魔王vs.旱害 第三楽章

魔王vs.旱害 第三楽章


ライブフロアのステージ、討ち入りが始まる前、カイドウと3人の大看板が一堂に会したそのステージまでウタは吹き飛ばされた。そこへ飛行能力を得たギフターズと"牙象息吹"を応用し飛んできたジャックが降り立ち、人型へと姿を変える。


「へへ!ジャック様助太刀に来ましたぜ!!今コイツをやりゃあビッグ・マムに加勢できやす!!!」

「あァ……さっさと仕舞いにするぞこんな戦い」


槍を突き立て、それを支えにしてなんとか立ち上がるウタを見てジャックは牙の生え並ぶ口を開く。


「おい小娘…お前がさっきから口にする"新時代"ってのがあの"麦わら"を海賊王にさせるって話なら……そりゃあ無理な話だ…!!」

「…どういう意味それ……?」

「どうもこうもねェ!!カイドウ様こそ海賊王になる御方!!!お前らのようなガキ共が夢見るような"新時代"なんぞ未来永劫訪れやしねェ!!!」


ジャックとの戦闘中にウタが度々口にしていた"新時代"という言葉。その意味を肌で感じ取ったジャックは激しい口調で全否定する。そんな儚い夢など見るなと言うかのようにさらに言葉を続ける。


「そもそもあんな使えねェ奴らを切り捨てられず、守ろうとしたがためにこんなザマになってるようじゃ何も成し遂げられねェだろうがな…!!わかったらとっとと潰れろォ!!!」


ジャックの発言にその通りだと言わんばかりに周囲に飛び交うギフターズ達が笑う。自分の野望を否定されるばかりか、20年を耐え忍び今日という日を信じ続け命の限り戦う侍達を、裏切ったとはいえついさっきまで仲間であった元百獣海賊団の面々や今も百獣海賊団として戦う者達すら使えない奴らと吐き捨てるジャックにウタは怒り、はっきりと眼前にそびえ立つ大男をキッと睨みつける。


「"使えない"…?"切り捨てる"……?"ゾウ"でした事といい……やっぱりあんた達は私の大嫌いなヤツらにそっくりだ…!!平気で人を傷つけて!何もかも奪い尽くして!!そんなヤツらに私は絶対に負けるわけにはいかない!!!」


最後の十粒目の薬を飲み込み黄金の鎧を解除する。そして、ウタの脳裏に浮かんだのは破滅を招く狂気の歌。一度歌えば世界を滅ぼしかねない程の存在を解き放つ触れてはいけないもの。だがそれはウタにとっては絶大な力をもたらす救いの歌でもある。


「私がこれを全部引き出せなかったのは勇気が足りなかったから……過去を乗り越えて本当の意味で未来に踏み出そうとする勇気が……!!」


破滅の譜と共に脳裏に蘇るのは12年前の悲劇と、2年前に再びその力が顕現し仲間達に向けられた絶望の記憶。かつて自死の道を辿らせようとしたその記憶は彼女の心の奥底で今なお薄暗い影を落としていた。ゆえにその心に迷いが生じ、段階的にしかその力を奮うことが出来なかった。


「でも!!もう迷わない!!!その為の"2年"だったんだ!!!」


未来を勝ち取ろうとする侍達のためにも、自分を2回も拾い上げてくれて、救い、鍛えてくれた"赤髪海賊団"のみんなにいつか成長した自分を見せるためにも、なによりも"麦わらの一味"のみんなと一緒に笑い合い、いつかきっと大きなことを成し遂げるであろう船長を"海賊王"に導くためにも!目の前の強敵を倒すためにウタは歌う。破滅と救いの讃歌を。


「​─── ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ!!!」


ウタが歌い始めた直後、衝撃波が生じジャックとギフターズらの体をビリビリと震わせる。そしてウタが歌い続けるほどに彼女の周囲を闇が覆う。奇妙なドクロが漂い、鍵盤に似た腕のようなものも現れ、よりその禍々しさを増していく。


