加筆まとめ②

加筆まとめ②

ヤミーとの戦い

目次◀︎

空座町・郊外の森


 カワキがざりっと地面を強く踏んで腰を落とす。楽しげに笑うヤミーが風圧と共に大きな掌をカワキに伸ばした。辺りに土煙が立ち込める。


「あ!? どこ行きやがった…!」


 手応えが無い。姿も無い。土煙に巻かれながらキョロキョロと周囲を見渡すヤミーに、ウルキオラが胸の内で悪態をつく。


(バカが……――上だ)

「ぶ…っ!?」

『硬いね。貫通させる気で撃ったのに』


 ヤミーの頭上に跳んだカワキが、その頭を目掛けて弾丸を放った。直撃を受けて血が飛び散る。しかし、貫くには至らない。着地したカワキが大きく大地を蹴って、風のような速さで距離を詰める。


「くそ…ガキがぁ…っ!!」


 怒りに任せた大ぶりの一撃は容易く回避され、懐に飛び込まれた。蒼い目と、青い銃口が正面からヤミーを捉える。弾ける音がして巨体が衝撃に揺らいだ。


「…がぁ…ッ!」


 咄嗟に敵を振り払おうとした手を避けてカワキが飛び退く。歯軋りしながら血塗れの顔を手で覆って唸るヤミーに、カワキは静かな佇まいで訊ねた。


『破面には超速再生が無いんだね。それは君だけ? それとも…種族全体として進化の際に失われるものなのかな?』


 肩で息をするヤミーは答えない。その目には怒りの炎が燃えていた。凪いだ水面の瞳でカワキが問いを重ねる。


『まだ口は利けるだろう? 君達の勢力がどの程度かも知りたいな。できれば、君の序列も含めてくれると有難いね』

「くそッ…! くそ…ッ……くそがあアアアアアっ!!!」


 カワキの態度を侮りと感じて、ヤミーが怒りと苛立ちの声を上げた。地団駄を踏むように地面を割りながら、怒りで血走った目をしてカワキに迫る。

 情報を聞き出そうと訊ねながら、カワキは手にした銃に調整を加えていた。ヤミーの後方で、ポケットに手を突っ込んだまま動く様子のないウルキオラをちらりと確認して、接近してくるヤミーに視線を戻す。


『君の仲間は冷たいね。私は助かるけど』

「潰れて消えろ!!!」


 振り上げられた大きな腕が作る影の下、眩ゆい閃光が走ってヤミーの目を灼いた。弾丸の雨にぐらりと巨体が傾いてゆっくり倒れていく。土混じりの風に揺れる黒髪は普段と何も変わらなくて、少し離れた位置で、たつきは呆然とそれを見ていた。


「…な…何が…起きたんだよ一体…!? 宮原…工藤さん…みんな…死んでるの……? 何…なんだ…あいつら…!?」


 肩で息をするたつきには何が起きているのか半分も理解できなかった。突然現れた二人組。突然現れたクラスメイト。そして突然始まった戦い。「なんで」という疑問が頭の中を駆け巡る。

――なんでクレーターから人が?

――なんでクラスメイトが銃を持ってる?

――なんで周囲の人が倒れていった?

――なんであの二人は戦ってるんだ?


 なんで、なんで、なんで。誰もその答えを返してくれない。状況が移り変わった。倒れたヤミーの手がぴくりと動く。


「ばはァっ!!!」


 ヤミーが拳を地面に叩き付けて、瓦礫を飛ばしながら立ち上がる。流れ出した血が滴って、大地に赤いまだら模様を描いた。


『君くらいのレベルの破面には、今の威力でこのダメージになるんだね。……成程、参考になるよ』


 無機質な蒼い目がヤミーを見る。実験の結果でも確認するかのような口調だった。息を切らせたヤミーが、激しい怒りに傷の痛みを忘れる。頭に血が昇った。


「…殺す…! ぶっ…殺す!!!」


 腰に差した刀に手を伸ばしたヤミーに、カワキが目を細めて警戒する。ウルキオラがヤミーに声をかけた。


「随分苦戦してるな。代わってやろうか?」

「うるせえっ!!」

『――…その刀は?』


 カワキの問いに答えず、ニヤリと笑ったヤミーが「いくぜ」と鞘から刀を抜こうと腕を持ち上げる。


⦅あれは危険だ。使わせてはまずい⦆


 カワキの頭で警鐘が鳴った。カワキは己の直感に従って地面を蹴った。土が抉れる程の衝撃。二人の距離が一気に縮まる。


「!?」

『悪いけどお披露目は遠慮してもらうよ。それはなんだか――…嫌な感じがする』


 柄を握った手を踏みつける。強引に鞘へと刀を戻させた。腕を踏み台にしてカワキがヤミーの頭上まで高く跳躍する。狙いを定めて――引き金を引いた。


『――!』

「ウル…キオ…ラ…」


 バチンと音がして、割り込んだ白い手に弾丸が打ち払われた。目を丸くしたカワキが、後方へ飛び退る。味方の参戦に笑んだヤミーの腹をウルキオラの手刀が貫いた。


「な…何しやが…る…」

「バカが。頭に血を昇げ過ぎだ、ヤミー。こいつは藍染様が警戒を促す程の相手だ。お前のレベルじゃ、そのままでは勝てん」


 血の滴る手。ウルキオラの言葉に含みがあるように聞こえてカワキが目を細めた。


『“そのまま”…? 気になる言い方だね。ところで――…次は君が相手をしてくれるって事でいいのかな?』

「――いいだろう」


 ヤミーを下がらせたウルキオラがカワキと対峙した。場に満ちる霊圧が、また一段濃くなってズンと重たい圧を感じる。意識はあるものの、地に伏せて動けないたつきの呼吸が浅く、細くなる。


(何…これ…。目が…逸らせない…? 気が…遠…く…)


 たつきの意識が霞むように遠ざかる。目の焦点はどこにも結ばれていなかった。

――ミシミシと何かが軋む音がする。

 滝のように汗が身体を流れて、呼吸さえ止まりそうになったその時の事だった。


「――たつきちゃん! カワキちゃん!」


 重苦しい殺気に満ちた戦場に鈴を転がすような声が響いた。途端に空気が変わる。たつきにかかっていた圧が僅かに和らいだような気がした。


「無事か、二人とも……!?」


 たつきは慣れ親しんだ二つの声に安堵を覚える。とっくに限界を迎えていた意識は糸が切れるようにぷつりと途絶えた。


***

カワキ…周囲への気遣いが全く無い。マジで微塵も無い。「ハチの巣にしてやる」と言うからには本当にやる。嘘つかない。


ヤミー…カワキにハチの巣にされた。そのダメージは91/100くらい。凄まじい重傷を負わされるも謎にカワキへの好感度が高い。


ウルキオラ…選手交代の申し出は断られたが、友達が殺されかけていたので自主的にチェンジした。カワキより人の心があるともっぱらの噂。


たつき…ただでさえ、ヤミーの魂吸のせいでヘロヘロなのに、カワキとウルキオラの霊圧がダメ押しになって魂が潰れかけた。何が起こってんだよ! 誰か説明しろ!!


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