灰の心
蹂躙。
まさしくその言葉が似合う顛末だった。
織姫が展開した三天結盾の内側で、石田と織姫、撫子は一部始終を見ていた。
一護——虚に敗北したウルキオラの下半身はほとんど残っていない。
「黒崎……」
虚は掴んでいた翼ごとウルキオラを投げ棄てる。
虚は投げ棄てたウルキオラへと近付き、斬魄刀で刺そうとして——
「……もういい……黒崎」
石田に右手首を掴まれ、動きを止める。
「もう決着はついた。そいつは敵だが死体まで斬り刻む必要は無い……もういいんだ、黒崎……」
「石田……?」
なんだか様子がおかしいと、撫子は石田を見る。どうして「斬り刻む」と思ったのだろう。何か苦しそうに見えるのは何故だろう。
「聞こえないのか黒崎……! 止めろと言ってるんだ……! それをしたら本当に……お前は人間じゃなくなる……!」
石田が抑えるものの、その鋒はウルキオラへと近づいていく。
「黒崎‼︎」
ドッ、と鈍い音を耳にする。
視線はその音を辿って、
「——ッいしだ‼︎」
石田の胴に、黒い刀が突き刺さっている。
「石田くん‼︎」
撫子は石田の元へと駆け寄る。刀身は腹を貫通している。
「ぃしだ、いしだ……!」
「っ……大丈夫……左腕の時に、麻酔を、打っておいて、よかったよ」
「そういう話やないよ……!」
何かが動く気配を感じて振り向くと、虚がこちらを見ていた。
ゆっくりと、虚が近付いてくる。
「……一護」
「黒崎……」
その角と角との間から、虚閃が放たれようとする。標的はおそらく石田。
——鬼道……いや……アタシの虚閃で相殺できるか?
——……ムリ、やな。それでも石田だけは……!
刺さったままの刀に触れないように体を石田の前に滑り込ませ、石田の頭を抱え込んだ。義骸に入った虚混じりの死神なのだ、きっと盾にはなる。
織姫が虚を制止しようとする声が聞こえる。
「待って黒崎くん! 黒崎くん‼︎」
来る。
自身の身を灼くだろう虚閃が放たれようとしている。撫子はぎゅっと目を瞑った。
——……?
——来ない……?
虚閃の炸裂する音は聞こえたが、いつまでも衝撃はやって来ない。
「黒崎くん!」
織姫の声に恐る恐る目を開き、石田の頭を解放して振り向くと、虚——一護の仮面が割れ、倒れていた。
そして一護の体に残っていた虚の残滓が剥がれて、やがてそれは一護の胸の孔を閉じる。
「……孔が……塞がった……?」
「……もしかして」
——『私が虚だということを忘れてはいないか? あなたの傷を塞ぐなんて造作もないことだよ』
「アタシの時と同じ……超速再生……」
——でもなんでやろ。違和感がある……。
——一護の中の虚……ただの虚ってワケやなさそうやな……。
「撫子……石田……!」
「一護……」
「……ようやく……目が覚めたか……」
一護は石田の胴に刺さった斬魄刀を見る。
「その傷……俺がやったのか……?」
撫子も石田も、それには応えない。
「……しぶとい奴だ……」
「……ウルキオラ……!」
ウルキオラは撫子と石田の前に立ち、刺さったままの斬魄刀を容赦なく引き抜き、一護の前へ投げ突き立てる。
「ぐッ!」
「石田!」
撫子は急いで回道を発動させる。取り敢えず出血を止めねばならない。
「取れ。決着をつけるぞ」
「……石田を刺したのは……俺か……?」
「知ったことか」
「てめえの左腕と左脚を……斬り落としたのも俺か……?」
返事は無い。しかし一護は肯定と受け取った。
「だったら俺の左腕と左脚を斬れ」
「! 黒崎くん‼︎」
「さっきまでてめえと戦ってたのは虚化して意識の消えた俺だ。あれは俺じゃねえ。勝負をつけるなら、今のてめえと同じ状態にならなきゃ対等じゃねえだろ……!」
一護の発言に、石田が吠える。
「黒崎……! お前……何を言っているか解ってるのか……!」
「石田、無理に動かんで……一護、本気で言うとるの……?」
「黒崎……‼︎」
「——いいだろう……それが望みならそうしてやる」
ウルキオラは動こうとして——翼が塵のように崩れる。崩れたそれは空中に溶けるように消える。
「……再生、限界やったんやな」
「ああ……」
数度の一護や織姫との問答の末に、ウルキオラの姿が消えゆく。それは風に攫われて流れる、儚い灰のようだった。
※異性に胸を押し付けられるのはこの日二度目(一度目はネム)の石田だが、娘ちゃんの時はお互いそんなこと言ってる余裕がないのである。
石田 腹に刀刺さってるし左腕無いしで満身創痍、麻酔も打ってあるし胸が当たってることすら意識の外
娘ちゃん あかん石田が死ぬぅ!!と庇うモード 胸が当たる可能性も頭からすっぽ抜けてる