淫れてゆがんだ先の終着点 セリカ編-3
労役に勤しむアシタカ「1200万、お受け取りしました」
いつもようにやってきたオクトパスバンクの職員に、今月分の支払いを渡す。心なしか、その歩みは遅く見える。
「いや~すごいね~。過去最高金額なんじゃないかな」
「はい!元金の方も400万円分、返すことができました!…借金全体の5%ほどですが」
「まあでも、このペースで返していけば利子の方も減っていくんじゃない?そうすれば、だんだん楽になると思うわ」
「ん、最近は指名手配も多いから私の方は大丈夫そう」
「ですね♪あ、お菓子買ってきたのでみんなで食べましょうか~」
先月まではアビドスのみんなとの間に微妙な空気が流れていたが、ここ最近は稼げてる額が大きいからか気持ちが明るい。
「私がいる間に完済は難しそうだけど、みんながいるうちにちょっとはよくなるといいね~。それにしてもセリカちゃん、すごい金額を持ってきてくれて嬉しいけどさ、大丈夫?いかがわしいお店とかで働いてない?」
「ぶふぉ!」
飲んでいるお茶を思わず吹き出してしまう。困ったことに見事に当たっている。
「そ、そんなわけないでしょ!ホシノ先輩!」
「そうですよ、先輩。変な商品を買わされる事はあっても、セリカちゃんがそんな、破廉恥なことができるわけないですよ!」
「…それはそれで引っかかるわね」
「あはは、冗談だよ~冗談。ま、シロコちゃんもだけど危ないことだけはしないでね~」
いつもよりちょっとだけ明るい日常。だけれども、心の奥底に小さな罪悪感が残る。
…大丈夫。本当にダメなことは許していないし、今の生活を続けていくから大丈夫。大丈夫。うん。
『セリカさん、3番のテーブルにお飲み物を届けてください』
「了解です」
いつものようにトレイに注文の物を載せて、テーブルまで運ぶ。
普段は静かな雰囲気のこの店だが、今日はいつもより少し騒々しい。
普段使われていないステージでは、赤いチョーカーを付けた子がポールを中心にクルクル回っていた。いわゆるポールダンスというやつだ。
もちろんこの店のことなので、健全なダンスではない。衣装はいつも通りのバニースーツだが、動きについてこれず胸が露出している。
そして時折、誘うような挑発的なポーズを混ぜ込んでくる。舌を出してフェラチオをするような素振りを入れたり、しゃがみこんでクロッチをずらしつつ、アソコを指で広げるなどしている。
それを見ていた私は…特に何も感じていなかった。ここで働く前の私だったら、顔を赤くして逃げ出していたかもしれない。
だが、ソファーの下でフェラチオをしていたり、胸をはだけさせてパイズリをしていたり、あるいは頭から精液をぶっかけられている子を見ていれば、嫌でもそういうことには慣れてくる。
とはいえだ、
「失礼します。ご注文のお飲み物です」
「おお、ありがとう。テーブルの上に置いといて」
「はい…きゃあ!び、びっくりしたじゃないですか!」
相変わらず突然触られるのは慣れない。嫌ではないのだがいつも悲鳴をあげてしまう。
「ははは、セリカちゃんの締まったお尻を見ているとついね」
「うぅー…失礼します」
同僚たちいわく、お客さんは私の初々しい反応を楽しんでいる節があるらしく、注文の際に結構指名してくれる。
なのでまあ、チップを含めて結構もらえるので、不満はないが。
そんな感じでいろいろ触られながら(といっても尻や脚がメインだが)働いていると、
『お疲れさまです。今日はもうあがって大丈夫ですよ』
(ふぅ~。今日も終わりね)
時間になったので、同じシフトの子とロッカールームに向かう。
いつも通り給料をもらったあと(今日は16万ほどもらえた)自分のロッカーでいつもの衣装を脱ぐ。
「よいしょっと…ミナミ、脱ぐの手伝ってもらえる?」
