"歌姫"ウタVS"大看板"ジャック、覚醒の時
「ジャック様! 助太刀に来ましたぁ!!」
「今、こいつをやればビッグマムに助太刀できやす!」
ライブフロアもまもなく佳境。クイーンのステージに吹き飛ばされたウタがマイクスタンドを杖にかろうじて立てば、
「はぁ………はぁ………みんな」
血を流し、傷だらけになりながらも明日を求める人達の戦う姿。
届かぬ希望に手を伸ばす侍の姿達。
「参ったな………今、大看板に出てこられるのはきつい………!」
「振り絞れ、赤髪の娘ぇ!! ここでテメェが負けたら総崩れだぞ!」
ステージ上にジャックが降り立つ。舞台の歌姫にお触り厳禁という暗黙のルールなど知らないばかりに、彼は降り立って。
「おい小娘…てめェがさっきから口にする"新時代"ってのがあの"麦わら"を海賊王にさせるって話なら……そりゃあ無理な話だ…!!」
「…!?どういう意味それ……」
「どうもこうもねェ!!カイドウ様こそ海賊王になる御方!!!
てめェらのようなガキ共が夢見るような"新時代"なんぞ未来永劫訪れやしねェ!!!」
でかい口を叩いたウタを囲む兵士達もそう言って嘲笑うが、ジャックだけは笑わない。
──それが、一端の海賊に向ける物だと知っていたから。
「大看板、百獣海賊団、カイドウ………それがどれだけ凄いか知らないけど!!」
脳裏に刻まれた狂気の楽譜を歌い上げ、狂気が、悲哀が、嘆鳴が、一人の娘を魔王へ変える。
「何だあの小娘…!あのでけー影が小娘に纏わりついて行きやがる!! お前ら、さっさと──」
「歌姫屋の有れは………」
「ふん、やっぱりあったか、王の資格が」
その先の言葉は紡げなかった。
並々ならぬ圧力、意識を手放すことで身を守るほどの覇気が彼らを襲い、地に伏せる。
それがなにかを理解したのは、目の前のジャックと同盟海賊船長達だけ。
「ふざけるな………貴様がカイドウ様と同じわけがないだろうに!!
『ただの歌姫』にどうこう出来るものじゃねぇんだ!おれも!カイドウさんも!」
「なら私は、『歌姫』じゃなくていい………
姫を超えた、『海賊王』を支える『魔王』になる!!
魔王歌(エルケーニッヒ)!! 音階・全開(スケール・オーケストラ)!!」
意識を手放す兵士達が最後に見たのは、血で染まった白髪と情熱の陽のように揺れる赤い髪。
(まるで四皇の赤髪………)
ジャックの体が縮み、人獣型へと変貌する。
もう舐めていい相手だとは思わないからだ。
「──貴方を倒すまでこのライブは終わらない」
「歌い切って死ぬ気か?」
闇の衣を身に纏い、顕現するは歌の魔王。
全てを導く、魔の歌姫にして死の厄災。
「明日のことなんて、誰にも分からない。そうでしょ?」
「だな。だが勝つのは俺たちだ!!」
魔王に挑む、古代の生物へのラストソングが今、始まる。