淫れてゆがんだ先の終着点 セリカ編-2
労役に勤しむアシタカ「よいしょっと…こんな感じかしらね」
腰にある紐をしっかりと締めて、クラブの衣装…バニースーツの装着を終える。
おととい、青チョーカーの契約書を手渡し、その日のうちに採寸。初出勤日となる今日には私用のバニースーツが完成していた。
たったの数日でウェイターの衣装を完成させたのだから大したものだ。
「…」
鏡に映る自分の姿を眺める。紺色のバニースーツと光沢のある黒いストッキング、底の高いハイヒールに革製の青い腕輪、それが今の私の服装だ。
バニースーツというとかなり硬い印象があるが、今着ているものは全くそんな感じはしない。ボディラインにきっちりとフィットし、窮屈そうに見えるが、かなり快適に動ける。なんというか、締め付けが心地よくなるよう調整している感じだ。
しかし、改めて鏡を見てるうちにやっぱり恥ずかしくなってくる。まず、ストッキングを除いた下着を着ける事が許されていない。その時点でだいぶきついものがある。
そして今着ている衣装も問題だ。そもそもバニースーツというものが扇情的な衣装だが、ここで使われているものは数段レベルが違う。カップ部分が小さく胸をあまり隠せていない。当然ニプレスなんてものはないので、ちょっと動いただけで乳首が見えてしまう。加えて背中の方が大きく開いており、素肌をさらしている。
そして股の部分だが、食い込みがかなりきつい。その、私のアソコの形がくっきりと浮き出ているレベルだ。不思議なことにそんなになるまで生地が食い込んでいるにも関わらず、不快感は全くない。
「…ぅぅ」
何となく、股間と胸を隠しながら周囲を見渡してしまう。今いるところは青チョーカー組のロッカールームだ。同じような衣装を着ているものが15人ほど。私以外は恥ずかしがっている様子はなく、みな仲良く談笑している。
この前見た赤いチョーカーの子みたいに、段々慣れていくものなのだろうか。
「はぁ…」
軽くため息をついて手元のチョーカーを眺める。そろそろ開店時間だし、ここでうだうだしていてもしょうがない。
「…よし」
軽く気合を入れて、首に青いチョーカを巻き付ける。肌にぴっちりと張り付き、少し首が締まる感覚がする。
ほんの僅かに息苦しくなるが、まあ、しばらくしたらなれるだろう。
他のバイトの子たちも準備に取り掛かっている。私も一緒についていこう。
『ミナミさん、5番のテーブルにお飲み物を運んでください』
『はーい』
『ルミさんは7番テーブルの方、お願いします』
『了解です』
耳に付けた無線機からウェイターに向けた指示が聞こえてくる。内容はまあ普通の飲食店と大差なく、強いて違いを挙げるなら飲み物の注文がほとんどであることくらいだ。
けれど、飲み物を届けに行った子たちの戻りが遅い…皆、客からお尻や脚を触られている、要はセクハラを受けているからだ。
普通の店なら一発でヴァルキューレ行きだが、この店では当然これくらいは問題にならない。
しかもウェイターも嫌がっている様子はなく、むしろ自分から押し付けている節がある。
これは客からチップをもらうためだ。この店は通常の時給に加え、客から渡されたチップも報酬としてもらうことができる。
普通の飲食店ならたいした金額にはならないが、ここに来るのは上客ばかりだ。なのでああやってサービスすれば、とんでもない金額がもらえることもあるらしい。
もっとも、ここから見る限りだとウェイター側もお金目的にしてはかなりノリノリでやっているみたいだが。
『セリカさん』
「は、はい!」
『3番のテーブルが空いたので片づけをお願いします』
「わかりました」
のんびり観察していると、片付けの指示が来た。キャスター付きのワゴンを押して、指示のあったテーブルに向かう。
ここら辺も普通の飲食店と変わらない。てきぱきとテーブル上のコップなどを片付け、台拭きでキレイにする。
…と、床(すごいことに大理石張りだ)に跪いた時だった。
「ん?…何?このにおい」
強くはないものの、今まで嗅いだことのない、変なにおいだった。少なくとも飲み物から発せられたものではなさそうだ。
元をたどっていくと、床にこぼれた白い液体だった。
「なんだろう、これ。…あ」
…冷静に考えれば、すぐわかった。おそらく、その…だ、男性のせ、精液、だ。相手をした子が受け止めきれなかったのだろう。
…よく見ると、精液以外にも粘り気のある透明な液体がこぼれていた。これは、多分相手の女の子の…
(えーと、うん。考えない。割り切りましょう。床を拭いてそれで終わり!)
頭を振り、変な考えを追い出す。この店で働く以上いちいち気にしていたらやっていけない。
ワゴンに引っ掛けていたモップで拭いて戻ろう。
段々と客が増えてきた。全員が奥の扉に通されるというわけではなく、ただスタッフと話すだけのものも居れば、飲み物をいくつか飲んで帰る者もいる。
ウェイターの子たちも、ただ飲み物を運ぶだけでなく、テーブルで軽く談笑したり、あるいは体を軽く触らせている。
一方の私はというと、お呼びがかかることなくひたすらテーブルを掃除している。
ここのクラブは各テーブルの端末から注文を取っている。その際、持ってくるウェイターを指定することができる。
触られることもないから気が楽ではあるが、他のみんなが呼ばれているのに私だけ何もないのは少しさみしい。
(はぁー…暇だな……じゃなくて!触られるわけじゃないからいいじゃない!)
