違えた「甘味」5
トリニティ襲撃作戦==================
ナツ「トリニティ襲撃だと…?補習授業室長さん、まさかアビドスは反抗勢力相手に戦争でもおっ始めるつもりなのだろうか?ホシノ様やヒナ様はなんと言っているのかね?」
ハナコ「ご安心ください♡襲撃と言いましたが、これは何も本気でトリニティと一戦交えるわけではありません♡」
ヨシミ「じゃあどういうこと?ハナコ様はなんでわざわざトリニティへ襲撃しに行くのよ?」
「そんなに難しいことではありません♡私が望んでいるのはトリニティで苦しむ方々をアビドスへご招待する…ただそれだけなので♡」
「…え?つまり結局何がしたいわけ?」
アイリ「ヨ、ヨシミちゃん!?ハナコ様に対してそんな話し方…!」
「いえいえ、そこまで硬くならなくて良いですよアイリちゃん♡簡潔に言いますね。砂糖を求めて止まないトリニティの方々を、あの毒蛇の巣窟から解放し砂糖をいつでも手に入れられる楽園へ…このアビドスへ迎え入れてしまおう!というお話です♡向こうには正義実現委員会の方々など、こちらへ来てくれると非常に助かる大きな戦力もいますしね♡」
「(さりげなくアイリのことちゃん付けしたわね…)」
「なるほど?ここも上手くやりくりしているものの、更に人手が増えた方が流通や運営もしやすくなる…ということか。もしアビドスを打ち倒さんと立ち上がりし勇者達が徒党を組んで攻め入ってきたのなら…ここにいる者達だけだと少々心許ないのは同意するね。今のアビドスが弱いとは思わないが、団結し覚悟を決めた者達の強さは馬鹿にできない。」
「勇者って…ゲームじゃないんだから。それで、ハナコ様はアビドスイーツ団にトリニティ襲撃を手伝えって言ったけれど…具体的にどう手伝えばいいの?」
「ではその説明をしましょうか♡」
ハナコは笑みを崩さぬまま、テーブルの上にアビドスとトリニティが見える地図を広げた。そこにはトリニティへ伸びた二つの大きな矢印があり、その矢印に指を置くと作戦について解説を始める
「まず今回の襲撃作戦は、大きく分けて二つの部隊が動きます。
一つは、派手に動いてトリニティの反抗勢力を誘き出し、撹乱と足止めによって時間を稼ぐ[陽動部隊]
もう一つは、陽動部隊が時間を稼いでいる間に砂糖を求める方々をアビドスへ向かう車両にお連れする[勧誘部隊]
しかしこちらの自治を疎かにしてはいけない以上、補習授業室の皆さんや、風紀委員会の皆さんを部隊へ組み込める人数には限りがあります…とはいえある程度の強さを誇る方でないと、最悪の場合失敗に繋がるかもしれません。
♡そ♡こ♡で♡
私たちは考えました♡ならば、このアビドス自治区で名が通った優秀な方達にもご協力いただこうかな、と♡」
「それが…私たちアビドスイーツ団ということですか?」
「大正解ですアイリちゃん♡もちろん他にも、私たち補習授業室が“再教育”してあげた元不良の方々も部隊に含まれていますし、別の自警団にも協力を持ちかけました♡
そして皆さんは[勧誘部隊]に所属していただきたいと思っています。」
「我々の手で、砂糖不足に悩める子羊達をアビドスという楽園へ導く…そういうことだね?」
「ご名答です♡
次に作戦の大まかな流れですが、まずは陽動部隊がトリニティの外郭地区へ侵入し暴れます。そうすると未だ砂糖の魅力を知らず抵抗する勢力がそちらに注目して誘き出されますね?
