加筆まとめ⑮

加筆まとめ⑮

誤算

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尸魂界・空座町


 常人ならば無事では済まない規模の爆発から怪我程度で生還し、それどころかその傷さえも見る間に塞がっていく藍染。

 肉が白く盛り上がり、ボコボコと傷口を覆っていく様は見ていて気持ちが良いものではない。まともな生物とは思えぬ藍染の様子に半ば恐慌状態に陥った浅野が半泣きで叫びながら有沢達と共に駆け出した。


「うわああああ!! やっぱり無理だったーー!!!」


 藍染の様子には、終始冷静だった小島の顔にも冷や汗が浮かぶ。走り出した学生達を背に庇い、カワキは殿を務めた。

 神聖弓から重い音を響かせて幾筋もの光の弾丸が流星の如く飛翔する。その全てを叩き落とし、打ち砕き、藍染がゆったりと歩みを進めた。


『へえ。“人間如き”の攻撃をわざわざ防御するのか。用心深くて良い事だ』

「挑発なら無駄だと言っておこう」

『褒めたつもりだったんだけれどね』


 路地で邂逅した際の微笑みは遠く、冷徹な表情でカワキを見据えて一歩一歩、足を進める。

 跳ねるように後ろに退がりながらカワキが引き金を引いた。静まり返った街に弾丸と斬魄刀が衝突する硬質な音が響く。


⦅彼らの身に何かあれば一護の暴走が懸念される。かと言って今の私じゃ藍染と正面から戦えば勝ち目は薄い⦆


 ————彼らを死なせず、当然、私も生き残る。その為にすべき事は…………

 細い指は絶え間なく引き金を引き、牽制射撃を続ける。カワキが思考を巡らせた。

 現状、最も大きな課題は有沢達の生存。カワキか藍染、どちらかが少しでも霊圧を強めれば、彼らの魂魄は耐えられない——藍染の気が変われば彼らは死ぬ。


⦅まずは彼らを藍染から引き離す。私一人が逃げるだけならどうとでもなる。出来る限り奴を引きつけて時間を稼ぐか⦆


 ベルトに仕舞ったゼーレシュナイダーを指でなぞって残数を確認する。時間稼ぎには充分な本数だ。

 じわじわと撤退の速度を緩める。物騒な光を宿した双眸がキュゥっと細められた。息を吐いて小さく囁く。


『————やるか』


 ベルトからゼーレシュナイダーをすらりと引き抜くと刃は出現させないまま左手の指先で柄を回す。しかし、ここでもカワキには一つ誤算があった。

 カワキが集団から離れたことに気付いた浅野が「く……くそ……っ」と声を上げると決意を固めた表情で足を止める。小島が叫んだ。


「! ケイゴ!!」

『?』


 訝しげな顔をするカワキの右隣に浅野が冷や汗の滲む手で刀を構えて並んだ。刀を握った経験などないのだろう。構えも何もあったものじゃない。

 意図が読めない。カワキが問い掛けた。


『その刀で何をするつもりか訊いても?』

「この刀は一護と同じ格好の奴が持ってたんだ! これなら多分あいつに届く!」

「バカっ!! 刀が届いてもあんたは死ぬだろ!! 浅野っ!!!」


 浅野の答えを聞いて尚、カワキには何も理解できなかった。浅野が持つ刀は成程、誰かの斬魄刀だ。小島が投げたビール瓶と違い、灰になることはないだろう。

 だが————


『有沢さんの言う通り、おすすめしない。体が保たないよ。それに刀は届くだけ……君が振ったってきっと傷にもならない』


 ——だから退がって。足手纏いだ。

 カワキがそう伝える前に、空から降ってきた黒い人影が浅野に拳骨を落とした。


「返せばかものーーーー!!」

「……あ……アフさん!!」


 黒い着物は見慣れた死覇装——死神だ。その口振りからして、浅野が持つ斬魄刀の持ち主はこの死神だろう。特徴的なアフロ頭には見憶えが無いでもない。

 カワキが小さく首を傾げて記憶を辿る。


『…………あぁ、駐在の……』


 そういえば空座町に派遣されている死神が居たなと、記憶を掘り起こして呟いた。

 これは藍染との最終決戦だ。参戦する者は席官以上の実力者になる筈と、カワキはこの死神を戦力に数えてすらいなかった。


⦅まだ生きていたのか。というかこの状況で空座町に居たんだな⦆


 浅野から取り返した斬魄刀を構える死神は、明らかに腰が引けている。藍染惣右介を知っているからだろう。先程の浅野以上に青い顔で冷や汗を流し、体はガクガクと小刻みに震えていた。


「う……ふおおお……」

「だ……大丈夫かよアフさん、ムチャすんなって……! 震えてんじゃ……」

「うるさい! 震えてない!! 素人に斬魄刀など使わせる訳にいくか!!」


 ————立ち向かう気概はあるようだな。良いだろう、有効活用しよう。

 藍染を前にした恐怖や緊張で他の事が目に入らない様子の死神に、温度のない目を向けたカワキが浅野に声を掛けた。


『浅野くん、彼はこの地区の担当だ。ここは彼に任せて退がろう。仕事の邪魔をしてはいけない』

「た、担当……?」


 担当とかあるんだ……と、いまいち話を呑み込めていない浅野をカワキが急かす。


『さあ、早く。……!』


 思わぬ乱入者の存在で藍染以外の霊圧を探る余裕が出たカワキは、こちらに向かう霊圧を感知して舌打ちした。

 浅野の腕をぐいっと引いて強く急かす。


『動いて。今日が命日になるよ』


 困惑した表情で言われるがままに浅野が動くと同時、腹を括ったらしい死神が解号を唱えた。


「お早う!! “土鯰”!!!」


 輪のように形を変えた斬魄刀を握って、死神が地面を叩く。コンクリートの道路が捲れ上がり、藍染を閉じ込めた。

 クルリと振り返った死神が叫ぶ。


「よしッ! 逃げるぞ!!!」


「……ってもう逃げてるッ!!」


***

カワキ…アフさんを生贄にとっとと逃げている。自分のスーパードライっぷりに自覚が無いせいで人心が絡むと誤算しがち。


啓吾…そんなに仲良くないとはいえさすがにクラスメイトを一人で置いて逃げる訳に行かなくない?と動いた優しい男。


アフさん…啓吾に斬魄刀取られるしカワキには「ちょうど良いところに生贄が召喚されたぜ」と捨て駒にされかけた。スレ主は頑張るアフロを応援している。


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