HAVE THE SAME EYES

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千年血戦篇・訣別譚—アニメオリジナル—

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偽りの霊王宮


 しばしの休息から立ち上がったアスキンに王悦の相手を任せたカワキは、二人に背を向けて階段に向かって歩みを進めた。

 段差を下りる手前で足を止めて、ぐるりと偽りの霊王宮を見渡す。周囲を囲む頑丈な樹木の檻は既に再生して、先刻より幹を太くしているように思えた。


(やっぱり術者を叩かないとダメか……)


 見上げたカワキの視線の先、晴れ渡った青空を背に、産褥の天辺に大きなしゃもじを抱えたふくよかな女性が立っているのが木々の隙間から伺えた。

 カワキは手の甲で光を遮り、青空と同じ色の瞳を眩しそうに細めて視線を戻す。

 すぐ後ろではアスキンと二枚屋王悦が、頭上では石田と修多羅千手丸が、階段の下ではハッシュヴァルトと麒麟寺天示郎が、それぞれに刃を交えて戦っている。


(先に曳舟桐生を落としに……いや、ダメだな。それまでにこっちの戦闘が片付いてしまう。そうなれば挟み撃ちだ)


 戦況は五分とは言い難い。さすがは王族特務、よく鍛えられている。

 カワキの予想では、いずれの戦いも直に決着がつく——零番隊の勝利で。

 それでは困るのだ。零番隊を複数人相手取って戦えると思うほど、カワキは己の力を過信してはいない。

 腰に差した細剣の柄を握り締め、カワキは気負いのない足取りで長い階段を下りて——

 階段の半ばで瞬きの間に姿を消した。


◇◇◇


 広い参道に金属同士がぶつかり合う硬質な音が幾度となく響く。

 絶え間なく猛攻を仕掛けるのは麒麟寺。湯かき棒のような斬魄刀を激しく発光させながら、雷迅の二つ名に違わぬスピードでハッシュヴァルトを翻弄する。

 大きな盾を構えたハッシュヴァルトは、攻撃に回る暇もなく防戦一方だ。


「どうした、どうしたァ!? 自慢の盾が割れちまうぜェ!」

「……割れると思うか?」

「答えるまでも無え!」


 床板を踏み締めた麒麟寺が、鋭い突きを放とうと斬魄刀を低く構える。

 予備動作に身構えたハッシュヴァルトが盾を握り直し、電光石火の勢いで迫った刃と激突すると思われた刹那——

 草原を駆け抜ける獣のような動きで距離を詰めた黒い影が、陽光を反射して光る細剣を構えてがら空きになった麒麟寺の背中に飛びかかった。


「甘えんだよ! てめえみたいな奴はこういう狡い手を使ってくると思ってたぜ!」


 突きの構えを取っていた斬魄刀を手首で回して、麒麟寺が背後に迫った襲撃者の刃を弾く。

 振り下ろした剣と共に空中へと弾かれ、くるりと回転して危なげなく着地した襲撃者——カワキは薄く微笑んで麒麟寺を褒め称える。


『流石だ。零番隊第一官、東方神将・麒麟寺天示郎』

「てめえに褒められても嬉しかねえよ」


 霊王宮に攻め入った敵対者であるカワキを、霊王を護る王族特務の任に就いている麒麟寺が嫌うのは当然だ。カワキもそこに疑問は無い。

 だが、それにしても、麒麟寺がカワキに向ける目に込められた感情は、単なる敵を見るものでは無い気がした。

 カワキが軽く首を傾げる。


『……? 随分と嫌われてしまったようだね。“私みたいな”、なんて言われるほど、君と関わった憶えは無いんだけれど……』

「あァ? 当然だろうが!」


 カワキを蛇蝎の如く嫌う麒麟寺は、眼光鋭くカワキを睨め付け、吐き捨てるように言った。


「てめえのその目付き……ユーハバッハの野郎にそっくりで虫唾が走るぜ。そいつぁ人を人とも思わねえクズ野郎の目だ」

『“目が似ている”か。面白いことを言う』

「……あァん?」


 興味深そうなカワキの呟きに、何事かを問いかけようとした麒麟寺だったが——


「カワキ、無駄話はそこまでだ」

『ああ、そうだね。通して貰おう』


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