加筆まとめ②

加筆まとめ②

ウルキオラとの戦い①

目次◀︎

空座町・郊外の森


『井上さん、茶渡くん。二人も来たのか』


 正直、少し驚いた。離れていても、霊圧だけでわかる筈。彼らじゃそこで血だらけになっている方の破面にだって勝てない。なのに二人とも来るなんて、と。


「カワキ…こいつらは……?」

『私にも詳しいことわからない。現時点でわかるのは……仲良くできる相手ではないって事だけだよ』


 カワキも銃を向けたが、先に仕掛けたのは破面達の方だったと思う。友好的な関係を築きたいと願っている者がこんな霊圧を放って出てくる訳も無い。そう考えて質問に回答した。


「たつきちゃん! たつきちゃん…っ!」


 井上が必死に呼びかける声が、カワキの耳に届いた。きょとん、と目を丸くする。


⦅有沢さん? 近くに居たのか…⦆


 先程からずっとそこに居たのだとして、まだ生き残っているなんて驚きだ。


『有沢さんは、さっきまでの戦闘の余波で魂魄が潰れかけてるんだと思う』


 淡々とした声でたつきの状態を告げる。

 カワキは周囲の人間の命なんてどうなろうと知った事じゃないと思っていた。きっと相手の破面もそうだったと思う。戦闘中、ずっとそこに倒れていたなら、受けた負荷は相当のものだった筈だ。


――仮に、近くに倒れていた彼女の存在に気付いていたとして。カワキが戦闘に加減を加える事があっただろうか?


⦅彼女の生死は任務に関係が無い。破面を相手に加減をする理由も無い⦆


 結論は出ている。カワキは気付いていたとしても加減などしなかった。けれど意識の無いたつきを抱き寄せた井上があんまり嘆くものだから、カワキは念の為に謝罪の言葉を口にする。


『悪いね。とてもじゃないけど加減できる相手ではなかったんだ』

「…ああ、わかってる。こいつらは強い」


 同意を返してくれたのはチャドだった。その顔は闘志に満ちているように見える。カワキはガラス玉のような瞳で瞬きを繰り返して、小さく首を傾げた。


⦅さっきの言葉…実力差がわかっていない訳じゃない。なのに、戦う気でいる……⦆


 そうか、彼は強敵との戦いを好む気質があるんだ。思い返せば、京楽との戦いでも退く気配がまるで無かった。納得と共に、次の動きを決める。


『茶渡くん、私が援護するよ。……一緒に戦ってくれる?』

「…ああ…もちろんだ」


 頷いてもらえてよかった。この手合いは戦いに割り込まれるのを嫌がる事も多い。快く共闘の申し出を受け入れたチャドに、カワキが安堵する。


「…井上。話した通り…有沢を連れて退がってくれ…」

「うん…無理しないでね、カワキちゃん…茶渡くん…」


 井上は、たつきを抱き締めるようにして退がった。チャドが前衛、カワキが後衛の役割を担って立ち位置を変える。その様子を黙って見ていたウルキオラが、怪訝そうな顔でカワキに訊ねた。


「そのゴミを前に出してどうする気だ? そいつが俺に勝てると本気で思っている訳じゃあるまい」


 その通りだ。言われるまでも無い。胸の内で肯定の言葉を返したカワキが、静かに銃口を持ち上げた。

 カワキとて戦力差は理解している。チャドに前衛を任せた理由は勝利する為では無い。得られる情報を少しでも増やす為だ。


(…ヤミーとの戦いでわかる…無駄な事をする女じゃない。…どういうことだ…? 一体――…)


 カワキの意図が読めず、ウルキオラが警戒を強めた。緑の目がチャドを睥睨する。


(ゴミに見えるこの男に、何か隠された力があるのか。それとも…こいつを囮に何かするつもりか)


