海上のトーチカは少年の安息地たるや?3
(前)海上のトーチカは少年の安息地たるや?2 – Telegraph
※前回はキング主役の話を書いたので、今回はカイドウさん中心です。他SSの概念を勝手ながら拝借してます。
※キャラ崩壊と独自設定につき閲覧注意。
船の案内も終わり、早速仕事に取りかかることになった。本人に何か要望はないかと聞いてみたところ、体を動かしておきたい、とのこと。ワの国で初めて会った時は本丸の奥でどっしりと構えていたことからまるで慎重で動かない男のイメージがあったが、どうやらこの頃は不動が性に合わないことが覗える。
ドレーク「体を動かしたい・・・鍛錬か?」
子カイドウ「別にそこまでは求めてない」
ドレーク「そうか、それでは・・・・あぁ、掃除だ。今日は掃除の日なんだ、手伝って貰う」
子カイドウ「掃除?」
ドレーク「ウチの船は人員が少ないから皆でやるんだ。まさか、掃除は初めてか?」
子カイドウ「やったことある」
ドレーク「そうか。それなら、」
子カイドウ「砦の中で血だまりと死体を片付けたことはある」
ドレーク「Oh・・・・・・」
それぞれ個室があるとはいえずぼらな人間ばかり集まると整頓されることもなく、共有スペースにまで自分のテリトリーを侵食させている面々ばかり。まるで駄目な大人ばかりだ。今回綺麗にする予定の男子共有寝室も勝手に持ち込まれた私物が散乱されていたりいつのか分からない下着も・・・これ以上は考えないでおくのが賢明だ。
ドレーク「よし、君はこの部屋で待機していてくれ。俺は残りのメンバーを集めてくるからな」
ルフィ、ロー、暇だろう
ん~?
掃除の日だ。やるぞ
・・・俺はちゃんと片付けてるぞ
ロッカーに押し込んでいるのを片付けたとは言わん
ドアと壁の向こうで行われるやりとりを小耳に挟みながら、カイドウは部屋を見渡した。二段ベッドが4つ、そして巨大な敷き布団。こんなに大きい人間もいたのか、とやや驚く。少し動こうとしたら足下には私物が散乱している。何処で買ったのかわからないキーホルダーから数日前の新聞、そして謎の缶詰まで何でも転がっており踏み場もない。
何て綺麗な船なんだ、とこの少年兵は考えていた。何しろ彼が今まで乗っていた輸送船はまるで酷いもので、吐いた跡や血痕を拭うことなく、死骸の腐臭漂う船舶ばかりだ。物心ついたときからずっと似たような環境ばかりでそれを当たり前を思っていたため正直面食らっている。掃除する必要あるのかとすら思ってしまう。だがそれはドレークからの命令に違反するので口には出さない。
ドレーク「待たせたな」
ルフィ「おーし!やるぞぉ!」
ロー「頼むから壊すなよ、ルフィ」
モネ「ようやく大掃除ね・・・・ハァ」
まずは大きく窓を開け、モネが持ってきたゴミ袋を広げる。確実に要らないものはここでまとめられる。
子カイドウ「・・・・・・」
ロー「どうした?」
子カイドウ「捨てるのか、これ全部」
カイドウが見ているのは不要品をまとめた袋の山だ。かれこれ30分かけて積み上がったこの思い出の山をじっと見つめる。
ロー「いや、すぐには捨てねぇな」
ロー「加工できるものは全て燃料や飼っている電伝虫のための用具、肥料にする。ケチケチしてるが浪費するよりかはましだ」
ルフィ「こいつホントケチケチしてるんだよ、この前も隙間に落ちた1ベリー必死に取ろうと藻掻いてたし」
ロー「1ベリーを笑うものは1ベリーに泣くぞ。・・・というわけだ。お前のとこも大体一緒だろう」
子カイドウ「全部使い捨てだ」
ロー「何だと?」
子カイドウ「敵兵や敵国の人間から奪えば良かったからな」
ロー「・・・・・・」
ルフィ「海賊みてぇだな」
モネ「あれ私達・・・」
ローは困惑を隠せなかった。少年兵として青春を送っていたのだからある程度治安の悪いところで生き延びてきたのだろう、と考えてはいた。自身も恩人と共に逃げ出すまではスラム街にいたから貧民街の暮らしは知っているつもりだ。しかし、目の前の少年はそれ以上に壮絶な環境でいたのだ。奪うのが常道とは最早治安どころか統制すらついていないではないか。ふと横を見るとドレークが諦めを持った眼差しでこちらを見ている。どうやら同じ思いをしたようらしく、親近感を感じたのだろう。
