違えた「甘味」4

違えた「甘味」4

「アビドスイーツ団」結成

【違えた「甘味」3】

【違えた「甘味」5】

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──我々はかつてのように、仲睦まじく雑談するフリをしてわざとカズサに尾行させた。

“平凡”に憧れ、魔獣「キャスパリーグ」から普通の生徒になることが出来た少女を守るためには…この方法しか思い浮かばなかったのだ。

魔獣の身から解放されし“平凡な少女”が日常を平和に過ごす…その望みを叶えるには、我々みたいな砂糖(クスリ)によって堕落し狂った獣たちがいるなど許されないだろう。
獣の存在する“放課後スイーツ部”は彼女の居場所とは呼べない。

だから、すまないカズサ…


──どうか君だけでも
   放課後スイーツ部であれるよう──


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ヨシミ「でさー…えっと、なに言おうとしてたんだっけ?忘れちゃった…」

アイリ「もう、ヨシミちゃんってば、私たちに聞かれても分かんないよぉ?え、えへへ…」

ナツ「(砂糖が欲しい…また禁断症状が…会話が続かなくなってきた…)
ヨシミ、アイリ、せめて黙りながら行こう…カズサに、我々が働く悪事の決定的瞬間を見せなければ…」

ナツは小声で2人にそう囁く

「…うん、分かった。おかしくなったところも見せないように…我慢して…」

「はぁ…カズサはちゃんと着いてきてるっぽいけど、ここからアポピまで黙って行くわよ。この路地まで来たらもうすぐだし。」

2人も小声でそう返答した。

会話が途絶えた中、3人の足音と少し遅れて追いかける静かな足音のみが路地に虚しく響き続ける。

ナツ、ヨシミ、アイリは歯を食いしばって禁断症状を必死に耐えながら、足早にアポピへと向かう。自らの狂乱をなんとか理性で必死に鎮め、遂に目的地へ辿り着いた。
そこには昨日と同じ店員がカウンターで店番をしていて…


店員「君たちか。…合言葉は?」

「スイーツ団」
「スイーツ団」
「スイーツ団」

「よし、じゃあ着いてきな。」

先日と同じくバックヤードの店員に声をかけレジを任せると、店員は3人を昨日とは違う路地へ案内する。取引場所をランダムにすることで張り込みや尾行の対策をしているのだろう。

しかしカズサは案内されている間、入り組んだ路地を迷う事なく3人を尾行できていた。それは「キャスパリーグ」の頃から身につけし、気配を消して対象を追う特技…怪猫と呼ばれる所以の一つであろう特技が活かされているのだ。

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暗くて陽光がほとんど当たらない、闇に生きる者たちが好む路地裏に行く

───こんな場所、みんなには似合わないはずなのに…

胸が痛い
潰れそうだ

でも放っておくわけにはいかない


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「ここで良いだろう。」

取引場所へ着いた店員は足を止めると、カバンから飴の包みを取り出す。ナツ達は濁った瞳によくない光を差しながら包みを見つめて財布を取り出した。

「上に話したら値下げの許可を貰えたんだ。カルテルの方々も砂糖仲間が増えるのを喜んでいたぜ?本来ならこの純度の飴だと一個5000円くらいなんだが…今回は3000円で良い。」

「ほ、ほんと…!?じゃあこれ…!出すから早く、早くちょうだい…!」

3人はだらしなく口を開けよだれを垂らしながら、それぞれ1000円札を6枚分無造作に掴むと店員へ渡した。それを受け取った店員は対価に包みを2つずつ渡す。

「ちょうどだな。飴が欲しくなった時はいつでも来ていい。君たちの事は気に入ったからな…」

そう呟いた店員はくしゃくしゃのお札をポケットに捩じ込むとその路地から立ち去る。飴に夢中な3人にユメを楽しませるために…そして去り際

「またのご来店お待ちしてますよ、お客さん」

そう伝えて店へと戻ったのだった。

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物陰から気配を消して取引を見続け、去り行く店員への殺意を抑えながらも私は路地へ入る

声をかけようとした


その時ナツとヨシミが
大粒な水色の飴を口に放り込んで
至福に満ちた笑みを浮かべた

思わず私は3人の元へ駆けつける。


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ナツちゃんとヨシミちゃんは、店員さんが居なくなってすぐに包みを破き捨てると飴玉を口に含んだ。

とっても幸せそうな顔でよだれを垂らしながら味わっている。


私も、私も幸せに──

『吐き出して!ナツ!ヨシミ!どう考えたってやばいヤツだよ、それ!』


あっ

カズサ、ちゃん…

   そういえば、飴を買いに来たのは
   カズサちゃんとお別れするため…


『っ!』

カズサちゃんが私の手から、まだ開けていない飴の包みを取り上げた。

「あ……」

取られた

『ごめんアイリ、でもこれ、絶対ヤバい薬か、何かだって……』

なんで?