「あいよーセリカちゃん、ちょっと待ってて」
ミナミは確かゲヘナの子だったか、ロッカーが隣なのもあって、この中では一番仲良くやっている。
今着ているバニースーツは、一応1人でも脱ぎ着できるが、手伝いがあったほうがいろいろ楽だ。
最近は他の子たちと談笑することも多く、手が空いてそうなら脱ぎ着を手伝ってもらっている。
もちろん、下着はストッキング以外着けていないので裸をさらすことにはなるが、そのくらいなら最近は気にしていない。
そんなこんなで脱いでいると、
ぬちゃり♡
っとクロッチのあたりから水音がした。
「あ…」
「あー濡れてるね、セリカちゃん」
「い、言われなくてもわかってるわよ!」
いろいろと慣れてきたつもりではあるが、こう指摘されると流石に恥ずかしい。
「まあ、あの子のダンス、エッチだったからね。私の方も、ほら」
そう言って、彼女もクロッチをずらし見せてきた。私よりも量が多く、アソコと布地の間で糸を引いている。
「な、なにやってんのよ!バカ!」
ミナミは私よりも長く働いている分、そういうところに関してはあけすけだ。さすがにそこまでは私も耐性はない。
こんな感じで、馬鹿話をしつつ片付けていく。バニースーツをしまうロッカーは、自動洗濯機能があるので汚れていても放り込むだけでキレイにしてくれる。ミレニアムの技術でも入っているのだろうか。
(まあ、便利だからいいかしらね…ん?)
ふと隣を見るとミナミが外したチョーカーを見つめていた。
「どうしたのミナミ。チョーカーなんか見ちゃって」
「あー、いや。このチョーカーを付けるのも今日で最後だからさ」
「えっ、嘘。辞めちゃうの?バイト」
割と楽しそうにしてたし、私よりも向いていそうなのに、と思っていると。
「違う違う。契約を変えるのよ。今度から私も黄色チョーカーってわけ」
「あっ、そういうことね。納得」
「ほら、黄色の人たち見てると楽しそうにヤってるじゃん。お給料も増えるみたいだし、せっかくだからね」
働いているミナミを見ていると、お客さんからの指名も多いし、そういうことに興味があるならうまくやっていけるだろう。
「まあでも、寂しくなるわね」
「大丈夫よ~。同じお店なんだし。あ、もしセリカちゃんがチョーカー変えたいっていうなら相談に乗るよ♪」
「あはは…その時はお願いね」
その日のバイトはそれで終わりだった。私自身、今の給料で満足していたのでミナミの言っていたことはあまり考えていなかった。
あの出来事までは。
1週間後
「平和だね~」
「ですね~」
「ん、だったら銀行にでも行く?」
「…いやいや、シロコ先輩。”だったら”の前と後ろに関連性が見えないわよ」
銃声も爆発音も全く聞こえてこない平和なアビドスの日常。夜の仕事も最近少し好きにはなっていたが、やっぱり対策委員会のみんなと過ごす日々は代わるもののない大切なものだった。
「そういえばセリカちゃん、最近ちょっとかわいくなってませんか?」
「えっ、そうかなぁ」
「あれだよ。お化粧のやり方がうまくなっているんじゃないかな~」
「それですよ、きっと♪今度どうやってるか教えてもらってもいいですか?」
「いやぁ…教えるって言ったって…」
「ふふ、皆さんそのくらいにしてあげましょう。セリカちゃん、困ってますよ。…あれ?電話ですね。私が出ます」
部屋に置いてある黒電話が鳴る。ちょうど近くにいたアヤネがそれに出る。
「はい、こちらアビドス高等学校です」
この電話が、私の…いや、私たちの運命を決定づけるものだった。
「はい、お世話になってます。はい…え、すいません、もう一度お願いします…ど、どういうことですか!?」
「…アヤネちゃん?」
「待ってください、そんなにすぐには…あ、ちょっと。もしもし、もしもし!」
アヤネは、しばらく放心したあと、震える手で受話器を置いた。あんなに動揺した彼女は初めて見た。
