響き渡る往生の唄:1

響き渡る往生の唄:1

闇堕ちエンジニア部始動

【響き渡る往生の唄:2】

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この作品は、過去作「計算違い2」の未来の時系列です。まだ未読という方は先に「計算違い」を読む事をお勧めします

【計算違い1】 【計算違い2】



ミレニアムに集った過激派達の恐ろしい作戦が成功してしまったら…という内容なので、救いは全く無いと事前警告しておきます

更にエンジニア部始めとした優しい子達が復讐心によって闇堕ちし、非情な性格になっていますので注意!









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ここは、ミレニアムサイエンススクールの一角…エンジニア部の部室棟

部長の白石ウタハは、濁った目を一冊の本に向けている

すると読書中の彼女に対し、部員の猫塚ヒビキが声をかけた


ヒビキ「ウタハ先輩、何読んでるの?」

ウタハ「やあ、これは先日ミレニアムにやってきた百鬼夜行の同志からもらった本だよ。[往生要集]という」

「往生要集?」

「簡単に言えば、極楽往生に関する重要な文章を集めた古い書物だね。それだけではなく、地獄についての描写もあって中々面白いよ」

「地獄…」

「ああ、あの砂漠にいるイかれた連中が行くに相応しい場所だ」

ウタハの声に怒りが少し混ざる

「…さっき見つけたんだが、この一文を少し見てくれないかい?」

「うん。ここの事?」

ヒビキはウタハが指差す部分を読む

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〈人能く汝を救ふもの無し〉
〈如し大海の中にして〉
〈唯一掬の水を取らんに〉
〈此の苦は一掬の如く〉
〈後の苦は大海の如しと〉


(現代語訳)

[汝が受ける苦しみは]
[大海の水の中の]
[ほんの一掬いの水にしか相当しない]
[むしろこれから受ける苦しみは]
[大海の水のように限りないものとなる]


「往生要集」:阿鼻地獄の章より抜粋



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ヒビキ「大海の水のように…」

ウタハ「そうさ、もうすぐ完成する砂糖中毒者を鏖殺するミサイル…あれを撃ち込まれて悶え苦しむ人でなし共の苦しみは、まさに『一掬の如く』と言える」

「うん。モモイ達があんなに苦しんで…ミレニアムどころか他の自治区まであれくらい苦しんでいる人が沢山いる。そう考えたら、少し苦しんだ後でもちゃんと死ねるだけまだマシだよね」

「そうだ…あいつらは死んだ後、地獄で大海の如し苦痛を味わい続けるべきだ」

「じゃあその為にも早く完成させないといけないね。休憩時間もそろそろ終わりだし、私はコトリを起こしてくる」

「頼んだよ。同志達にも声をかけて作業再開と行こう」


ウタハは往生要集を置くと、部室棟とは別の作業棟へ向かい、ヒビキはコトリを起こしに部室の一角へ足を運ぶ…

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ヒビキ「コトリ、起きて」

コトリ「っ゛…ぁ…ぅ゛…」

「はぁ…ちゃんと寝かせてるのに、最近どんどん寝坊してきてる。乱暴に起こしたく無いんだけどなぁ…」


呻いているコトリは、特殊な椅子に拘束されている

沢山の配線が繋がっていて、一見すると拷問器具では無いかと思うほどの異様さを放っている

だが、この椅子は実際拷問器具と言える代物だろう。何故なら…


「ほら、早く起きなよ」

(ビリリリリリリッ!!!)

「あ゛あ゛あ゛っがあああぁぁぁ!?」


ヒビキが近くのツマミを捻ると、椅子に電流が走った

当然コトリは電撃を受けて絶叫しながら跳ね起きる

それを見たヒビキはツマミを戻した


「ねぇ、私もあんまりこういう事したくないんだ。ちゃんと起きれるように休憩する時はしっかり寝なよ」

「はーっ…はーッ゛……!ひ、ヒビキ…も、もぅ…ゆるして…ください…」

「え?…今なんて言った?」

「こんな、の…まちがって、います…!私達は、エンジニア部、なんですよ!?どうして、げほっ!こんな、非人道的な行為に、手を染めるんですかっ…!」

「………」

涙目で訴えるコトリに対し酷く失望した眼差しを向けるヒビキは、必死な彼女の目の前に立つと髪を乱雑に引っ掴む


(ガッ!)