なんでとるのカズサちゃん?
ひどいよ
わたしもしあわせになりたいのに

「……やめてよ」


さとうがほしいのに

じゃましないで

「やめてよカズサちゃん。そういうの」


わたしたちおともだちだったでしょ?

なんでほしいものをとりあげるの?

はやくかえして

「私達、楽しんでやってるんだよ?

いけないことだって知っているけど、
もう、やめられないんだよね」


そう

いけないことくらいわかってる

でももう、これなしじゃ

これなしじゃいきられない

だからかえしてよ


『やだ、やめて、早く病院に行こう』

なにいってるの?

いみわかんないよ

やめてほしいのはこっち

おもわずえがおをつくる

カズサちゃんをみくだすえがお


「やめて?私の台詞だよ?はやく、その飴を返してほしいな」

いまほしいのに

カズサちゃんはわたしてくれない

どうしてしあわせをとめるの?

なんでみつけたの?


「この飴、カズサちゃんが知ったらこうやって止めてくるだろうからやめよっか、って皆で決めてたんだよね……なんで見つけちゃうの」

なんでみつけちゃったの?

               ちがう

 みつけるようにしたのは…わたしたち

       なのに、なのに、なのに

カズサちゃんを

せめたくなっちゃう

だってあめをかえしてくれないから


「あ。カズサ、これ食べる?」

ヨシミちゃんがカズサちゃんに

もうひとつのつつみをわたす

ヨシミちゃんはやさしいね


『食べないっ。皆も食べないで……』

「……え、つまんな」

せっかくヨシミちゃんが

あげようとしてくれたのに

ほんとうはごせんえんもするあめを

こういをはらいのけるの?

カズサちゃんがそんなひとだったなんて

がっかり


──…あ!

もしかして

わたしたちがこのあめをたべるのが

らしくないっておもってるのかな?

そんなことないよ!

カズサちゃんはまだきれいなままだけど

わたしは

わたしたちは


「私だって別にそんな綺麗な子じゃないよ?こうやって依存症になっちゃうくらいには汚れてる」

いってあげた

カズサちゃんは“せいじょう”なんだって

わたしたちは“いじょう”なんだって

こういえば、わかるよね?



『……アイリ、』

わたしをみるカズサちゃんのめ

こわい

そんなめでみないで

ぜんぶカズサちゃんのためなのに


「その眼、やめて?」

『私は、ただ、こんな危ないこと……』


まだいってる

しつこいよ

まだききたりないなら

もっといってあげる

わかるまで

いってあげるよ

「あのね、美味しいの。……うん。あんな歯磨き粉みたいなの、どうして好きになってたんだろうね。」

「あっははは、分かるわ」


ちょこみんとなんかもうしらない

さとうさえあればいい

あめさえあればいい

このあまさだけあればいい

ヨシミちゃんはよくわかってる

カズサちゃんのわからずや

ヨシミちゃんをみならっ…


『ふざけ…………!』

「きゃっ!?」

きゅうにカズサちゃんが

わたしのむなぐらをつかんだ

かべにせなかがあたる

「っあ!?」

いたい

いたいよ

あめをとりあげて

こういをはらいのけて

かべにたたきつけて

──さいてい



『何言ったかわかってんの!?
やめてよ、そんなこと、
言っちゃ、ダメ……!』

なにいったか…なんて

そんなの

              そんなの

 カズサちゃんをまもるためのことばに

         きまってるでしょ?

