言葉無き花の光輪3

言葉無き花の光輪3

スイーツ部全滅のお知らせ

【言葉無き花の光輪2】

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ヨシミ「カズサはどこをほっつき歩いてんの!?急に連絡つかなくなったし!」

ナツ「新たな部員と共に出掛けて随分と経った…しょうがない、探しに行こう」


私は苛立ったヨシミを宥めながら、2人でカズサと新入部員を探しに出掛けた

この暑さだ。熱中症でダウンしているという可能性があるかもしれない

そもそも外縁部は人自体があまり居ないのだ。倒れている彼女らを搬送するなら私達がやるしかないだろう





しばらく歩いていると

「ん?ちょっとナツ、なんか車停まってるんだけど」

「廃車ではないのかね?」

「…あれ、アイスクリームトラック!?ラッキー!ちょうど欲しかったのよ!」

「ヨシミ…私達の目的を忘れたのかね?もしかしたらこうしている間にカズサ達は砂に倒れ苦しみ悶えていて…」

「んなわけないでしょ!あいつらだって馬鹿じゃないんだからどーせ冷たいものでも飲んでリラックスしてるに決まってる!こんな暑さじゃアイスでも食べないとやってらんないわよ!」

「はぁ…だがそれは一理ある意見だね。私も付き合うとしよう。夏の日差し照りつける砂漠の中アイスを貪る…中々良いロマンじゃあないか」


2人でトラックを訪ねる

しかしそこには【しばらく席を外しますのでお待ち下さい】という看板が置いてあった

「チッ…なによ誰も居ないの!?」

「ふむ、急用で店を開けているのかな」

「折角冷たいの食べようと思ってたのになんなのよもうっ!」

(ドカッ!)

「おいおいよしたまえヨシミ君。ヨシミだけに」

「は?あんたも蹴るよ?」

「ともあれ、トラックを蹴るのは流石にマナーがなってないからやめるんだ」

「マナーもへったくれもないわよ!ああもう今ガチでイライラしてんのにっ!」

確かに、砂糖が不足してきて私もヨシミ程ではないが気が立ってきている…

こうなったら仕方ない


「ヨシミ、店員には悪い話だがこっそりアイスを作って食べてしまおう。ほんの少しならバレないだろうし、もしも多く食べてしまったなら後で謝罪してお代を払えばいい」

「…マナーとか言ってたけど、あんたも人のこと言えない提案すんじゃないわよ馬鹿」

「なぁに、炎天下の中アイスクリームをほったらかして店を開ける店員にも少しくらい非があるだろう。それにアビドスの店員なら少しは理解してくれるはず…よし、早速乗り込もう」

「まあ食べれるならなんでもいいや!」


私達はトラックに侵入した

アイスの種類は意外と豊富だ


「何よこのカバン?邪魔っ!」

ヨシミは置いてあったカバンを蹴飛ばし隅に追いやる

ガチャガチャッ!とガラスの触れる音が聞こえた



「さて何からいただこうか…」

「私はやっぱ王道のバニラから!」

「ほほう、では私はソーダで行こう」

「あ、トッピング用の砂糖とシロップもあるじゃない!これかけちゃおっと!」

「後でお代を払うことも考えたまえ…」



私とヨシミは勝手にアイスを作る

トッピングも足したので完璧だ


大きく口を開けて頬張った


「んん〜さいっこぉ〜!」

「にひ、この背徳感もまた堪らない…」

日差しを避けアイスクリームトラックを占領しアイスを貪り食う

こんな贅沢が他にあるだろうか

私もヨシミもお代のことを忘れて次々にアイスを作って食べていった…







っ…?

