加筆まとめ②
ウルキオラとの戦い②空座町・郊外の森
「…悪い。遅くなった、チャド。カワキ」
現れた一護の姿に、ウルキオラがぴくりと反応した。その様子を目敏く観察していたカワキが眉を寄せる。表情は底冷えするように冷たい。
「…チャド、カワキ。二人とも井上のとこまで下がっててくれ」
「…っ…ああ…」
感情を堪えたような表情でチャドが後退する。
――共に戦えない事が苦しくて。守られるだけの自分が許せなくて。並び立てない自分の力不足が、ただただ不甲斐なかった。
「カワキ、お前も…」
『私は退かないよ。君を一人にはしない』
力強い輝きを放つ碧眼が一護を貫いた。凛とした声が、逃げる気は無いのだと主張している。困ったように眉を下げた一護がもう一度名前を呼んでも、カワキが首を縦に振る事はなかった。
二人の会話の間、ウルキオラは油断なく佇んでいた。その視界に、逃げたチャドの背とその向こうにいる井上達の姿が映る。
(回復術か……いや、違う。これは回復術じゃない)
たつきを救わんとする井上の術を視界の端に捉えて、その異質さに気付いた。
(時間回帰か空間回帰か、どちらにしろ回復とは別の何か。見たことの無い能力だ)
ウルキオラは未知の能力と、その使い手である井上に少なからず関心を覚えた。ぼそりと小さく呟く。
「…妙な人間だ。女…」
その間にも、話はついたようだ。カワキが一護と並んで銃を構えた。ウルキオラの無感情な瞳が二人に向けられる。
『調子が出ないなら無理しない方が良い』
「大丈夫だ。…心配すんな。俺がこいつを……倒して終わりだ!!」
一護が斬魄刀を前に構えて叫ぶ。
「卍 解!! ――天鎖斬月!」
卍解を目にしたウルキオラが、やはりといった顔に変わった。その様子に、カワキの顔からすっと感情が抜けていく。
「…まさかヤミーの無駄な戦いのおかげでこうも簡単に燻り出せるとはな…」
⦅“燻り出す”……という事は――⦆
「オレンジの髪に…黒い卍解…。間違いない。捜す手間が省けた」
カワキの中で、疑念が確信に変わった。
――彼らが捜していた“標的”とは一護の事だったのか。
『本当に困った客人だね。目的は知らないけど一護は死なせないよ。そこの彼を連れて大人しく虚圏に帰ってくれないかな』
「断る」
ウルキオラはカワキの言葉をバッサリと切り捨てた。予想通りの答えに、カワキは銃口をもたげる事で抗議の意を示す。
一護は困惑していた。どうやら目の前の敵の狙いが自分だという事は理解できた。問題は、相手は誰でなぜ自分を狙うのか。それが何一つわからなかった。
「どういう事だよ…! てめえらの狙いは俺なのか…!?」
動揺する一護の頭の中をここに来るまでに感じていた違和感が駆け巡る。ヤミーとウルキオラを見る一護のこめかみに嫌な汗が流れた。顔が引き攣ったのがわかる。
(割れた虚の仮面…胸の穴…腰に差した刀は…斬魄刀か…? ここに来る前から妙な霊圧だとは思ってたが…何なんだこいつら…!?)
様子がおかしい一護を庇うようにして、カワキが一歩前に出た。ウルキオラが攻撃を仕掛ける。ウルキオラはカワキを避けて一護を狙った。
『――!』
「…く…っ!」
一護はウルキオラの速さに対応できないようだった。躱し切れず鮮血が宙を舞う。ウルキオラの力に一護が戦慄した。
カワキは一護の不足を補うように、致命傷になり得る攻撃に絞って防御に動く。
「邪魔をするな」
『君は私に用はないだろうけどね。こっちはそうもいかないんだ』
カワキがベルトからゼーレシュナイダーを引き抜いた。一護とウルキオラを引き離すように一閃する。
二対一なら戦況は拮抗して見えた。
「…やはり解せんな…。このガキが藍染様の脅威になるとは到底思えん」
カワキの斬撃を避けて、二人から離れたウルキオラが怪訝な顔でぼやいた。刹那、その側頭部に銃口が突きつけられる。
『へえ…。…敵情視察が君の仕事…?』
言葉と共に銃口が爆ぜた。ウルキオラは一瞬にして姿を消して弾丸を避ける。その速さにカワキが舌打ちした。
「“話す必要はない”と言った筈だ」
カワキに注意が注がれた隙を衝き、一護がウルキオラに斬りかかる。先程の攻防でわかった。
――あいつを野放しにはできねえ。俺が…俺があいつを倒すんだ…!
