真実

真実

スレ主

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 あと一歩というところで間に合わず、朽木さんから取り出された〝崩玉〟は藍染の手の中で静かに輝いている。

 その近くには犬の顔をした隊長が転がっていた。


(何か鬼道を使ったのはわかってたけど、へぇ隊長がきてたんだ…)


 私が市丸ギンと戦っている間に戦ったらしく、重症ではあるが生きてはいるようだ。


「随分と口がまわりますね…もう時期貴方を殺しに死神たちが集まってくるのに」

「…私が恐怖心を抱いているように見えるかい?」

「さぁ」


 私は藍染の持つ斬魄刀から目を離さず、意識の外からも警戒を怠らない。朽木さんの救出も一度考えたが、目の前の男がまだ朽木さんの首につけられた首輪のようなものを掴んでおり、それは難しいと判断した私は一応朽木さんに対して心配そうに顔を歪ませる。

 本当は一護の治療をしたかったが、そんな暇を男が与えてくれるとは思わない。


「朽木ルキア…彼女とは親しい間柄のようだ」

「だったら?」

「ならば君も彼らのように浦原喜助について何か思うところがあるはずだ。今こうして君の友が命の危機に陥っているのだから」

「真偽は後で本人に聞くのでお気になさらず…それに私たちは自分の意思で朽木さんを助けるためにここに来た。その事象にどんな思惑が絡んでいたとして、今は関係ない筈です」


──妙に引っかかる…。


 当初の言動から私の行動パターンを知っているのは明白だった。そして、戦闘中に言っていた市丸ギンの言葉、あれが私の中の謎を更に加速させる。

──『キミのこと〝色々〟知っとるで?』──市丸ギンは確実に私の何かに触れていた。だが私はここに来てから何もしていない。それは確かだ。

ならば、市丸ギンは何を思ってその言葉を吐いたのか。


(ソウルソサイティに入ってからずっと私たちを監視をしていた…?それとも…)


──私のことをココに来る前から知っている…?


 私は幼少期から何者かの視線を感じていた。ソウルソサイティからの監視とばかり思っていた。しかし今思えば多きな勘違いをしていたのかも知れない。

 そうして自問自答の末、一つの答えに辿り着く。

私は真っ直ぐと藍染惣右介の見据えた。



「…見ていたのは貴方でしたか」

「…!…気づいていたのか」


 目の前の男は私の言葉に驚いていたが、しかしその顔からは喜色が見え隠れしている。


「驚いたな…一体いつから知っていた?」

「今さっきです」


藍染は口角を上げながら笑みを深めた。


「そうか……やはり…君は素晴らしい」


 藍染は再確認するように呟いた。その硝子越しの瞳には愉悦が浮かんでいる。

私は武器を手に取った。


「…単騎で私に勝てるとでも?」

「思ってません。ただ……貴方を裁くのは私ではないだけです」


 ──今回の件は藍染惣右介の離反を見抜けなかった死神側の不祥事、なら私がその不始末を処理する必要はない。


 死神が来るまでの時間稼ぎをするために、私は市丸ギンとの戦いで使ったゼーレシュナイダーを構える。

 藍染は私が言った言葉をポツリと繰り返す。


「…裁く……か…それが彼の意思か…」

「…?何を言って」

「…わからないか…それも当然だ」


そう言い終わると藍染は朽木さんを持ち上げた。


「朽木ルキアはもう用済みだ」


 藍染は市丸ギンの方向を見た。藍染は「ギンは動ける状態ではないな」と呟く。


「殺せ──要」


 その命令と共に、朽木さんに刃が迫った。


***


 倒れている重症の2人に、璃鷹は声をかけた。


「2人とも無事…とは言えないけど意識があって良かった」

「な、何とかな…」

「一応治療はするけど、私は専門的なことはできないから井上さんが来るまでは絶対に動かないで」


 今できる最善の応急処置を施す。織姫が来るまでの間にある程度やっておけば後が楽だろうと、背骨だけで繋がっている胴体をどうするべきか璃鷹は頭を悩ませる。


「璃鷹……わりぃ…」

「謝らなくていいから安静にして」

「…はい」


 謝る一護にそう一瞥する。

あとは隊長たちがどうにかしてくれると思っていた璃鷹だったが、そのアテは大きく外れた。

 瀞霊廷の空に穴が開く。その奥の暗闇には大量のメノスグランデが蠢いていた。


「大虚…!」

「……数が多い…」


 光の柱が藍染達を囲む。そして上へと上昇し、隊長たちが何もできずにその様子を見上げている。


「…大虚とまで手を組んでいたのか……何の為にだ」

「高みを求めて」

「地に落ちたか藍染…!」


 浮竹が眉を顰め鋭い眼差しを藍染に向ける。藍染はそれに傲慢とも言える態度で答えた。


「…奢りが過ぎるぞ浮竹 最初から誰も 天に立ってなどいない君も 僕も 神すらも だがその耐え難い天の座の空白も終わる──これからは〝私が天に立つ〟」


 藍染は眼鏡を外し髪を上げる。今までの優男然とした精悍な顔つきが、鋭く美しいものへ変わった。

 藍染は一護の側で介抱をしていた璃鷹を見た。


「死神の原罪──贄の王よ。貴方はただそこで、私の成すことを見ているといい」


 ──私の目を見ている……?…。

藍染の視線は確かに璃鷹を捉えている。しかし璃鷹はその更に奥を覗くようなその瞳に違和感を覚えた。

 その疑問が解消されないまま藍染は空にぽっかりと空いた穴に吸い込まれていく。


「さようなら死神諸君 そして旅禍の少年──霊王の巫女 人間にしては君達は実に面白かった」


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