第六話『戦争前夜』その8「厄災と慈愛」

第六話『戦争前夜』その8「厄災と慈愛」

砂糖堕ちハナエちゃんの人




※このお話はヤク堕ち先生氏の作品「絶望の箱、底に残った最初の奇跡の名前は『災厄』」幻覚氏の作品「先生として」「怪盗休業」をベースに物語を組み、これらの作品から一部設定と台詞と状況描写を引用・参考にしています。


ヤク堕ち先生氏の作品「絶望の箱、底に残った最初の奇跡の名前は『災厄』


幻覚氏の作品「先生として


幻覚氏の作品「怪盗休業






 ミレニアムサイエンススクール敷地内にある、とあるゲストハウス。周囲には厳重な警備体制が敷かれ誰一人近づけないようなっており建物は窓もドアも何重にも施錠され中から解錠出来ないようになった。

 そんな事実上の軟禁状態にシャーレの先生はさせられているのだった。


"…………"


 灯りもつけず、真っ暗な室内。備え付けられたベッドに腰かけ先生は項垂れていた。


"どうして……こんなことに……"


 ミレニアムに辿り着いた先生はノア達から聞かされた変わり果てたキヴォトスの惨状に目の前が真っ暗になっていた。



 砂漠の砂糖と称する砂糖にそっくりな麻薬を作り出し、キヴォトス全土へ撒き散らした小鳥遊ホシノ。


 ホシノに感化され自らも砂漠の砂糖に染まり、所属する学園へ砂漠の砂糖を蔓延させた空崎ヒナと浦和ハナコ。


 大勢の生徒が砂糖中毒になり、狂い、暴れ、アビドスへと堕ちて行き、今や麻薬の黄金地帯化したアビドス。


 砂糖に狂ったヒナとハナコより破壊と暴虐の嵐が巻き起こり壊滅状態になったゲヘナとトリニティ。


 百鬼夜行は砂糖に狂わされた河和シズコらによって破壊され焼き討ちにあい炎上した。


 山海経は梅花園に砂糖がばら撒かれシュンとココナが園児たちと共に行方不明になりボロボロ状態に。キサキら玄龍門は門戸を固く閉ざし外部との連絡や交流を絶ち事実上の鎖国状態へ入った。



"いつから……いつから彼女達は道を踏み外していた……?"


 先生がレッドウィンターへ出張へ行っていた数か月間でここまで砂糖が広まるにはあまりにも短すぎる。

 先生がキヴォトスに赴任し、アビドスへミレニアムへトリニティへ向かい生徒達と交流しともに事件を解決した日々。その頃からもう既に砂糖は蔓延し広がっていた可能性も出てきた。



「浦和ハナコさんが水着で礼拝堂へ出席して淫奔行為を起こした事件があったでしょう。今思えばあれはおそらく砂漠の砂糖の副作用による錯乱状態だったのではないでしょうか?」



 ミレニアムの聞き取り調査でナギサが証言していた。



「ハナコちゃん、私達と会った時もう砂漠のお砂糖を食べていたそうです。補習授業部で居る間、私達にバレないようにずっと食べずに我慢していたと言ってました。ハナコちゃんきっとものすごく苦しんでいたはずなのにどうして私達は気づいてあげられなかったのでしょうか……」



 自分を責め涙ぐむヒフミ。



"違う…私が気づくべきだったんだ。生徒達の発するSOSを拾わなくちゃいけなかったのに…"



 エデン条約の件でトリニティを訪れていた時には既に砂漠の砂糖の中毒者になっていたハナコ。ハナコはホシノから砂糖を頂き食べたと言う。



"つまり、私が最初に出会った時既にホシノは砂漠の砂糖を見つけ摂取していた。広める準備さえもしていたのか……?"



 必死に生徒達と過ごした日々を思い返す先生。どこだ、どこで彼女らの異変を感じることが出来た?見落としていた事は本当にないのか?

 しかし、考えれば考えるほど判らなくなっていく。彼女らの僅かな仕草や視線と挙動、それらすべてが普通ですべてが怪しい異変に見えてしまう。



"どうして、私は見逃していた!どうして私は生徒らの異変に気が付けなかった……!!"