とはいえ、客も私に興味がないというわけではなさそうではある。片付けに行くときに視線を感じるし、今こうして待機している間もちらちらとこちらを見る者がいる。
だからまあ、こうなるのは必然だった。
『セリカさん、14番のお客様にお飲み物をお願いします』
「りょ、了解です!」
(…つ、ついに来ちゃった)
覚悟はしていたが、いざ来たとなったら緊張する。だがこれも仕事のうちだ。
金属製のトレーを持って、飲み物を取りに向かう。
途中すれ違った子に、
「ほーらー、セリカちゃん。緊張しないで。リラックス、リラックス♪」
「は、はぁい…」
(そ、そうは言われても…)
注文されたボトルとグラスをトレイに乗せ、14番のテーブルに向かう。
目的のテーブルには男性客1人しかいなかった。テーブルの上には何もないので、おそらく今来たところなのだろう。
「し、失礼します。ご注文の商品です」
「…ん?ああ、ありがとな、嬢ちゃん。見ない顔だな」
「は、はい。きょ、今日からここでお世話になってるセリカと言います」
私の名前を口に出すと、その客は何か考え込みだした。
「セリカ…セリカ…嬢ちゃん、アビドスの黒見セリカか?」
「えっと…はい、そうです」
どうしてここでアビドスの名が…思わず警戒すると、
「ああ、すまん。カイザーの奴らが俺の商売敵でな。色々調べてるうちに知ってたってだけだ。別に嬢ちゃんのことを脅そうってわけじゃないから安心してくれ」
「はぁ…」
一応、この店で働いていることを理由にキャストを脅すのはご法度となっている。なので変な目にあわされることはないとは思うが。
「カイザーか…たく、奴らも面倒な真似を…と、わりぃ。ここでする話じゃねえな。飲み物を注いでくれるか、嬢ちゃん」
「わ、わかりました。失礼します」
グラスを手に持ち、飲み物を注ぐ…すると、
「…ふむ」
むにゅん
「へ…?きゃぁ!」
触られた…お、お尻を触られた。割としっかりと。
(か、覚悟はしてたけど!今この空気で触るぅ?!)
「なかなか締まった、いい尻をしてるな、嬢ちゃん」
「…え!っとその、ええと。あーあの、ありがとう?…じゃなくて、その…し、失礼します!」
「おう、がんばれよ」
トレイを持って早足で戻る。
(うぅぅ…びっくりした。しかもさわり心地をいうなんて。…でも、でも)
悪くなかった
驚きはしたが思いのほか不快感を覚えなかった。気持ちいいというわけではなかったが、その、悪い気分ではない。
そんな奇妙な気持ちに驚きつつ、元の待機場所に戻る。ちょうど、さっき私を送り出した同僚もそこにいた。
「お疲れ様。最初はみんなあんな感じだから大丈夫よ」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ、セリカちゃんならこれからもやっていけそうね。顔、笑ってるわよ」
「え…」
思わず頬に手を当てる。
(そっか…笑ってるんだ、私)
この場の雰囲気に呑まれたのだろうか…それとも、もともと私の中に存在する素質なのだろうか。
『セリカさん、5番のテーブルの片づけをお願いします』
「は、はい」
いろいろ考えたくなったが、そんな暇はなさそうだ。今は仕事に集中しよう。
『お疲れ様です。深夜シフト以外の人はロッカールームに戻ってください』
(ふぅー…ようやくね)
あれからもテーブルを片付けたり、何回か飲み物を運んでいった。(14番テーブルの人はあれからすぐ帰ったみたいだが)何回か尻や脚を触られはしたものの、普通の飲食店よりも楽だったかもしれない。
それでも気持ち的に少し疲れた。
ロッカールームに戻ると、ミオさんが居た。他のバイトの子曰く、オーナー側の人間だからかあまりホールの方にはいないそうだ。
「皆さんお疲れさまでした。特にセリカさん。初めての出勤でしたが、うまくやってもらってこちらとしてもうれしいです」
「あ、ありがとうございます。他の飲食店でもバイトをしていたのでこれくらいなら」
「ええ、ですがうちは特殊なお店なので」
(…それは、まあほんとにそうね)
そしてこの特殊なお店、給料は現金手渡しである。まあ、今まで誤魔化されたこともないそうだし、大丈夫だろう。
「ちょうどいいですし、セリカさんから渡しましょうかね。まずは基本のお給料」
手渡された封筒には6万円と記されている。4時間ほど働いていたので、時給1万5000円。働いていた時間を考えると、なかなかいい厚みだ。
「それとこっちも。お客様からのチップです」
…それを遥かに上回る分厚さの封筒が渡される。普通チップというと硬貨じゃないのか。50万と書いてある。なんだそれは。
「ふふ♪水を差すようで悪いですけど、さすがにいつもはそんなに入ってませんよ。今回のはご祝儀みたいなものです」
「…ありがとうございます」
普通の時給でも十分高額なのに、普段よりも多いとはいえもらえるチップの額に思わず頬がゆるむ。
後で他の子に聞いた話によると、普段は大体5,6万、調子がいいと10万くらいらしい。
多少触られるくらいでそのくらいもらえるなら、こんなにおいしい話はない。
…いやまあ、世間一般ではあれを多少とは言わないだろうが。
そんなこんなで私の出勤初日は終わりとなった。もらったお金をカバンに入れ家路につく。
久々に、帰り道でため息をつくことはなかった。
※おまけコーナー 本編の雰囲気を壊す気がするので別ページに隔離