「死をも転がす救いの讃歌 求められたる救世主​────」


ウタが歌えば歌うほど、その闇は明確な形をもってウタを覆い始める。かかしのような形を形成し始めたそれはシルクハットから X字の傷跡となった左目が覗き、その凶悪さを物語る。


「祈りの間で惑う 唯 海の凪ぐ未来を乞う​────」

「……!!てめェらなにしてやがる!!!あんな明らかなパワーアップを見届けてやる道理はねェ!!!」

「はっ!!そりゃそうだ!!やっちまうぞお前らァ!!!3億の首頂きィ!!!」


ギフターズ達がウタへ襲いかかる。だがウタはそれを気にも留めず歌い続ける。そして右足を前へ1歩力強く踏み出し、その歌声にもより力を込める。


「その傲岸無礼な慟哭を!!!」


ウタの力強い歌声が周囲を覆い形となった闇を再び形なきものへと変化させる。


「惰性なき愁いには忘却を!!!」


バリバリィッ!!とウタから放たれた気迫にも似た瘴気がギフターズらを襲い、その意識を刈り取る。その見覚えのある光景にジャックはその額に汗を流し、驚愕する。


「まさか……"覇王色"…!?」

「さあ 混沌の時代には終止符を!!!」


たとえ一部の観客が気を失おうともウタは歌うことをやめない。形なきものとなった闇が彼女の身を包み込み、身に纏われる。

頭にはシルクハットが被られ、特徴的であった左目のX字がその帽子に刻まれている。鍵盤のような腕も一度その姿を消した後、ウタの背後から伸び始める。まるで自らの主を守るかのように。そして、その背中には大きな黒いマントが翻る。尊敬してやまない、大好きなあの"赤髪"の男と似たようなものを纏い羽織う。それを表すかのように周囲を漂うドクロに彼のシンボルでもある三本の傷跡が刻み込まれる。

そしてフッとウタは笑い、己の内にある"それ"へ語りかける。


(あんたも寂しかったんだね……でももう大丈夫!あんたも私も1人じゃない!!だから…一緒に戦って!!!)


その呼びかけに応じるかのように未だ周囲を漂い続けていた闇がウタの元へ集まり、収まっていく。


「怒れ 集え 謳え 破滅の譜を!!!」


見事に破滅と救いの讃歌を歌い上げ、触れてはならないものと一体化し己を見据えるウタに対しジャックは問いかける。


「ふざけやがって……!!お前が一体何の『王』になるって言うんだ!!?」

「『王』?……それなら私は…

『海賊王』を支える『魔王』になる!!!」


自らの野望を叶えるためにも、人生の半分近い時を共に過ごし今なお屋上で戦い続ける船長に仲間として、そして幼馴染としてその言葉を贈る。いつか来る素晴らしき時代を切り開くであろう彼に想いを託し、彼女は歌うことをやめない。何度でも、何度でも。

「私は最強」!

「アナタと最強」!!



「さァ行くよ!!"新時代"を切り開くフィナーレ!!!"魔王歌音階(エルケーニッヒスケール)・全開(オーケストラ)"!!!

「フィナーレか……いいだろう!!この舞台でお前に最期の死に花を咲かせてやる!!!」



​───────​───────​───────​───────



再び人獣型へと移行したジャックはこれで最後だと言わんばかりに雄叫びを上げる。ウタもその気迫に押されないよう意識を集中させ、愛槍を構える。


「なんて気迫…!!でも私"達"だってまだまだこれから!!今なら溢れ出すこの力を自由に扱える……!!行くよ!!!」

「来い!!!」


向かってくるウタを迎え撃たんとするジャック。それに対しウタはヒポグリフに己の内に宿す「王」の素質たる力をもってして魔王の力を纏わせる。こうして「王」の名を冠する2人が手を取り合ったことで"行進"する事無くその力が奮われる。彼女自身が「魔王」なのだから。