   わたしたちみたくならないように



「……………カズサちゃん、離して?」

カズサちゃんはてをはなした

じめんにあしがつく

せなかはすこしいたいけど

そんなことよりあめがほしい

いいかげんにしてよ

あめがほしいの

ほしいほしいほしいほしいほしいほしい






じゃまするカズサちゃんなんか

きらい



「……ねえ、カズサちゃん。
カズサちゃんって、そんなに偉いの?
人の好みや大切なものなんて、変わるのが普通なのに、それに口出しする権利とか、ある?」



あーあ

いっちゃった

あははは



      ほんとはいいたくなかった

    こんなこといいたくなかったよ

 じぶんがなさけなくて、わらっちゃう


カズサちゃんはぜつぼうしてる

めにはうっすらなみだがみえる

      もうおいつめたくないのに

わらいがとまらなくなっちゃった

あはははは



『権利とか、何とか、じゃなくて……』

まだなんかいってる

おもしろい         ゆるして

あははははは



ぜっくしたカズサちゃんのてから

あめをとりかえす

やった

わたしもしあわせになれる

そうおもうとわらいがとまらない

ナツちゃんとヨシミちゃんも

あめをなめながらわらってた

「アハハハハッ!」
「ニヒヒッ…!」
「エヘヘヘッ!」

さんにんで笑う

カズサちゃんを嗤う

みんなでわらいつづける

たのしい

うれしい

きもちがいい




さいごに

これだけはいっておかなきゃ

「カズサちゃん、今まで楽しかったよ」


『……っ』

カズサちゃんはめをみひらいて

なみだをながしながら

だまってた

わたしもやっとたべれる

ぱく



あぁ

とっても

し あ わ せ



『ぁ』

カズサちゃんはあとずさる

『もう、勝手にして』

そう言って

私たちの前から走り去った
















              ごめんね

              ごめんね

            ごめん…ね…






     刹那のうちに感じた罪悪感は
    まるで飴のように溶けていった


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それから数日が経った頃、3人はいつものように強盗することでなんとか凌いでいたが…いよいよ財布が底を尽きそうになったため急遽方針を決めるのであった。



ナツ「さあ諸君、私は一つ妙案を思いついた!傾聴してくれたまえ!」

ヨシミ「なによナツ?そう言うからには強盗より実りが良い砂糖稼ぎがあるんでしょうね?」

「当然、じゃなきゃ自信満々に言わないさ…発表しよう。これから私たちは…

    アビドスへ行く!」


「…は?」

アイリ「…えっ?どういうこと?」

「これはアポピの店員さんから教えてもらった情報だが…どうやら今アビドスはボランティア治安部隊を欲しているらしい。カルテル上層部から聞いた話だから確かな情報だね。」

「そ、それがどうしたのよ?…まさか私たちがそのボランティアとやらになるっていうの!?」

「話が早くて助かるよヨシミ君。その通り!我々はこれより、アビドスの秩序を司る新たな力になるのだ!」

「いや、こっからアビドスの本部までどんだけかかると思ってんの!?そもそも場所さえよく分かってないのに無茶言うんじゃないわよ!」

「ちっちっち、そう逸るでない。なんとアポピの店員さん曰く、今日の夜ショップへ商品を届けに輸送部のトラックがやって来るそうなのだよ。」

「そっか!つまりそのトラックに乗れればアビドスに行ける!」

「左様、アイリ君は聡明だね。」

「…だとしてもいきなり乗せてくださいっつって簡単に乗せるわけ…」

「そこは安心したまえ、私が店員さんにお願いして輸送部の人たちに密航を見逃してくれるよう計らってくれたのだ…!これで安心。」

「アンタあの店員さんに甘えすぎ!情報提供も値引きもしてくれた上に密航まで助けさせんなバカ!」

「ま、まあまあヨシミちゃん。でもあの店員さんには頭が上がらないね…」

「はぁ…まあいいわよ、一緒に行ってあげる。アビドスに行ったら私たちで自警団でも作るって感じ?」

「自警団…かぁ。なんとなくスズミさんやレイサちゃんみたいなかっこいい感じにしたいな。」

「…よし、じゃあ団の名前を決めよう。こういうのはどうかね諸君──」







その夜、アポピ近くの広い路地裏に一台のトラックが停まる。複数の運搬係が積荷を店内へ運んでいる間…

運転手「お、君たちがアイツ(店員)の言ってたボランティア希望?」

「ああその通り。乗せてもらえて非常に助かった…感謝させておくれ。」

「良いってことよ。アビドスは一応風紀委員会こそあるっちゃあるんだけど…全部が全部見回れるわけじゃないからさ、君たちが外縁部辺りの治安を少しでも良くしてくれるなら大助かりってわけ!」

「そっちも大変なのね…ま、ちゃんと働いてれば本場の砂糖とか飴とか報酬でくれるらしいから、そういうことならちょっとくらい手伝ってあげようってね。」

「いやーありがたい!うちら元ハイランダーの輸送部隊は性質上外縁部近くにいることが多いからさ…あの辺の治安を少しでも良くしてくれるなら願ったり叶ったり!」

「そ、そういうことなら私たち頑張っちゃいますね!」

「うんうん、期待してるよ!…ところで組織名とかあんの?決まってるなら是非教えて欲しいな!」

「ああ組織名か…とくと覚えるが良い。私たちは」
「泣く子も甘味を譲る!」
「その名も…」


「「「“アビドスイーツ団!”」」」




















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そして現在

被害者市民から7割分の救助代を請求し、不良共が持ってた分+身柄を抑えた風紀委員会より贈られた本場の純正砂糖と飴とアビドスシロップを手に入れたアビドスイーツ団。

アビドス外縁部に所在するあまり立派ではない本拠地にて、獲得したそれらを獣のように喰らい尽くした数時間後…ヨシミは甘ったるい香りが充満する部屋の中で目を覚ました。


ヨシミ「っぁ゛…なにいまの…ユメ…?あはっ、なんか懐かしいような、つい最近のような…うぷっ!?」

包装や食べかけが散らかるテーブルに突っ伏していたヨシミは、寝ぼけ眼を擦りながら懐かしいような気がするユメを思い返そうとするも…不意に込み上げた吐き気に耐えれずお手洗いへ駆け込む。
その音でナツとヨシミも目が覚めた。


