言葉無き花の光輪2

言葉無き花の光輪2

毒殺者栗村アイリ誕生

【言葉無き花の光輪1】

【言葉無き花の光輪3】

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私はその綺麗な黄色い花に近づく

(実は正倉院にも収められてたりする)


この花には多数の猛毒が含まれている

詳しい事は覚えていないが、ゲルセミン等の強い毒成分が延髄の呼吸中枢を麻痺させることで息が出来なくなり苦しんで死ぬって言ってた




こんな猛毒でも、量を加減すればお薬になるらしい。でも私は加減しない

…厳密には少しだけ加減する

というのも、この植物は若芽が一番毒性が強くて根が一番弱いらしい

しかし弱いと言っても、中毒症状が出る時間が“一番遅い”というだけ

人を殺すには十分すぎる威力だと聞いた

だから即効性じゃなくて、遅効性になるよう加減する

若芽などは使わず根を使う

この群生地には、沢山のゲルセミウム・エレガンスが咲き誇っているから

アビドスの人達へ復讐するには十分な量が採れるはず







アイリ「待ってて…みんなを助けるために…私、頑張るから…えへへ…」





そう呟き花に手を触れる

今は7月…ちょうど夏本番前で、この花がよく咲く時期だった(5~11月が花期)

瞬間、形が変化し続けてた私のヘイローが煌びやかに光り輝いた──

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アイリのヘイローが輝いて少しした後


光が収まった彼女の光輪は

黄色い5枚の花弁状に変化していた…


ゲルセミウム・エレガンスの花弁の形でしっかりと保たれていたのだ

情緒不安定な様子は無くなったものの、彼女の目に光は戻っていなかった

それはそうだろう。今の彼女はヘイローが“花言葉さえない猛毒の花”の形に変化しているのだから


殺意と猛毒を体現したような花の光輪

最早今の栗村アイリは、チョコミントが大好きで平穏を好む温厚で優しいアイリとは別人も同然

アビドスへの憎悪に狂い、毒を振り撒く暗殺者になってしまった


その後、彼女は枯らさない程度に猛毒の根を採取していく

群生地に生えている殆どの株の根を採取すると、彼女は袋に目一杯詰めて自宅へ持ち帰り…何日もかけて毒性を抽出したエキスを用意し計画を練るのであった














数週間後の早朝

トリニティ自治区へ1台のアイスクリームトラックが販売に訪れる


アビドスの店員「さて、今日も今日とて稼ぐとしますか!トリニティは金の払いが良いし騙されるお嬢様が多いから重点的に狙えとハナコ様が仰ってたし…」

(コンコン)

「…んん?なんの音だ?」

(コンコン)

「…ノック?まさか、アイス買いに来たお嬢様の出待ちか?」

アビドスの店員はノックされた後部ドアを開けた…が、そこには誰もいない

「誰もいないんかい!?じゃあ気のせいだったのかな…?ったく、アイスの用意しなきゃなのになんだよ…」


独り言を呟きながら、ドアを開けたままトラック内に戻ろうとしたその瞬間

(ドガッ!)

