先回り
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「あァ!?また虚いねぇじゃねぇか!!」
「今回もハズレだね‥」
オレンジ色の髪を少年が最近の鬱憤を路地に響かせた。璃鷹はそれを聞いて一護に同調しながら周りを見渡した。周りに虚が隠れていないかを確認すると〝やはり〟今回も虚の姿は見えなかった。
その空間はただゴミが散乱した近くの隅で肉付きのよい眼鏡をかけた胸に鎖の付いた霊が体を震わせているだけだったからだった。
「カンベンしろよー 俺今テスト期間中なんだぞォ」
一護はルキアに向かって非難する。
「わ‥私だってそうだ!」
ルキアは慌てて弁明した。すると一護は少し声を荒げながらルキアに言った。
「オマエは我慢しろよ!オマエの機械が壊れてるせいでこうなってんだからよ!」
「こっ‥壊れてはおらぬと言っておらぬと言っているだろう!!」
「じゃあ何か?この辺にもう1人死神がいて、そいつが俺らより先回りして虚を倒してるとか言うのかよ?」
「う…イヤ…死神はキッチリ地域区分されておるからそれはない…と思うが…」
「まぁ少し落ち着きなよ」そう言って言い争いを続けている2人を仲裁しようとしていると、それを聞いた一護がぐるりと向きを変えて璃鷹に指を刺した。
「つうか1人だけ涼しい顔してるけどお前が1番やばいんだからな!!後で教科書持って家来いよ絶対」
「えぇ、今日用事あるのに」
「ぜってぇ嘘だろ!!」
横から「そうだぞ鳶栖」とルキアが一護に同意した。どうやらルキアから見ても流石にどうかと思ったらしい。しかし当の本人は他人事の様に特に気にしていない様子でいるため一護はため息をつく。
その後がまたルキアとの口論を再開したようだった。正直側から見ればルキアが何もない壁にただ喋り続け、それを璃鷹が見ているという一般人に見られれば狂人扱いされてもおかしくはない。璃鷹は再び仲裁するべきか悩んでいた。
「うわーん!!怖かったブー!!ボク ホントにホントに怖かったブー!!ありがとうブー!!」
すると今まで黙っていた霊が涙を流しながら恐怖感から解放された反動なのか3人に向かって抱きついてこようとした。
「だから それはテメーを助けた奴に言えッ!!」
すると一護はイラついた様子で霊に蹴りを入れそれを止めた。璃鷹はそれを見て一護を嗜めた。
「一護、蹴っちゃ駄目だよ」
「そ、それは‥悪かったよ‥」
「こんな状況だし、イライラしてる一護の気持ちも分かるけど次は蹴るんじゃなくて避けようね」
少しバツが悪そうにして一護は頭を掻いた。
そして璃鷹もこの件についての異常さについては不思議そうにして独り言のように呟いた。
「でも確かに変だよね」
「鳶栖は私たちよりこの空座町で虚退治をしていたのだろう?何か知っているのか?」
そうルキアに問われた璃鷹は表面上は真摯に思案しているよう姿勢を正して考え込んだ。
(大して興味が湧かないな‥特に今まで実害があったわけではないし、不思議と言えばそうだけど‥)
しかしそれ自分が調べる事ではなく、またその手間も面倒だと璃鷹は犯人の辺りをつけることはせずに当たり障りない言葉は吐いた。
「うーん、ちょっと分からないかな‥ごめんねお役に立てなくて」
「そうか‥では一体誰が‥」
そうしてルキアは少しの間黙考をした。
その後何かを思いついたようにして一護に蹴り飛ばされた男の霊に話かけた。
「そうだ!貴様今『怖かった』と言ったな!?ということはやはりここには虚がいたのだな!?言え!誰が虚を倒しておまえを助けた!?おまえを救ったのはどんな奴だった!?」
「‥‥ボク怖くて目つぶってたからわかんない‥‥ひぃ!?」
それを目視した霊は情けない声を上げた。この件の目撃者に何か有益な情を聞けると思っていた一護とルキアは今までの積りに積もったストレスが一気に出たようで人にはとても見せられない形相でその霊を見下ろしていた。
慌てて命乞いの様な声を出して2人に何度も吃りながら平謝りを繰り返す。
「ごごごご ごめんなさい!!何か知らないけどごめんなさい!!おわびにボクの宝物の『美少女メガロン』のフィギアあげるからカンベンしてくださ」
どこから出したのか分からないフィギアを此方に向かって差し出してきたがそれは火に油を注いだだけだった。
そのフィギアの上半身が2人の左と右から繰り出された拳で粉砕される。
「メ゛カ゛ロ゛ーン゛!!!」
(面倒だ‥早く帰りたいな‥)
璃鷹はその面白みがない光景に顔は出していないが退屈そうにしていた。最近はずっと一護たちの虚退治に付き合っておりそのせいか自然と時間が無くなり趣味に制限を掛けられている状態だった。
「はぁ‥」
「さー魂葬だー行くぞー」
「あぁッ!?何でブか魂葬って!?その刃でブッ刺すことでブか!?」
三人はこの時、まだ気づかなかった。
ビルの屋上から何者かがコチラを見ていた事に。
「………タカちゃん」
その男は一言何かを呟くとその場から離れて行った。