ナツ「はぁ…今は一体何時だ…?」

アイリ「…18時だよナツちゃん。」

「ヨシミは…ああまた戻してしまってるみたいだね。自警団を始めて少ししてからずっと身体に見合わない量を無理に詰め込むから…ODになってもおかしくないというのに全く…」

「で、でもナツちゃんも結構食べてるよね?私もだけど…」

「ロマンを身体に蓄えていた頃があるからね、アイリだってチョコ…ああいや、もうあんなものどうでも良かったね。私も今となってはロマンより砂漠の砂糖だよ。」

「うん…やっぱりこっちの方が食べてて幸せ…えへへっ」

そう言いながら机の上に置いてあるアビドスシロップのビンに口をつけて飲み始めるアイリ。ナツも同じようにシロップのビンを飲んだ。


少し経ち、ヨシミがやつれた顔でお手洗いから出てくる。調子はまだ良くなさそうだ。

「あ゛ぁ゛…ぎもぢわる…むりやりかっくらって寝ちゃったからかな…」

「だ、大丈夫ヨシミちゃん?」

「まあ、寝る前は最高にハイだったし…その分払い戻しなのかもね…あぁ畜生気分悪っ!」

そう言ってゴミ箱を蹴り飛ばすヨシミ。昔より気が立つ頻度が上がり激しさも増しているようだった。
その時本拠地の扉を叩く音が響く。

「あ゛ぁ゛!?何よこんな時に…!」

扉の近くにいたヨシミはイライラしながら扉を開けて捲し立てるように怒鳴り散らした。

「うるっさいわね何度も叩くんじゃないわよ!今日はもうやんないからとっとと帰ってシロップでも吸ってろっ!」

「!?まってヨシミちゃん!その人アビドスの風紀委員さん!」

「…えっ」

元ゲヘナ風紀委員「…こほん。気が立っている中突然訪問して申し訳ない。」

「あっ、いやその…ご、ごめん…ちょっと今気分悪くて…」

「そういう時もあるだろう、無礼は気にしない。お前達はよく頑張っているようだからな。…そんな君たちに伝えよう。上層部からの召集がかかった。」

「…なんだって?してその招集をかけた上層部とは一体何者かな?」

「…浦和ハナコ様だ。」

「「「!?」」」




ハナコ「どうも♡確か記憶だと初めまして…ですよね?♡」

「ああ、貴女の名前は何度も聞いたことがあるけれども…」

「うふふっ♡私も有名になりましたね?♡ええと、柚鳥ナツさんに伊原木ヨシミさん、そして栗村アイリさん。3人合わせて…アビドスイーツ団、でしたか?」

「は、はいそうですっ!」

「中々面白い組織名ですね♡あなた方の活躍はヒナちゃん…ヒナ委員長から時折届いていますよ♡なんでも外縁部を中心に治安維持に励んでいて、特に輸送部から大きな信頼を得ているとか…♡」

「その通り、あの辺は風紀委員も手を出すのが大変だと聞いてね。ならば我々が秩序を守るべきと判断し、このアビドスイーツ団を結成したのだよ。」

「まあなんて殊勝な心構え…♡今すぐご褒美をあげたくなっちゃいますね♡」

「(ね、ねえアイリ。なんでこの人語尾にハートマークついてそうな喋り方ばっかすんの?)」

「(ちょっとヨシミちゃん!?聞こえちゃったら失礼だよ!ハナコ様はみんなから恐れられる“補習授業室”の室長さんで、今まで悪いことをした子を“再教育”してきたんだよ!?)」

「(マジで…?えっじゃあ私たちもそうされちゃうってこと!?)」

「うふふ〜、お望みなら再教育、体験してみますか?♡」

「「ひっ!?」」

「ヨシミ、アイリ、いくら小声で話しててもバレバレだよ?さっきからハナコ様は2人のお声を聞きながらずっとあのニコニコ顔で頷いていた。」

「「ど、どうかお許しを…!」」

「いえいえ、悪い子どころか治安維持を頑張ってくれてる子に対しての再教育はしません♡…私があなた方をここに呼んだのは、“ある作戦”に協力してもらうためです♡」

「ある作戦…とな?」

「はい♡もちろん引き受けるならそれ相応の報酬をお約束します♡」

「して、その作戦とはいかに?」

「それは………

トリニティへの襲撃

です♡」

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