そうすると陽動部隊が勧誘部隊に行動を開始したと無線で合図しますので、陽動部隊のいる地区とは対角線上にある地区にて砂糖の勧誘を行います。それを聞いて駆けつけた砂糖を愛する方々にその場でお菓子を配った後、後方の連行部隊がトラックや電車に乗せてここまでお連れする…といった感じです。
もし勧誘部隊を邪魔しようとする悪い子が居たとしても、貴女方アビドスイーツ団や腕に覚えのある皆さんなら十分対応可能でしょう♡陽動部隊の相手をしている間大きな戦力は迅速に動けないはずなのでご安心下さい♡」
ハナコはトリニティ自治区の地図から指を離すと、アビドスイーツ団がどう答えるか反応を伺う
「なるほどね。まだ正常なヤツらが動けるとしても多分数的に陽動部隊で手一杯だから、その隙に反対側で砂糖欲しがってる連中を呼び寄せてアビドスに連れてく…もし邪魔が入ったところで私たちがぶっ飛ばせば良いし、陽動部隊に気を取られてたヤツらがこっち来ようとしてもその部隊に足止めされるからこっちには来れない…ハナコ様頭良すぎない?」
「さ、流石補習授業室長さん…!こんなに凄い作戦を立てれるなんてビックリしちゃいましたっ!あ、その…作戦はいつ頃始めるのでしょうか?」
「褒めても何も出ませんよ?♡あら、いつ決行するのかを言い忘れるだなんて…失礼しました♡作戦日は2週間後の水曜日です、アビドスイーツ団の皆さんも是非この作戦に参加していただきたいのですが…よろしいですか?♡」
「勿論だとも。砂糖に飢えし同士を助けるためなら、たとえ火の中水の中。」
「(うーん、正直な話見返り無いの?とは思うけど流石に言い出しにくい…下手な事言ったら補習授業されそうだし…)」
「ああ、でも一つ聞きたいことがある。少々図々しい話かもしれないが構わないかね補習授業室長さん?」
「ええ構いませんよナツちゃん♡」
「私たちへの報酬…見返りはどんなものを用意しているのかな?」
その言葉を聞いたヨシミとアイリは口を開けっ放しにして硬直する
この状況で聞けるわけないと抑えていたヨシミの心情を完全にスルーし、遠慮なく見返りについて尋ねたナツの言葉に驚きを隠せないのも無理はない話だが…
アイリ「なななな、ナツちゃん!?今この状況でそれを訊いちゃうの!?」
ヨシミ「あんた…!ホンットそういう所どうかと思うんだけど!?バカでしょ!バカなんでしょ!あの流れでハナコ様に堂々と見返りについて訊く!?」
ナツ「酷い言い草だ…しかし考えてみたまえ諸君。我々はほぼ毎日アビドスに奉仕して見返りを貰っていたじゃないか。このような大規模作戦に駆り出されるのならそれ相応の対価を要求する権利くらいある…そうは思わないかね?実際ヨシミ君も同じことを考えていたんじゃ?」
「だっ…だからってドストレートに言うことはないでしょうが!それもハナコ様に今この場で!」
ハナコ「くふっ…うふふふふっ!♡」
「は、ハナコ様!?」
「いえ、失礼しました…やはり貴女方を襲撃にお誘いしたのは正解だと思いまして…つい♡」
「…そ、そうなんですか?」
「図々しいかもしれないと一言置きつつも、怖気付かずに見返りの話をしっかりできる…ナツちゃんは強いですね♡そして絶句してすぐにツッコミへ回るアイリちゃんとヨシミちゃんの反応も、皆さんが普段からとても仲良しで連携が取れていると伺えます♡」
「そ、そう…?まあハナコ様が悪く思ってないならいいけど…」
「いえいえ、私の方こそまずはその話をすべきでしたので…証を皆さんにお配りしてください♡」
親衛隊「はっ!」
側でずっと控えていた親衛隊の生徒は、一旦部屋を出ると1分足らずでまた戻ってきた。彼女はアビドスの校章が描かれた水色の腕章を3つ持っており、それぞれに腕章を手渡す
ナツ「これはまさか…アビドス認可組織の証…!?とんでもないものを貰ってしまった…!」
ヨシミ「これ、風紀委員会とかが着けてるのとは違うけど…なんか特別なの?」
アイリ「う、うんっ!これは認可組織の証で、これがあるとより高純度の砂糖や塩を貰えるし…しかもアビドスの飲食店やお菓子屋さんでかなり割引してくれるって話も聞いたよ!」
「ヤバ…てことはこの自警団の証からこれに変えたら待遇良くなる感じ?…えっ本当にこれくれるの?」
ハナコ「はい♡きっと皆さんも満足していただけると思ったのですが…見返りに相応しいでしょうか?♡もし足りないならば他にも…」
「「「ありがとうございますっ!」」」
食い気味にお礼を言うアビドスイーツ団へ微笑むハナコ。ナツ、ヨシミ、アイリの3人は早速自警団の証だった橙色の若干劣化した腕章を外し、綺麗な水色の腕章を着けた
ヨシミ「結構いい感じじゃない!これでまた飴玉みたいな純正品を…!?」
ハナコ「ええ♡お店の人次第ではたまに無料で貰える場合もありますし、自由にお使いください♡ただしその腕章を受け取った以上“アビドスへ転入した”扱いになりますが…構いませんか?♡」
アイリ「はいっ!私たち転入しますっ!これからはアビドスのみんなのために、頑張って働きますっ!」
ナツ「おお…これぞ、我々が砂漠の民、砂糖の民であることの証か!