「"魔王の序曲(エルケーニッヒオーバーチュア)"!!!」

「グオォ!!!」


魔王を纏ったウタの凄まじい一撃はジャックの刀を叩き割り、その巨体をステージからライブフロア真上の空中へと吹き飛ばす。追撃をかけようとウタもステージから飛び立ち、その槍を振り下ろす。


「"魔王の受難曲(エルケーニッヒパッション)"!!!」


だがその槍は空を切る。間違いなくジャックの胴体を狙った一撃が躱され、なぜ!?と振り向いたウタの目に写ったのは人型となったジャックだった。


「な…!?まさか変身して!?」

「勝負を急いだな『魔王』…!!姿かたちを自在に変形し攻撃を躱すことができるのも動物系の利点の1つ!!"牙象曲剣(マンモスタスクサーベル)"!!!


そう言い空中で人獣型から人型へ、また人獣型へ移ったジャックは己の牙を抜き取り折れた刀の代わりの剣とする。


「どれだけ強力な攻撃であろうと当たらなければ意味はねェ!!落ちろ!!!"完全十象戯(パーフェクトゾウリング)"!!!

「キャアアア!!!」


空中から強烈な一撃を放たれ、ライブフロアへと叩き落とされるウタ。遅れてズシンとライブフロアへと降り立ったジャックは今の一撃に戦闘不能になったであろう敵を確認する為にウタが落ちた場所まで歩み寄る。だがそこに力なく倒れる女は居らず、フラフラとよろめきながらも立ち上がるウタがいた。


「バカな…!!あの一撃に加え下へ叩きつけられて、まだ立ち上がるだと!?」

「ハァ…ハァ……さっき食らったやつよりダメージが少ない……これが魔王の力……?」


ジャックの卑劣な作戦によりかつて背中に受けた技やライブフロアのステージ上まで吹き飛ばされ叩きつけられた時よりもダメージが少ない事に驚くウタ。魔王と一体化したことにより与えられたダメージを魔王と分かちあったのか、はたまた別の要因か。ともかく、ウタは再び立ち上がり魔王と一体化したことを実感し、その力で何が出来るかを思案する。このフィナーレを彩るために。


「うん!!今なら頭に思い描いたこと…全部できそう!!ここからが本番だよ!!!」


そう言い、ジャックの懐目がけて飛び込むウタの背中から4本の鍵盤のような腕がその姿を見せ、握りこぶしを作ったそれらがジャックに降り注ぐ。


「"魔王の間奏曲(エルケーニッヒインテルメッツォ)"!!!」

「"牙象剛毛(マンモスニードル)"!!!」


雨の如く降り注ぐ拳の連撃を耐え続ける最中に鼻の先をウタへ向けるジャック。咄嗟にまずい!と判断したウタは大きく飛び上がる。


「"牙象息吹(マンモスブレス)"!!!」

「!!!……また毒ガス!!?でも周りの人達じゃなくて私を狙うんだ。どうして?」

「ハァ……当たり前だろう…!!あれはお前を効率よく倒すための手段だ!!だが今のお前を相手にそんな悠長な事は言ってられねェ!!!わかったら降りてこい!!!」


降りろと言われたウタは空中に浮いていた。否、飛んでいた。ジャックの毒ガス攻撃を回避した後、背中から黒い翼を生やし飛んでいたのだ。


「言ったでしょ!今ならなんでもできるって!!これなら今まで以上にもっともっと自由に空を舞える!!最っ高!!!」

「黒い翼…!キングの兄御の真似事か!?ふざけやがって!!"牙象曲砲撃(マンモスタスクキャノン)"!!!

