太陽と花を追って

太陽と花を追って

原作27巻239話あたり

前にあたるお話:掌は染まれど




「それからもう一つ。これは黒崎サンも茶渡サンも既に知っていることですが——撫子サンも拉致されました」

「——は?」

 浦原商店に向かう道すがら。石田は浦原の発言に言葉を失った。


 ——平子さんが、何だって?


「ですから撫子サンは——」

「……井上さんと一緒に拉致されたんですか……?」

「いいえ。丁度一ヶ月程前、下校中に襲撃を受け、そのまま拉致されました」

「なっ……!」

 一ヶ月前。ちょうど、平子撫子に編み物を教えると約束をした時期だ。まさか、その日に?


 ——「あ、石田や〜」

 ——「それなら、冬になったらアタシに編み物教えてくれへんかなぁ」

 ——「ホンマ⁉︎ ありがとう石田!」


 ふわふわした金髪を翻して自分の席へと戻った彼女は、その日のうちに連れ去られてしまっていたのか——?

 石田は拳を固く握り締める。なぜ、平子さんが。

「茶渡サンはアタシから直接、黒崎サンは修行相手から聞かされました。石田サンにも伝えるべきか悩みましたが——」

「ッどうして伝えてくれなかったんですか!」

「……アタシが伝えてもよかったんスけど、石田サンは石田サンで修行で忙しかったようですし」

 石田は返答に詰まる。事実その通りだった。この一ヶ月、殆どの時間を修行に費やしていたのだから。

「……撫子サンの体質と出生を考えれば、藍染には殺されないっス。幸い、この一ヶ月義骸の反応は消えていません。生きている事は確実っスよ」

「それは……、生きてる事以外は保証できないってことでしょう……!」

「……そう、っスね」

 浦原喜助にしては珍しく、声のトーンが落ち込んでいる。思い返せば浦原は平子撫子に甘かったような気がする。

「——安心してください、石田サン。撫子サン、とんでもない御転婆っスから。案外順応するか自力で脱出を図ってるかもしれないっス。結構図太いとこあるんスよ、あの子」


 石田の記憶の中のふわふわした金色はニィっと笑っている。愉快そうに口角をついっと上げる笑い方。ごく稀に見る、咲いたような満面の笑顔。あの笑みが陰るのを想像して、石田は心臓が軋むような心地がした。




**




 浦原商店、地下。

「我が右手に界境を繋ぐ石 我が左手に実存を縛る刃 黒髪の羊飼い 縛り首の椅子 叢雲来たりて我・鴇を打つ」

 浦原が詠唱を終えると、一対の柱の間に空間の裂け目ができる。

「破面達が往き来するこの穴は名を『黒腔』と言います。中に道は無く霊子の乱気流が渦巻いています。霊子で足場を作って進んでください。暗がりに向かって進めば虚圏に辿り着く筈です」

 一度、浦原は話を切るが、直ぐに続きを話し始める。

「それからもう一つ。撫子サンですが……虚圏では力が不安定になっている可能性があります。くれぐれもお気をつけて」

「——わかった。浦原さん、ウチの連中のこと頼んでいいか。俺のこと心配しないように上手いこと言ってやって欲しいんだ」

「……わかりました。……お友達には?」

「……あいつらには……帰ってから謝る」

「……わかりました」

 浦原は帽子のつばを下げて、石田の方に体を向けた。

「石田サン。——撫子サンを頼みます」

「……言われなくてもそのつもりです」


 黒腔の前に黒崎一護、茶渡泰虎、石田雨竜が並び立つ。

「行くぜ」

 一護の声と共に、三人は黒腔に飛び込んでいく。

 太陽と花を取り戻すために。




**




「ん? 石田お前、俺は死神“代行”だからいいって話だけどよ。撫子を助けに行くのはいいのかよ」

「黒崎。そもそも平子さんが死神だという確証はまだ無いし、直接聞いてもいない。それに……平子さんには編み物を教える約束をしてるんだ。帰ってきてもらわないと困る」

「おまっ……石田お前もう言い訳せずにお前そのまま助けに行けよ素直に‼︎」



次にあたるお話:染まるは血の色

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