…カズサもこっちに来ていたら…」
「…カズサちゃん…」
「…今はあいつの事なんかどうでもいいでしょ。」
「では2週間後の水曜日、よろしくお願いしますね♡そうですね…決行日まで豪遊など如何でしょう?♡特別に餞別をお渡ししましょう♡前金というものです♡」
そう言って親衛隊にアタッシュケースを用意させ数十万円を見せるハナコ
「ちょっ…!?お金まで!?」
「稼ぎは十分にありますし、将来有望な皆さんへの投資と思えば安いものです♡では良きシュガーライフを…♡」
アビドスイーツ団がアタッシュケースを持って校舎から出た後
「ふふっ…ナツちゃんもヨシミちゃんもアイリちゃんも…思った以上に面白い方達でした♡
カズサちゃんという言葉が聞こえましたが…大方皆さんの旧友といったところでしょうか♡もしその子と邂逅したとしても、きっと彼女達は銃を向けられるはずですし…ええ、問題無いでしょう♡
さて、次は陽動部隊長のヒナさんと作戦会議をしましょうか。恐らく出動すると思われるツルギさん達を抑える作戦について、色々話さねばならないですし…♡そしてこの騒ぎでトリニティのバランスは更に不安定になれば、いつでも滅ぼす事が出来るはず♡
…毒蛇の巣窟は、毒のない蛇だけ助けて巣ごと壊してしまうべき…ですね。」
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こうして私たちは、アビドスへ正式転入を果たした。
ハナコ様からいただいた公認組織を示す腕章の効果は絶大だった。
上層部の方々がいる校舎から出た時、その近場で質も金額も高くて手がつけられなかった飴を売っている店を見つけ入った。すると腕章を見た店員さんは驚いた顔を見せ、一気に値下げしてくれた事により喉から手が出るほど欲しかった飴を何十個も買えた。
その後アビドス中心街の飲食店へ初めて入った。そこで食べた料理は、風紀委員会のハルナ様が監修しただけあってどれも格が違っていた。
私たちはますます砂漠の砂糖に、そして塩に没頭していく。
ああ、こんなに甘いものを堪能できるだけに留まらず、しょっぱいものまで好きに味わえる…
とてもしあわせだ
作戦開始までの2週間、私たちはたっぷり贅沢の限りを尽くした。
これまではアビドス自警団の登録をした後に見つけた古びた建物を拠点にしていたが…そこから外縁部の中でも割と立地が良い地区へ赴くと、そこに立派な拠点を築き上げた。(と言ってもかつてあった廃墟を再利用したものだが)
この拠点には、通常と比べて遥かに質が良く高い飴玉や純度の高い砂糖や塩などが大量に保管されている。最早外縁部に限れば一番の富豪も同然だろう。
我々アビドスイーツ団の噂は轟き、作戦開始日までの間に悪事を働こうとする輩は現れなかった。
まさに我が世の春…というべきだろう。
1日ずつ作戦決行日が近づいていく
外縁部の支配者とも言える立場になれたことで、団長の私はとても気分が良かったが…ふたつほど、どうしても気がかりなことがあった。
ハナコ様の作戦を引き受けてから
アイリの笑顔が
まるで貼りついたような
寂しい笑顔になっていた
ヨシミの身体は
前にも増して
痩せ細っていた
アイリは時折「カズサちゃん」と呟き、私たちが話しかけてもどこか無理をしたような笑顔を浮かべるように…ヨシミは更に食事を摂れなくなってきて、一定量を超えるとほぼ確実に吐き戻してしまうようになった…
砂糖の魅力に取り憑かれて間もない頃とは違うとても痛々しい光景を、私は2週間の間ただ見ることしか出来なかった…
──ああ
そうだな…
2人がこうなったのはきっと
あの時私が
カズサの名前を出したせいだ。
偉そうな事をどれほど言おうが
今更完全に忘れることなど出来ない…
ヨシミも同じ。
アイリも同じ。
過去のこととはいえ、
カズサはなくてはならない存在…
今更そう実感していた。
だから私たちは
完全に狂いきれず
一定の正気を保てているのだろう…
でも
でももう
止めることは出来ない
私たちは
トリニティと決別し
カズサと決別するために
この襲撃に加わるんだ。
カズサ
これが最後の願いだ。
どうか私たちが果たせなかった分
最後まで平凡な生徒として
“放課後スイーツ部”であってくれ。