「わっ!!と…!!もうそんな攻撃も当たらないよ!!!」


次は…と何を繰り出そうか一考するウタの元へジャックが地を蹴り鼻息を利用し飛び上がる。


「当たらねェなら当てるまで!!空中戦がお望みなら受けて立つ!!!」

「えェ!?あんたも飛ぶの!!?でもいいね空中戦!!撃ち落としてあげる!!!」


突如として始まった激しい空中でのぶつかり合い。黒い翼によってジェット機以上の機動力を手にしたウタが飛び交い自由自在にジャックへ槍を浴びせる。対するジャックも"牙象息吹"を多用し宙に飛び上がりウタを迎え撃つ。

彼らの武器が、技の数々がぶつかる度にウタの能力による影響か小気味よい音が鳴り響き、1つの音楽となる。彼女の代名詞とも言える歌"新時代"。その音楽を奏でウタ自身もそれを歌う。


「​───Do you wanna play? リアルゲーム ギリギリ 綱渡りみたいな旋律」


ライブフロアに響き渡るウタの歌。ウタワールドに引き込むのではない、自分自身を鼓舞するための歌。だがその歌を聞いた者達が次々に戦いの手を止め聴き入る。


「認めない?戻れない?忘れたい?夢のままじゃ終われない! I wanna be free​───」


そして、ライブフロアに響き渡る歌の中心にいるウタとジャックの激突を見上げる。歌も相まって激しい衝突を繰り広げるその勇姿の虜となり観客となった彼らは徐々に盛り上がりを見せる。


「見えるよ新時代が 世界の向こうへ 

さあ行くよ NewWorld!!!」


そしてウタの歌も、彼女の高揚も、ジャックの苛立ちも、観客達の熱気も最高潮へと駆け上がっていく。


「新時代はこの未来だ!!世界中全部変えてしまえば 変えてしまえば」


最も盛り上がるサビの部分へ突入し、ライブフロアはより熱狂の嵐へと誘われる。他を圧倒するその歌唱力と勇姿に観客達の盛り上がりは有頂天だ。先程まで命のやり取りをしていた者同士が武器を手放し肩を組み、歓声を上げる。

そして、見ることは叶わなくともその素晴らしい歌が耳に届きキッドとローもニヤリと笑みを見せる。


「果てしない音楽がもっと届くように 夢は見ないわ キミが話した『ボクを信じて』」


その歌と勇姿がライブフロアを包み込む。だがそこに異を唱えるたった1人の男、ジャックがウタに飛びかかる。


「ハァ…ハァ……随分と派手に歌い散らしたなァ!!いい加減落ちろォ!!!"牙象(マンモス)"…

「そっちこそ…!!!私のステージの邪魔しないで!!!"魔王の(エルケーニッヒ)"…


「"曲剣撃(タスクサーベルクラッシュ)"!!!」

「"鎮魂曲(レクイエム)"!!!」


2人の激しい攻撃が交わり、共に地面へと叩きつけられる。相手への攻撃にばかり意識が向き、両者共にノーガードのままその体で互いの攻撃を受け止め合う。

そんな中、先に立ち上がったのはジャックだ。動物系古代種のタフさによりよろめきながらもその4本の足で体を支えていた。勝ったのはジャックか…?と思われたその時、フラフラとおぼつかない足取りではあるがウタも立ち上がり前へと進む。