 ウルキオラの視線が静かに佇むカワキに向けられた。視線が逸れた瞬間を狙って、チャドが大地を蹴る。ウルキオラに黒い拳が迫った。ウルキオラは動かない。

 突進してくる男も、迫る拳も、どちらもウルキオラの目には止まって見えていた。軽く身を捻って躱す。


「判らんな。やはりゴミはゴミだ」

『ああ。君にはわからないだろうね』


 避けた先に弾丸が飛来した。青白い光を打ち払い、ウルキオラが向けられた言葉の真意を知りたいという目でカワキを見る。


「……何が言いたい」

『言葉の通りだよ。君にはわからない』


 カワキは情報が欲しい。チャドは強敵と戦いたい。各自がバラバラの思惑を持って行動しているのだから。カワキが薄笑いを浮かべた。


⦅どうやら彼は、私と茶渡くんが意志を同じくして作戦を共有していると誤解してるらしい。好都合だ⦆


 攻撃を避けられ、一度後退したチャドがカワキを気遣うように小さく訊ねた。


「…カワキ。まだ動けそうか…?」

『ああ、お陰様でね。…茶渡くんは?』

「俺は大丈夫だ。…先に向こうの男と戦っていたんだろう…? ……無理はするな」


 カワキの消耗を案じたチャド。カワキはウルキオラから視線を動かさずに答える。ウルキオラもまた、カワキを警戒して迂闊に動けないようだった。


⦅これ以上、戦いを引き延ばしてはさすがに気付かれるだろうな⦆


 カワキが冷静に計算する。ウルキオラはカワキの目から見ても強い。探知能力もヤミーより上に思えた。今はカワキに何か策があるものと警戒して、様子見をしているようだがあまり長引くと、策が無い事も看破されるだろう。


『茶渡くん。長期戦になればこちらが不利だ。撤退の準備を』

「…いや…奴は強い。…俺が囮になろう。

……その隙に、カワキは井上達を頼む…」


 束の間、カワキはチャドが何を言っているのか理解できなかった。蒼い目が見開かれる。しかし、すぐに合点が入った。


――ああ、とうとう強敵と一人で戦いたい気持ちに抑えが効かなくなったのか、と。


⦅いや、この手合いにしてはよく保ったと言うべきか……。彼は協調性がある方だ⦆


 カワキはそのように結論づけた。そして考える。撤退するなら、一瞬でも囮が居て困る事はない。たつきと同様に、チャドの生死も任務に関係は無いのだ。戦いたいと言うならその気持ちを尊重しよう。


『…わかった。茶渡くん、健闘を祈るよ』


 一瞬。カワキに贈られた言葉にチャドが目を瞠る。すぐに小さく微笑みを返して、言った。


「…ああ。……あとは頼む」


 決死の表情でウルキオラに向かっていくチャド。その背後で撤退しようとしていたカワキが、動きを止めて街の方角を見た。


⦅またこれか――…!⦆

「…くだらん。俺の考え過ぎか」


 ウルキオラはチャドの突撃を白けた表情で見ていた。これまでの自身の警戒を杞憂だったと判断し、様子見から一転、チャドを仕留めようとする。その逃れ得ぬ一撃がチャドに迫る。


「!」

「…一護…」

「…悪い。遅くなった、チャド。カワキ」


 現れた一護が、ウルキオラからチャドを守った。チャドはどこか悔しげな様子で、一護の姿を見遣る。戦況はまた大きく動こうとしていた。


***

カワキ…チャドへの理解度が著しく低い。チャドの事を強敵との戦闘が大好きな悟空メンタルと誤解している。戦闘ジャンキーなのに協調性があって良いね! してる。撤退するか〜してたら一護が来てしまってお仕事が始まっちゃった。


チャド…ウルキオラが強いのはわかってるけど、カワキも大概ヤバイという事はまだわかってない。このままじゃ全滅だと思い囮役を買って出た優しい男。何やら悩みがあるらしい一護は巻き込みたくなかった。


ウルキオラ…カワキを警戒して様子見していた。カワキの言葉を

「虚には人間の心なんてわからないよ」

系の煽りだと誤解して

「自分と似てるのにこいつは心がわかるのか?」

と思った。完全に誤解でしかない。


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