激突の先触れ

激突の先触れ

37巻あたり


前にあたるお話:届かない手


 撫子は立ち上がっていつでも斬魄刀を抜ける様に緩く構えた。

「織姫ちゃん……アタシは一護やないけど。一護が来るまで、アタシが守ったるから。心配せんで」

「撫子ちゃん……」


「守る、だと? 俺に敗北したとは思えない言い草だな」

「喧しいわ」

 ウルキオラが織姫に視線を移す。

「怖いか」

「……ハァ?」

「双虚嬢には訊いていない。後ろの女に訊いている」

「ハッ、さよか」

「女。お前は藍染様に不要とされた。最早お前を守るものは何も無い。終わりだ。お前は此処で誰にも触れられる事無く、たった一人で死んでゆく」


「アタシも居るんやけど」

「お前は藍染様の息女だ。この女の仲間ではない」

「……おっそろしい屁理屈やな」

「怖ろしいかと訊いている」

「こわくないよ。みんなが助けに来てくれたから、あたしと撫子ちゃんの心はもう、みんなと同じ処にあるから——」


「……戯言だ。仲間が来たから恐怖は無い? そんな言葉を本気で言っているのか?」

「はい」

「……せやね」

 撫子も織姫に同意を示す。撫子は左手で織姫の右手を取って繋いだ。織姫も優しく握り返す。


「……最初に助けに来てくれたことを聞いた時は少し嬉しくて、すごく悲しかった」

「……アタシは最初、助けを望まんかった。アタシを助けるってことは、罠に飛び込むってことやった」


「あたしはみんなを護りたくてここへ来たのに、どうしてみんな来ちゃったんだろう、なんで伝わらないんだろう、って思った」

「アタシは家族たちに迷惑かけたなくて。オカン達の百年が無駄になるんは嫌やって思とった」


「でも、朽木さんの倒れる姿を感じて、黒崎くんの戦う姿を見て、そんなことどうでもいい、って思った」

「でも石田が、阿散井君が、真実を知っても助けに来たって言うてくれた」


「ただ黒崎くんにケガしてほしくなくて、ただみんなに無事でいてほしくて。そう思ったとき気がついたの。ああ、きっとみんなもこういう気持ちだったんだ、って。あの中の誰かが、もしあたしと同じに消えてしまったら、あたしもきっと、みんなと同じことをする——」

「アタシも、そうや。きっと同じことすると思う」


「……そう相手と全く同じことを感じるなんてありえないかもしれない。だけど相手を大切に想い合って相手の少し近くに心を置くことはできる。心を一つにするって、きっとそういうこと」

 織姫は撫子の左手を握り直す。撫子は目を細めた。


「心だと? 貴様等人間は容易くそれを口にする。まるで自らの掌の上にあるかの様に。俺のこの眼は全てを映す。捉えられるものなど無い。映らぬものは存在せぬもの。そう断じて戦ってきた」

 ウルキオラはまた一歩、織姫に近付く。

「心とは何だ。その胸を引き裂けばその中に視えるのか? その頭蓋を砕けばその中に視えるのか?」


 その時。


 轟音を立てて、床が突き破られる。

 そして飛び出してきたのは——

「一護……!」

「……黒崎くん……」

 ——死神代行、黒崎一護。



「……井上と撫子から離れろ」

「そのつもりだ」

 ウルキオラは一護の方へ向き直る、

「俺の役目は藍染様の帰還まで虚夜宮を守ること。女を殺せという命までは受けていない。そして双虚嬢を殺すなと全十刃が命を受けている。命が下るまでこの女は双虚嬢と同様に生かす。だが貴様は違う。貴様を殺すことは虚夜宮を守ることと同義だ。貴様は消す。俺の剣でな」

「……意外だな。最初から剣を抜いてくれるとは思わなかったぜ。とりあえず剣を抜かせるところからだ、と思って来たんだけどな。俺を、対等の相手として認めたと思っていいのか?」

「少なくとも、破壊すべき対象としては認めた」

「充分だ」


「……一護。アタシの手助けは要る?」

「いや、井上を頼む」

「——任された」


 そして、一護とウルキオラが激突する。




次にあたるお話:その面影を見る

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