第五章

第五章

迷探偵カワキの事件簿

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中央地下議事堂


「な…何だこいつは…? …どういうことだ…!? 中央四十六室が……全…滅…」

「――アンタが四十六室をやった犯人ね!?」

『違う、と言ったら信じてくれるの?』


 情報収集に夢中になるあまり、どう見ても犯行現場でしかない場面を見られた。本当に犯人ではないのだが取り合ってもらえそうにない。どうしたものか。


「信じられるわけないでしょ! 吉良に加勢を…」

「待て松本! ……冷静になれ。この血痕の乾き具合――…旅禍の侵入と殺害時期が合わない」


 周囲の血痕を確認した日番谷が、じっとりと冷や汗をかきながら松本を制止する。


「…血が乾いてる…。黒く変色してひび割れるくらいに…。殺されたのは昨日今日の話じゃねえ…」


 日番谷の頭の中を、一連の事態が起こってからの記憶が目まぐるしく駆け巡る。戦時特令が発令されて以降、中央地下議事堂は封鎖されていた筈――つまり殺されたのはそれ以前。

 それ以降に伝えられた四十六室の決定は全て――…


「偽物か…!」


 大きな陰謀が渦巻いていることを察した日番谷の顔が歪む。容疑者として市丸を候補にあげるも、一人でできることではない。協力者の存在を疑った。


「旅禍のてめえは言うまでもないが……。吉良、お前もだ。……ここで何をしていた?」


 睨み付けるような日番谷の視線。しかし、両名とも眉一つ動かさず、押し黙ったままだ。


「……だんまりか。両者とも拘束させてもらう」

⦅十番隊隊長 日番谷冬獅郎――天候を支配し、氷を操る斬魄刀“氷輪丸”の使い手。“氷雪系最強“か……。室内では戦いたくないな⦆


 暗がりから獲物を狙う獣のような視線で、日番谷が隙を見せる時をじっと待つ。カワキが動くより、吉良が動き出す方が早かった。


「あっ! 待ちなさい吉良!」

「待て吉良!」


 扉から飛び出して行く吉良に、日番谷と松本の視線が注がれる。その一瞬の隙を、カワキは見逃さなかった。吉良とは逆方向にある扉から飛び出して行く。


「! 追うぞ松本!!」

「はい!」


 外へ駆けて行く吉良とは逆に、内側に潜む事にしたカワキ。十番隊の二人が外へ追いかけて行く姿を確認してから、調査を開始した。


⦅当初の予定とは違うけど、騒ぎにはなったかな⦆


 カワキが四十六室の襲撃を企てた動機は、瀞霊廷を混乱させる事――どう転んでも騒ぎになりさえすれば勝利条件は達成だ。


『さて。それじゃあ――…』


 邪魔者は消えた。一連の事件に関連する手掛かりがこの場に残されていないか。カワキはそれを探るべく地下議事堂を順繰りに見て行った。吉良を追った二人が戻ってくる、あるいは連絡が入った死神がこちらへやって来る可能性を考慮し、見るべき場所を絞る。


⦅特におかしな所は無い。……それがおかしい⦆


 殺された貴族達が捨て置かれた議事堂、鍵の開いた扉、偽の命令……。挙げていけばキリがない程に異常事態が起こっているにも関わらず、有力な手掛かりが一つも見つからない。疑惑だけが、雪のように静かにカワキの心に降り積もっていく。


⦅残る場所と言えば――…大霊書回廊くらいか⦆


 尸魂界の全ての事象・情報が強制集積される地下議事堂の大霊書回廊。手掛かりを求めるカワキの足は、自然と書庫を目指して進み始めた。


⦅荒らされた形跡はないな。侵入者が居たとしても、目当ての記録が何処にあるか把握していた……? あるいは、時間をかけて探すだけの余裕があった……⦆


 物陰に犯人が息を殺して潜んでいる危険もある。銃を構え、引き金に指をかけながら、大霊書回廊の中を歩いて行くも杞憂だったらしい。犯人の姿も、事件の手掛かりも見当たらず、カワキは調査を切り上げた。


⦅結局、真相は霧に包まれたまま……だけど、確かな事が一つ――この件と朽木さんの処刑は、密接に絡み合っている⦆


 そう確信を持ったカワキは、逃げたルキア達の行方を追う事にした。


***

カワキ…うっかり逃げ遅れたけど、吉良のお陰で上手いこと逃走成功。証拠探しより現場制圧の方が得意な迷探偵。


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