反転偽ジルチの話の続き、もしくは反転フブキの話の補足

反転偽ジルチの話の続き、もしくは反転フブキの話の補足

善悪反転レインコードss

※反転保安部とマコトの関係の解像度が上がるにつれて思いついた、マコトが反転ヤコウを人間だと気づいた具体的な理由のssです。

※本編ヴィヴィアが謎迷宮での出来事を記憶して帰れたから不可能じゃないな!ヨシ!ぐらいの現場猫感覚のふわっふわ雰囲気を搭載しています。

※キャラ付けや関係性などは筆者個人の妄想に基づいています。また、独自の補完があったりします。


※時系列は『善悪レインコード 反転偽ジルチの話+α』のその後です。

『善悪レインコード 反転フブキの話』で披露したトンデモMy設定が大前提です。大体以下の通りです。

・善悪反転世界における元々の結末では反転ヤコウは道半ばで倒れマコトがラスボスになっていた。

・反転フブキと仲間達の執念+クロックフォード家のご都合アイテムのパワーにより、反転ヤコウがラスボスになる二周目が始まった。

・上記の事態に巻き込まれて本編世界から召喚されたのがユーマ。

・善悪反転世界における本来のユーマは矛盾を解消する為にと謎のご都合空間に一時隔離され、反転フブキ達が望んだ『別解』を見届けている。

 謎のご都合整合性により一周目クリア後の自己認識。意外と冷静に俯瞰している。



・Time:一周目

 副題:レプリティアンの振りをした人間に気づくレプリティアン


 鉱山から有毒ガスが漏れ出したからと、その麓の村は住民の立ち退きを終えた後、立ち入り禁止区域に指定されていた。

 実際には、その建前で無人化させた区域の地下に秘密の研究施設が建てられたのだが、その研究目的や経緯は省略させて頂こう。

 現在は、死亡したカナイ区の住民——改め、欠陥ホムンクルスを収容する区域として利用されていた。

 完璧なホムンクルスとは不老不死なのだが、欠陥ホムンクルスの場合は生命活動が停止すると外傷こそ元通りになるが知能が著しく低下し、殆どの者は意識が喪失する。

 この現象はゾンビ化と称されており、知能を改善させる手段は今の所存在しない。

 しかし、ゾンビ化しても、元がすこぶる優秀な者であれば辛うじて意識を残している。

 地下にある研究施設の入り口付近。手すりに背中を預けて棒立ちになっている男も、その内の一人だった。

「やあ」

「……」

 その男へと挨拶をしたのは、マコト=カグツチ。アマテラス社の最高責任者にして、統一政府の管轄下にある研究機関が生み出した完璧なホムンクルスだった。

 諸事情を経て研究機関から抜け出したマコトは、カナイ区に訪れ、欠陥ホムンクルス達を同胞として憐れみ、愛し、故に守る為にと心に決めた。

 当時のCEOから早急に席を引き継ぎ、カナイ区の欠陥ホムンクルス達を滅ぼそうとした統一政府と交渉した。

 統一政府としても、馬鹿高い出費を掛けて欠陥ホムンクルス達を滅ぼすよりも、マコトに統治させた方が安上がりどころか利益が出ると判断した。実態はさて置きアマテラス社が存続し続ければ、これからも良きパートナーとしてお付き合いができるのだから。

 それからというもの、マコトは雨雲発生装置で日光を遮ったり、肉まんの材料を確保する為に策を弄したり、カナイ区の統治に腐心しているのだが……。

 困った事に、アマテラス社の保安部との仲が非常に悪い。立場上は上司であるはずのマコトにすら野心と言うか、敵愾心を隠しもしないのだから、扱いに非常に困っている。

 ただの一部署ならば時間を掛けて折り合いを付けようと後回しにできたが、今やアマテラス社を牛耳っているも同然の花形部署。呑気ではいられない。

 仕方ない。失脚させよう。

 カナイ区の欠陥ホムンクルス達を愛しているマコトだけれど、それは万人に優しいという意味では無い。やる時はやれる人物で無ければ、CEOの席なんてあっという間に追われていた。

 統一政府とは別方面のコネ、と言うかズルにより、世界探偵機構から何十人もの超探偵を派遣させた。辿り着けたのは僅かだけれど、真実を明かすという使命を胸にヤコウを失脚させてくれるはずだ。