「いぎっ…!?」

「最初の時から何度も訊いてる事だけどさ、なんでコトリは憎しまないの?私達のプライドも、大事な発明品も、大好きな人達も、全部全部全部全部あの砂漠の気違い共が原因だって…分かってるはずでしょ?なんで未だに“同志”にならないわけ?いい加減にしてよ」

「だ、だからって、人殺しだなんて絶対に許されません…!今なら、まだ、まだ間に合いますから…!」

「チッ、もういい」


ヒビキは置いてある制御装置のボタンを押した

次の瞬間、巨大な管がコトリの口を塞ぎ椅子の拘束具が稼働し始める

この椅子は彼女が脱走しないようにするためのものでもあり、気絶しない程度に開発作業へ強制従事させるものだ

水分や栄養は口を塞ぐ管から水と栄養剤が注がれて飲まされるので栄養失調にはならない…しかし、まともな食事は許可されないまま何ヶ月も作業させられ続けていたのでそれなりに豊かだった身体はもうすっかり痩せていた


「じゃあ今日も作業お願いね。口より手を動かすの、そろそろ覚えて欲しいな」

「ん゛んんーっ!んぅんん゛んーッ!」


拘束具に無理やり手を動かされ作業開始させられ、泣きながら呻くコトリに背を向けて立ち去った──




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何故コトリはこんな目に遭っているのか

ウタハとヒビキは何故過激派側に闇堕ちしてしまったのか

それはユウカとゲーム開発部3人が激戦を繰り広げてしまい、C&Cとアリスの手で気絶させられた後ハレ含む一部の生徒達がミレニアムを出奔しアビドス入りした後まで遡る




   (サンド・シュガー)
ノア「砂漠の砂糖…」

ネル「ああ、あいつらが食っちまってた砂糖は“麻薬”だったんだよ」

アカネ「ミレニアム生の様子がおかしくなった人達に共通する点や、昨今の不審な取引などを調査したところ、アビドス自治区から流れて来た砂漠の砂糖という麻薬に辿り着きました」

アスナ「そういや昨日私も食べさせられそうになったなぁ〜。怪しい業者やお店は全部捕まえたから流通はしないと思うよ!」

トキ「砂糖関連の輸入も現在差し止め中です。エージェントなのでそこも抜かりなくやっています。ピースピース」

カリン「まさか、生徒会長が行方不明の状態でこんな事が起こるなんて…私達はどうすればいい?ノア」


ノアは頭を抱えながら机に肘を置くと

「…少し、考えさせて下さい」

そう呟いた

「まあそうなるよな。いいぜ、あたし達は出動準備しつつ見回っておく。どうするか決まったら連絡しろよ?」

ネルはそっとしておこうと思い、C&Cにパトロール命令を下した後セミナー室を後にした



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「どういう事ですか…?何故麻薬がこのミレニアムに…?ユウカちゃんやモモイちゃん達は麻薬を摂取…?」


理解が追いつかない

意味が分からない

アビドスからの宣戦布告とでも言うのか

今まで見た資料の記憶も合わさって混乱は余計加速してしまう

監視カメラ映像がフラッシュバックする

暴言を吐き散らすみんなの姿

ユウカちゃんに掴み掛かるハレさんの姿

ハレさんを含む生徒達がミレニアムから離れる姿

信じたくない光景ばかりが記憶に残っている


あれらは全て

アビドスのせい…?



「ゔぅ…っ!」

口を手で抑えてトイレに駆け込む

麻薬によってみんなが狂わされた

その事実に耐えきれず、胃の中のモノを戻してしまった


「お゛ぇ゛…!がはっ!ぅ゛ぅぅ…」

口から唾液と胃液が垂れる

苦しい

麻薬を盛られた以上、ユウカちゃん達は長く苦しみ続けるのだろう…

そう考えるとより辛くなる

せめて私が摂取しておけば

私が食べていれば

私が

私が狂えば良かったのに

ユウカちゃんは悪くないのに

私は彼女を叱責した

モモイちゃん達は悪くないのに

みんな禁断症状で苦しみ続ける──




「…許せない」

許せない

麻薬を流通させ大事な人達を狂わせる

こんな事をする輩は人間ではない

私達はアビドスの虚妄のサンクトゥムを攻略する際協力したというのに恩を仇で返した

宣戦布告と受け取っても良いだろう

ユウカちゃん達が苦しめられる分、連中も苦しめるべきだ


いいや

「皆殺しにしてやる」




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トイレの扉を乱雑に開けて出る

するとセミナー室には、エンジニア部のウタハ部長とヒビキさんがいました

2人はユウカちゃんに撃たれた怪我の治療中だったはず…

実際、2人の身体は包帯やガーゼが身体の所々に巻かれていたり貼ってある


ウタハ「やあノア。大丈夫かな?」

ノア「はぁ…はぁ…はい…」

「…うん。君も私達と同じ目をしているみたいだ」

「同じ目…?」

そう言ったウタハ部長とヒビキさんの目を見てみると…

彼女達の目には、憎しみや復讐心が込められていました

ヒビキ「ノア先輩。私達も砂漠の砂糖について知ったよ…報復、したくない?」

「…はい。私はアビドスが許せません」

「よし、ではこれから私達は“同志”だ。ミレニアム内には同志の素質がある生徒がまだ大勢残っている。この地を、私達がアビドスを滅ぼすための拠点にしようと思うんだが、どうかな?」

