I CAUGHT YOU

I CAUGHT YOU

千年血戦篇・訣別譚—アニメオリジナル—

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偽りの霊王宮


 晴天の参道に陽光より眩い輝きが軌跡を描く。雷光の如き刃を振るう麒麟寺が目にも止まらぬ速度で二人の滅却師に迫った。

 迫る輝きを捉えたカワキは軽く身を引くとハッシュヴァルトの背に身を隠す。その一動作で、何を言われるでもなくハッシュヴァルトは盾を構えた。

 麒麟寺の斬魄刀——金毘迦と、ハッシュヴァルトの身代わりの盾がぶつかり、参道が激しい光に照らされる。


「威勢が良いのは口だけか!? コソコソ隠れてねえで出て来たらどうだ!」


 麒麟寺は盾を構えたハッシュヴァルトに激しく攻撃を加えながら、その背に隠れたカワキを挑発する。

 麒麟寺の言葉が聞こえていない筈はないのだが——カワキは挑発の言葉などまるで耳に入らないとでも言う様子で伏し目がちに佇むばかり。

 まずハッシュヴァルトを倒さない事にはカワキを引きずり出す事は難しそうだ。

 麒麟寺は考える。


(乗って来ねえか。挑発が効くタイプでも無さそうだからな……ま、予想通りっちゃ予想通りだが……さて、どうしたもんか)


 麒麟寺はカワキが嫌いだ。気に食わないを通り越して、明確な嫌悪を抱いている。

 ユーハバッハに似ているから——それは今更言うまでもない理由だ。

 滅却師共の首魁である男の面影を色濃く滲ませ、その男が「最愛の娘」とまで口にした——見かけは小娘でも、その内面は碌でもない害獣だと、麒麟寺の直感は激しく訴えかけている。

 だがそれ以上に、許せないことが一つ。


(あいつはずっと一護の情報を他の滅却師共に流してやがった。一護の傍で、仲間のフリをして——)


 短い付き合いの中でも、一護の人となりは十分に伝わった。

 甘い男だ。優しい男だ。

 人情に厚く、友や仲間を見捨てない——一護はそういう男なのだ。

 目の前に立つ黒い外套に包まれた滅却師は、そんな一護の心を踏み躙り、食い物にした。到底、許せることではない。


「——……てめえは一護を裏切った。その報いを受けさせてやるぜ、志島カワキ!」

『私は一護の護衛に手は抜かなかった。私は私の仕事をしてここに居るんだ。君から受ける報いなんて、何も無いよ』


 温度の無い瞳をくるり、と回して麒麟寺と視線を合わせたカワキは静かに告げた。

 猛攻を防ぎ続けていたハッシュヴァルトが、口を開いたカワキに問いかける。


「……もう良いのか」

『ああ。準備は整った』


 返す言葉は、その一言。

 次の瞬間、阿吽の呼吸で身体をずらしたハッシュヴァルトの盾の内から、カワキが躍り出る。

 雷迅に勝るとも劣らぬスピードで、一息のうちに麒麟寺との間合い詰めたカワキが細剣を抜いた。

 白兵戦の軌跡は閃光となって参道にその激しさを物語る。


「この雷迅の天示郎サマが滅却師ごときに捉まるかってんだ!」

『速度は鍛えたつもりだったんだけどね。私もまだまだ……ってことかな。良いね、私にはまだ成長の余地があるという訳だ』

「成長だァ? 霊王宮に押し入ってタダで帰れると思ってんのか? 天下の零番隊が舐められたもんだ……ぜッ!」


 幾度か刃を交えた末、繰り出された一閃を防いだ麒麟寺が、返す刀でカワキの細剣を空中に弾き飛ばす。

 勢い良く跳ね上げられた拍子に、細剣を構えていた左腕が釣られて持ち上がった。左半身が、ガラ空きになる。

 カワキの心臓を目掛けて麒麟寺が金毘迦を突き出した。


「とった!」


 切っ先がカワキの胸を貫いた。

 そう思ったのも束の間の事、胸を貫かんとする刀の切っ先を素手で止めたカワキと視線が交錯し——

 瞬間、麒麟寺は自身の失策を悟った——あれは、虎視眈々と獲物の隙を窺う獣の目だ。


『——つかまえた』

「チッ! くそったれが!」


 咄嗟に退こうとするも、カワキは右手で掴んだ金毘迦を放さない。

 女の細腕で出せる膂力とは思えぬ強さで握られた金毘迦は、ちょっとやそっとでは動かせそうになかった。

 麒麟寺が金毘迦を手放すことを躊躇った一瞬のうちに、衝撃に翻った外套の内からカワキが空いた左手で幾つもの筒を麒麟寺に向かって放り投げる。

 空中を舞う四つの筒は、溢れんばかりに霊子が込められた——銀筒。


「しまっ……!」

『大気の戦陣を杯に受けよ(レンゼ・フォルメル・ヴェント・イ・グラール)』


『——聖噬』


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