The Joker's Rhapsody Ⅱ

The Joker's Rhapsody Ⅱ


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影の領域


「お前……何でそんなことを聞くの?」


 ローレアンは不審感に眉を顰めた。

 死神の霊圧を放つ目の前の男のことが、ローレアンはあまり好きではなかった。今のカワキの雇い主だと言うが……何だか、とても胡散臭い人物に思える。


(他の滅却師が、殿下を仲間はずれにするから、寂しくてこんな変な人の言うことを聞いてるのかなぁ……)


 カワキはローレアンと同じで、同族との折り合いが悪かった……ような気がする。実のところ、ローレアンはその辺りの記憶が曖昧だった。


(殿下は強いけど、まだ子どもだから心配だ……。……あ、でも、人間は100年も生きないんだっけ……)


 記憶に靄がかかっているのは、いつものことだ。ローレアンは気にしない。

 カワキは小さな子どもで、怪しい人物に騙されている可能性がある——それが今のローレアンにとっての事実だ。

 ローレアンは浦原を睨む。しかし、迫力が足りなかったのだろうか。

 浦原は「あっはっは」と笑いながら自分の後頭部をかいた。


「ただの好奇心っスよぉ! ウチの新商品になりそうな珍品が見つからないかと」

「……ふぅん……」

「や〜、お話遮っちゃってスイマセン! どうぞ、続けてください!」


 たしかに、カワキとの話が途中だった。

 それを思い出したローレアンは、先刻の話の続きをしようと口を開く。


「そうだった。……あれ? ええと……、何のお話だっけ……。うんと……」


 けれど、言葉が続かない。自分は一体、何の話をしていたのだったか——つい先刻のことなのに、記憶はもう霞の向こうへと消えてしまったようだ。

 キュルルルル、とお腹が鳴いて、ローレアンは思う。

 ああ、きっと、この話をしていたんだ。


「あのね、殿下。何だか最近、ずっとお腹が空くの。……変? どこか病気かなぁ」

『その表現が適切かはわからない。だけど君が「変」なのは確かだ。言動が支離滅裂で、記憶や思考にも異常が見受けられる』

「カワキサン」

「言動……記憶……? うぅん……殿下のお話は難しいなぁ」


 難しい単語が並ぶカワキの言葉が、どういう意味なのか。ローレアンには難解で、理解できない。

 理解したい気持ちはあるが、同時に……深く考えてはいけないと、頭のどこかで何かに引き止められる感覚があった。

 話がわからずに困るローレアンのことを気遣ってくれたのか、カワキはふっと息を吐くと、先刻までの話を教えてくれた。


『……君が、私を探して現世に来た経緯を聞いていたんだ。ローレアン』

「そうだった! ごめんねぇ。お話の途中で、うっかり忘れちゃったみたい」

『……そうか』


 カワキはローレアンを責めなかった。

 優しい子だ、とローレアンの顔が綻ぶ。


『君は、完現術が欲しくて、霊王の欠片を取り込んだ……相違はある?』

「ないよ。早くみんなを見つけてあげたいなぁ。……今度こそ、私が全部護るの」

『“今度こそ”?』


 ローレアンがこぼした言葉を、カワキが拾う。

 自分が言った言葉を、そっくりそのまま聞き返されて、ローレアンは首を傾げた。


「あれ? …………。……私……一体、何を言ってるんだろう?」


 ——「今度」、とはなんだ?

 それではまるで「」があったような、「」は護ってやれなかった、とでもいうような……そういう意味にならないか?


(……前にも……私は、みんなを護ろうとした? そんなことがあったような……。それで、私は……——だめダメ駄目


 鋭い痛みが頭と左目のあたりに走って、ローレアンの思考にノイズがかかった。

 これ以上、このことについて考えるのは良くない気がする。

 そう思うと、今の今まで考えていたことも、深い霧に呑まれるように、遠く彼方へ消えていく。


 ……ああ、そうだ。話が途中だった。


「あっ! ごめんなさい、殿下……。またお話の途中でぼーっとしちゃった」

『………………』

「……殿下? どうしたの? お話の続きをしようよ?」


 突然、黙ってしまったカワキに、ローレアンは不安な気持ちになる。自分は何か、間違えてしまったのだろうか。

 カワキの顔を覗き込むと、そこにあるのはいつもの無表情。少し安心を覚える。


『……ああ。君の目的や手段、そして現状は大体わかった。それで——』


 綺麗な蒼い目が、ローレアンを見て言葉を返してくれた。


『それで、ローレアン。君が私に望むことは?』


 望みを尋ねてくれる声なんて聞いたのはいつぶりだろう。

 ローレアンは笑顔がこぼれた。

 仲間とはぐれてからずっと、ずっと一人で砂漠や暗闇の中を探していたから、誰かと会話をするのは久しぶりな気がする。

 こうして、わざわざ問いかけてくれたのだ。カワキは、自分の願いを叶えてくれる気があるのだろう。

 ローレアンは虚ろな目を細めて微笑む。


「——どうか私をあなたの領土に置いて」


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