「良い考えだと思います。では砂糖中毒になってしまった子達をミレニアム外…シャーレに送致して治療に専念して貰うことにしましょう」

正直な話、ユウカちゃん達が苦しむ姿を視界に入れたくないのもあった



「ねえ、C&Cはどうする?」

「彼女達もシャーレに派遣します。計画が内部から瓦解させられてしまうと意味がありませんから」

「そういえば、先生が主導となって正常な思考を保った生徒達の連合を組む…といった話を聞いたよ。そこの戦力としてC&Cを派遣するのはどうかな?」

「それは良い口実ですね。早速手続きを進めておきます」

「ノア先輩、ウタハ先輩、いっそ自治区を問わず同志をミレニアムに入れるとかどう?そうすれば作業も計画もスムーズに進められるはずだよ」

「自治区の垣根を越えてアビドスへ復讐するか…そうしたら1秒でも早く計画完遂出来ると思うのは同感だ。そうしよう」

「それでは、“ミレニアムを支配する”事にしましょう」

「ねぇ、作戦名はどうする?」

「…その程度のロマンは残しておくか。そうだな、アブズ作戦はどうだい?」

「いい響きですね、私も賛成です」

「じゃあ、アビドス殲滅作戦ことアブズ作戦、開始だね」



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こうして過激派によるアビドス殲滅作戦が開始された


数週間後、反アビドス連合が結成されて間もない時のこと

ユウカやモモイを始めとした砂糖中毒者達は反アビドス連合へ送致され、同じくC&Cも戦力として連合へ派遣される…



しかし、これらの行動に不信感を持った生徒達がミレニアム内に居た

それは、ヴェリタスと特異現象捜査部のメンバーであるヒマリとエイミ、チヒロとコタマとマキの5人

5人は、ヒマリが選んだ人気の少ない特別校舎の空き部屋に集まる

近づく足音をコタマに探知させ、いざという時はドローンをけしかけて撃退するようにしている

万全の準備を整えた状態で、5人は密談を始めた


チヒロ「ヒマリ、最近セミナーの様子がおかしいと思わない?」

ヒマリ「えぇ…実際、セミナーどころかミレニアム全体の様子がおかしいと思います。コタマ、接近者は居ませんか?」

コタマ「はい。現在近づいてくる足音は一つもありません」

マキ「ねぇ、様子おかしいってどういう感じにおかしいの?」

「ユウカ達が砂糖中毒治療のために連合へ送られたのは分かる。けれどC&Cまで連合へ派遣したのは…少しおかしい」

「それに、最近一部の生徒が過激な発言をしているのを盗聴しました。アビドスを許すなだとか、全滅してやるだとか…過激なものだと、皆殺しにしてやる…と言う人もいました」

「えー…そこまで言う人いるんだ…」

エイミ「部長。最近少し調べて分かった事だけど、ノア先輩とウタハ先輩はここのところ人目のつかない所でこっそりと会ってるみたい」

「何でもかんでも怪しむのは良くない事ですが…この状況でノアとウタハが密会しているのは何かを勘繰ってしまいますね…」

「どうする?もっと深く調査する?」

「うーん…少し考えさせて下さい、どうするのが最善か…」

「いつも結構即決しがちな部長にしては慎重だね」

「実は今日の運勢がかなり悪くて…少し嫌な予感がするのです。念の為に判断は慎重を喫する方が良いかと思います」

「相変わらず占いバカ…」

「バカとはなんですかバカとは。超天才清楚系病弱美少女ハッカーですよ」

「ヒマリ、良いから考えて」

「もうチーちゃんってば。急かさないで下さい」


思案を巡らせるヒマリだったが…

その時突然

「わっ!?」

コタマがヘッドホンを慌てて外すと耳を抑えた

「ど、どうしたのコタマ先輩!?」

「急に物凄いノイズが…!」

「チーちゃん!」

「分かってる!ジャミングが発信されているのかもしれない!」

チヒロは持ち込んだノーパソを開き妨害電波の相殺と発信源の追跡を始める

エイミは突入に備え、携帯中のショットガン[マルチタクティカル]を構えた

「分かった…この部屋の前の廊下!?」

「えっ!?廊下に仕掛けられてるって事なの!?」

「エイミ!」

「分かった、発信源を潰してくるね」


そう言って扉を開けたエイミ

なんとそこには


ノア「あらエイミさん、お急ぎですか?どうやら他の方も集まっているようで…手間が省けましたね♪」

「なっ…!?」

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