 今思えばはっきりと生徒らの異変を察知できる時間はあった。レッドウィンターへ旅立つ直前だったと思う。急に生徒達からのモモトークが減った事を。

 普段はひっきりなしに鳴り続けるモモトークの通知音がぱたりと止んだのだ。



"あの時は皆学園の復興に忙しいんだと納得していた……それが、それこそが私の間違いだったんだ"



 キヴォトスの少女達はあまりにも大人を頼ろうとはしない。すべて自分達だけで解決しようと抱え込む癖があった。元々大人の数が少なく、頼れそうな力を持つ大人は生徒達を利用し使い捨てる邪悪な存在ばかり。

 そんな世界で暮らす彼女ら生徒達にはそもそも大人を頼ると言う発想自体が浮かばないのだ。

 そんな考えを解きほぐし、自分を頼ってくれるよう先生は訴え続け、生徒達も少しずつ変わってきた……そう思っていたはずなのに……。



"私はとんだ思い違いをしていたんだ……私は先生失格だ……"



 絶望の奈落へと堕ちて行く先生。キヴォトスに来てからどんな時でも諦めなかった心に罅が入り砕け散ろうとしていた。



コンコン…コンコン…



 その時背後からガラスを叩く音がして振り返ればカーテンに人影が写っていた。満月の晩、眩い月の光に照らされて細部まで浮かび上がったシルエット。その姿にどこか見覚えがあった先生は窓辺に向かうとカーテンを開く。

 分厚い防弾防爆仕様の強化ガラスの向こうに狐のお面を被った和装姿の少女が立っていた。



"ワ、ワカモっ!!"



「ああ、あなた様……。やはりこちらにいらしたのですね」


 彼女の名前は狐坂ワカモ。キヴォトスの揺るがす七囚人の一人で無差別かつ大規模な破壊活動を行う事から「厄災の狐」と呼ばれる大罪人であり、先生の生徒の一人だ。


「こんな牢獄に閉じ込められてしまったお労しいあなた様……。ご安心ください、このワカモが今すぐお助けしますわ。…………こら、はやくここを開けなさいな」


 先生にうっとりとした様子で話しかけていたワカモが急に態度を変えて話しかける。先生では無い、先生の後、分厚い頑丈な部屋のドアの方に向かって話しかけているようだ。不思議に思った先生が振り返ると



カチャリ……



 厳重に施錠された分厚いドアがいとも簡単に開く。そこにはもう一人純白のスーツとマントを纏いドミノマスクで顔を隠し、ステッキ型の仕込み銃をもった少女が立っていた。


"ア…アキラ…!"


「先生、お待たせして申し訳ありません。今宵は私、慈愛の怪盗こと清澄アキラがキヴォトスの至上であるシャーレの先生を頂きに参上しました。どうか私めに盗まれてやってくれませんか?」


 滑らかに怪盗の予告状の様な口上を語り、優雅にお辞儀 -ボウ・アンド・スクレープ-をするアキラに先生はゆっくりと近づく。


"アキラ……君は砂漠の砂糖は摂ってないのかい?"


「先生にそこまで見縊られてしまうとは……。ご安心ください、この慈愛の怪盗あのような甘い誘惑に掛かるほど零落れてはおりません。それはそこに居る厄災の狐も同様でございます」


"ワカモも、かい?"


 コクリと頷くアキラに先生は思わずワカモの居る窓の方へ視線を向ける。


「ふふっ、このワカモ……あなた様さえお傍に居てくださればあんな毒物などに頼る必要など全くないのです………って、ちょっと!!何、先生とイチャついているんですの!!早くここを開けなさいっ!!先生から今すぐ離れなさいっ!!この泥棒猫っ!!」


ドンドンドンドンドンドンドン!!


 両腕を上げて激しく窓を叩くワカモに苦笑しながらアキラは窓に近づいていく。窓の前に立つとガラスの向こうで怒鳴り続けるワカモに気を止めず「ワン、ツー、スリー」と数え指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、パンッと小さく乾いた破裂音がして僅かに煙が窓枠から出るとガラスに張り付き両腕を振り上げていたワカモごと窓ガラスが外れ彼女はそのまま倒れ込むように部屋へ転がり込んできた。


「ぎゃふんっ!?!?」


"ワ…ワカモ……大丈夫かい……?"


「全くキミには毎回困らせられてばかりだね。この私が優雅に先生をこの狭い鳥籠からお連れしようとしているのに、そんなに賑やかにされたら寝静まっているミレニアムのお嬢さん達が目を覚ましてしまうではないか」


 呆れた感じで喋るアキラ。ガラスごと倒れて固まっていたワカモだったがすぐに起き上がると先生目掛けて突進してきた。


「あ な た さ ま ぁ~~~~♡♡♡」


"ワカモッ!?うぐっ!?"


