黒腔にて

黒腔にて


前にあたるお話:沸き上がるのは




「うわっ」

「撫子!」

 黒腔を進む中、一護の作った足場で撫子は足を踏み外しかけた。

「っと、平気や! ……それよか一護。道、ボロッボロのガッタガタやで。よく虚圏来れたなァ……」

「う、うるせー。こういうの苦手なんだよ。なんか石田にも言われたけどよ……って」

「なんや」

 撫子は一護の後ろを走るのを諦め、左後方から自分用の道を作って一護と並走していた。道の幅はかなり狭いが、あちこち崩れたり脆くなっていたりはしていない。

「お前自分の……」

「やって一護の後ろ走んのこわいし」


「黒崎さん、よろしければ私が前を走りましょうか?」

「え? イヤいいよ霊圧の消費を心配し」

「黒崎さん。よろしければ私が、前を走りましょうか」

「……はい……お願いします……すいませんでした」




**




「おお、これなら安心して走れるなァ」

 一護が先頭を卯ノ花に譲った後、撫子は自分の作った足場から、卯ノ花が作る頑丈かつ幅広の道へと移った。


「うおお……隊長格の霊圧でやるとこんなキレイな道になんのか……差がありすぎてさすがにショックだ……」

「何をおっしゃるのです、霊圧では貴方も似たようなものですよ」

 卯ノ花は視線を一護へ移す。

「黒崎さんは見たところ怪我も癒えている様ですし、万全の霊圧であの有様ということは生来霊圧が雑だから不向きなのでしょう」

「あー、納得や」

 撫子はいつぞやの霊珠核のことを思い出した。一番一護が苦戦していた覚えがある。

「そ……そんなことねーよ! 霊圧が全快してりゃもうちょいイケるって!」

「あらまあ。寝言にしては目が開きすぎですよ」

「ちょっと! 言うことキツくねえ⁉︎ さっきから! つーか寝言でも冗談でもねえよ‼︎ 見てくれよこれ!」

 一護が左手で右腕を指し示す。

「服が右ソデしかねえだろ? 俺の卍解は死覇装も変化するんだけどさ、どうもこの変化した死覇装も含めて卍解みたいなんだ」

「へー……あの一般的死覇装から変わるの、卍解の一部だったからなんやな」

 卍解にも色々あるんやな、と撫子が納得する傍ら、一護は話を進める。

「その証拠にさっき井上にキズを治してもらったとき、死覇装はちょっとしか直んなかったんだ。いつもは井上の治療で死覇装も直るのになんでだろうって思って訊いたら、どうも井上はキズを治すのは早いけど霊圧を回復させんのは遅いらしいんだ」

「織姫ちゃんに治されとる間、アタシが回道で一護の霊圧回復させよと思たんやけど、なんや底に穴空いた鍋みたァで、あんまし霊圧の回復は出来なかったんや。いつもはそんなことないんやけど……アタシの霊圧が不安定になっとったからかなぁ」

「そん時は下でルキア達がやられてたから急いでて……結局霊圧はそんなに回復させねえまま来ちゃったんだよ。だから今の俺の霊圧はこんくらいってこと! なっ! 全快なら——……」

「全快言うても雑なのは変わりないやろ? ホンマに道キレイに作れ……卯ノ花さん?」

 卯ノ花が立ち止まり、一護と撫子もそれに倣う。

「……黒崎さん、やはり前を走ってください。平子さん、貴女も。今から移動を続けながら、貴方方の霊圧を限界まで回復させます」

「移動……って走りながら? そんなことでき……」

「できます。本来の鬼道による治療では多くの場合霊圧の回復を先に行います」

「回復した内部霊圧と術者による外部霊圧とで肉体の回復を図る——で合っとる?」

「ええ、合っていますよ。肉体が回復している状態での霊圧の回復など雑作も無いこと。さあ黒崎さん、平子さん。前へ」

 卯ノ花に従い一護と撫子は並んで前に出て、再度走り始める。

 倒すべき相手は藍染惣右介。

 覚悟とともに、一護と撫子は黒腔を進む。

 一路空座町へと。






次にあたるお話:

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