帰刃第二段階ウルキオラ戦

帰刃第二段階ウルキオラ戦


前にあたるお話:その面影を見る


「……すごいね、これ」

「エレベーターみたァで便利やなァ」

 石田と織姫、撫子は天蓋の上へと向かっていた。すごい、便利だ、と言う女子二人は、それぞれ石田のマントの端っこを掴んでいる。

「黒腔を通る時に憶えたんだ。虚圏でも使えるってことに、ここに来る途中で気がついた。もう少し早く気付いていれば戦闘にも応用が利いたんだけどね」

「……霊子スケボー流鏑馬でもやるん?」

「やらないよ……」

「……石田く……」

 束の間の少しだけ和やかな雰囲気。しかしそれは突然やってきた。

「……!」

「なんや……⁉︎」

「……な……何だ……⁉︎ 天蓋の上から……」

 天蓋の上から降り注ぐような黒い重圧。それは霊圧にも似ている。

「これは……何だ……⁉︎ 霊圧なのか……⁉︎」

「これホンマに霊圧……? 別物と違うの……?」

「……こんな……」

「……まずい……急ごう……‼︎」

 石田が操る霊子の足場が速度を上げた。

 ——何が起きとるんや……!

 天蓋の穴が近づくたびに強くなる重圧に、撫子はマントを掴む手に力が入った。




**




 天蓋の上。足場から飛び移った三人は一護の姿を探す。

「黒崎の霊圧を感じない……どこだ⁉︎」

「一護……」


 ふと、織姫が上を見上げる。そこには、

「……来たか、女」

 姿を変えたウルキオラと、その長い尻尾で首を拘束されピクリとも動かない一護が居た。

「……黒……崎……くん……?」

 ボロボロの一護は何も応えない。

「丁度良い、よく見ておけ」

 ウルキオラの指が、動かない一護の心臓の上へと翳される。

「お前が希望を託した男が」

 黒い指先に虚閃が生成される。

「命を鎖す瞬間を」

「やめて‼︎‼︎」

 虚閃が一護の胸を撃ち抜く。


 断末魔もなく、死神代行はその命を鎖した。



**



 友人の絶叫に、撫子は我に返った。

「織姫ちゃ……」

 こちらの声は届いていない。織姫の視線は、ウルキオラに放り捨てられた一護の肉体に釘付けになっている。

 織姫が駆け出す。

「織姫ちゃん! っくそ! 千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手——」

 三天結盾で落ち来る一護を受け止めて、織姫は一護のもとへ走る。

「無駄だ。近付こうとお前程度の力では奴の命を繋ぐことはできん」

 織姫の前に現れたウルキオラの背後。上空から石田が射掛ける。

 翼で矢を弾いたウルキオラに生じた隙に、織姫が一護の元へ走る。

 石田とは別方向から撫子も鬼道を撃ち込む。

「“光の雨”」

「——弓引く彼方 皎皎として消ゆ! 破道の九十一、『千手皎天汰炮』ッ‼︎」

 二種類の光の矢がウルキオラに向かってごうごうと降り注いだ。


「……意外だな。……お前は黒崎一護の仲間の中で最も冷静な人間だと踏んでいたんだが」

「……冷静さ。だから君と戦う余裕がある……!」

「石田、コイツ律儀に藍染の命令守っとるんや。危ない時はアタシのこと盾にしてええから」

「出来るわけないだろそんなこと。お互いカバーしていこう」

「——……わかった。アタシが前に出るから、石田は隙見て撃って」

「……ああ」

「お姉ちゃん力借りるで……!」

 虚化。

 撫子はそのまま斬魄刀を抜き放ち斬り込む。虚化により身体能力が上昇している。

 ——ウルキオラの動きは藍染よりはほんの少しやけど遅い!

 奇しくも藍染と斬り合っていたお陰で、ウルキオラの動きに最低限ついて行ける。

 胴を狙う鞭のような尻尾を鬼道の盾で逸らす。追撃の翼は石田の矢によって阻止される。

「っ邪魔やなその尻尾! デカい翼も! 斬り落としたろか!」

「やってみるといい。意味は無いだろうが」

「抜かせ! 『白雷』!」

 撫子が鬼道を撃ち込み、その隙を埋めるように石田が矢を放つ。

 石田へ攻撃を向けようとすれば、撫子に遮られる。

 互いに隙をカバーして戦況を有利に持ち込もうとする二人に、ウルキオラはどちらがより邪魔であるかを思考し、答えを弾き出した。

 ——滅却師。

「この腕か」

「!」

 響転で石田の後ろを取り、その左腕がいとも簡単に落とされる。

「ぐっ……!」

「石田っ!」

 回道を掛けて応急処置をすべきかと逡巡したが、それよりもウルキオラに石田が狙われないようにすべきだと判断した撫子は斬魄刀を納刀しウルキオラへと肉薄する。

「流石に藍染様に手ずから鍛えられただけはある」

「五月蝿いわ! 瞬閧‼︎」

 瞬時に肩と背中から高濃度に圧縮された黒い鬼道が奔る。炸裂するそれを拳に載せて数発見舞う。ウルキオラが数歩退がる。

「俺と戦った時よりは実力をつけたらしい」

「シッ!」

 打撃の間、石田が動く気配がする。

 自分で応急処置をしたのだろう、落とされなかった右腕で魂を切り裂くものを剣としてウルキオラへと向かう。

 撫子が石田の方に気を逸らした一瞬をウルキオラは見逃さず、尻尾で器用に撫子と石田を二人まとめて張り飛ばす。

「ぐっ!」

「ううっ」

 石田と撫子を守るように三天結盾が目の前で展開されるも、直ぐに破壊される。

 ——くそ! 今充分に動けるのはアタシだけや! はやく、コイツを遠ざけんと……!

 再度瞬閧を発動させ、ウルキオラに吶喊しようとして、



「たすけて黒崎くん‼︎‼︎」



 ドクンと、何かが応えるように脈打つ音を聞いた気がした。




次にあたるお話:灰の心


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