一護の攻撃にキレが増した事に気付き、ウルキオラが微かに眉を上げた。
「月牙――」
一護が大技を放とうと刀を振り上げる。束の間、不自然に動きを止めた。その脳裏を掠めたのはもう一人の自分の顔。強い力を使う程に自分が自分ではなくなる。その恐怖に一護の身体が固まった。
「…なんだ…? 撃たないのか?」
⦅――…失血か?⦆
不自然な動きに、ウルキオラとカワキの双方が違和感を覚えた。カワキはその原因を失血と疑った。小さな傷でも積み重なる事で流れる血の量は馬鹿にできない。
⦅致命傷じゃなくても、これ以上傷が増えるのはまずいな。一護が動けなくなる前に事態を打開しないと――…⦆
ウルキオラはなおも一護を狙う事を止めないが、その血の気のない顔はどこか退屈そうだった。期待外れとでも言うような、突き放した表情で告げる。
「この程度、斬魄刀を使う必要もないな」
「…斬魄刀…だと…!?」
カワキは先程の戦いを思い出していた。追い込まれたヤミーが見せた自信。あの時に握られていた刀が斬魄刀であれば、それも納得がいく。
⦅破面に斬魄刀、か――…。さっきの男は始解でもする気だったのかもしれないな⦆
考察するカワキの横で、一護の心臓が早鐘を打つ。薄々気付いていた事が真実だと知り、頭の中で点と点が結ばれていく。
――虚の仮面。胸の穴。斬魄刀。奇妙な霊圧。そして狙われたのは――…。
まさか。キーワードが一つ、また一つとパズルのように嵌っていく。違和感の正体に今――焦点が結ばれた。
(――同類か!? 平子や俺と――)
その瞬間。一護の意識がぐらりと揺らいだ。体を折り曲げ、手で顔を覆う。視界が端から黒ずんでいく。指の隙間に覗く眼球までも黒く色を変えていた。虚の侵食だ。
異変に気付いたカワキが一護を呼んだ。
『一護?』
「来るなっ!!!」
必死になって自分から離れるように叫ぶ一護。カワキは突然の暴走を疑って、ばっと距離を取った。ウルキオラが一護の異変に気を取られて攻撃の手を止める。
(…妙だ…このガキ、急に霊圧の揺れがデカくなった…。しかも揺り幅が尋常じゃない…)
カワキは一護から離れた位置で猫のようにじっと様子を窺う。ウルキオラも同じく一護を観察していた。
(低い時の霊圧はゴミみたいなモンだが…高い時の霊圧は俺よりも上だ……。…どうなっている…?)
周囲の様子を窺う余裕すら、今の一護にはなかった。ただひたすらに心の中で悪態をつく。
(くそッ! 体が動かねえ…!! 俺がてめーを拒否したら…今度は俺の邪魔するって訳かよ……。……畜生……)
少しの間は何もせず眺めていたものの、反撃の様子がない一護に興味を失くしたのか。ウルキオラの手がゆっくりと持ち上げられる。白い指先が向けられた。
⦅虚閃か――!⦆
カワキが気付いて動く。しかし、カワキより一拍早く、背後の森から血のように濃く赤い斬撃が走り、一護の身を守った。
「どぉーーもーーー♡ 遅くなっちゃってスイマセーン、黒崎サン、カワキさん♪」
「待たせたの」
ウルキオラの放った虚閃が相殺された際に立ち上った土煙。それが晴れた先に居たのは浦原と夜一だった。
「浦原喜助と四楓院夜一か。潮時だな」
ウルキオラの手が虚空を撫でた。まるでシャッターのように空間が裂ける。
「退くぞ」
「…逃げる気か?」
ウルキオラは瀕死のヤミーに撤退の合図を出した。夜一の挑発ともとれる言葉にも冷静に返答する。
「らしくない挑発だな。貴様ら三人がかりで死に損ないのゴミ共を守りながら俺と戦って、どちらに分が在るか判らん訳じゃあるまい」
ヤミーが血塗れの体を引きずって、空間の裂け目に向かって歩いていく。その手前でウルキオラが一護に視線をやった。
「…今の戦いで死神もどきの底は見えた」
一護は血塗れで膝をついて項垂れたまま動かない。カワキは破面達が撤退するなら止める気はなかった。閉じていく裂け目を冷たい表情で見据えている。
「差し当たっての任務は終えた。藍染様には報告しておく。貴方が目をつけた死神もどきは殺すに足りぬ塵でした、とな」
脱力したように俯いた一護を、閉じかけた裂け目の向こうからウルキオラが冷たい目で眺めていた。
***
カワキ…拮抗してる時は防御に専念してたけど、思ったよりウルキオラが強かった為「あっ、これヤバイ」してギアを上げた。
一護…月牙を使うとホワイトさんが横からコントローラーを奪ってくるので、怖くて動きが止まっちゃった。破面の姿を見て、「俺とあいつら同類じゃね?」と気付きガッタガタになってしまう。今は凹み中。傷は深くない。
井上&チャド…一護を安心させてあげたいのに結局は頼る事になって、自分の力不足を悔しく感じている。大きな怪我は無い。
ウルキオラ…井上の能力に興味を示した。ヤミーは瀕死だし、相手の援軍が到着したのでここは撤退する事にした。謎にカワキへの好感度が高い。虚無同士だからか…?
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