その様子にジャックは苛立ちを超えた困惑の感情を吐露する。


「なぜ立ち上がる………いやなぜ立てる!!?とっくに体は限界なはずだ!!!」


ライブもまもなく終演。既に両者の肉体は精神によって突き動かされている。それは誰が為に動くのか、少なくともジャックは自分達の船長の為だと考えていたが。


「確かに喉は痛いし、血はいっぱい出てるし、おまけに左手も上がらない………けどね」


彼女の脳裏に翳るのは愛しき幼馴染みだけではない。貧しくても笑うしかない、いや笑う事しか許されない、そんな世界をなんとか生きてる人達。

主君を殺され、仲間に裏切られてなお、『開国』という言葉と未来から託された意志に恥じぬよう突き進む侍達。

そんな彼らに優しくされた、食べ物をもらった、背中を預けた。


「私は………私は!!友達を傷つける人を許さない!!!」


人はそれを──戦友という。

短くはない旅路の中で侍達は仲間だった。短い触れ合いで、民達は幸せになれる人ばかりだった。


「友達だと………?笑わせる!!この国は信じるべき存在を見誤り、迫害を反省もせずにたらればを語るゴミばかり!!おれ達にとってただの踏み台でしかねェんだよ!!!」


ジャックの鼻が武装色で黒く染まる。牙もまた染まり上げ、顕現するのは三叉の槍。

恐らくは最高の一撃、生半可な技では対抗できない。武装色では勝てない事は知っている。

ならば、自分には何が出来る?

何が得意だ、何の色に優れている?

──答えが出た時、ジャックの雄叫びがライブフロアを支配した。


「"牙象暴走列車(マンモスタスクトレイン)"」

「"魔王の(エルケーニッヒ)"……」


ウタもまた槍を片手に音を置き去りにして加速する。魔王は退かない、後ろにはもう戻れないのだから。


「"三叉象(トライデント)"!!!」

「"悲哀歌(エレジー)"!!!」


磨き上げられた最高の一撃にして最後の一撃がぶつかり合う、が……力負けしているのは誰に見ても鮮やかで。


「世の中は甘言じゃ変わらねえ!!お前が目指した"新時代"も!!!世界を変えるなど夢のまた夢だ!!!目を覚まして、現実に崩れ落ちろ!!!」


2本の牙で弾かれた槍が空を舞う。体制を崩したウタへ迫る鋭い鼻の一撃。未来が見えなくても分かる、心臓を撃ち抜くその先に。


「──いつだって私の現実はつらかった。けど、だから今の私がいる!!あんたがどれだけ言おうとも!!!」

「しまった!鼻が──!!」


崩した体勢から急速に生み出した盾による受け流し、大地に深く突き刺さった鼻をジャックが抜く間に歌姫は空に身を躍らせて。


「私は魔王として新時代を歌い上げる!!"魔王の(エルケーニッヒ)"!!!」

「聞くのはお前の悲鳴だけだ!!"牙像息吹(マンモスブレス)"!!!」


突き刺さってた鼻に吸われていた瓦礫が風圧の弾丸として飛来するが、ウタは微風のようにかわし、かすりさえしない。見聞色で読んでいるのに当たらない、その御技を使える者をジャックは1人しか知らない!


(見聞殺し……!!あの"赤髪"の!!!)

「"悲哀歌(エレジー)"……!!!」

「来い!!おれは『旱害』のジャック!!!カイドウ様を海賊王にする男だ!!!"牙象突撃槍(マンモスタスクロケット)"!!!」


牙が飛ぶ。ウタの頬を切り裂いて、天井を破壊して、月の光が後光に差す。月下に咲いた一輪の花のような槍が。


「"再演(アンコール)"!!!!」


ジャックの牙を吹き飛ばし、床を貫き、大地を穿つ。残ったのは巨大な穴、そして穴の底で月に照らされ、口から血を零す男と。


「くそ……!!屋上での傷がなければ、お前みたいな小娘に………!!!」


「ハァ………ハァ………全く!10億の男が情けない──

負け惜しみィ!!!」


槍を片手に勝利を歌う魔王の姿のみ。



​ドクロドーム内 『ライブフロアの戦い』​────


勝者──​──ウタ





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ライブフロアでのウタLIVEが終幕し、フロア内にいた者達は興奮冷めやらずといった具合に歓喜に沸いていた。


「うおおおお!!!ジャックが!!『大看板』が倒れたァ〜〜〜!!!」

「すげェぜおウタさ〜ん!!!」


そして誰が言い始めたかは分からないが、「U・T・A!U・T・A!!U・T・A!!!」とウタを称える声が鳴り止まない。そんな急激に数を増加したファン達の称賛を一身に浴び、精一杯の笑顔と手を振りまくウタ。

