覚ましました!』
“えっ、ヒナタに何が…!?”
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