・後日談集エクストラ

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─元上司黒鹿毛さん─

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残暑がようやく過ぎ去ったと思ったらすぐに寒くなって、冬を感じる頃。


「私はウマ娘なんだから別に気を遣わなくていいんだぞ?半分持とうか」


「妊婦なんだから無理しないで下さい」


マタニティ用品を買いに行った帰り、そんなやり取りをする。どうやら子供ができても、籍を入れても生真面目なのは相変わらずらしい。


「こんなにお腹も膨らんできてるのに」


「うぅ…そ、そんなに優しく触られたら変な気分になる…」


誰が見ても妊娠していると分かる程度には大きくなった膨らみを擦る。……ここに自分との子がいるのだ。


「ま、身重な間くらいは力抜いて、俺を頼ってくださいよ」


「……ふふ、ずいぶん頼もしくなったな」


そう言って笑い合う、とそこに数人の人影がやってきてすれ違った。


(姉ちゃん、次はゲーセン行きたい…)


(…そうですね、私も)


(別に良いけど帰りの電車の分まで金使うなよ)


(はーい)


そんな会話が聞こえてきて、またすぐに遠ざかっていく。


「あれ、今のってウマ娘…でしたよね」


「ああ、ウマ娘二人と男性…もしかして私達みたいにあにまん民なんだろうか」


ウマ娘が出現する現象は以前から話題になっており、自分達以外にもいることは知っていたが…実際に目にしたのは初めてだ。

ただまあ、自分としてはあまり興味を引かなかったのでそのまま歩き出そうとしたが。


「どうしたんです?何か引っ掛かることでもありました?」


彼女がウマ娘達の方をずっと見つめて動かなかったので声をかける。


「ああいや、あの子達…なんだか他人の気がしなくて」


「おそらくあにまん民だから?」


「いや、うーん……そう言えばウマ娘になる前、甥がいたような…あれ、姪だったか?うーん……まあ、いいか」


「大丈夫ですか?」


「…ああ、大丈夫だ。今の私にはあまり関係のないことだ」


「ひとまず帰りましょう」


俺は彼女が離れないよう手を引いて、再び歩き出した。






─のじゃロリ芦毛ちゃん─

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「そう言えばお前、ウマ娘より前から競馬やってんの?」


土曜日の午後、メインレースである重賞より前の新馬や条件戦から見ているウマ娘に質問する。


「ああ、わしゃ大先輩じゃぞ!何せ35年は競馬を観てきとるからな」


「35年?すげえな。見始めたきっかけとかあんのか?」


「まあわしも元々は競馬に興味がなかったんじゃがな、アラサーの頃に競馬好きの上司に連れられて行ったんじゃ。その上司に色々聞かされておってダービーと有馬が一大イベントらしいってのは知ってたんじゃが、初めて連れられたのは何故かダービーの一週間前のオークスじゃった」


「へぇ、オークスか」


「ダービーじゃないのかと聞いたが『まあ見てろ』って返されてしばらく見てたんじゃが、そこに漆黒の馬体に目立つ大きな流星の牝馬が出てきてな。わしも素人ながらおお、この馬は!とピンと来た訳じゃ」


「その馬は?」


「──メジロラモーヌじゃ。オークスではずっと中段につけて、直線で抜け出して2馬身半の貫禄勝利。昔のCMの言葉を借りるならまさしく“魔性の青鹿毛”じゃったな」


なるほど、メジロラモーヌ。ウマ娘にもアプリ開始からしばらく経って公式に姿を現している、


「それでもうわしはメジロラモーヌの、そして競馬の虜になったわい。上司に連れられずとも自分でダービーを見に行ったし、三冠目のエリ女もその年の有馬も行った」


有馬ではラモーヌが9着に終わってそこで引退になったのは残念じゃったがな、と寂しそうに呟いているのを見て、当時の空気を微かに感じた。


「86年から見始めたってことはじゃあオグリのラストランも見たのか?」


「ああ、当日中山に行っとったぞ。まあ人が多すぎて全然レース見れなかったんじゃがな」


「…なあ、もっと聞かせてくれよ。お前の競馬の体験」


「良かろう、わしも楽しくなってきたところじゃ!」


そして俺達は、競馬について語り合って時間も忘れるほど長く話し込んだのだった。

初めは「なんだコイツ」と思ったけど、今にして思えばこうやって出会ったことはまあ悪くないな、と感じる。






─留学生尾花栗毛ちゃん─

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「おお、このグッズ、全部ホンモノですね!?」


「うん、本物だよ」


僕の家に唐突に尾花栗毛ウマ娘が現れてからはや1か月が経った。色々落ち着いた頃合いということで、彼女の希望でアニメショップにやって来た。ウマ娘になる前は勉強漬けで大学に行くとき以外はほとんど外出してなかったらしい。


「これも、これも、これも!是非とも欲しいです!…けど、お金が…足りますかね」


「今回くらいは僕が出すよ?」


この1か月、彼女は僕に迷惑をかけまいとバイトで自分でお金を貯めていて今日はそれで欲しいものを買うつもりのようだ。別に僕は気にしないのだが、本人はそうではないらしく。


「いえ、大丈夫です!えーと、ギンミ、します」


「ゆっくり決めていいよ」


「はい、うーん……これは……やっぱりこっち…」


僕も気になるウマ娘のグッズがあったのでそれをしばらく見ていると、彼女が手にグッズを抱えて来た。


「これで、決まりにします!」


「うん、僕も買うのが決まったからレジ行こうか」


そうしてお会計をした帰り道、ややひろめの公園の前で彼女が足を止めた。


「日本の公園、よくアニメに出てくるので遊んでみたいです」


「うん、いいよ」


ブランコやジャングルジム、滑り台などで遊ぶ彼女はとても楽しそうで、体は大きいのに子供みたいで微笑ましい。


「ふふ、満足しました!」


ただ、同時にろくに外で遊べないくらい勉強を頑張っていたんだな…と思うと、今は少しでも息抜きして欲しいと感じた。


「またこうやって外に出たいときは、いつでも言ってね」


「はいです!」


公園を出て、僕らは再び帰路についた。




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