『ライブフロア、混沌』

『ライブフロア、混沌』


「腕は大丈夫か?次は足見るぞ。」

「いっ…大丈夫、染みただけだから…」

ライブフロア。激闘の名残りが残る横で、

チョッパーがウタの手当てを進めていた。

大看板の一角ジャックを下し、そしてつい先程も

四皇ビッグマムが最悪の世代の二人の船長によって倒された。

今頃はゾロとサンジも決着が着いている頃合いだろう。

つまり、残す主な敵はカイドウのみとなったはず。

そしてそのカイドウとルフィの激闘は、未だ屋上で続いている

「ねェチョッパー、そろそろ私も大丈夫だから行きたいんだけど…。」

「大丈夫って…不眠薬で体力も限界だし、体も喉もボロボロなんだぞ!?」

「でも、まだすぐ側で皆戦ってる…私も行かないと」

カイドウの勝利を信じる百獣海賊団と侍たちの戦いがライブフロアで続いている。

屋上のカイドウをルフィが倒すまで戦いは終わらない。


ルフィは必ず勝つ。

一度落とされてしまったが、今度こそはカイドウを倒してくれる。

今この場にいたものは皆それを信じていた。  


その時だった。


ボコォン!!


「わ!また上からだ!」


「………え?」

突如ウタが上を向く。

「…ウタ?どうしたんだ?」

「………ル…フィ…?」

屋上で戦っているはずのルフィの声が……消えた。

その直後、もう一度大きな振動が起こり…上の穴から、勝者が姿を見せた。


「"麦わらのルフィ"は死んだ!!!」

「まだおれに歯向かいてェ奴ァ名乗り出ろ!!!」


屋上での戦いの勝鬨を上げ、最強生物がライブフロアに降り立つ。

カイドウの去った屋上から、敗者の声は感じられなかった。


「うわあああああ〜ん!!ル゙フィがや゙られちま゙った〜!!!」

チョッパーの慟哭が響く。

ナミも信じないと吠えたが、マルコに熱息から庇われるのみ。

フロアの侍と海賊達に、敗戦の絶望が広がっていく。

「チキジョウ…ウダ…どうすれば…ウタ?」

チョッパーが気づいたときには、先程までいたウタは側にいなかった。 


「モモの助を連れてこい!!!それまで戦いはやめねェぞ!!!」


カイドウが敗者達への最後通告を宣言する。

残った百獣海賊団が、侍たちと虫の息の海賊達に刃を向ける。


己も掃除をしようとしたときだった。


「…なんだァ?」 


背後から奇妙な覇気を感じ振り返る。

そこにいたのは、屋上のときと随分様変わりした一人の娘。


「魔王歌音階・全開(エルケーニッヒビート・オーケストラ)…!!」

「"赤髪"の娘ェ…!!それがジャックを倒した魔王の力か…!!!」


屋上での一騎打ちのとき、下から何度も覇気が流れてきた。

その中でも特に異質だったのが、キングを倒した刀の覇気…そして、目の前の魔王の力だった。


「なるほど…あのジャックを倒すだけはあるみてェだ。」

カイドウの言葉にも耳を貸さず、ウタは魔王の力を乗せた槍を構える。


「魔王の行進曲(エルケーニッヒマーチ)…」


「鎮魂曲(レクイエム)!!!」

渾身の一撃がカイドウの首に迫り…空を切る。


「………え」


「歌姫屋!!!上だ!!!」

ローが叫ぶ。

ウタが上を向けば、紫色の閃光が疾走っていた。


「降三世…!!引奈落!!!」

瞬時に人獣に変貌したカイドウの一撃が振り下ろされ、直撃した。

吹き飛ばされ、そのままウタがライブフロアに叩きつけられる。


「ガハッ……!!」

完全な魔王の力で半減されてもなお重すぎる一撃に吐血する。

かろうじて魔王化は解けてないものの、既に体を動かす力などほとんどないはず。

それでも、ウタが立ち上がった。


「まだだ…私が相手だカイドウ…!!」

「見苦しいぞ"赤髪"の娘!敗戦を受け入れろ!!お前らは船長諸共おれに負けたんだ!!」

既に龍に戻ったカイドウに、なおもウタは涙目になりながらも吠えた。


「私は…"麦わらの一味歌姫"だ!!」

己はただ親の名を齧るだけではないと。

「ルフィは海賊王になる男だ!!あんたなんかに負けるはずがない!!」

自分達がこんなところで終わるわけがないと。

「私があんたを倒して…ルフィを海賊王にする!!!」

未だ消えぬ闘志のままに吠え続けた。


「好きなだけ吠えりゃいい…だが気合だけで勝てりゃ誰も苦労なんざしねェんだよ!!」

カイドウの咆哮がライブフロア中に響く。

なお怯むことなく槍を構えるウタの後ろから、声をかける男が二人いる。


「誰が海賊王になるだァテメェ…!?」

「相変わらずやかましいな…歌姫屋。」


トラファルガー・ローとユースタス・キッド。

満身創痍ながらもビッグ・マムを倒した二人がウタに並び立つ。


「カイドウの首は予定通りもらってやるさ…!!降伏も無抵抗もごめんだ!!ハァ…」

「麦わら屋め…ハァ…面倒かけやがって…!!」

「…ハハ…そんなの…いつものことじゃん。」


「テメェら全員降伏する気がねェらしいな…なら全員死んで本望ってことだな…!?」

カイドウが再び熱息を放たんとする。

三人が各々の武器を手に飛びかからんとした。





 ドンドットット♪


その時、ウタの耳には、いつか聞いたドラムの音が届いた。


「あ!?」

「!?」

「…ルフィ…!?」


その場の多くのもの、カイドウを含む見聞色の使い手たちが、

屋上からの声を感じた。


バリバリィ!!


次の瞬間、圧倒的な覇王色がライブフロアに流れ込んでくる。


「おいお前達!!」

黒い稲妻が、百獣海賊団の意識を刈り取っていく。

そして


ボコォン!!

「ウオオオ!!!」

屋上からの巨大な手が、カイドウをライブフロアから引っ張り上げていった。


「麦わら…!?」

「あいつどうやって息を…っ!?歌姫屋!?」

ローの横で、ウタが倒れる。

ギリギリで保っていた魔王の力も解けていった。


「ったく、ひでェツラしてんなおい。」

「…うるさい。」

「…あークソ…駄目だ。」

二人も同じくその場に倒れ込む。

はっきり言って限界だ。

かなり虚勢を張っていたのは否めない。


「…今度こそ勝つんだろうな、あのバカ猿は。」

「当たり前でしょ、ルフィは勝つもん。」

「…ひとまずお前はその顔をなんとかしろ。締まらねェ。」

「トラ男もうるさいよ…。」


腕だけでも上げて、頬を流れる涙だけでもなんとかしたい。

だがもう指も動かない。

しばらくはもうこのままでいいだろう。


「…へへ…あとは頼んだよ…ルフィ」





「痛でェ〜!!!」



「ギャアアアアアアア!!!」

fin

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