ロー「・・・物はできるだけ大切に扱った方が色々と得だ。一々奪っていくのも億劫と思うこともあるだろう」
・・・・・・適当に誤魔化している自覚はある。例の少年はぽかんと口を開けたままでいたので少なくとも疑問に感じなかったのだろう・・・・と思う。
ルフィ「次は分別かぁ・・・・長いな~」
モネ「今まで汚いまま放置してたからよ」
ドレーク「本当に申し訳ない・・・君まで手伝う必要はなかったのに」
モネ「貴方達だけじゃ1週間はかかるから」
次はベッドの上に乗せていった「いるかいらないかすぐには判断できない物」の仕分けである。貯め込んで使わないのならいっそこれらも捨ててしまえば良いようにも思うかも知れないが、中には請求書やコレクションの一部も混ざってあるので一度この行程を挟む必要がある。カイドウ少年は記憶が欠けてしまっており取捨の判断が難しいことからはたきで隅々の埃を落とす係になった。てっきり暴れん坊かと思っていた面々はその従順な姿に気が抜ける。
ルフィ「あ、こんなとこにあったのか!」
ロー「・・・何があった」
ルフィ「あの時撮った写真だよ、ほら」
ロー「これは・・・」
ルフィ「おーい、カイドウ!見てみろよ」
子カイドウ「・・・?良いのか」
ルフィ「勿論だ!お前も仲間だからな!」
子カイドウ「なかま?」
ひょっこりと覗いてみると、そこにはこの海賊達が笑顔で映っている写真。周りには魚人達もピースサインをしたり変顔したりで入りこんでいる。
ルフィ「懐かしいなぁ、魚人島・・・よわほしも元気にしてるかな」
モネ「ここでジンベエと同盟を結んだのよね」
ドレーク「今思えばこんな形に納まるとはな」
子カイドウ「これが・・・なかま、なのか」
ルフィ「あぁ、そうだ。お前もおれ達の仲間だ!」
ロー(まさか「四皇」も入れるとは思わなかったが・・・)
子カイドウ「でも俺は護送されている兵士だ。お前等のなかまじゃない」
きっぱりとした否定が心に響いたのか、ルフィは固まってしまう。モネとローも衝撃を隠せない。見かねたドレークが話しかける。
ドレーク「カイドウ二等。つかぬ事を聞くが、君は仲間と言える者はいないのか」
子カイドウ「ずっと1人だ。いない」
ドレーク「そうか・・・」
彼の腹心に会うまでの長い間、ずっと1人だったのである。
ドレーク「良いか、これだけは覚えておいてくれ・・・必ず、君を理解してくれる人がいる。例え立場や生まれは違えども、必ずいる。今は分からないだろうが、覚えておいてくれ。俺達もそうだったのだから」
子カイドウ「?・・・・分かった」
ドレーク「さて、しんみりとさせてしまったな。気を取り直して続けようか」
一度片付けてしまうと見違えたように清潔になった。ルフィが「床が見えたぞ~!」と喜んでいたのだから尚更感動は大きい。どれほどの汚部屋だったのかはさておき、入浴の時間になったため皆浴室に移動する。普段は1週間に1回しか入浴しないメンバーもいるが、掃除をした日は必ず体を綺麗にするのが船のルールだ。
サンジ「そういやアイツも能力者だったけど大丈夫なのか」
ゾロ「さぁな。もしかしたら実を食ったのが10歳過ぎてからってこともあるだろ・・・それにキングが見てるから心配は要らねぇよ」
案の定すぐに逆上せてしまったのでキングが抱き上げて救出、現在は脱衣所のベンチに座りながら扇風機の風を浴びせている最中だ。残りのメンバーはカイドウについての話し合いを続ける。
ドレーク「それで、何か他に分かることは?」
チャカ「やはり若い頃については誰も知らない」
サンジ「やっぱ俺等で何とかするしかないな。いつまでもあのままじゃ不味い」
ルフィ「あいつデカかったなー」
サンジ「何の話だ」
ロー「「百獣」のやつらにも掛けたのか」
チャカ「あぁ。彼等からはすぐに特効薬を作って持ってきてくれるとのことだ」
その会話を扉越しに聞きながら、キングはカイドウの髪をドライヤーで乾かしていた。髪質が良い。カイドウはどうやら動かないのが苦手なのかそわそわしている。
子カイドウ「そこまでしなくても良い」
キング「良いからじっとしてろ・・・動かれるとやりにくい」
子カイドウ「うぅ・・・」
ドラゴン「?」