 ……それが終わったら、お帰り願わねば。その先の、ホムンクルスに纏わる真実だけは、闇に隠し続けねばならないのだから。

 閑話休題。

 マコトが挨拶した男は、生前、ヤコウ専属の殺し屋と言っても過言では無いくらいの従僕だった。

 肉体の再生に終わりが見え始めた彼が自我を残していると判明したので、早速ヤコウに纏わる情報を引き出そうと企んでいた。

 知能が下がって理性のブレーキが緩んでいるので、あっさりと口を割ってくれるはずだ。

「あ、そうそう。ボクの名前はね——」

「……ヨ、ミー様……ですか……?」

「……うん?」

 マコトはきょとんとした。

 その男の口から出た名前が、仕えていたヤコウでは無く、ヨミー探偵だったからだ。

 マコトは首を傾げながら、仮面越しに男を観察しつつ、敢えて男の勘違いを利用する。

「うん、そうだよ」

「……ま、待っていました」

 マコトの記憶では、確かこの男はヨミーとはかつて縁があったけれど、最終的には関係が破綻したはず。

 探偵に捕まえられた立場が複雑な死刑囚が、自己保身の為にとヤコウに降ったはず。

 それなのに、この男はヨミーを様付けで敬愛している。

 なぜだ。

「所で、ボクとキミはどういう関係だったっけ。物忘れしちゃって」

「関係……? トモ、ダチ……ですよね?」

「そうそう、そうだったね」

 この男とヨミーの関係を推察するには情報が足りないので、その解を出すのはひとまず保留にした。

 この場で重要なのは、男が積極的に情報を明け渡してくれる点だ。

「トモダチであるボクに教えて欲しいんだけど、ヤコウくんの下で何をしていたのか、聞かせて欲しいなぁ」

「……あ、頭が……ちょっと……よくわからないところが、あります……」

「わかる所だけでいいよ。落ち着いて」

 後に鬼気迫る様子で男の直近の過去を調査するのだが、この時点のマコトは、男が前頭葉白質切截術——精神的な外科手術、あるいはロボトミー手術とも呼ぶ——を施されていた事を知らなかった。

 外科的な処置を、男の肉体は外傷だと定義していた(ならば、整形手術された顔もいずれ戻るかも知れない……)。

 しかし、脳内の修復は未だ中途半端。自我は処置前と処置後のゴタ混ぜ状態。

 然れども、男はとても優秀だったので、それでも対話は成立していた。マコトをヨミーだと勘違いしながらも。

「人を、殺していました……ですが、なんで、あの野郎の命令で……?」

「…大丈夫?」

「……だい、じょうぶ、です」

 男はぜぇぜぇと苦しそうに呼吸しながら、頭を何度も振っていた。

 ゾンビ化している上で混乱しているなんて、とてもまともに答えられる状態では無かろうに。それでも会話ができるとは、知能指数の高さが窺い知れた。

「ヤコウくんからは、他にはどんな命令を下されたのかな。何か、覚えてることはある?」

「ええっと、たし、か……」

「ゆっくりでいいからね」

 マコトは、ヤコウを失脚させるつもりで居るけれど、極刑までは望んでいない。

 ヤコウの所業を思えば極刑が妥当だけれど、下手に極刑に処せば、彼の信奉者同然の四名の幹部が暴走しかねない。

 それに、潔癖では無いけれど、好き好んで殺したい訳でも無いのだ。

 同じホムンクルスとして。同胞として。

 どうせ死なないからと悪趣味な実験を強いられた自身の苦々しい過去もあって、可能な限り配慮を巡らせてあげたかった。


「あの野郎……ピンク色の血を持つ人間は全員殺せと言っていました……」

「………………、へえ」

 ——その瞬間、愛するが故の配慮の対象から、ヤコウ=フーリオは外された。


「えーっと、じゃあ、赤い血の人間について、何か言ってたりした?」

「赤い血の、人間……? ああ……絶対に殺すなと命令されましたよ。死ぬようなことがあれば、助けよ、と……」

「そっか」

 万が一、億が一、那由他が一の勘違いを潰す為、念の為にと確認を取った。

「そっかぁ」

 続けられた情報に、やっぱりヤコウ=フーリオは対象から外すより他に無かった。

 ピンク色——ホムンクルス特有の血液への敵意。

 それとは打って変わって、翻っての、赤色——通常の人間の血液に対する、庇護欲。

 血の色で殺すか否か、助けるかどうかを決める、その思惑。意味する真実は一つだ。

「そういうことだったのかぁ、ヤコウくん」

 マコトの朗らかな声色には、不釣り合いな激しい敵意と研ぎ澄まされた覚悟が混ぜ込まれていた。

「ふふ。すぐに名乗り出てくれたら、ボクだって手を差し伸べたのに。……いや。彼の立場や心情を思えば、難しい、か」

 仮面の下で、マコトは笑っていた。仮面も不気味に笑っていた。心の中ではちっとも笑っていない癖に。

「けど、だからってボクは容赦しないよ。だってキミは、ボクが愛するみんなを、たくさん傷つけたんだからね」

 これまで同胞だからと苦慮しながら共存を模索していたマコトは、同胞では無かったのだと理解したが故にきっぱりと断言した。

 あの幹部達とて、ヤコウの正体が人間で、自分達を化け物だと蔑んで虐げていた真実を知れば、流石に目を覚ますだろう。

 ……尤も、後に、なおも目を覚まさないのかと唖然とさせられるのだが、それはさて置き。


「…ヨミー様、嬉しそうですね」

「やっと謎が解けたからね。ありがとう」

「……お、お役に立てましたか?」

「うん。とっても」

「なら、オレも嬉しいです……」

 まさか、ヤコウも思うまい。誰も思うまい。

 自らが散々利用し尽くしてきた道具により、足元を掬われる破目になろうとは。

 肉まんを食べ続けるだの、血液の色を隠す為に病院を忌避するだの。

 そのような小手先の小細工、圧倒的で暴力的な真実の前ではか弱い虚勢に過ぎないのだ。



 ◆ ◆ ◆



・Time:二周目

 副題:死神に刈り取られた欠陥ホムンクルスは臨死の夢を持ち帰れるか?