なんだ、この気分は

なんだか、息苦しいような

「ヨ、ヨシミ…何か、変じゃないか?」

「ナツも…?はぁはぁ…っ!何よ、この変な感じは…!」



心臓の鼓動が急に速くなった

酷い眩暈がする

思わずカウンターにもたれ掛かった

何故か口の中が熱い

低温やけどではなさそうだが異様に熱い

半端に開けた口から唾液が溢れ出る


「はぁっ゛…!ぐっ、ぁ゛が…!」

呼吸の仕方が分からなくなった

落ち着けと思っても身体が動かない


震える視界でヨシミを見た

「ぅ゛あ゛ぁ…ぎ、ぃぅぅ…ッ!」

彼女は倒れ込んで痙攣していた

背中を仰け反らせてトラックから転がり落ちてしまう

砂を巻き上げながらのたうち回っている


「ヨ゛…し、ミ゛ぃ…!」

何とかしたい

だが自分も非常に苦しい

呼吸が本格的に難しくなってきた

「あ゛ぁ゛ぁぁ…っ!」

自分もトラックの床に倒れ込む

そして今更やっと気づいた

このアイスには毒が盛られている

それも洒落にならない猛毒だ

「だ、れ゛…が…!たす、げ……!」

力なく右手をトラックの天井に伸ばす

左手で胸を掻きむしるように抑える


「かひゅーっ…く、ぁぁ…」

暴れていたヨシミが大人しくなった

息遣いが殆ど聞こえない


私も殆ど息が出来ない

身体の震えが止まらない




たのむ

だれかたすけて

かずさ

あびどすのひと

だれでもいい



あ…

あいりのかおがうかぶ

これが、“そうまとう”というやつか?



「ぁ゛…ぃ、り…………──」

わたしたちが、わるかった



だから

おねがいだ

なかなおりしたい




たすけて


















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アイリ「カズサちゃん!カズサちゃん!そんな…やだ…どうして…!」

目の前でカズサちゃんが苦しんでる

さっきのお客さんはもう意識が無い

まさか彼女がカズサちゃんに毒のアイスを渡すなんて予想出来るわけない

私はカズサちゃんの手を取って握るしか出来なかった



カズサ「あ゛ぐ…がはっ…!はぁはぁ…う…ぁ…ァ、イ…り゛…?」

「っ…カズサちゃん!?」

今、私の名前を呼んだ…!?

「お゛ね、がぃ…たす、け…」

「た、助けたい…助けたいよっ!」

でも解毒剤なんて持ってない

そもそもゲルセミウム・エレガンスの毒を中和できる解毒剤なんて…

あの花の毒はまだ未解明な部分もかなり多いと聞いた


つまり、絶対に助からない…




「ァ、ぃ゛り…」

「私の、せいで…」

私のせいで

カズサちゃんが死んじゃう


なんで今頃になって気付いたんだろう

毒殺なんかしても何にもならない

自分の事が憎い

死にたい

私は人殺しをした

カズサちゃんまで殺した


「ぁ゛、いり゛…ごめ゛、ん…」

カズサちゃんがそう呟いた瞬間

私の手から力無く手が滑り落ちて

カズサちゃんのヘイローが消えた




「ぁ…ぁ……ぁ…」

放心

何も考えられない

目の前で友達が死んだ

そして殺したのは私

復讐に駆られて毒を盛った

誰のせい?

私のせい

全部全部全部全部全部


私のせい









「ごめん…カズサちゃん…私も、一緒に逝くね…」

瞳孔が開きっぱなしなカズサちゃんの瞼を手で閉じる

隣に倒れていた子の瞼も閉じた


もう私に残されているのは一つだけ

私も毒を飲もう

一緒に逝くとは言ったが…

カズサちゃん達は天国行き

私は地獄行き確定だろう




ふらつきながらトラックへ戻る

大した距離じゃないはずなのに長距離を移動したような気分

アイスクリームトラックが見えてきた


私も後を──



「えっ」

トラックの横に誰かが倒れている


まさか

思わず駆け寄った


「………ヨシミ…ちゃ…?」


黄色いツインテール

小柄な体格

気が強そうな顔立ち

そこにいたのはヨシミちゃんだった

だが彼女もまた、瞳孔が開きっぱなしの状態で身動き一つせず倒れている

ヘイローはついていない

その場の砂には、暴れ回ったと思われる痕跡が残っていた



「うそ…うそ…うそだぁっ!!!」

さっきカズサちゃんが死んだばかりなのにこんなのおかしい

どういうこと?