「…どうしましたか?」
「オクトパスバンクからです……その…」
「今月の返済分から、利息を1500万円に引き上げると通達がありました」
彼らの言い分はこうだ。返済の見込みが薄く、債権としてのリスクが高いため利息を上げることにした、と。
当然のことだが、到底納得できる話ではなかった。第一、先月は過去最高金額だったのにリスクが高くなるのは筋が通らない。
その日の委員会は荒れに荒れた。シロコ先輩の銀行強盗案が大真面目に検討されるくらいにはみんなおかしくなっていた。
ただ、一度みんなの収入を確認し、300万円くらいなら何とかなるという結論に落ち着いた。
「…みんな無理だけはしないでね。けがだけはしちゃだめだよ」
というホシノ先輩の言葉でその日の集まりは終わった。
その晩のお仕事は上の空だった。お尻を触られたのに何の反応もしなかったのを逆に心配されたくらいだ。
家に帰ってもずっと頭を悩ませたのはお金のことだった。
「300万…300万かあ…」
正直に言うと、みんなかなりギリギリな感じだ。これ以上、上乗せできるかというと怪しい。
「…」
手元の書類を眺める。あの場所を、みんなと居られるあの場所を守れるかもしれないこの契約。
「…一回話を聞いてみよう」
スマホから、一番最近登録したモモトークのアドレスを呼び出す。
『ミナミ、ちょっと話をしたいんだけどいいかな?』
「いらっしゃい。あんたの友人なら先に個室で待ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
次の日、クラブの入り口にあるカフェでミナミと会うことにした。
基本的にクラブの話を外でするのは禁止されている。誰が話を聞いているか分からない以上、仕方がない。
なので従業員同士で話をするときはこのカフェでするよう推奨されている。
どうも組織の密談にも使われているらしく、個室には盗聴機などは仕込まれていないと保証している。
その分個室利用料は高いらしいが、クラブの従業員ならサービスとしてただで使える。
一番奥の個室に通されると、すでにミナミがコーヒーをすすっていた。
「ごめん、待ったかしら?」
「ちょっとね、ここのコーヒー美味しいから大丈夫だよ~。それよりほら、セリカちゃんもなんか頼みな」
「そうね…じゃあこの紅茶でも頼もうかな」
注文はクラブと同様端末を通して行われる。しばらくするとティーカップを機械が運んできた。人に聞かれることを避けるための配慮だろう。
あまり私は詳しくないが、届けられた紅茶はトリニティで御用達のものらしい。実際かなりいい香りだ。
注文が届けられるまでの間は、ミナミと他愛もない会話を続けていた。
しかし、私の紅茶が来ると、本題に入った。
「それで、セリカちゃん。話って黄色チョーカーのこと?」
「…うん、そうよ」
「一応聞きたいんだけど、どういった心変わりかな?この前まで乗り気じゃなさそうだったけど」
「あー…うん、実は…」
そこから、アビドスの現状を簡単に説明した。
大量の借金があること、それを返すためにここで働き始めたこと、利子が跳ね上がり大金が必要になったこと。
その話を、ミナミはじっと聞いてくれた。
「…なるほどね~。…うん、なら大丈夫かもね、セリカちゃんなら」
「えっと…大丈夫というと」
「正直言うとね、ただお金が欲しいってだけじゃ結構大変なのよ。エッチなことに興味があるんなら大丈夫だけど、お客さんに気持ちよくなってもらうためにいろいろ工夫しなきゃだし」
「でもまあ、働いている様子を見てると大丈夫だと思うよ。ここのお客さん結構優しいし、やる気があれば気持ちよくさせるコツもちゃんと教えてくれるよ」
「…うん」
「それにセリカちゃん、結構ムッツリだしね」
「だ、誰がムッツリよ!」