 どこで、誰が、教えてくれたのだったか。

「ヨミー=ヘルスマイル。この名に聞き覚えは?」

 その言葉は、どこで聞いたものだったか。

 その言葉は、誰が言ったものだったか。


 だが、誰かが思い出させてくれたのだ。

 オレが、何者であるのかを。


 ヨミー様を知らないのかと尋ねる口振りながら、オレがヨミー様を知っているに違いないと断言していた。

 ヨミー様の名前を口にしていたのだから、きっとヨミー様の知り合いだった。

 ヨミー様から、オレの事を聞いたのだろうか。

 どこでヨミー様と会ったのだろうか。

 そもそも、誰だったのだろうか。



 副題の解答:不明。死神に刈られた者が蘇生する事は想定されていない。もしかしたら、という空想の次元における仮定である。




「あ、そうそう。ボクの名前はね、マコト=カグツチ。……意識はあるかな?」

 立ち入り禁止区域の、地下にある研究室の入り口付近。

 手すりに背中を預けて棒立ちになっている男へマコトは挨拶するが、男はと言えばマコトの姿を認めた途端にわざと視線を逸らした。

「…ご、めん、な、さい」

「……」

 マコトが挨拶した男は、生前、ヤコウ専属の殺し屋と言っても過言では無いくらいの従僕だった。

 肉体の再生に終わりが見え始めた彼は、自我を残していた、が……。

 謝罪を繰り返すばかりで、会話ができる状態とは言い難かった。可能ならばヤコウに纏わる情報を引き出したかったが、これは難しそうだ。

「約束……守れません、でした……ごめん、なさい……」

「……もう、いいんだよ」

 この男もカナイ区の住民だ。

 複雑な事情によりカナイ区に居た、本来ならカナイ区に居ないはずだった死刑囚——を素体としたホムンクルス——だが、それでも。

 他のみんなと同じように愛するのは不平等だからできないけど、謝り続ける姿に心を痛める程度には心を砕いていた。

「ごめん、なさい……ごめんなさい……」

 だが、それにしても、恐ろしいものだ。

 自己保身でヤコウに降った側面もあるだろうと思っていたが、見誤っていた。死してなお、ヤコウへの忠誠心が凄まじい(後に精神的な外科手術を施されていたと知って認識を改めるも、それはそれでヤコウくんそこまでする理由を教えてよと酷く悩まされるのだが、それはまた別の話だ)。

 この男には悪いけれど、このような形で無力化してくれて助かった。

 どう考えても不自然なのに、証拠が無いから事故としか説明できない未解決事件を幾多も生産したと疑わしき、状況証拠だけが限りなく黒に近いグレー。裁判などで通用する証拠が無いという意味では、おぞましいまでに潔白。

 厄介な保安部の、特大の手札が一枚減ってくれて助かったと、CEOとしては判断せざるを得ない。

 とは言え、ヤコウを信奉する四名の幹部も頭が痛くなる程に厄介だから、まだまだ気を抜けないのだけれども。

「……じゃあ、ボクはこれで失礼するよ」

 マコトは踵を返し、その場から立ち去った。

 ————かくして、男が決定的な情報を口にしなかった事により、行く末に関わる重大な分岐が成された。




 マコトが立ち去り、一人取り残されてから、男は謝罪をピタリと止めた。

 まるで出来の悪い人形のように、ぼんやりとそこで佇んでいた。


 とても今更な補足だが、男はマコトをヨミーだと誤認していた。

 断じて、あの冷酷な保安部部長ヤコウ=フーリオでは無い。

 男は、ヨミーだと思い込んだマコトが姿を消すまで、ずっと謝っていた。

 ……ヨミーを裏切ったという負い目が、ゾンビ化している割には不思議と鮮明だった。


 ああ、良かった。ヨミー様がようやく諦めて帰ってくれた。

 これでいい。

 オレは、あなたとの約束を破って、たくさん人を殺しました。

 意識が壊されていようと、身に覚えが無くとも、それでもオレは意味も無いのに罪を重ねました。

 あまつさえ、あなたの死を望んでいました。

 あなたは、オレと話す為に、必死に追いかけてくれていましたが……。

 ……もう、いいんです。

 過ぎたる温情でした。


 オレとトモダチになってくれて、ありがとうございました。




(終了)


※補足

 0章の謎迷宮での対応の違い

・一周目ではヨミーの名前を出せない(本来ならこの時点ではまだヨミーと知り合ってすらいない)

・二周目ではヨミーの名前を出せる(記憶持ちだから可能だった)

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