「ぐぅっ…!?」

店員の少女は後頭部を強い力で殴られて気を失う



その背後にいたのは…栗村アイリ

右手の木製バットで彼女を殴ったのだ


アイリ「よいしょ…っと…邪魔です」

するとアイリは肩掛けカバンをトラックに持ち込み、気絶した店員の少女を適当に放り出す


そのまま運転席に座ると、アビドス方面へと走り去った…








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私の計画はとても簡単な内容だ

アビドスから売りに来たアイスクリームトラックを強奪し、その車で毒アイスを配り歩く

シンプルながら一番効果的な計画

アイス好きなのが功を奏した

いつも作っているところを見ていたので自分でも見様見真似ながら作れる

設備もあるので簡単だ



私の大好きなスイーツ…アイスを穢した罪人達への皮肉を込めた計画

砂糖に脳を毒された異常者達は、本物の毒を盛られて死ぬんだ


麻薬という卑劣なモノで私の大事な人を奪ったから、これは当然の報い

すぐ発覚しないよう効きが遅い根の毒を使ったけれど…本当なら苦しみ悶える姿をこの目で見続けたい


この計画は数回に分けてやる予定だから途中人気のない外縁部でやる時は誰かが苦しむ姿を見れるかも



ナビに従って灼熱の砂漠を進んでいく

7月ということもあってかなり暑い

だからこそアイスは目が離せないだろう





無事にアビドスへと辿り着いた

私が自治区の境で慟哭した時を思い返す

あの忌々しき場所にやっと来れたんだ



砂糖に狂った罪人達に報いを──

私の友達を奪った咎人へ死を──



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アイリ「いらっしゃいませ〜!アイスは如何ですか〜?」

アビドス生A「おっ…ちょうどよかった一個ください!」

B「私にも!」

「ありがとうございま〜す!」


顔が全く笑っていないのを悟られない為に、アイリはマスクを着け目だけ笑っているように見せかける

なるべく明るい感じで接客し、声も前のような元気一杯な感じで出している

アイスは次から次へと売れていった

その中にゲルセミウム・エレガンスの毒が仕込まれているとも知らずに…



ある程度売れてひと段落ついたら、別の区画へと移動する

こうして範囲を広げつつ、毒に気づかれ取り締まられるのを防ぐ


今頃食べた人々は…筋弛緩や呼吸筋周囲の神経麻痺、不規則性呼吸、全身痙攣、後弓反張、運動失調、昏迷などに苦しみ悶えながら、最後は呼吸困難を引き起こして息が出来なくなり死んでいるだろう


“世界最強の植物毒”とも称される激毒はそれを可能にする強さを持っている

砂漠の砂糖の効果により味覚障害を引き起こしたアビドスの生徒達は、毒の味に気づく事なく口に入れ…

この計画はそこまで計算していたのだ




数時間後

アイリはアビドス外縁部のとある地区を訪れた

「今日はここで最後にしようかな…」

流石にこれ以上やってしまえばアビドス側にバレる可能性がある

そう判断し、この地区でアイスを売ったらトリニティへ帰ろうと決意する

ここ数時間で、既に50人以上はアイスを買っていた

友人に配ると言って複数買った人もいたため、被害者数はもう少し多いだろう


そんな事を考えていたアイリのもとに、新たな客が現れる

その客は…何故か、雰囲気が自分と少しだけ似ている気がした


優しそうなアビドス生「すみませ〜ん!アイス2つください!」

「………」

「あ、あの…?」

「ぁ、は、はい。ただいま…!」


砂糖の甘ったるい匂いがするアイスを、スプーンで掬い取りコーンに乗せる

ゲルセミンやゲルセミシンを始めとする多数のアルカロイドが含まれた、猛毒のアイスを2つ作った


さっきまでは普通に渡せてたのに、何故このお客さんに渡すのを躊躇うんだろう


そう思いつつも、アイリはアイスを2つ分手渡したのだった

「ありがとうございますっ!えへへ…」


客は嬉しそうに走っていった

そのまま近くの路地へと消える







「……」

新たな客は10分待っても来ず、アイリは撤収を考え始めた

しかし今の客がどうしても気になる


最初は苦しむ姿を見るためだったけれど

ただ気になったという理由で彼女を追う事にした


トラックに【しばらく席を外しますのでお待ち下さい】という看板を置き路地裏へと向かう







暑い日差しさえあまり届かないアビドス外縁部の裏路地

そこを1人進んでいくアイリ


しばらく進んでいくと…

???「はぁっ…!が、ぁ゛ぁぁ…!」


呻き声が聞こえた

足を急がせその場所へ近づく

角から顔を出したアイリが見たのは──




「えっ………?」

ヘイローが消えた先程の客

その隣でパーカーを被った少女が苦しみ悶えていた


アイリは彼女を知っている

口から涎を垂らし、胸元を掴んで苦しみながらのたうち回る猫耳の少女を…




「カズサ…ちゃ…ん…………?」


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