 ワカモにタックルされ、思わず後ろに仰け反り倒れそうになる先生。しかし、ワカモはしっかりと後ろに腕を回しておりその細腕から想像できないほどの強い力で倒れそうな先生を支え起こす。そしてそのまま先生に抱き着いたままくるくると回った。


「お、おほんっ!!」


 ワザとらしく咳き込み、抱き合いくるくる回る二人に間にスッと入り回転を止め、そのまま回転の勢いを利用してワカモを先生から引き剥がすアキラ。


「何時までつまらないダンスを踊っているんだい?さぁ、仕事だよ。約束通りキミはキミの仕事をするんだ」


「あら、あなたこそ随分と先生に密着していませんでしたか?私も同じ時間先生の感触を楽しむだけですわ」


「むむむ……」


「むぅぅぅぅ…」


 睨み合うをする二人に先生は何故かホッとする。自分を巡って睨み合う生徒達。微笑ましくも幸せを感じるついこの間までありふれていた光景――。


 そんな懐かしささえ感じでしまう二人のやり取りについ頬が緩んでしまう。


"ふふふ……"


「もぉ!あなた様!?何笑ってるんですか!わたしくたちは本気なんですよ!」


 プンプンと怒るワカモにゆっくり近づき先生は声を掛ける。


"ありがとうワカモ。助けに来てくれて。お願いだ、私に力を貸してほしい"


「!!……もちろんですわ。私はあなた様の、あなた様だけのワカモですから♡」


 うっとりとした表情で頷くワカモ。それに頷き返した先生はアキラにも近づき声を掛ける。


"アキラも私を助けに来てくれてありがとう。アキラ、お願いだ、私に力を貸してほしい"


 真剣な表情の先生に近くから見つめられて一瞬固まるアキラ。そしてゆっくりとドミノマスクを外し、その下にある素顔を晒し深紅の瞳で先生を見つめる。


「この慈愛の怪盗。現時刻を持ってひと時の休業となります。これからは先生の生徒「清澄アキラ」としてこの技と力を先生の為存分に揮いましょう」


 すらりと優雅なお辞儀で先生の言葉を受け止めるアキラ。


"二人にお願いがあるんだ。私をD.U.まで、シャーレまで連れて行って欲しい"


「了解」「了解ですわ」





ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


 ミレニアムの敷地内のあちこちで爆発が起きる。固く閉ざされた正門が破壊され、大型のオートマタが1機が多数のヘルメット団を引き連れ学内へと侵入してくる。

オートマタの上には七囚人の一人厄災の狐が堂々と愛銃を構え仁王立ちしていた。


「さぁ!さぁ!さぁ!皆さま存分に暴れてしまいましょう~。報酬はミレニアムセミナーが押収し隠し持っているアビドス純正糖100kgですわ!!早い者勝ちですわよっ!!」


 厄災の狐――ワカモが扇動し、いったいどこに隠れ潜んでいたのか分からないくらい数のヘルメット団がミレニアムサイエンススクールの敷地内へとなだれ込んできたのだ。


「うぉおおおおおお!!砂糖だっ砂糖を寄こせぇぇぇぇぇぇえええ!!!」


ドガガガガガガガガガーーー!!バリバリバリバリーーー!!


「うわぁあああ厄災の狐だぁぁぁぁぁあああ」


「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


「C&Cは何してるんだ!?早くあの狐をやっつけてくれぇぇぇ」


 ミレニアムの警備隊はあっさりと瓦解して逃走モードになり、入力された命令プログラムのままに果敢に攻めて行く警備ロボットやドローン、オートマタ―が善戦するもののワカモと彼女に扇動されたヘルメット団の集団が多数の犠牲をだしつつも破壊しミレニアムは小鳥遊ホシノ襲撃テロ事件以来の大混乱となった。

その混乱に乗じてミレニアムの裏側から抜け出す先生とアキラの姿が居た。


「先生、ここからは私めのエスコートにお任せいただきますか?」


"うん良いけど、エスコートってどうやって……?"


「こうするのです。失礼――」


"うひゃぁっ!?!?ア、アキラッ!?"


