戦闘! マドカvsドラゴン使いたち(後)
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『くぅっ……遠距離も対応される、近づけばもっと危険!
どうするの、この状況……!』
『俺に聞くな! クソ、何がどうなってる!
どうして俺たちがこんなに追い込まれてるんだ……!』
先制攻撃を仕掛けたのはこちら側なのに、有効なダメージを与えているのはあちら側。
攻め手と共に描いていた勝ち筋を潰され、対応が後手に回って勝ち筋を探すこともままならず。
二人組は当初の余裕と威勢とをすっかり失い、その心は焦燥感に満ちていた。
「……んー? どうしたの、お二人さん。ワタシはここで終わりにしても良いよ」
『~~~~ッ! 舐めやがって!』
『待って、落ち着いて! ここで冷静さを欠いたら、それこそ向こうの……』
『うるせぇ! 俺に指図するな、分かってるっつーの!』
加えて、対戦相手であるマドカの態度もまた、彼らの焦りに拍車をかける要因となっていた。
こちらを品定めするように細めた目、不敵な笑みの形に歪んだ口元、リラックスした立ち姿。
何もかもが、自分たちと違っている。
『クソ、クソ! こうなりゃイチかバチかだ! オンバーン、突っ込むぞ!』
『! 待って、それは……っ』
『遠くからチマチマ削ってられる場合でもないだろう!
行けオンバーン! "ドラゴンダイブ"!』
『……もう! チルタリス、"おいかぜ"で援護!』
指示を受け、体勢を立て直した二匹が動く。
凄まじい気迫を纏ったオンバーンが、突撃体勢をとる。その背後に、チルタリスが風の渦を作る。
そしてそのまま、気流に乗って勢いを増しながら、オンバーンが全力で突っ込んできた。
「……クリムガン、ガチゴラス。準備は出来てるね?」
それでも、マドカは落ち着き払って二匹に指示を出す、否、問いかける。
それは、この状況を読んでいたことの証左であり、共に戦う仲間への信頼。
先に動いたのは、クリムガン。突撃してくるオンバーンに対して、再び"ふいうち"を繰り出す。
攻撃することに集中していたオンバーンは、当然それを直撃させられる……が、それでも止まらない。
"おいかぜ"の援護を受けている分の勢いが失われても、"ふいうち"のダメージで軌道が少しズレても。
オンバーンは自身が傷つくことを恐れず、真っ直ぐに、敵に向かって突っ込んでいく。
狙いは、ガチゴラス。ノロマで図体のデカい、自身の放った"りゅうのはどう"をあっさり掻き消した、気に食わない竜。
ガッチリとした両脚で大地を踏みしめ、何やらゆっくりと頭を持ち上げている、隙だらけのデカい的。
今一度狙いを定め、ダメージを受けた体に気合を入れ、全霊の突撃を見舞って——。
次の瞬間、草原に凄まじい衝撃が走った。
三人の視界に映るのは、二匹の竜が激突した結果。
衝撃の威力を物語るように、地面は大きく抉れて。
『……っ!』
『…………な……は……?』
「……うん、流石」
小さなクレーターのようになった窪みの中心にいたのは、力尽き地に伏せたオンバーン。
そしてゆっくりと頭を持ち上げながらそれを見下ろすのは、何らダメージのないガチゴラス。
敵を打ち倒して悠然と立つ竜の視線は、やがて『倒した敵』から『未だ健在な敵』へと移った。
『ひ、っ……ち、チルタリス! "りゅうの"……
いや、ダメ、"おいかぜ"、はもう使った……!』
自分のポケモンへ向けられる視線、そして想像通りと言うには些か想定を超えた状況。
トレーナーの焦りはピークに達し、それが伝播したか、チルタリスは動けずにいた。
「……クリムガン」
対するもう一方のトレーナーは、冷たい声で自身のポケモンの名を呼ぶ。
この場においては、それだけで指示が伝わった。
一歩、一歩、相手へと歩みを進めているガチゴラスに先行して、クリムガンが駆ける。
『ぁ、チルタリス! ……チルタリス、どうしたの! 動いて!』
何の具体性も無い、動いて、という指示。それだけのことさえ、今のチルタリスには難しい。
そう、走り寄って来たクリムガンの眼光に怯え竦み、「蛇に睨まれた」ように動けずにいるチルタリスには。
そうこうしている間にも、もう一つの影が——ガチゴラスが、チルタリスに迫る。
一歩、一歩、大地を踏みしめながら……先程オンバーンの前でしてみせたように、高く頭を掲げながら。
そして、辿り着いて。
「最後くらいは、ワタシも技の名前を言おうか。合わせてくれる?」
『……ぁ、ひ……ち、チルタリス……"コットンガー—— 「ガチゴラス」 』
「——"もろはのずつき"」
古き竜王による渾身の一撃が、叩きつけられた。
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