加筆まとめ⑤

加筆まとめ⑤

井上への戦力外通告

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浦原商店


 一護への連絡を井上に任せたカワキは、見えざる帝国への報告を終え、井上の霊圧を辿っていた。そして、浦原商店の地下にある修練場――通称・地下勉強部屋に到着したカワキの耳に浦原の声が届いた。


「総力戦だ、恐らく今まで以上の血が流れるでしょう。そしてアタシ達も尸魂界も、今迄以上の戦力が必要になる」


 はい、と決意に眉をきゅっと寄せて井上が返事をした。修行の話でもしているのだろうか? カワキの姿に浦原が気付いた。


「あたしも…強くなりたいです…!」

『うん、強くなるのは良いことだ。私も、強くなるのは好きだよ』

「え!? カワキちゃん!?」


 背後から声をかけたカワキに井上が肩を弾ませて振り返る。接近に気付かなかったらしい。


「おや、カワキサン。どうしてここに?」

『井上さんを探してたんだ。……私がここに来てはいけなかった?』


 今日の浦原はどこか様子がおかしいような気がする。言葉に含みを感じてカワキが訊き返した。

――私の正体に気付かれたか? この男は油断ならない。


「いやいや! まさかァ! いやァ、ここんとこムサ苦しい男ばっか見てたんで、職場に女性が居ると華やぐっスねえ」


 カワキは小首を傾げた。

 気付かれたわけではなさそうだ。じゃあ様子がおかしいのは別の理由か? まあ、今はいい。修行の話が優先だ。


『――そうか……話を遮って悪かったね。修行の話だろう? 続きをどうぞ』

「――…お気遣いどうもっス。井上サンも強くなりたいって話でしたね……そうっスね。それじゃ申し上げましょ、井上サン」


 帽子を目深に被り直して、浦原が井上に向き直る。そして静かに告げた。


「貴女には今回戦線から外れて貰います」


 思わぬ発言にカワキが目を丸くする。奥で修行していた恋次と茶渡も、驚愕に目を瞠って動きを止めた。

 なんてことを言うんだ。井上の回復能力は欠けた手足すら治すほどのもの……抜けられては困る。

 井上は大きな目を丸くして、茫然としていた。浦原に言われた言葉を飲み込めないでいるようだった。


「……………え………」

「…ま…待ってくれ、浦原さん…!」


 顔色を変えた茶渡が浦原に食い下がる。


「井上は俺達の仲間だ…。尸魂界でも必死に戦ってくれた…。本人が強くなりたいと言っているのに…そんな簡単に置いていくことはできない…!」


 そうだ。カワキは今後も、井上に一護の治療を丸投げするつもりでいたのだ。勝手に戦線から外されてはたまらない。


『茶渡くんの言う通りだ、浦原さん。勝手な事ばかり言わないでくれないか? 私も井上さんを戦線から外す事には反対する』

「…茶渡くん…カワキちゃん…」

「感情論じゃないスか。キミらは井上サンを死なせたいんスか?」


 突然何を言い出すんだ、と眉を顰める。

 藍染の目的を知らない訳ではあるまい。死ぬ、死なないの話なら、藍染が空座町を狙う以上、安全な場所など無いのだ。それなら、戦意があって使える者を戦場に出すのは当然のことだろう。


『私は貴方の目に感情論で動く人間として映っているの? …それなら利を示そう。彼女の回復能力は代替が利かない。欠けた部分まで治せる者なんてそうは居ないよ』


 茶渡も語気を強めてカワキに続く。


「そうだ! 井上には戦闘よりも重要な…防御と回復の能力がある!」

「三天結盾の防御力は知れてる。今回の戦いでは役に立たないでしょう。回復にしたって四番隊が居ます」


 浦原は取り付く島もなく言った。


「今回は恐らく卯ノ花隊長や虎徹副隊長クラスが前線に出てくるでしょう。井上サンの抜けた穴を、倍ほども補って余り有る」


 だからなんだと言うのだ。四番隊が優先するものは“護廷”であって一護じゃない。卯ノ花達ともなれば尚更だ。いくら回復力に優れていようとも、一護と護廷を天秤にかけて、後者を選ぶ者では、井上の代わりになどならない。


『井上さんはいつだって一護の為に戦って来た。単純な性能だけの話じゃないんだ。井上さんの代わりなんて居ない』

「その通りだ…! 浦原さん、考え直してくれ!」

「しつこいな。力の足りない戦士なんて足手纏いだと言ってるんスよ」

「浦原さん!!」

「…いいの」


 黙って話を聞いていた井上が口論に口を挟んだ。


「? …井上…」

「…いいの…。…ありがとう、茶渡くん…カワキちゃん…。ありがとうございます、浦原さん…。はっきり言ってくれて……、よかった…」


 井上は無理に笑顔を作って顔を上げた。


「失礼します…!」

『あ……』

「井上!!」


 そう言って駆け出した井上の背中を茶渡が追いかけようとする。しかし、その肩を恋次が掴んで止めた。


「やめとけ。浦原さんが正しいぜ」

「…阿散井…!」

「四番隊は治療専門とはいえ、曲がりなりにも戦闘訓練を積んだ護廷十三隊。ひきかえ井上は能力が有るとはいえ、元はただの人間、加えてあの性分だ」


 元来戦い向きじゃねえ、と続けた恋次にカワキがむっと端正な顔を曇らせた。

 藍染の打倒を目的とするなら、たしかに浦原や恋次が正しい。井上の性分が戦いに向いていないのもわかっている。

 だが、カワキの任務は一護の護衛、及び諜報活動である。カワキは一護に死なれては困るのだ。常に一護を最優先してくれる井上にこそ戦場に居てほしい。


「ここらが潮時なのかも知れねえ…」

『――それでも。井上さん自身に戦う意志があるうちは……そんな勝手な決定、納得できない。追いかけてくる』

「…カワキ……井上……」


 井上を追いかけたカワキの背を、茶渡が物悲しそうに肩を落として見送った。


***

カワキ…護廷十三隊は殺伐集団だから一護の命より敵の殲滅を優先すると思ってる。徹頭徹尾、私欲しかないのに出力が光属性になる不思議。光の滅却師(蜃気楼)。


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