ロー「問題は服用したとして大丈夫なのか、だ。チョッパーの助言曰く、その人間の悩みを見つけない限りは・・・」
ドレーク「そうだな」
サンジ「しっかし、何も分かんねぇな」
ゾロ「いや、このままで良いだろ」
チャカ「そうだな、一理ある」
子カイドウ「何で、」
キング「どうした?」
子カイドウ「俺はただの兵卒だぞ。何でここまでしてくれるんだ」
キング「そうだな・・・」
サンジ「どういうことだ」
ゾロ「何かあるから探す・・・じゃねぇ。あいつは、俺達とは決定的に違う所がある」
ドレーク「違う?」
チャカ「これは匿名希望の方からの助言でね。あぁ、君達も知っている人だから安心してくれ・・・名前は出せないが」
キング「俺も孤独だった。アンタ、お前くらいの頃の年齢はまだ家族も友人もいたが、色々とあって孤独になってしまった」
キング「そこで助けてくれた恩人がいたんだ」
子カイドウ「恩人?」
キング「その人は「自分こそが世界を変える」と誓い、そして本当に変えようとしてくれた。俺が苦しんだものも破壊し、いつかは大きな海賊団を率いる長になった」
キング「俺達も恩義がある。その人のために尽くしてきた。だが、その人は満ち足りることはなかった」
チャカ「私達は過去のしがらみを超えてここまで立ち直ることができた。だから何か悩みがあるときは、その原因を過去に求めるところがある」
チャカ「だがここまで考えても分からない、だから行き詰まってしまっている。まぁ、人の過去を勝手に推理するものでもないが・・・」
チャカ「何故分からないか。それは単純だ。その方が教えてくれた」
子カイドウ「そいつ、何しても楽しくないのか」
キング「あぁ。心から笑うことなんてなかった。悔しかったよ、力になれなくて」
キング「1つ、分かったんだ。だから俺達は力になれないんだ、と」
チャカ・キング『何も、なかったのだ/んだ』
チャカ「カイドウはただの少年兵でしかなかった。それしか知らなかったから、暖かい世界を自らの中に認めることができなかった」
キング「その人にとっては力と戦いこそが全てだった。俺達部下のことを信頼していなかったわけではないが、それでも胸中には強い自分の存在しかいなかった」
チャカ「その方曰く、「何もなかったからいつのまにか壊れたことも気づかないままだった、自分とは逆」だそうだ・・・・いやはや、私の考えは未熟だったよ」
キング「ある日、それを打ち破ってくれた男がいた」
子カイドウ「そいつよりも強いのか」
キング「ん、いや、どうだろうな・・・俺は今も恩人の方が強いと確信しているが・・・話が逸れたな。その男は、あの人と同じように「世界を変える」と言ってのけた。そして、恩人に勝利した。常識やしがらみすらも拭い去っていった」
チャカ「だが、急な変わりようにどこかついていけなかったのだろう。その心的負荷が今回の症状として現れたのかもしれない」
ドレーク「そうか・・・我々はある程度解決したから「キンダーガーデン」を食しても異常がなかったんだな」
チャカ「そこで、だ。解決策がある」
ゾロ「俺達と一緒に過ごす、以上だ」
チャカ「知らなかったのなら、今からでも共に知っていくしかあるまい。だから君達に何も言わず任せておいたのだ。意識しない、日常を感じて貰うために」
サンジ「へー、言ってしまえばいつも通りが一番良かったわけだ」
いつも通りであったがために心が死んでしまったことに気づかない人間への特効薬が、いつも通りの生活を共に送ること。皮肉と言えば皮肉だが、だが効果はてきめんだろう。
ルフィ「よし!今日は宴だ!」
サンジ「任せとけ、そうなると思って用意してるぜ」
ロー「俺達も何か手伝おう」
サンジ「お、それじゃ頼むわ」
キング「もう、悩む必要もなくなった。だから、アンタも救われてほしいんだ・・・カイドウさん」
子カイドウ「・・・どうした?」
キング「・・・・何でもない。そろそろ乾いただろう。風呂上がりの牛乳をもってくるから待っててくれ」
そう言って冷蔵庫の方に向かうキングの後ろ姿を見ながら、カイドウはドラゴンにぼそりと問いかける。
子カイドウ「あいつ、少し泣いてなかったか?」
ドラゴン「・・・・。」
(続)海上のトーチカは少年の安息地たるや?4 – Telegraph