序章

序章

迫り来る脅威! ルキア捕縛を防げ③

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『……ッ! 今度は間に合ったか……!』

「カワキ!!」

「終わりだクソガキども!! てめーらはこの阿散井恋次に敗けてここで死ぬ!!」


 ビチャビチャと地面に血が溢れる。カワキが腕を押さえた。庇われたことに気付き、悲痛な声で叫ぶ一護に、恋次は伸ばした刀身を戻しながら言葉をかけた。


「斬魄刀は持つ者の霊力によって大きさも姿も変わっていく。こいつが俺のチカラの姿だ」


 放心したように硬直する一護。カワキが手早く止血を済ませる。傷のない側の手でゼーレシュナイダーを剣のように構えた。


「そろそろ片付けて帰らせて貰うぜ」

「に…ッ、逃げろ一護!! カワキ!!」

「な…放せコラ! てめえこれ以上 罪重くする気かよ!?  放せバカ野郎!!」


 恋次が振り上げた腕にルキアが飛び付いた。必死で逃げるように叫ぶルキアの前で、一護が再び剣の柄を握り直す。


「!!」

『一護、一旦退くんだ』


 驚きに染まるルキアと恋次。傷を負ってなお、表情を失った顔つきのカワキが一護に撤退を促す。

 カワキの声が耳に入らない様子で一護がゆっくりと前へ出た。


「…丁度イイぜ。死にかけの奴にトドメ刺すのもつまんねえと思ってたとこだ。そんじゃ、いっちょ景気良く派手に斬り合って死んでくれ!」

「一護!! 動けるなら逃げろ!! カワキを連れて逃げるのだ一護っ!! …いち…」


 逃げろと叫ぶルキア。恋次が刀を構えた。カワキがいつでも動けるように腰を落とす。

 その時――俯きがちに立つ一護の霊圧が急激に上昇した。


(何だ!? この霊圧の上がり…)

⦅これは…大虚を斬った時と同じ…!⦆


 次の瞬間、恋次の肩が大きく裂かれた。


「何……だ、てめえ…!」


 突然 速度を上げた一護に背後を取られ、恋次が振り返る。同時に振り上げられた一護の刀で恋次の額がゴーグルごと割られた。


⦅コントロール出来ている…のか…? 今、暴走されると困るな……⦆

「はっ! どうしたよ!? えれー動きがニブくなったじゃねえか!? 急によ!!」

(バカ言え!! てめーが疾くなったんだ!!)


 勇み立つ一護。その霊圧に冷や汗を流して動きを止めた恋次。カワキは一護の様子をじっと見つめていた。


「何でだかよくわかんねーけど今!! 傷の痛みも無え!! テメーに敗ける気も全然しねえ!!!」

「…!!」


 一護が話すたびに重い霊圧が飛び、ビリビリと空気が震える。恋次は目を見開き、白哉は何も言わず静かにその様子を眺めていた。


「…終わりにしようぜ。俺が勝って終わりだ!!!」


 凄まじい霊圧を放ったまま、一護が剣を振るう。その刀が瞠目して固まる恋次に届く――はずだった。


⦅動いた…!⦆

「!?」(何…だ!? 刀身が…消えた!?  違う、こいつは何もしてねえ)


 振り返った先、折れた刀身を手に白哉が立っていた。何が起こったかわからずに動揺する一護。

 カワキが踏み込み姿勢をとり、白哉が手にした刀身を離す。


(来るか!?)


 その手が刀の柄にかけられ――白哉が一護の背後に立っていた。

 辛うじて自身に迫った初擊から急所を逸らしたカワキ。他人を守る余裕はなく、一護の胸から血が噴き出す。


「鈍いな。倒れることさえも」


 何をされたかもわからないまま、一護の体がゆっくりと傾いていく。


「白哉兄様!!!」

『君は早いね。終わりだと決めつけるのが』


 悲痛な顔で叫ぶルキアの前で、一護の腹に刺されようとした刀が弾かれた。


「…! 急所を逸らしたか……」

『さすがは隊長だ。避けきれなかったよ』


 少し驚いた様子の白哉。傷を抑えながらカワキがゼーレシュナイダーを握る。


『一護を死なせるわけにはいかないんだ。こればかりは譲れないね』

「…そうか」


 刀を握り直した白哉が動く。その速度についていけないまでも、致命傷を避けながらカワキが防御に回る。

 荒い息、茫然とした様子で恋次がその様を見つめる。


(こいつ…あの傷で隊長と斬り合うだと…!?)