 先生を軽々と抱きかかえるアキラ。それはまさしくお姫様抱っこだった。先生を抱きかかえたまま建物から建物へ、木々や電柱、通信鉄塔へと次々と飛び移りながらどんどんとミレニアムサイエンススクールから遠ざかって行く二人。ワカモが起こしている騒乱の音も徐々に小さくなっていった。


"ミレニアムにこんな静かな場所があったなんて…"


 先生は驚く。ミレニアムの周りには沢山の監視カメラやセンサー。警備巡回用のロボやドローンが飛び交うのが普通なのだがアキラが進む進路はそれらが全く見当たらないのだ。


「ミレニアムと言えども監視網の網は100%ではありません。必ず隙や抜けがある物なのです。私はその隙や抜けの点と点を結びひとつの通り道として仕上げ利用する。決して捕まらない慈愛の怪盗の特技なのです」


"それはすごいね。さすがはアキラだね"


「そ、そうですか。先生にお褒め頂けるなんて光栄ですっっ」


 真剣に感心する先生。そんな先生の表情を至近距離から見てしまいドミノマスクの下の頬を少し朱く染めて少ししどろもどろになるアキラに先生も思わず微笑む。


その時だった。


"!!!!"


「―――っく!!」


 二人を鋭い視線が射貫く。それはまるで銃の射線上に立った時の様な殺気の満ち溢れた視線を受ける。


「しまった、そんなバカな!?……先生っ!!私の影にっ早くっ!!」


 アキラは先生を庇うべく抱いていた先生の身体の向きを変えようとする。

 先生もそれに従おうとして――、自分達を射貫く――照準を合わせて狙撃しようとした相手の存在と居場所に気が付く。とっさに身体を動かして恐らく見えているだろうと僅かな可能性に賭けてジェスチャーを送る


"大丈夫だよアキラ。"彼女達"は敵じゃない"


「しかし先生ッ………!?……まさか……なるほど……」


 先生のジェスチャーが伝わったのか二人を射貫いていた鋭い視線が消える。

 視線の元をたどると十数メートル先、建設工事途中のモバイル通信基地局の電波塔の中ほどに設置されたゴンドラに二人のメイド服の姿が見えた。

 先生――正確には先生を抱きかかえたアキラを狙撃する為に照準を合わせていたスナイパーライフルの愛銃の銃口を下げるカリンとその横で双眼鏡でこちらを見ながら大きく手を振っているアスナだ。


"カリン!アスナ!ありがとうっ!!私達を見逃してくれてっ!!"


 先生は手を振って大きな声でお礼の言葉を述べる。恐らく声は伝わってない……だけど確かに思いは伝わったようだ。

 双眼鏡を下ろしたアスナはポケットからマグライトを取り出すとスイッチをリズムよくON/OFFを繰り返して点滅を送る。

 先生はそれが簡単なモールス信号だとすぐに気が付いた。


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【 ご し ゆ じ ん さ ま  ま た ね 】



 それはアスナが無事にこちらを見送り見逃してくれる、そして一時の別れの挨拶だった


「そう言えば彼女らも先生の生徒でしたね。さすがです先生、一瞬で彼女達にこちらの意図と敵意がない事をお伝え出来るなんて」


"そんな事は無いよ。アスナとカリンのおかげだよ。"

"さぁアキラ、先を急ごう"


「はい!先生ッ!!」


 こうしてアキラと先生は優しいキヴォトスの月の灯りに導かれミレニアムを去ったのであった……。



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 アキラと遅れて合流したワカモと共に先生は無事にシャーレへと帰還した。


"ワカモ……そろそろいいかな?"


「嫌ですわ♡まだあなた様を堪能する時間は終わってませんわ♡」


 シャーレの執務室のソファーに座る先生を挟むようにアキラとワカモが座り先生に密着する。


「ワカモ、いい加減に先生から離れたまえ。先生が困っているじゃないか」


「なら、貴女が離れれば良いだけですわ。ミレニアムからここまで先生との濃厚なお時間過ごしたのでしょう?先生の身体に染み付いた咽返るほどの猫の匂いが証拠ですわ」


"あのね…二人とも落ち着いて…"




 暫く先生をサンドプレスしてたワカモとアキラ。ようやく満足したのか先生の対面のソファーに並んで座る。


「さて、先生。こうして、厄災の狐と慈愛の怪盗を駒として手元に置いてるのです。このままただ座して待つ――なんて事はないですよね」


"もちろんだよ、アキラ、ワカモ。"


