沸き上がるのは
許せなかった。
百年前のあの夜に既に死んでいる。これは耐えられた。けれど——
「それにしても……平子撫子。あの娘は箱入りだったようだね。あの程度とは……——随分と安穏とした日々を送ってきたようだ」
——妹分のことは。
体内の血が沸騰するような錯覚を覚える。何も、何も知らない癖に。
何が安穏とした日々だ。何が箱入りだ。
——「ぅ……や、いや、こないで……」
高熱と悪夢に魘されていた夜も。
——「なこちゃんはおそと、でれへんの?」
窓から外の景色を見ていた昼下がりも。
——「ひよりねぇ、よるいちさんはねこってどうぶつなんやって!」
普通の知識すら手に入らないことも。
妹分は何度も何度も死にかけて、ひよ里は何度も何度も同じ覚悟をしてきた。
——なんも知らへん癖に! 百年、百年ずっと苦しんできたことも、なんにも知らへん癖に!
沸き上がる怒りが視界を赤く染め上げる。
この男を許してはならないと空を蹴って斬り掛かる。
誰かに呼ばれた気がしたが、斬魄刀を高く構えて振り下ろし——
「お一人様、おー終い」
許せなかった。
遠ざかる意識の中、誰かが自分のことを抱えているのが分かる。
そのひとは妹分によく似た、金の髪をしていた。