はじめは感心して聞いていたが、いきなりそう言われたら流石に突っ込む。
「えー、この前だってしっかり濡れてたじゃん」
「そ、それは…」
「それにおとといだったかな、私がお客さんの相手してるのをがっつり見てたし」
「んー!」
バレてる。いやまあ友人がどんなことをしているか気になっただけというかなんというか…
「…はぁー。そうよ、その…エッチなことに興味はあるのよ」
「うん。なら大丈夫だ。聞く?私がどんなことしてたのか参考がてら」
「…うん」
あくまで参考だから。どんなことをするのか参考にするためだから。うん。
今日はバイトを休むことを伝えていたので、ミナミと別れたあとはそのまま帰った。
適当に夕食を食べたあと、お風呂に入るために脱衣所で服を脱ぐ。
スカートを脱ぎ、ショーツに手をかけたところ、
ぐちゃり♡
と重い水音と共に、大量の糸を引く。
「…ぅぅ」
とりあえず他も脱いで浴室へと入る。シャワーを出し、お湯を被って一息つくとミナミとの会話を思い出してしまう。
「すごかったわね…さっきの話……っ!」
まただ。シャワーのお湯とは明らかに違う粘り気のある液体が脚を伝う。いつもと比べ圧倒的に多い。
仕方がないので、さっさと体と髪を洗い湯船に浸かる。
「ふぅ~…ご奉仕、か」
自分の仕事ぶりを語るミナミの表情を、あの熱っぽく高揚した表情を思い出す。もとから興味があったとはいえ、1週間であそこまで人は変わってしまうのだろうか。
ミナミ以外もだ。ウェイターをしているうちに自然と見てしまう、黄色や赤のチョーカーを付けた子たちの蕩けた表情。
私もああいう表情をするようになってしまうのか。
それを怖いと思う自分と、どこか楽しみにしている自分がいる。
「…ん」
自分のアソコを指で触れる。湯船に浸かっているのに、その周りだけぬめり気がする。
「んっ…はぁ…あっ…」
指の動きをだんだん早めていく。そのたびに私の知らない感覚が広がっていく。
自慰をするのは初めてだった。性を身近に感じていたにもかかわらずにだ。一度この味を知ってしまったら、戻ってこれなくなってしまう気がしたから。
けれど、あの子たちと同じところに身を置くことにしたのだ。もう、戻るも何もない。
「あっ…♡はぁあ…♡んっく…♡」
(指ぃ…止まらない…♡)
頭が蕩ける。体も熱くなる。ぼやけた視界で下を見ると、乳首がピンと立っていた。
「こ、こっちもぉ♡」
空いている手でそっちも触ると、そこからもびりびりとした快感が広がってくる。
触れている場所すべてが気持ちいい。
「あっ、何、これぇ…♡くる、んぁあ…♡」
なにかすごいモノがくる気がする。私の体のはずなのに、まったく制御できない。
(来る…ダメ…♡戻れなくなっちゃう…♡)
知りたい、この感覚を。私の中のどこかはそれを拒もうとするが、理性と本能はそれを望んでいる。
自分の体にとどめを刺すように…乳首と陰核を強くひねる。
「あっ、あっ、あっ、あああぁぁぁあああ………♡♡♡」
思考ができなくなる。体ががくがくと痙攣し、深い快感が全身をまわる。こんなのは初めてだ。
「……ぷはぁ…!はぁ、はぁ、はぁ…」
1分経っただろうか、もしかしたらもっと短いかもしれない。あるいは何分も経ったかもしれない。ようやく戻ってこれた。
「はぁ、はぁ…これが…イクってことなの…?」
なんというか、知ってしまったという感じがする。これを一度知ってしまったら、もう戻れない。
たぶん、今の私はあの子たちのような顔をしているのだろう。
「…お風呂あがろ」
気持ちを落ち着かせるため、浴室を出る。
パジャマを着て、ドライヤーをかけて、椅子に座る。
「…」
目の前には2枚目の契約書。昨日までの私なら、名前を書くのを迷っていたかもしれない。
けれど、今の私には書かない理由がなかった。