"この未曾有の危機に君たちの力を私に貸してほしい。君たちにしか出来ない事を頼みたいんだ。"


 待ってましたとばかりに目を輝かせる二人。


「それでこそあなた様ですわ。ああ、こんなあなた様を悩ませ苦しめる彼奴等にどんなことをして差し上げましょうか?うふふ…アビドス自治区のインフラの破壊?砂漠の砂糖の流通網に打撃?競合他社に粗悪品を市場に流通させて彼奴等(アビドスカルテル)に無駄な労力を使わせます?あなた様のためなら、私なんでもいたしますわよ!!」


 うっとり頬を染めて物騒な事を並べるワカモ。


「先生、私はあなたが望むものならどんなものでもアビドスから持ち出して見せましょう。カルテル中枢の極秘資料に砂漠の砂糖の製造装置に防衛武器弾薬まで先生の望むままです」


 己の美学を曲げてまで怪盗の技術を使って見せると誓うアキラ。二人とも先生の生徒として働ける喜びに輝いていた。



"二人ともありがとう。そこまで踏み込んだ事はしなくても良い。代わりにやって欲しいのは――"


 先生は言う。七囚人の他のメンバー、申谷カイや栗浜アケミらと至急連絡網を築き、アビドス側にも、ミレニアム側にもつかず、出来ればシャーレと協力体制を要請する事。

 七囚人ならではのコネを駆使し今のキヴォトスの現状と砂漠の砂糖の正体についてを十二分に調査して欲しい事。


 そして先生は、先生にしか出来ない事をすると言う。機能不全に陥っている連邦生徒会の立て直しとそれから――。



ダァァンッ!!



「いけませんっ!!」


 思わずテーブルを叩いてしまうワカモ。先生が最後に言った計画の内容に拒絶反応を示してしまった。


「それだけは、それだけは絶対におやめくださいっ!!」


 先生に縋りつくようにワカモは叫ぶ。


「実に不服なのですが今回だけは私もそこの厄災の狐と同意見です。先生、どうか今一度再考していただけませんか?」


 アキラも焦りを滲ませ言葉を震わせる。

 先生は言ったのだ。





「お願いです。今、今は私達はここであなた様をまで失うわけにはいかないのですっっ!!」


「先生、先生は長く雪深いレッドウィンターに居られてわからないのでしょう。もはや先生の知るアビドスはどこにもありません。あそこは俗世からは離れた生活をしているこの慈愛の怪盗の耳にすら聞き及ぶほどの地獄と化しております。一歩でも足を踏み入れば先生と言えど無事では済まないはずですっ!」


"それでも、必要な事なんだ"


「なぜ?少なくとも智の獼猴や豪傑の大猩々や危険な狐らを手懐けているのです。共を連れるべきですっ!」


"一対一で、話がしたい"


「あまりに危険すぎます。無謀です。丸腰のあなたをアビドスがただ迎え入れるだけで済ませるはずがありません!」


"ホシノを、信じてる"


「……知らないはずが無い先生のキヴォトスへの想いを踏みにじる、七囚人すら生温い程の大犯罪者だとしても?」


"それでも、また寄り添うことを諦めたくない"


"彼女はまだ…"


"私の大切な生徒だから"



「……先生」「……あなた様」






数日後、根回しと準備を終えた先生は単身アビドスへと旅立っていった。


駅のホームから先生を乗せた列車が走り去り、やがて見えなくなるのまでアキラとワカモは見送った。


出立直前までまで先生の説得を続けたが最後まで先生の意思を変えるまでには至らなかった。


言い様の無い不安感に胸を掻き毟られる衝動に耐えながら、先生を信じて見送った。


きっと、大丈夫。シャーレの先生はこれまで多くの奇蹟を起こしてきた。


自分達も、世間から理解されず見放された大犯罪人の自分達もそんな先生の無謀で蛮勇な行為に救われたのだ。


きっと、今度も大きな奇蹟を起こして生徒を救ってくれるはずだ。嘗ての自分達のように――。


そう信じて、叫び続ける自分の心に蓋をして先生を見送った。



それがただの慢心で楽観視で最悪の事態を起こすことになるなど……きっと気づいてて見て見ぬふりをした。


だからバチがあたったのだ。



シャーレの先生がアビドスで消息を絶ったと連絡が入った。



(つづく)


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