致命的な失策

致命的な失策


前回、 前々回SS

あるアビドスモブの手記

どうにも最近、砂糖も塩も効きが悪くなった様な気がする。

接種量を控えた訳でも無いのだが、多幸感に浸る前に現実を見据えてしまう自分がここに居る。居てしまう。


私達のアビドスを導いてくださる首脳陣の3名のお陰により、かつて廃校寸前と呼ばれた本校は見違える程の復興を遂げ、それと同時 に諸問題が噴出し始めたのである。

具体的に言うのなら、統制が効かぬ末期砂糖服用者や他校との急速な関係悪化が主に挙げられる。

前者は砂糖や塩の薬効に身を任せたり、それらが切れてきた時の揺り戻しで衝動的に行動したりと、もはや単純な投与だけでは制御できないレベルであった。

後者は単純に学園復興の為に様々な他校から生徒を引き抜いたり転校してくる様に誘導したのが原因であり、その時の行動の爪痕がゲヘナ・トリニティを中心に大きく残ってしまったのが原因と考えられる。何なら首脳陣の3名中2名が他校出身者であり、古巣においてもなんやかんや重要視される様な生徒であった事が、よりこの問題を大きくする原因となった。


この2大問題以外で目下の問題と個人的に認識しているのは、私達の主の一人ハナコ様の精神状態が最近芳しくない事と、開発中の新兵器「仮称・偉大なサトウキビの矢」の新装備の進捗が宜しくない事である。

前者はある時からご友人との連絡が途絶えた事を発端として、砂糖の常用量を劇的に増やしたり、何やらよく分からぬ衣を身に纏って親衛隊と呼ばれる部下達に"ご褒美"を与えたり、等の奇妙な行動を行うようになった。この原因が、ご友人との音信不通によって精神的負荷が著しく上昇したものと個人的に考えていた。事実、独りでアビドスサイダーを煽っている時は、本来の優しく蕩ける様な眼差しの痕跡が一切伺えない憔悴したかのような表情であり、まるでそれをなんとか取り繕おうとする感じに、個人的に受け止められる印象であった。ついでに言うなら、全身から生やしたホース…いや最早ヘビと化した細長くうねるものも、どこか元気が無さげの様に見えた。

勿論、そんな状況のハナコ様に話しかける勇気は無かったものの、限界まで気取られずに接近できた事で、どうやら「ミカ」「ヒフミ」「アズサ」「コハル」という4人が今回の問題に絡んでいそうという情報を掴む事ができた。一応ハナコ様が個人的に目にかけつつも、布教するのは時期尚早と思ってか積極的な行動を起こさない関係である事は把握していた。かと言ってこれが役に立つ情報になるとは、当時は思っていなかった。


後者は、防衛用兵器として開発・配備された「仮称・偉大なサトウキビの矢」の戦略兵器化計画が遅々として進まないというものである。

計画では、噴水圧を用いて先端から装填した超高濃度砂糖水拡散弾を発射し、途中で弾頭後部に搭載された推進ロケットと誘導装置を用いて加速と誘導を行い、任意の学園に精密直接攻撃を仕掛けられる様にするというものであった。

上層部からすれば、他学園との大規模開戦を予め見越しておき、抑止力兼外交カードとして配備するというおつもりであったらしいものの、如何せん大規模かつチームとしてもこんなものを開発した事も無かった為に、作業工程が膨大化。その上服用者多数故に作業離脱者も日常茶飯事となる始末であり、できるものなら私も匙を投げたくなる惨状であった。


おまけにチームの一人が、俗に言う深夜テンションのノリで別の形での「サトウキビの矢」を独断で開発していた状況であった。

性能としては限界まで装薬を詰め込んだ上で、弾頭をサボットフレシェットスラグ弾の様な注射針の方式にすることで、初速と貫徹力を高めて確実に砂糖を"布教"するというものであった。個人的な評価としては、どうしてその技術力を本命の方で奮わなかったのかとツッコまざるを得ない程の、高い完成度であったと思った。

当初はハナコ様のお恵みである"超高濃度砂糖水"、もしくはその代替品を充填し、宣教隊や小鳥遊ホシノ様の主力弾頭とする予定であった。しかし、最近の前述したハナコ様の不安定なメンタルが影響し、その生成量も減少した事で高濃度砂糖水を充填せざるを得なくなる程、こちらも前途多難な状況であった。


これが、私が抱えている問題の数々である。大きさとしては砂糖が切れてきた訳でもないのに頭が痛くなる程であり、いっそOD覚悟で大量摂取しようか頭に過ってしまう事もあった。

なんとかしなくては…。

















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クソったれ!!!!!!!!あの馬鹿共とうとうやらかしやがった!!!!!!!!!


…と喚いてもどうしようも無いのは分かっていた。

希少なハナコ様のお恵み入りの「サトウキビの矢」を勝手に持ち出し、あまつさえ許可なき突入は戒められていたミレニアムに無断侵入。そしてハナコ様のご友人であったらしいコハルさんに、その矢を撃ち込んだ奴らが出やがったのだ。


前々からなにかやらかしそうな暴走気味の生徒達であったのは知っていたものの、まさか備品管理係や警備係、そしてハナコ様そのものまで出し抜いて、このような凶行に及ぶとは思ってもいなかった。

その上最初から片道切符前提で突入したせいか、事件の発覚も全員未帰還と認定するのも遅れ、後手後手に回ったのも大きかった。


事件の連絡を聞かされたハナコ様は、その場で握っていた金の杯(どこで用立てたのだろうか?)を取り落とし、「嘘…………!?」とだけ語って倒れ込みかけてしまった。どうにか親衛隊がその身体を寸前で受け止め自室まで運んでいったものの、どれだけ重大な事件になったのかが伺える一幕であった。

最悪な事に、この時の襲撃組の中には先の「偉大なサトウキビの矢」の中核開発生徒も含まれており、それに巻き込まれる形で本開発計画も大きな停滞を余儀なくされる羽目になった。


今の現状では、どれだけ砂糖を接種してもこの悪夢を忘れられそうに無い。

本当になんてなんてことをしてくれたのだろうか。


無能な味方が、最大の敵とはこういうものか……!!!!!!!!

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