「…人間にしては少しはできるようだな」

『はっ…はぁ…っ! ……冗談だろう? 世辞はやめてくれ。これで“できる”なんて、今の死神達の程度が知れるね』


 肩で息をしながらカワキが俄かには信じがたいといった様子で答えた。ぴくりと眉を動かして白哉が口を開く。


「減らず口を叩くほど余裕なようだ」

『……純粋な感想だよ。あまりに信じられない物言いだったから』


 言葉を紡ぎながらカワキは思案する。


⦅限定霊印を打たれてこの強さ…。……いや、今の私が弱いんだ。失って気付くこともあるとはこのことか……⦆


 力不足を痛感したように自嘲するカワキ。白哉が問いかける。


「…何がおかしい」

『私の弱さが』

「……気が触れたか。これで終わりだ」


 カワキが端的な答えを返す。噛み合わない答えに、まともではないと判断した白哉が決着をつけるべく動いた。

 構えを取るも満身創痍の身では受け切れず、カワキもまた地面に倒れ伏した。その様子を見届けて、恋次がカワキを気味悪げに見つめる。


(なんて奴だよ…本当に人間か……?)


 カワキの次に恋次の視線は一護に向けられた。


「どうした恋次」

「いえ。こっちの…この程度の奴なら隊長が手を下さなくても…オレ一人でやれました」


 先程までの異常な霊圧に、倒れ伏す一護を訝しむ恋次。白哉は気にした様子もなく口を開いた。


「そう言うな。私とて 見物してばかりでは腕が錆びる」

(違う…この人は…)

「…一護…カワキ…」


 白哉の真意を推し量る恋次の後ろで、ルキアが倒れる一護やカワキに駆け寄ろうとする。罪が重くなると声を荒げて諭しながら、恋次が慌てて制止した。


「それが何だ!! 一護は…私が巻き込んだ…。カワキとてそうだ…私の所為で死んだのだ!! 私の所為で死んだ者の傍に私が駆け寄って何が悪い!!」

「…たとえ我が罪が重くなろうとも…駆け寄らずにはおれぬというわけか。この子供の許へ」


 叫ぶルキアの前で、倒れる一護のそばに立つ白哉が言った。


「成程、この子供は――奴によく似ている…」


 目を見開いて固まるルキア。ヒューヒューとか細い息をする一護が白哉の裾を掴んだ。倒れたままカワキはその様子を見ていた。


「俺のいねー間に勝手にハナシ進めてんじゃねーよ…!」

「…いち…」

「…放せ小僧」


 ルキアがほっと安堵したのは一瞬。白哉の言葉に再び緊張状態へ戻った。


「…聞こえねーよ…。…こっち向いて喋れ」

「…そうか…。余程その腕、いらぬと見える」


 カワキの手が銃を掴む。しかし発砲するよりも先、ルキアが裾を掴む一護の手を蹴りつけ、叱責した。固まる一護に背を向けてルキアは目が覚めた、罪を償うと言った。

 立ちあがろうとする一護の背を恋次が踏みつけて止める。


「動くな! …そこを一歩でも動いてみろ…! 私を…追ってなど来てみろ…。私は貴様を絶対に許さぬ…!」


 涙を堪えたルキアの顔を見て、一護は何も言えずに尸魂界へ戻る一行を見送るしかなかった。


⦅行ったか……。一護はまだ息がある。朽木さんが大人しく帰ってくれてよかった……⦆


 去っていくルキア達の様子を見届けて、安堵したようにカワキが考える。


(どうしてだ。俺はまた護られた――…!)


 ルキア達が穿界門の向こうへと去り、雨が降り始める中、倒れる一護の慟哭だけが響いていた。


◇◇◇


『わざわざありがとう、浦原さん。私はもう動けるから、一護のことを頼むよ』

『今回のことで、本当に大切なものが何か……思い出すことができた。怪我を負った甲斐があったかな……』


***

カワキ…ルキアが大人しく帰ってくれて、「一護が死なずに済む! よかった〜」と思ってる。仕事熱心。人の心1の貫禄。

白哉に負けて「力が欲しい…!」してる。


一護…カワキに庇われ、ルキアに護られ、もうメゾン・ド・チャンイチは土砂降り。心を強く持って欲しい。


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