地獄のライブフロアから解放されこの戦いの趨勢すら決まったかと思われたその時。


「"天上の炎(ヘブンリーフォイア)"!!!」


ビッグ・マムの発する大炎上がここがまだ地獄の釜の底であることを思い出させる。キッドとローも決死に反抗するが芳しくないようだ。


「うわあああそうだった!!!ライブフロアにはまだビッグ・マムが!!それもめちゃくちゃでっかくなって!!!」

「ちきしょー!!この地獄はまだ終わらないってのかよォ!!?」


阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る中、おぼつかない足取りながら前へ前へと歩み始めるウタをベビジジーから元に戻ったチョッパーが制止する。


「ウタ!!お前まさかトラ男達のとこに行こうとしてないか!?」

「ハァ…ハァ……当たり前でしょ……?ジャックを倒したからってこの戦いは終わらない………それにビッグ・マムは私達がここに連れてきたようなもの……あの2人にばっかり押しつける……わけには……!!ウゥッ!!」

「ほら見ろ!!もう限界だ!!不眠薬だって耐久値ギリギリまで飲んでるだろ!?」

「でも……!!!」


キッドはともかく、打倒カイドウを掲げて海賊同盟を組んだローからしてみればビッグ・マムとの戦いなど本来起こりえなかったもの。サンジを連れ戻すためとはいえビッグ・マムの怒りを買い、四皇を2人も相手にする羽目になりその片割れを負担させてばかりでは筋が通らない。

たとえ無理をしてでも対ビッグ・マムに加勢しようと強情なウタの元へイヌアラシが歩み寄る。


「​───過去の因縁から戦う相手を選び倒さねばならないのならば、私は二度と祖国に顔向け出来ぬな…」

「あ……イヌアラシさん……私そんな……!」

「フフ……少し意地悪な言い方をしたな。安心しなさい、ゆティアが我々の無念を晴らそうとジャックを倒してくれたのは分かっている。国を代表して礼を言おう…ありがとう!!」


破壊の限りを尽くされ、国も体も心もボロボロにされたゾウの人達のためにとここまで歌い上げ戦い抜いてきたウタにとって、そのありがとうという5文字は何にも代えがたいものであった。そこからイヌアラシは、だからこそ!と続ける。


「彼らを信じ、託してはみぬか?もしそれに負い目を感じるのならば、この戦いに勝利した後で彼らに礼を言えばいい……それならば一本筋を通すことは叶う筈だ。今の我々がそうであるように」

「確かに……そうだね………じゃあ後であの2人にはとびっきりのお礼…してあげないと」


そう言いながら、倒れ込むウタを見てチョッパーは体を大きくして支える。支えられるその体には既に魔王の力は無くなっており、ウタが能力を解除している事は明らかだった。


「ごめんチョッパー……私やっぱりもう限界………もうすぐ寝ちゃうけどいいよね……?」

「ああ!!とりあえず比較的安全なとこに避難しよう………ってもう寝てる!!?」


頼れる船医にその身の全てを委ね眠りに落ちるウタ。次に目覚める時はこの戦いが終結し、勝利した時だと確信しながら。


だが次に意識を取り戻したのは二度目のルフィ敗北宣言であった。








​​──────​─おまけ​というか補足───────​─


最後のところで、ウタが目を覚ますのがルフィ二度目の敗北宣言じゃなくてチョッパーの手当てによる消毒の痛みで起きてってことにすれば、こっちの冒頭へ繋げられるかなぁと。消毒の痛みで起きるのはちょっとギャグだけども…カイドウにつっかかりに行くのはどっちでも変わらないといいなぁと思います。


ウタが魔王化するシーンの場面や台詞等を参考にさせて頂いたSS


ウタとジャックが最後激突するところの引用させて頂いたSS。技名等を多少改変しつつもほぼ原文そのまま

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