行く所まで行ってしまった
我々とは違う道を。
…
もしも
もしも君が
行く手を塞ぐならば
私たちは………
君を撃つよ。カズサ──
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そして作戦決行の日がやって来た
アビドスイーツ団は、かつてアビドスへ来るのに協力してくれた元ハイランダー生徒が運転するトリニティ行きの列車に乗り込むと、一番前の席へ座った
同席した[勧誘部隊]の面々は、戦闘時に備えた砂糖と勧誘のために使うお菓子を各自持っている。貨物車両には人々を乗せるためのスペースと膨大な量の甘味が積載されており、外見は普通なもののさながらお菓子の列車同然の姿を醸し出している…
ナツ「ほぉ…凄まじい様相だ。」
アイリ「これだけあったら、きっと砂糖を欲しがる人たちも目を輝かせて飛び乗っちゃうよね…!」
ヨシミ「うん。…っ!頭いたっ…」
「大丈夫かねヨシミ?無理しては…」
「いいの、大丈夫。大丈夫だから、ほっといてっ…!あっ、ごめんそんなつもりじゃ…」
「いいや、調子が悪い中ここまで連れて来た私が悪い…リーダー失格だね。」
「そ、そんなことないよ!ナツちゃんは立派なアビドスイーツ団の団長さんだから…!」
「そうそう、いつもみたいに自信持ってなさいよバカ。…カズサと会えるかな、私たち。」
「……もしかしたら、だけれどね。だが恐らく会うことになるだろう。」
「カズサちゃん…きっと怒ってるだろうなぁ…でも、今度こそちゃんとお別れしなきゃ、いけない…」
「また会えたならこの腕章を見せて自慢でもしてやろう。そして我々はアビドスに転入したんだと声を大にして言ってやるのさ。」
「あははっ…それ聞いたらあいつどんな顔するんだろ。」
「きっとすごくキャスパリーグなカズサちゃんが見れるかもね…えへへっ」
「ああ、とても楽しみだ…にひ。」
彼女達は笑顔でそう会話するが、決して心の底からの笑顔では無い…皆アイリと同じ貼り付けたような表情だった
数分後、列車のドアが閉じ動き出す。
[陽動部隊]が出発した無線に合わせて勧誘部隊の列車も出発する…
かくして、ハナコ主導のトリニティ襲撃作戦が開始された
ヨシミ「なんか、凄い久々な気がするわね…トリニティへ行くの…げほっ!」
アイリ「ヨシミちゃん大丈夫…?顔色、すごく悪いよ…?」
「はっ、アイリだって人のこと言えない顔してるし。」
ナツ「…おさらいするが、私たちの任務は砂糖を求めるトリニティ生徒をお菓子で釣り、この列車後方の貨物車両へ案内する事だ。邪魔が入った場合、戦闘特化の分隊…我々アビドスイーツ団や選ばれし自警団、そして有志の諸君が矢面に立って勧誘特化の分隊を援護する…といった具合だ。
皆の者、理解したかね?」
勧誘部隊員達「了解ーっ!」
「ふぅ…まさか勧誘部隊の満場一致で、私たちが部隊長に選ばれるとは…」
有志スケバン「そりゃあ外縁部の秩序を守りし最強の自警団と呼ばれたかの有名なアビドスイーツ団がいるとなっちゃ、やっぱ部隊長になってもらうのが良いに決まってますからね!…ああ今はちゃんと公認組織になったんですっけ?」
「今はそうですねっ!ハナコ様からこの腕章を貰えて…」
モブ自警団「いいなぁ。うちも今回功績あげて公認組織の証貰えるよう頑張らないと…!」
運転手「みんな歓談中のところ悪いが、そろそろトリニティに着くぜ!万が一に備えて私はここから離れられないけど、全員戻ってくるのを待ってるから!」
「ありがとね。その期待に応えれるよう頑張るけど、もしヤバくなったら私たちが緊急無線入れる。その時は戻れるやつだけ戻してから全力で逃げて。いい?」
「…了解した。君たちなら出来ると信じてるけど、もしもの時は置いてく。でもそうならないと私は感じてるけどね!」
「ああ、そう簡単に負けはしない。」
アビドスイーツ団はフレンドリーに話しかける隊員達へそう言ってみるものの、内心では“カズサと出会ったらその時点でもう戻れないだろう”と感じていた…
そして列車はトリニティへ到着する。
対角線上の地区では、陽動部隊長を務めたアビドス風紀委員長空崎ヒナの率いる陽動部隊が派手に暴れる