思わず後ずさってトラックにぶつかる

ふと中を見た



意味が分からない

なんで

なんでなんでなんでなんでなんでなんで


なんでナツちゃんが

トラックの中で倒れてるの



恐る恐る中に入る

ナツちゃんの顔を見た


瞳孔が開いていた

ヘイローはついていなかった

全く反応がなかった






私は友達を

全員殺した




「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!!!」



叫びながら近くのカバンを乱暴に開ける

中のガラス瓶をありったけ取り出す

残っていたゲルセミウム・エレガンスのエキスを片っ端から飲んでいく


味なんて感じなかった

早く死にたい

「がぼっ…ごくごくっ!ぐぇ、げほっ!はぁ゛はぁ゛…!」

トラックの床に時折吐きながら飲む

ひたすら飲んでいく



「ぅぇ゛…げほぉ゛っ!」

気持ち悪くなってきた

一気に摂取したからか、身体が動かなくなってくる


急激に呼吸が難しくなった

毒が延髄の呼吸中枢を麻痺させ始めたんだろう

身体が震えてくる

それでも最後まで飲もうとする





あ──

カバンにたおれこむ

ふたをあけられなくなってきた

いきができない

くるしい


でもみんなくるしかったはず

こんなふうにくるしんだんだ

「ぁ゛…ぐ……っ…」

めがかすんできた


あいすをうったおきゃくのかおがうかぶ

ともだちのかおがうかぶ



ふとゆかをみると…

こぼれたえきたいと、きんぞくのゆかにはんしゃしたじぶんのかおがみえた



あれ

わたしのヘイロー

こんなかたちだったっけ


「あ゛ぁ゛………」

そっか


わたしはもうあのときから

“栗村アイリ”じゃなくなったんだ──





カズサちゃん

ヨシミちゃん

ナツちゃん

アイスをうったみんな

せんせい



「ご…め…な……さ…ぁ…………──」

















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翌日

クロノスのニュースキャスターが衝撃的報道を行いキヴォトス中がざわついた


キャスター「次のニュースです。先ほどアビドスにて、連続毒殺事件が発生したとの情報が入りました!

アビドスに侵入した諜報員の報告によりますと、トリニティ自治区にある放課後スイーツ部の部員“栗村アイリ”さんが、なんとアイスクリームに毒物を混入させてアビドスの生徒に販売していたとの事です…!

数週間前栗村さんは植物学研究部の生徒を訪ねていたことがあり、その際毒物の知識を得て今回の犯行を行なっていたという情報も上がっております!

これによりアビドス側の生徒は64人死亡したと報告されています!

更には放課後スイーツ部の柚鳥ナツさんと伊原木ヨシミさん、杏山カズサさんも死亡し、栗村さんは自決したとの事!

この件を受けてティーパーティは…」



レイサ「…そ、んな………」

杏山カズサが

スイーツ部の皆さんが

死んだ…?


信じられなかった

信じたくなかった

よりにもよってあのアイリさんが…


スズミ「レイサさんいますか!?今日はニュースを見ないでくだ…っ!?」

「ス、スズミ…さ………」

飛び込んできたスズミさんを見る

その姿を見て耐えられなくなった

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

スズミさんに泣きついてしまう


「…レイサさん……」

「カズッ…杏山、カズサがっ…!みんながぁっ…!わだじが、まもれなかった、からぁ゛ぁぁっ!」

「いいえ、貴女のせいではありません」


優しく抱きしめてくれるスズミさん

私がアイリさんを止められれば

こんな事にはならなかったかもしれない



もうスーパースターなんて名乗れない

旧友の杏山カズサも

新しく友達になってくれたスイーツ部のみなさんも

何一つ守れなくて何がスーパースターだ


もう無理です

私も早く死にたい…

でもスズミさんはどうなる?

私まで死んだら、スズミさんは私以上に悲しむかもしれない


じゃあどうすればいいのだろう

もう分からない

生きてても地獄

死ぬのも選べない




誰か助けてください

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~BAD END「言葉無き花の光輪」~

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精神的な解毒剤が欲しいかい?

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