染まるは血の色
グリムジョーが第六十刃へと返り咲いた直後。
ずる、ずると足を引き摺りながら場に現れたのは平子撫子だった。襲撃され行方を眩まし、尸魂界からは死亡したと判断されていた撫子が、生きていた。
織姫の前に一ヶ月振りに姿を見せた友人は破面たちと似たような白い衣服を着せられていて、その両腕部分には血が滲んで見える。
「撫子ちゃん、」
「……なんでや……」
声は少し掠れて、発声すら苦しそうだ。その目は驚愕に見開かれている。
「おや、抜け出して来たのかい撫子」
「なんで織姫ちゃんがここに居るんや‼︎ 何した⁉︎ 織姫ちゃんに何した‼︎」
血を吐くような怒号はやはり常よりもざらついている。織姫は遠目でも撫子が窶れていることが解った。
「織姫。彼女の傷も治してもらえるかな? 自分自身の霊圧で手足はおろか、腑すら灼かれてしまっているようでね」
「藍染! 何したって、訊いとるやろがァ‼︎」
跳躍。
撫子は一息に藍染との距離を詰め——
「がッ⁉︎」
織姫の居る高さまで叩き落とされた。
「撫子ちゃん⁉︎」
撫子の名を叫んで、倒れ込んでいる撫子の元に織姫が駆け寄る。すぐさま双天帰盾を発動し、撫子の傷を治療し始めた。近づいたことで、傷の詳細が解る。
——! ひどい……指先から真っ赤になって……爛れて溶けてるところも血が滲んでるところもある……! それに今あの人、腑って……!
幸い、拒絶の力は自身の霊圧で灼けてしまった箇所も治していく。
「織姫ちゃん……ごめんなァ……」
「大丈夫! 治るからね!」
努めて明るく応える織姫に撫子は苦渋の表情を浮かべる。
——なんで織姫ちゃんが、こないな、所に……! アタシを拉致して終わりやなかったんか……!
傷が治り、双天帰盾の光が消える。撫子の傷は消え、霊圧で灼けた手足も元の肌色を取り戻した。
「やはり面白い能力だ」
「!」
藍染の姿はいつの間にか、治療を終えた織姫の背後に在った。織姫は警戒のままに視線を向ける。それを意に介さず、藍染は口を開く。
「撫子の傷は癒えたようだね。感謝するよ織姫。私も——」
娘が治って安心したよ。
「……え?」
今、この人はなんて言ったの? 撫子ちゃんのことをなんて言ったの?
言葉の意味を飲み込めず、織姫は呆然とする。むすめ。むすめ? 誰が、誰の?
撫子ちゃんが——
「白雷!」
織姫の思考を切り裂くように、顔の横を雷が迸る。
織姫の背後の藍染へと向けられたそれは、傷が治った撫子が放ったものだ。しかしその鬼道の雷は誰にも当たることなく、虚夜宮の壁を深く抉るだけに終わった。最初から当てることを目的としていない、威嚇行為。
「それ以上余計な事言うんやったら……次はそのスカした面に当てたるぞ……!」
僅かに身を起こして右の指先を藍染の面へと向けながら、撫子は絞り出すように吠える。対する藍染はしかし、泰然と笑みを浮かべるのみだった。
織姫は撫子を見遣る。撫子は否定も肯定もせず、泣きそうな顔で左の拳を握り締めていた。
「撫子ちゃん……」
「ごめん、織姫ちゃん。ホンマ、ごめんな……」
撫子の拳から細く血が伝い、その滴は涙のように床へと落ちていった。
藍染は娘の傷治ってよかった〜くらいの感情。
娘ちゃんはちょっと前に内臓も灼けて口から血だばーしたりしてたが織姫が連れて来られていつも以上にガルガルしてる。
死神図鑑ゴールデン的なおまけ
「オマエがどんな考えかは知らへん。けどな、アタシは華の女子高校生や。しゃーから同性の友達とお泊まり会くらいはするねんで‼︎ 織姫ちゃんの部屋に泊まりに行くくらいええやろが!」
「……」
織姫にあてがわれた部屋
「織姫ちゃん‼︎」
「え⁉︎ 撫子ちゃん⁉︎」
「どうしてここに? 捕まってるんじゃ……」
「うーん、捕まっとるいうか、なんというか……ともかく、織姫ちゃんとお泊まり会するからいうて抜けてきたんや!」
「お泊まり会!」
「せや! こんな状況やけど折角の機会や! 今日はいっぱいお喋りしよな!」
「おー!」
「——娘の我儘をある程度は受け入れること。これも父親として当然のことだよ」
(甘い……甘いです藍染様……!)
(うわ親バカやん)