当然行動可能なツルギやイチカを始めとする正義実現委員会、スズミが中心となった自警団の一軍が駆けつけた事で大規模な戦闘が発生…
手筈通り勧誘部隊はその隙を突き、到着した地区周辺で勧誘作戦を開始。それにより大勢の市民や生徒…更には禁断症状で入院中の患者達までもがアビドスへ向かう意志を示し、正義実現委員会所属の生徒も大勢連れて来ることが出来た
距離的に陽動部隊と交戦中の一軍へ参加できないため、ここ周辺の治安維持を担う生徒も多少いたものの…彼女らが攻撃したところで、アビドスイーツ団を含む勧誘部隊には敵わず返り討ちに遭うしかなかった…
調子良くどんどん人を集め、全車両の半分近くがアビドス転入志願者で埋まったため、これはもう作戦成功だろうと勧誘部隊員達は喜ぶ様子を見せる
しかしその時、列車から少し離れた勧誘部隊のところへフードを被った1人の生徒が現れた…それは最早“魔獣”と呼ぶべき恐怖の権化。かの獣が襲来したことによりトリニティ襲撃作戦は崩壊を始める…
アビドスモブ自警団A「この調子でいけば作戦は大成功になりそう!これで私もきっと上層部に…あれ?誰か近づいてきてる?」
B「ほんとだ。うちの部隊…じゃなさそうだし、もしかしたら列車の事を知って止めに来たのかも!?」
A「じゃあ近づけないようにしなきゃ…ちょっとそこの!止まりなさい!止まらないと一斉に撃つわよっ!」
???「…やってみなよ。」
B「言ったからね!痛い目見ないうちに帰らなかった自分を呪っちゃいな!」
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ナツとヨシミとアイリが居なくなって、今日で6ヶ月と8日…
私は常に無気力な生活を送っていた。
砂糖だけは絶対許せないから触れようとしなかったし、中毒者が襲ってきた時はすぐボコってスズメ共に突き出した。
でもそれ以外は何をしてたか覚えてないし、多分何もしてなかったと思う。
そんなある日
突然アビドスが攻め込んできた。
空崎ヒナが中心となって57地区で暴れているらしい。私がいるのはちょうどその地区の反対側周辺だ。
ツルギ委員長達やスズミさん達自警団が交戦中で、宇沢は…あいつは遊撃隊みたいなものだし、あっちには行ってないと思う。私が今から行ったところでどうにもならないだろうけど、少しくらいアビドスの奴らをぶん殴れるなら…
その時後ろで誰かが倒れる音がする。
振り返ると、正義実現委員会の服を着た少女が石畳に倒れ込んでいた。
思わず駆け寄る。
カズサ「ちょっ、あんたどうしたの?」
正実モブ「うぅ…い、いま…あっちの方で…アビドスの連中が、生徒や患者さん達を誘拐していて…止めにいったけど、強い人ばかりだった、から…」
「は?あっち…?」
騒ぎの起きてる地区から見て、ぴったり反対側の方。つまり私がいる地区に近いところじゃ…?
…
ああそうか、ヒナ達がいる方は陽動だ
本命はその反対側で、砂糖中毒者を引き抜く事…そしてそれに気づいた正常な人たちは戻ろうにも陽動部隊が邪魔をするからすぐに向かえない…と。
なるほどね。
どこまでも卑劣な行動
堕ちに堕ちた気違い共が
絶対に許さない
私はボロボロな正義実現委員の子に早く避難するよう言うと、すぐ走り出して今いる場所から割と近い場所にある自宅に戻り準備を始めた。
普段着ているパーカーとは違う、かつて封印した呪物とも言える
“キャスパリーグ時代のパーカー”をクローゼットの奥から引っ張り出す。
はぁ…正直この服は二度と出したくなかったけど…こうでもしないとダメだ。
いつものパーカーを脱ぎ捨てると、漆黒に染まった過去をこの身に纏う。
たとえ黒歴史でも、アビドスに最大限の恐怖と絶望を与えられるならいくらでも利用してやる。
愛銃マビノギオンの弾薬も、とりあえずありったけ持ち出す。察するところ陽動部隊ほど多くはなさそうだけど、それでも虫みたいにいるだろうから…
そうだ。あいつらは害虫だ。
害虫なら…駆除すべきなんだ。
フードを被る。
私は平凡を捨てる。
杏山カズサは死んだ。
私は、怪猫キャスパリーグ…
気の違えた甘味中毒者を滅ぼす者だ
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