序章
修行あるのみ 滅却師最終形態の謎に迫る河原
「石田くんだって朽木さんを助けに行くつもりなんでしょ!? だったら一緒に夜一さんのレッスン受けようよ!!」
石田を修行に誘う井上とチャド。しかし石田はすげない態度で断った。
「…せっかくだけど…僕は遠慮させてもらう」
「な…何で!? 夜一さん すごいんだよ!?」
「…そういう問題じゃないんだ。悪いけど」
一人で修行がしたい、助けに行く気はないと言う石田。
「僕はただ、あの死神達に負けた自分が許せないから修行をする。それだけだよ。朽木さんなんて知らないな」
石田の言葉に、ここに用はないと告げて去っていく夜一。納得いかない様子の井上をチャドが諌める。その様子を横目に、カワキは石田の足元に置かれた箱に視線をやり、口を開いた。
『私もレッスンは遠慮するよ。一護が行くというなら朽木さんの救出には参加するから、安心してくれ』
「カワキちゃん…」
気が変わったら言って欲しいと言い残し、井上達は去っていく。滝の前にはカワキと石田の二人だけになった。
◇◇◇
帰る様子のないカワキに石田が尋ねる。
「カワキさん……君は帰らないのかい?」
『うん? 帰らないよ。石田くんと一緒に修行しようと思ってね』
いけしゃあしゃあと言い放つカワキに石田が取り乱した様子で言い募った。
「は…!? いや、さっきの話を聞いてなかったのか? 僕は朽木さんを助けに行くつもりはないと言っただろう…」
『そうだね。私は助けに行くつもりなんだ。それで?』
「“それで”って……。さっきも言ったように、僕は一人で修行したいんだ」
『――…その箱の中身を見られると困るから、で合っているかな?』
鋭い指摘に石田が瞠目した。カワキは人間味のない顔で言葉を続ける。
『大方の予想はついているんだけど、私は予言者ではないからね。正解を聞かせてもらっても?』
「……これは僕の師であり、実の祖父が遺したものだ。これを使って修行すれば、滅却師として絶大な力を得ることができる」
『そして最後にはその力を失う、だろう?』
「――!? どうして君がそのことを……!」
『言ったはずだよ。“大方の予想はついている”と』
答えを促すも、核心を避けた言い方をする石田にカワキはそう言った。驚愕に目を見開いた石田の顔に、確信したようにカワキは問いかける。
『滅却師最終形態と言うんだろう? 私の故郷ではその概念自体とうに散逸した過去の遺物だ』
「そこまで知っていたのか……」
正解を言い当てられた石田が、驚きながらも観念したように呟いた。
『昔、私の教育係をしていた者から聞いたんだ。彼はこういうことに詳しかったから』
「きょ…教育係…!? いや、今はカワキさんの家庭環境は置いておいて……。……そこまで知っているなら何故僕と修行を…?」
カワキから飛び出した発言に驚くも、気を取り直したように石田が訊き返す。
「君の言うように、この箱の中にあるのは“散霊手套”――滅却師最終形態を身につけるための道具だ。だけどこれは一つしかないし、悪いけど君に使わせるわけにはいかないよ」
『これが……。実物は初めて見たよ』
⦅苦難の手袋(ライデンハント)のことをそう教えていたのか……⦆
そう言って箱を開けた石田。中には手袋のようなものが入っていた。
『私にも使わせろなんて無茶は言わないよ。ただ、“それ”を使った状態の君を見るのは後学のためになると思ってね』
「……そういうことなら。参考になるかはわからないが……」
『――“散霊手套”の実物を見せてもらっただけでも、十分すぎるくらいの収穫だよ。ありがとう』
感謝の言葉を述べるカワキ。仕方ないという雰囲気を出しつつも、同じ滅却師と修行出来ることが嬉しい様子の石田。
こうして二人の修行は始まったのだった。
***
カワキ…石田家に苦難の手袋があると確認できただけでもニッコリ。滅却師最終形態にも興味があるので石田を修行に誘った。ちなみに教育係はキルゲさん。
石田…「同じ滅却師のカワキさんと一緒に修行できるのは嬉しいけど、見られるわけには……」と複雑な心境。ダイスで一緒に修行すると出たからには従ってもらう…。