友情の真意
スレ主目次
一護は冷や汗を垂らしながら目の前の男をギョッと見た。
「……勝負だと…?俺とおまえが?」
「──そうだ この世に死神なんて…必要ない」
自分を真っ直ぐと見つめてくる男に「ばっ……かばかしい!!」と歯を剥き出しにして嫌気の刺した眼を別の方向に向けながら一護は石田に答えた。
「…何だって?」
その返事を耳にして思わずもう一度石田が聞き返した。一護はその石田の問いに答える。
「俺がテメーと勝負だァ?なんでそんなことしなきゃいけねぇんだよアホくせー!テメーが死神に何のウラミがあるか知んねーけど俺にゃ そんなのカンケーないね!」
一護は石田から持ちかけられた勝負がどうでもいいと言うようにそう吐き捨てた。──しかしせっかく訪れた死神と滅却師、どちらが上かを決められるまたとない機会。石田雨竜が師匠が亡くなってからも、友との訣別を経てもそれは色褪せることなく‥ずっと待ち望んでいたそれをこんなことで終わらせたくはなかった。
「…意外だね 逃げるのかい?」
「挑発にゃ乗んねーよ 俺とおまえじゃ勝負になんねぇって話さ」
石田が挑発したがしかし予想とは外れ一護は石田の煽動には乗らず、一護は態と強気に答えた。
「…………」
石田は少し押し黙った。そして話は終わりだとばかりに後ろを向いた一護の興味を引かせる様に声を出した。
「…あぁそうか思い出したよ」
「君は朽木さんに“力を与えらて貰った死神〟…つまり『仮の死神』だったね…彼女の許可がなければ‥指一本動かすこともできないってわけだ」
「………何だと?」
一護を自分との勝負に乗せるため、短気な一護の性格を見越して更に石田は言葉を続け一護を焚き付ける。
「…鳶栖さんと君は随分と仲が良いみたいだね」
一護は脈絡のない言葉に「なんだよ急に」と声を出した。
「けど本当に彼女も君と同じことを思っているのかな」
「あ?」
「君と同じ分の友情を…君に向けているのか、ってことだよ」
一護はその意味が分からない言葉に声を出した。しかし石田はその一護の声を無視して話し続ける。
「──彼女は君のことも、もちろん僕のことだってどうでもいいのさ」
今、石田が思い出しているのは春の記憶だ。母がまだ生きていて、いつもの様に師匠に鍛錬を見てもらい、そのあとはいつもの場所で友人と語らった。
つまる所鳶栖璃鷹との記憶は石田にとってまだ何も失わなかった頃の幸せな中にいた思い出に存在している。
「昔彼女とある約束をしてね…僕にとっては今でも大事なものだったけど、どうやら彼女にはどうでも良かったみたいだ」
自身が共に死神がいらないことを証明しようと言った時、璃鷹は頷いて、そしてそのまま木偶の坊の様に動かなくなった石田の横に座って落ち着くまで側に居た。
それでも頭を抱いて石田の柔らかい黒髪を撫でながら「竜ちゃんの先生は体が無くなっただけで、その人はいつも竜ちゃんの心の中にいるよ」と石田を慰めた。その頃の石田はその気遣いがとても嬉しかった。
──が、その璃鷹との約束が果たされることはなく、肝心の彼女は目の前の死神と共に日夜虚退治に明け暮れている。
「君と彼女を見ていると──つくづくそう思うよ」
鋭い眼光で一護を見ると石田はそう吐き捨てた。
「何の話してんのかは知らねーが‥一言これだけは言っとくぜ」
一護には石田が何を伝えようとしているのか分からなかった。しかし自身の一つの答えとして、それだけは分かっていた。
「なわけねえだろ」
一護はまだ璃鷹のことを深くは知らない。しかし自身の友である鳶栖璃鷹は大切に思っている〝親友〟との約束を忘れる筈がないと言う確信から…勢いよく向き直った一護が石田にそう告げた。まるでそれが当然であるかという様にして堂々とそう答えた。
石田に向けたその表情からはやや呆れ顔が滲んでいる。
「…君はまだ彼女と出会って日が浅いのに、なぜそう断言できる?何を根拠に言っているのか気になるところだね」
石田は納得していないようでそう一護に切り返した。そして「お前にゃ わかんねぇよ」と石田を煽る。
「それにしても‥聞いてた話と随分と違げぇな」
「なに‥?」
「ハッ 優しい竜ちゃんが聞いて呆れるぜ」
その言葉に石田は眼を見開いた。小学生の子供が友達に付けた様な短調にも名前の上だけを切り取ったそれを、交友関係が狭い石田に対してフレンドリーにそう呼ぶだけの親しい人物は今…高校生になって石田をその名前で呼ぶ人物は1人しかいない。
「──待て、なぜそれを知っている?」
しかしだからこそなぜ一護がそれを知っているのか謎だった石田は一護にそう問う。
「璃鷹から聞いたぜ お前のこと」
それを聞いて石田は少し声を強張らせ〝もしかしたら…〟その期待感から一護に返事を迫った。
「彼女が?僕を?何と言っていたんだ答えろ」
「随分と焦ってんじゃねぇか」
「いいから質問に答えろ」
その顔からは当初の余裕は消え、声を荒らげる。
「じゃあお前が勝ったら教えてやるよ。さっさと勝負方法教えな」
「───乗ってやるからよ」
石田に一護はそう言ってルール説明を求めた。