第六章
誘拐阻止 東仙との戦い瀞霊廷内部
ルキアをしっかりと胸に抱きかかえ、瀞霊廷の中を走る恋次。その背後に、音も無く誰かが降り立った。
『朽木さん、阿散井くん。二人とも、無事に逃げられているようだね。合流できてよかった』
「うお!? お前は――…あン時の滅却師!」
ルキアを庇うように抱えて振り向いた恋次が、大声で叫ぶ。恋次の腕の隙間から顔を覗かせたルキアが、その姿に弾むように声をかけた。
「カワキ! 無事だったか……よかった! 一護や他の皆はどうしたのだ?」
『さあ? 生きている筈だよ。死なれては困る』
カワキの言葉は一護の安否に限ったものだったが、ルキアは他の者達についても同様だと捉えたらしい。生きている筈だという答えに安堵のため息を吐く。
「そうか……。しかし、カワキ…何故ここに? 他の者と合流しなくて良いのか?」
『それなんだけど、ちょっと二人にも確認したい事があって――…っと。……残念、邪魔が入ったようだ』
話の途中できゅっと目を細めたカワキが、路地の先へ視線を動かした。つられてそちらを見た恋次の顔が驚愕に染まる。
「…と…東仙隊長…!? なんで…こんな処に…」
白い隊長羽織を脱ぎ捨て、手に布を巻き付けた東仙が、路地の先に立ち塞がった。恋次の質問に答えず、すっと腕を持ち上げると手に巻かれていた布を離す。
『――!』
「うおぉッ!?」
布が伸びてその場に居る者を包むより早く、異変を察知したカワキが恋次の襟首をグイッと乱暴に掴んで飛び退った。急に後ろから首元を引っ張られた恋次が悲鳴を上げるのも気にせず、カワキは空中で恋次を適当に放り投げると、そのまま東仙に発砲する。
聞こえた銃声は一つ。しかし放たれた弾丸は、銃声よりもずっと多かった。難なく防いだ東仙が告げる。
「旅禍か。そこを退け。用があるのは貴様ではない」
『だろうね。だけど目的もわからない相手に彼女達は渡せないな。退くのはそちらだ』
「恨みはない。だが平和のためには消すもやむなし」
カワキの銃口は東仙を睨んだまま動かない。東仙は静かに言葉を発すると、刀の柄に手をかけた。それと同時に、カワキが銀筒を取り出す。
「鳴け、”清虫“」
『盃よ西方に傾け(イ・シェンク・ツァイヒ)――緑杯』
清虫の起こした超音波が、緑杯(ヴォルコール)の衝撃波で打ち消された。東仙が驚きに目を瞠る。
「何だと……!?」
その隙を見逃すカワキではない。風を切って青白く光るゼーレシュナイダーが、東仙を目掛けていくつも飛来する。
⦅清虫――…鍔に付いた輪の辺りから超音波を発する斬魄刀。情報通りだ⦆
初見で清虫に対応された事に驚いた様子の東仙だったが、咄嗟に投擲されたゼーレシュナイダーを躱す。想定内だとカワキが踏み込んだ。
⦅飽和攻撃は厄介……距離を詰める――!⦆
紅飛蝗による飽和攻撃を警戒したカワキが、一気に東仙の懐へ飛び込んだ。鍔迫り合いとなり、チリチリと鋒が音を立てた。鋒が弾かれると、即座に銃口が跳ねて弾丸への対処を強要される。
(どういう事だ……? この旅禍は私の技を把握している…? 浦原喜助か…!? 今は考えている暇は無い)
距離を取らせまいと動くカワキに、東仙は浦原喜助によって自分の情報が漏らされた可能性を疑って動揺した。しかし、すぐに意識を切り替える。落ち着いて対処すれば、剣戟は隊長格である東仙がやや優勢か。
カワキも彼我の実力差は把握している。剣術のみで勝てる相手だと油断はしない。
『結局、目的は教えてもらえないのかな? 内容次第じゃ、私は退いてもいいと思っているんだけどね』
「正義の為だ」
『四十六室を殺してまで、朽木さんの処刑にあれこれと手を回す事が?』
「そうだ。大義なき正義は、殺戮に過ぎない。だが、大義のもとの殺戮は……正義だ」
何食わぬ顔で正義を謳う東仙にカワキが訊き返す。その言葉にルキアと恋次が声もなく息を呑んだ。会話で気を引きながら、カワキが弾倉に銀筒を装填する。
『生憎と思想の話には興味が無いんだ』
「貴様のような旅禍に、正義などわかるまい」
『まあ、否定はしないよ。私には理解しかねる話だ』
言葉を発しながら、カワキは銃を二丁に増やして、銃撃を繰り返す。物量こそ増えたものの、捌けない量ではない。東仙は放たれる弾丸を躱し、弾き、歩みを進める。
⦅かかった……! ――ここだ⦆
東仙がある地点まで進んだその時、足元を青白い光が囲む。刀に当たった弾丸がそれまでのものと違う音を立てた。銀筒だ。込められた霊子が溢れる。
「――なっ」
『――破芒陣(シュプレンガー)』
***
カワキ…最初は東仙にやや押されていたが途中から逆転。ダーテンは偉大。
東仙…浦原の情報漏洩を疑った(冤罪)。大爆発させられたけど生きてる。