Walk The Walk “Tails” Ⅱ
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見えざる帝国・銀架城
「…………何という事だ……」
喉の奥から絞り出すような声が出た。
今のカワキは、本来の強さの半分も出すことができない状態だ。
千年前に戦っているからこそ、死神共はユーハバッハの配下が持つ戦闘能力の目安を立てていることだろう。
だから、そこから外れるように、現世に向かう前に、ユーハバッハはカワキが持つ能力を削った。
これには、他に思惑もあったが——今は本題ではないので、考えないことにする。
現世に現れる虚は大した力も持たぬ雑魚ばかり。本来のカワキの実力ならば、霊圧だけですり潰せるような相手だ。
多少、能力を削ったところで培った経験は消えはしない。万が一を考えて、霊圧を奪うこともしなかった。支障なく、戦えるはずだ——そう、考えていた。
護廷十三隊を相手取ることなど想定していない。
大幅に弱体化した状態のカワキを、連中と戦わせる気など、ユーハバッハには更々なかった。
「………………」
口の中で何事かを呻いた後、押し黙って考え込み始めたユーハバッハに、己の報告に不手際があったのでは、と不安になったのだろう。
心細そうな声で、聖兵が控えめにユーハバッハに呼びかけた。
「……その……陛下……?」
「……いや…………」
ユーハバッハは、意識を立ち戻らせて、軽く頭を振った。
残る僅かな希望に賭けて、カワキの報告を受けた聖兵に、こう問いかけてみる。
「……カワキは、血装の使用解禁を求めることはなかったのか?」
純血統滅却師であれば、生まれながらに使える基礎能力。それが血装だ。
裏を返せば、血装を使用しない滅却師は混血統滅却師である可能性が高い、ということになる。
ユーハバッハが率いるのは純血統滅却師の軍団。それは千年前の戦いで、死神共も知ることだ。
カワキは混血統滅却師である、そう誤認させれば、多少の怪しさを覚えられても、真実に勘付かれる危険は遠ざかる。
血装の制限は、それを狙った策だった。
だが、血装を封じた状態で護廷十三隊と戦うなど自殺行為だ。任務に忠実なカワキは、一度命じた以上は血装を使わない気でいるかもしれない。
どうか血装の使用解禁を願ってくれ——祈るような気持ちで答えを待っていたが、結果はユーハバッハの予想通りだった。
「いえ。殿下がお求めになったのは、黒崎一護への同行許可と、死神との戦闘許可、以上の二つです」
「……そうか」
カワキは本気だ——そのことがわかったユーハバッハは、組んだ両手を額に当てて細く息を吐いた。
こうなっては、もう止めることは難しいだろう。あの子は幼子の頃から、一度言い出すと聞かない——ユーハバッハは父親の顔で、思案に耽った。
止められないなら、せめて怪我が少ないように、無事に帰れるように、装備品だけでも準備しよう。
そう考えて、聖兵に侵入時期を尋ねる。
「して、侵入の時期はいつ頃だ?」
またしても、聖兵が顔を青ざめさせて、その先を伝えることを躊躇うように、唇を震わせた。
目が閉じていても、未来が視えるような錯覚に陥る。心の内に隙間風が吹き抜けるような心地がした——嫌な予感がする。
口を開けては閉めることを、何度か繰り返し、聖兵はおずおずと重い口を開いた。
「……出発は、本日……深夜1時です」